夢/My hero! | ナノ

薫陶成性


トレーニングルームにホワイトボードを運びこみ、黒マジックペンで「ヒーローとは」と書いたあと、目の前に正座している名前を見降ろす。
名前の手にはメモ用紙とペンが握られており、師匠であるキース(スカイハイ)をキラキラとした目で見上げていた。
離れた位置でトレーニングをしていた虎徹は、キラキラと輝いている一角を見て「何してんだぁ?」と呟く。


「いいかい、名前君。ヒーローの仕事は、「困っている人」を助けることだ」
「はい、師匠!」


世間のことも、ヒーローのことも疎い名前に、「まずは知識から」とファイヤーエンブレムからアドバイスをもらい、すぐに実行したキース。
キースが話す「ヒーロー像」を全てメモにとり、キースが目指す「ヒーロー」に激しく共感する。


「例え犯罪者であっても、その者が危険に陥れば我々は救出しなければならない。解るかい?」
「はい!犯罪者であっても命は平等だからです」
「正解だ!だから我々は犯罪者を「殺す」のではなく「捕まえない」といけない」
「難しいですね…」
「それができてこそヒーローだよ、名前君!」
「な、なるほどっ…!」


おおお…。と感嘆の声をもらしながら懸命にメモをとり、尊敬の目をキースに向ける。
しかし、すぐに目を伏せ、メモ用紙をギュッと握りしめた。
名前の変化に気がついたキースが一度首を傾げたあと、「どうかしたかい?」と声をかけるとゆっくり喋り出した。


「私はまだ見習いです。でも一般の方から見ればヒーローです…。……私に、ちゃんと務まるのでしょうか…」


ぽつりぽつりと喋る名前。
年間トップを取り続けるスカイハイの相棒として、弟子として、ヒーローとして…。
無知な自分がキースを手助けすることなんてできるのだろうか。
不安に押し潰されそうになり、思わず弱音を漏らしてしまった。


「大丈夫!そして大丈夫!安心したまえ、名前君!」
「師匠…」


名前の視線に合わすように膝をつき、両肩に手を添えて真っ直ぐと名前の目を見つめる。
グッと力をこめられ、名前の身体に緊張が走り、心臓がドキドキと早く動きだした。


「名前君は努力家だ。今すぐにはできないかもしれないが、きっと素晴らしいヒーローになれる!」
「…ですが…」
「立派なヒーローになれるまでは私ができる限りフォローをしよう!君は弟子だからね!」
「…っスカイハイ師匠!」


まるで青春映画を見せられているかのように二人は見つめあい、そして(名前のみ)涙を流す。


「あんた達とは正反対のコンビね」
「おじさん相手にあんなことできませんよ」


始終を見ていたネイサンとバーナビーは二人のやり取りを見て苦笑をもらす。
隣の虎徹は少し羨ましそうな表情を浮かべており、それを見たアントニオは「諦めろ」と背中を優しく叩いてあげた。


「今日の頭を使った授業はここまで。次は市民達を助けるために身体を鍛えよう!」
「はい!」


今にも泣きそうな顔だったのに、キースの言葉にすぐに元気を取り戻し、その後ろをついていく名前を見て、ネイサンは「まるで犬ね」と呟くと、複数のコール音がトレーニングルームに鳴り響いた。


『ボンジュール、ヒーロー。事件よ、出動お願い。それとスカイハイ、解ってるわよね?』


コールの相手はHERO TVの敏腕プロデューサー、アニエス。
「事件」という言葉を聞いてヒーロー達は目つきを変えて各々の行動を取り始める。


「さあ、名前君。出動だ!今日が初デビューだが、緊張することはない。私がいるからね!」
「が、頑張りますっ!」


スカイハイに弟子ができた。ということは世間には既に公表をしていた。
しかし、名前には学ぶことが多すぎてまだ出動はしていなかった。
そして今日、「スカイJr.デビュー」という特集を組まれ、嫌でも出動することになっていた。
緊張が走る身体を落ちつかせるように深呼吸をしたあと自分もヒーロースーツに着替えるためトレーニングルームを後にした。


『さあ、今日もやってきましたHERO TV!犯人を捕まえるヒーローは誰だ!そして今日はキングオブヒーロー、スカイハイの相棒が初デビューすることになってます』


騒然とする空をHERO TVの飛行機が飛び交い、犯人をカメラで撮影する。
街の大画面に犯人の顔や軽い情報などが映り、視聴者は興味深々にテレビを見つめた。


「さあ、ド派手に決めちゃってよ…」


スカイハイの相棒、名前の初デビュー。
告知をしていたのもあって、番組が始まったばかりだと言うのに視聴率はうなぎのぼり。
アニエスは映像を食い入るように見つめ、今か今かとヒーロー達の登場を待っていた。


『おっと、最初にやってきたのはヒーロー界のアイドル、ブルーローズ!』


カメラが映し出したのはブルーローズ。
フリージング・リキッド・ガンを両手に握り、車で逃亡をしている前方に立ちふさがる。
このままだとぶつかってしまうのだが、その前に路面を氷漬けにして逃亡を阻止。
しかしハンドルをとられ、車はブルーローズの横を通り過ぎ横転した。
あと数センチずれていたらブルーローズも巻き込まれていたが、キューティエスケープで回避。
横転した車から犯人が抜けだし、足で街中へと逃げ出すも、


『ここで我らがキングオブヒーロー、相棒と一緒に登場だぁ!』


スカイハイと名前の登場に実況アナウンサー・マリオや、視聴者達は大いに盛り上がった。
数台のカメラが空を飛んでやってきた二人を映し、スカイハイは慣れたように手をあげて答える。
スカイハイより少し後ろを飛んでいる名前はどうしたらいいか解らず、何度も何度も頭を下げた。
ヒーロースーツはスカイハイと同じだが、スカイハイより軽装で、膝・肘から先は露出し、仮面も鼻より上だけ隠されている。


『おや〜?スカイJr.は思ったより小さいんだね。それでもスカイハイと同じ能力を持つヒーロー。活躍が楽しみです!』


盛り上がるマリオ。
スカイハイが逃げる犯人達に向かって下降し、目の前に降り立って逃亡を阻止する。
名前も慌ててスカイハイのあとに続き下降するも、綺麗に着地することができなかった。
マリオや視聴者が笑うなか、アニエスだけは頭を抱えていた。


「無駄な抵抗は止めたまえ」
「うるせぇ!」


言って聞くような相手ではないことは解っているが、一応忠告をする。
しかし銃を向けられ、スカイハイは仕方なく能力を発動させた。
巻き起こる風に襲われ、犯人達は発砲することもできなかった。


「ハーイ!」


そのまま風で犯人達を吹き飛ばすスカイハイ。
事件は名前の活躍なく終わるかと思ったら、名前は突然犯人達に向かって飛び立った。


『おおっと、どうしたスカイJr.!活躍を相棒に奪われて怒ったか?』


マリオや視聴者は名前の行動に疑問を抱くが、アニエスだけは名前の考えが解ってカメラを名前に向けるよう早急に指示を出した。


「えーい!」


掛け声とともにスカイハイより微弱な風を巻き起こし、吹き飛ばした犯人を空中で受け止める。
犯人の後ろには先ほど横転した車から炎をあがっており、名前が助けないとケガをしていた。いや、きっとケガだけではすまない。
それを理解した犯人は背筋が凍り、助けてくれた名前に小さくお礼を言った。


『な、なんと犯人達を救出!極悪人でも助けるスカイJr.!なんと心優しい!さすがキングオブヒーローの相棒!』


そこへ警察が近づいてきて、名前は犯人を引き渡した。


「名前君」
「師匠!」


警察に引き渡したあと、スカイハイが名前に声をかける。
すぐにスカイハイに近づき、仮面の下で笑顔を浮かべた。


「私の言うことを理解して、そして実行してくれたんだね!」
「はい!……でも、今さっきのはわざと、ですよね…?」
「ははっ、バレてしまったか」
「だって「犯人の命も平等」って教えてくれた師匠があそこへ吹き飛ばすことなんて考えられません」
「試すようなことをしてすまない。だけど先ほどの君はヒーローだったよ」


偉い偉い。というようにスカイハイが名前の頭を撫でていると、マイクを持ったマリオが二人に詰め寄ってきた。
突然の登場に名前はビクリと震え、スカイハイの後ろに隠れてそこからマリオという人間を観察する。


「名前君、HERO TVの方だよ。挨拶は?」
「は、初めまして…!」
「ん〜?もしかしてスカイJr.は人見知りなのかい?」
「すみません…」
「いやいや大丈夫!それより質問には答えられる?」
「はい、それは大丈夫です」


スカイハイの後ろに隠れたままマリオからいくつか質問を答え、最後に二人揃って写真を撮られた。
カメラに手を振って、今日のHERO TVはここで終了し、「お疲れ様でした」の声があちこちで飛び交う。


「ところでスカイJr.」
「は、はい!」


終わったと思って息をついた瞬間、再びマリオに話しかけられ、身体が飛び跳ねた。
スカイハイは名前の反応を笑い、マリオも苦笑をもらす。


「これは個人的に気になることなんだけど、本当に男の子?」
「えっ…」
「名前君は男とそう公表したはずです」
「だよねー。なんか女の子に見えて気になったんだ。ごめんね、スカイJr.」
「あ、はい…」


じゃあ。と笑顔で手を振って他の関係者とともに去って行った。
残った二人も空へ飛び立つ。


「師匠…」
「なんだい?」
「男らしい仕草をしたほうがいいのでしょうか?」
「いや、気にしなくていいよ。男だと公表したが、隠すつもりはないらしいからね」
「…矛盾してませんか?」
「私もよく解らないんだよ。すまない」
「いえ!すみません、こんな些細なことを聞いてしまって!」
「いや、何か解らないことがあれば何でも聞いてくれ!私は師匠だからね!」
「ありがとうございます、師匠!」
「じゃあ帰って反省会を開こう!イメージトレーニングも大切だよ」
「はい!」


こうして名前による初デビューは、失敗することなく活躍することができた。



(2011.0704)


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