獣が逃げる。 !注意! 前回の、「獣が交わるの段」の続きになりますので、先にそちらをどうぞ。 「竹谷ー……竹谷さーん……」 「…………………。」 かれこれ数刻、見かけて話し掛けてはいるのだが竹谷が一向に目を合わせてくれないし、話もしてくれない。 それどころか。 「竹…っあ!?」 隙を見て全力で逃げる、それはもう脱兎の如く。 「うおぉら、竹谷八左ヱ門んんんんんんんー!!!!」 だから全力で追い掛ける、それはもう本気で。 ドドドドと地響きを鳴らし竹谷の背中を見ながら怒鳴る。 「待てっ!……くそっ待てよ!!」 木村●哉口調で言い放っても無反応で逃げる竹谷。 あぁ、くそっマジで仕方ない。 「お願い待って竹谷!私達ってそんなものなの!?」 いつものノリ発動。 「っ………ば、莫迦野郎!そんなもんなんかじゃねぇよ!!」 ピタリと立ち止まるとばっと振り返る、竹谷は非常にノリが良かった。 「なら逃げないで!正面から見つめて!私っ竹谷にちゃんと向き合って欲しいの!!」 「逃げてなんかねぇっ心の整理がつかないだけなんだ!」 「じゃあっ嫌いじゃない?」 おずおずと竹谷の側に寄るがもう逃げなかった。 「お前を嫌うなんて…ありえねぇだろ……?」 「竹谷っ……」 ぐっと拳を突き出す竹谷に泣きそうになりながら笑う名前も拳を突き出す。 ヒュウっと口笛を吹いて拳をコツンと合わせた。 「南蛮風か。」 「南蛮風だね!」 「三郎!雷蔵!」 一部始終を見ていた仲間が冷静に頷く。 竹谷はノッてしまった以上もう逃げる様子は無かった。 「竹谷、何で逃げたんだよ。」 「何でって……お前……」 「??」 「吾妻、察してやれ。」 「何だよ、三郎。察するとか何の話?」 ニヤニヤ笑う鉢屋と苦笑いをする不破に不思議そうに首を傾げてから竹谷を見れば、罰が悪そうに顔を反らす。 「お前が獣みたいになった日があっただろう?」 「あぁ、耳と尻尾?」 「そうそう。その日の朝、八左ヱ門は何て言われて部屋を出てった?」 「……うーんと、確か……」 "伊作先輩のせいじゃね?うんぬんかんぬん…嫌だよ…ほんにゃらふんにゃら…竹谷くーん、朝ご飯持ってきてー" 「んと、朝ご飯持ってきて??」 「正解。そしてご飯を持っていこうとした八左ヱ門は気配を感じたのだ。」 「あっ兵助!」 「名前ー。その時何してた??」 「勘ちゃん!その時?……………え゙っえぇっと…ま、まさ、まさ、か?」 仲良しが集まった所で謎解きが始まった。 竹谷が出ていった直後七松先輩がいらっしゃった。 そして……… 「うっうわああああああああ!!!!」 「あのね?落ち着いて聞いて?」 「死にたいっ死なせてっいっいやだああああああ!!!」 「落ち着きなよ、名前。」 尾浜が説明しようとするが顔を真っ赤にして左右にブンブン振り興奮する名前にどうどうと背中を擦る不破。 「男ってね、あぁ言う時は凄い気配に敏感なんだ。忍たまって言うのを差し引いてもかなり気配を読むの。 だからご飯を持った八左ヱ門も事に及んでる七松先輩もかなり早くからお互いの気配を察してたんだよ。」 「う、うぅ…………」 「俺らの部屋の五つ前っくらいか?何か七松先輩が居る感じはしたけど飯どうすっかなー、って思ったら……」 「お、思ったら?」 「気配がでっかくなるっつうか殺気とも違う、何か…まぁ完全に察したんだよ。あ、今はやべぇって。」 尾浜がきちんと説明してやると、照れ臭そうにボソボソと竹谷が続けた。 名前は未だ恥ずかしすぎて顔が上げられない。 「そのっ…竹谷…ごめん。」 「いやっ謝るなって。そう言えばお前達付き合ってんだなーって、実感した。」 「うん、何かねそれっぽいよねぇ…」 「と、同時に俺はもう部屋で寝れないって思った。」 「うおおおっそれでここ数日部屋に帰ってこなかったのかよ!」 「仕方ねぇだろ!俺だってたまには空気読むんだよ!!」 「読もうとしすぎて読めてねぇよ!あの日から七松先輩とは会ってないんだから。ちゃんと部屋に帰ってこいよ!………寂しいだろ…」 「お前………」 「莫迦、そんな事言わせるなよ…鈍感……」 「悪かったよ…そんなにお前が俺を思ってたなんて…な。」 「竹谷……」 「名前……」 「はいカットー!いつものノリは分かったからお終い!」 見つめ合う二人の間をしゅばっと手を入れて終わらせた尾浜。 まだこれからがイイトコロだったのに、と二人が口を尖らせるが次の瞬間、尾浜がにっこりと笑った。 「で、どうだった?」 「は?」 「七松先輩。優しかった?」 「勘右衛門、優しいとか無いだろ。あの七松先輩だぞ?」 「えー?だって名前初めてだよ?慈悲ってものがあるじゃない。」 「え?あの??」 尾浜と鉢屋が言い合うのを止めなよ、と不破が止めるも止まらない、竹谷は名前と一緒に訳が分からないといった顔をしている。 久々知に至っては高野豆腐を頬張っていた。 「何の話??」 「「七松先輩の床でのテクニック。」」 「げえええっ止めろよ!俺リアルに想像してまた部屋に帰れなくなる!!」 「いつも竹谷と二人で春画みたりしてるんだから話せるだろう?」 「それとこれとは別問題!ぜってぇ話さない!てかこちとら初めてで必死だから七松先輩がどんなとか分かんないから!」 「必死だったんだ。名前、可愛いー。」 「ぎゃああああ勘ちゃん止めれええええ!!!」 ぎゃいぎゃいと騒ぐ五年仲良しが気付かない影がゆらりと近づいていく。 「お前達!良いところに居たな!」 「七松先輩。こんにちは。」 背後からがばっと姿を現した七松は小脇にバレーボールを抱えている。 戦士:七松小平太 戦法:バレー 必殺技:いけどんスパイク 五年生は先が見えた。 「バレーのお誘いですか?」 「あぁ!暇だろ?暇だよな?」 「「「「「……………はい」」」」」 「………名前?」 「………………。」 ふと隣の名前が返事をしない事に不思議に思った不破がちらりと横目で見ると、くわっと目を見開きつつも俯き耳まで赤くして小さく震えている。 あれ、この子どうした? 「し、失礼しますっ!!!」 「あっ………っと。」 勢い良く頭を下げると名前が全力で背を向けて走り去る。 声をかけようとしたら目の前を風と一緒に七松が通り過ぎた。 「……竹谷と名前って本当仲良くて似てるよなー?」 「そりゃ五年も一緒に居りゃあな……逃げられると思うか?」 「ははっあり得ない。」 バレーから逃れられたのと恋人同士の逢瀬に、くすくすと五年生は柔らかく笑っていた。 ザザッと葉が揺れる音を残してその場から飛ぶ。 ずっと全力で走ってるのに背中に感じる気配は全く離れない所か近づいてくる。 逃げられる訳が無いと自分が良く知っていた。 それでも、逃げてしまう。 だって、だって。 「っ、あ、ぐっ!」 はっはっと短い呼吸を繰り返す。 木に押しつけられた背中と掴まれた手首が痛い。 「せ、んぱ……っはぁ…」 「逃げると思ってた。だから数日会わないで居てやったのに。」 「どう、いうっ……?」 名前が気恥ずかしさから翌日や翌々日では逃げると考えた七松は何日か間を空けて落ち着かせたつもりだった。 「恥ずかしいか?」 「恥ずかしいっす……」 「照れ臭いか?」 「照れ臭いですっ…」 「私は。」 顔を見せまいと俯く名前の顎に空いた手を這わせこちらを向かせてはしっかりと視線を合わせる。 「何よりお前の顔が見たかった。」 あぁ、この人が最大限に気を遣って我慢してくれたのに私は逃げてしまった。 顔が見たい、触れたいと思ってくれたのだろう。 輪郭を撫でる手が酷く官能的だった。 「七松、先輩……」 「黙れ。」 弁解も謝罪もいらないから触らせろ。 獣じみた瞳が語る。 輪郭をなぞってから上に上がり唇を太い親指が伝う。 っぷ、と咥内に入れられて舌と親指が絡んだ。 ねっとりと濃厚な口付けと錯覚してしまいそうな指の動きに早くも目眩がしてしまいそうだった。 「ひぇんはい…っ…ん、ぷっ」 真剣な眼差しに背筋が震える。 呼び覚まされる、あの日の快楽。 びくびくっと痺れが走って脳内にあの時の声と息遣いと言葉が蘇る。 「あ、ふっ…ん、んっ…」 「どうした…まだ指を口に入れただけだぞ?」 意地悪そうに歪んだ口端が憎らしくも格好良くて、胸が高鳴った。 つぅっと糸を引いて親指が咥内から抜かれれば、濡れた親指を七松の赤い舌が拭う。 「ふっ…はぁっはぁっ……」 「此処でしたら、泣くか?」 「び、んた……しますっ…」 「なら逃げずに私の部屋に来るな?」 「…はい……」 逃げないように手首を掴むんじゃなくて、縋るように指を絡ませて握るから逃げる気なんか起こらなかった。 一度知ってしまった身体で繋がる悦びが二人をもう離さなかった。 ▼ 宵乃口の蜜月さんから頂きました。 感想は既に送り済み。 毎度ながら竹谷とのやりとりに吹いてしまうのは私だけじゃないはず! ( TOPへ △ | ▽ ) |