大慶至極 スカイコンビの一人、名前はスカイハイには劣るものの、それなりに人気を博していた。 特に男性ファンが多く、女王様キャラのブルーローズとは対照の、清楚系ヒーローとして人気がある。 素顔はモノレールジャック事件以降、公表されているので、街中で声をかけられることも多々あり、人見知りをしてしまう名前にとって辛いことばかり。 インタビューや活動、そして出勤。まだ体力がない名前は毎日ヘトヘトになるまで働き続けている。 それでも名前はこの生活が苦しい。なんて思ったことは一度もない。 自分という存在が初めて役に立っている。それを思うと、「また明日も頑張ろう」と思い、ベットに身体を預けて静かに寝息をたてるのだった。 「はい、これ」 「社長、これは何でしょうか?」 「ファンから君へのプレゼントだよ」 翌日。名前は社長室へとやって来た。 目の前には綺麗にラッピングされた大きなプレゼントや、手紙などがいっぱい積まれている。 その中から一枚手にとり、中身を見ると幼い字で「スカイジュニア、がんばれ」と書かれていた。 「うっ…!」 「名前君」 「嬉しくて…!私、ヒーローやってよかったです!」 涙を流しながら、震える手で手紙を戻す。 どれもこれも自分の為に届けられたもの。皆が「頑張れ」と言って贈ってくれたもの。 「社長、私これからも頑張ります!」 「ああ、頑張ってくれ。荷物はあとから届けさせるよ」 「はい、ありがとうございます!」 社長が言った通り、届けられたプレゼントは名前の寮へと届けられた。 名前は手紙を一通一通読み、大事そうに箱へと収める。 プレゼントは色々あったが、中でも可愛いものが多く、部屋で一人ニヤける口元を抑えた。 「わあ…、ぬいぐるみだ!」 一番大きなプレゼントの中にはくまのぬいぐみが入っていた。 可愛らしい顔をしたくまを色んな角度から見て、ギュッと抱き締める。 「家族が増えて嬉しい!」 そう言って他のプレゼントと一緒に部屋の片隅に丁寧に置いた。 「明日手紙を入れるファイルとか箱とか用意しよう。お金が貯まったら寮から出て師匠みたいなマンションに住んで飾りたいなー」 贈られてきたプレゼントを収めるための箱やファイルなどを買おうとテーブルの上に置いてあったメモを残し、着替えを始める。 ファンからのプレゼントに興奮はなかなか冷めることはなかったが、いつも寝る時間帯が近づくと瞼は重くなり、自然と深い眠りへと旅立っていった。 「―――それからなんです…。こんな手紙が寮に届くようになったのは…」 それから数日が過ぎた。 今日もトレーニングジムへとやって来た名前は顔色が悪く、今にも泣きそうな顔をしていた。 周りにはお節介の虎徹、頼れる姉(?)ネイサンと、恋人のキースが名前を取り囲んでいる。 名前がネイサンにとある手紙を渡し、ネイサンが声を出して読む。 「『今日の下着も可愛いね』ですってぇ!?」 「おいおい、なんだよこれ!変態じゃねぇか!」 「他にもあります…」 段ボールに入った手紙を三人の前に出して、溜息をはく。 どれもシンプルな手紙で、宛先は「名前へ」としか書かれていない。 スカイJr.として世間に名は知られているが、本名は明かしていない。知っているのはヒーロー達と会社の社長のみ。 『思っていた通り、名前は可愛いですね。裏表のない君が好きです』 『好き嫌いはないんだ。僕も名前の手料理食べたいです』 『手紙受け取ってくれた?震えるほど喜んでくれるなんて名前は優しいね。僕も嬉しいよ』 『寝顔も可愛い。僕もその横で寝たいなー…。名前を抱き締めて寝たい』 『僕の手紙だけ別に分けてくれてありがとう!嬉しいな。また手紙書くね。今度は直に会いたいよ』 『名前、いつ会える?僕早く名前に会いたいよ。早く会って抱きしめたい。名前も僕に会いたいよね?』 『明日ずっと待ってる。早く会いたいな!やっぱり恋人は毎日会わないとダメだよね。恥ずかしがってたらダメ。僕頑張るよ!』 最初の手紙は少し丁寧で、名前の一日の行動を綴っているだけ。 しかし、日々を重ねるごとにどんどん親密になっていき、勝手に名前の恋人になっていた。 手紙を読み終わるころには名前は泣いてしまい、キースが隣に座って優しく抱きしめてあげた。 「ストーカーだな…。しかも妄想癖が強すぎる」 「あんた、何で早く相談しなかったのよ!」 「ひっ…だ、だって……こういうファンもいるのかと思って…!好意を無下にしたくなかったんです…」 「どうみても好意を通り越した変態よ!」 「お、落ちつけよファイヤーエンブレム…。名前の奴まだ世間に疎くて「無知すぎるの!」 珍しく怒りを露わにしているネイサンを落ちつかせようとする虎徹。 それとは反対に、恋人のキースは至って冷静で、「大丈夫だよ」と優しい声で名前を慰め続けている。 「で、どうするの?」 「…ど、どうすればいいのでしょうか?」 「警察に連絡したほうがよくねぇか?こんだけ証拠もありゃあ動くだろ」 「で、でもあまり大ごとには…」 「この件に関しては私に任せてくれないか?」 「スカイハイ…」 「あら、お姫様を守るのは王子様の役目だって言いたいの?」 「そうだとも!」 「はっきり言っちゃってくれるわね…」 「安心したまえ、名前君。名前君は私が守るよ!」 「師匠…!」 こうして心強い、寧ろ最強のヒーローを味方につけた名前は安心したようにキースに抱きついた。 それを見た虎徹とネイサンは呆れるようにその場から席をはずし、二人っきりにしてあげる。 涙で汚れた名前の頬と、瞼の上におまじないのキス。 「でもどうやって撃退するんですか?」 「まずは話し合いだ。すぐ能力で片づけてしまうのはよくない」 「そう、ですね…。でも私あまり会いたくないです…」 「そこは私に任せなさい」 それ以上は喋ろうとしないキース。 名前の話は一旦ここで中断し、トレーニングへと戻る。 それから軽く汗を流し、シャワーを浴びてから二人揃ってジムをあとにした。 「ドッキリだったらいいんですけど…」 「ドッキリっていうレベルじゃなと思うよ」 「ですよね…」 「それより気になっていたのだが、どうして名前君の部屋の様子を知ってるんだろうね」 「カーテンは閉めてます。カメラがないと確認もしました…。でも、寮に他人が忍びこむなんて不可能なんです」 「どっちみち住む場所がバレてて危険だね」 「はい…。今寮に帰るのがとても怖いです…」 誰か部屋にいるんじゃないか。そればかり考えて、夜もろくに寝れていない。 ブルリと震え、隣を歩いているキースにぴったりくっつき、手を握る。 「大丈夫。そして大丈夫!とびっきり最高の解決策がある!」 「解決策?」 「一緒に住もう!」 「え!?」 「問題でもあるかい?」 「だ、だって…。一緒に住むということは…。あの、同棲…するってことですよね…」 「そうだとも!」 「そういうのは結婚する方とするものだと聞きました…」 「私は名前君を愛してるよ。いつか結婚もしたいと思っている」 真面目な顔して言うものだから、名前は言葉を失ってしまった。 大好きな人とずっと一緒にいたいとは思うが、毎日顔を合わせるとなると辛い。 何が辛いって、顔を見合すたびに照れてしまう自分には毎日がときめきばかりで辛い。 「おい」 その二人に声をかける一人の男性。 フードで顔を隠し、手には少し小さめのくまのぬいぐるみを持っていた。 そのくまのぬいぐるみに見覚えがあった名前は「あっ」と声を出し、男を見る。 「気づいてくれた?うん、これ名前に贈ったくまのぬいぐるみと同じだよ。ちょっと小さいけど、名前っぽいだろ?勿論名前は名前だよ」 「まさか…」 「君が名前君のストーカーか」 「贈ったくまのぬいぐるみは俺。だって俺達恋人同士だもん。ずっと一緒にいないと苦しいよ」 顔は見れないものの、男性がおかしいことはすぐに解った。 くまのぬいぐるみをギュッと抱き締め、「名前」と名前を呼んだ。 その瞬間、名前の胃から熱いものがこみあげ、口を抑えてその場に崩れ落ちた。 「名前君!」 「っていうかさ、お前誰だよ。俺の名前に近づくなよ!」 「名前君はここにいて」 「キ、ースさん…」 「名前から離れろよ!」 男はポケットに忍ばせてあったナイフを取り出し、近づいてくるキースに刃先を向ける。 しかし恐れることなく男性に近づき、キースには珍しく怒った顔で男性を睨みつけ、目が青く輝きはじめた。 「君がやっていることは犯罪だ」 「犯罪?俺と名前は恋人なんだ。だから犯罪じゃねぇよ」 「名前君と恋人は私だ。君ではない」 「……もしかしてお前名前のストーカーか?時々泣いていたのはテメェのせいか!」 「それは違う。違うぞ、それは。君が名前君を泣かせていたんだ!」 「うるせぇ!名前を泣かせる奴は俺が殺す!」 興奮した男性はキースに襲いかかるが、能力を発動させ吹き飛ばす。 男は建物に叩きつけられ、その場で気を失った。 騒ぎを聞きつけた人達が集まり出す前にキースは名前を担ぎ、空へと飛び立つ。 「キースさん、あの…どこへ?」 「人目につかない場所さ」 ついた場所は高層ビルの屋上。 この場所なら誰にも見つからないだろう。 「話しあいをするつもりだったが、ダメだったよ」 「いえ、相手はナイフを持っていましたし」 「でもこれで安心だ」 「はい、ありがとうございます。でも…」 「でも?」 「…もう一人は怖いです、から…。あの…」 口ごもる名前は恐る恐るキースに抱きつき、耳元に口を寄せた。 「一緒に暮らしたい、です」 名前の言葉にキースは微笑み、そのまま名前を抱きあげた。 「勿論だとも!」 「わっ、え、ちょ…!キースさん、子供扱いは止めて下さい…!」 「荷物は今すぐ運ぼう!ああ、今日という日に感謝しなくては!」 「キースさん!」 喜ぶキースは抱きあげた名前の頬にキスをして、強く強く抱きしめてこの喜びを名前に伝える。 名前が少し声をあげて背中をペシペシ叩くと、ようやく抱き締めるのを止めてくれた。 「あの、下ろして下さい…」 「名前君、私は君と一緒に暮らすことができてとても嬉しいよ。そして幸せだ」 「…私も嬉しいです。恥ずかしいですけど…」 「愛してる。これからもずっと、君を愛し続ける」 青い瞳が名前をじっと見つめ、そのまま距離をつめて唇にキスをした。 初めてのキスで名前は緊張して、唇を当てているだけなのだが、それでもキースは嬉しくて、何度も唇、頬へとキスをし、名前を抱き締める。 「名前君が冷めない限り、私はこれからずっと名前君を守り続けるよ」 「キースさんが冷めない限り、私はずっとあなたをお慕い続けます」 そして再び唇を重ねた。 (2011.0712) ( △ | × ) |