相思相愛 モノレールジャック事件で素顔をさらして救った名前は、見習いを卒業して、立派なヒーローになることができた。 それと同時に女だということが世間に公表され、もはや名前を知らない者はシュテルンビルトにはいない。 「お疲れ、名前君」 「あ、師匠!」 テレビ局から長時間インタビューを受け、それが終わった名前はテレビ局から出ようとした。 テレビ局の玄関前に止めていたタクシーの前にキースが立っており、名前を見つけるなり声をかける。 疲れていた名前だが、顔をパッとあげ、急いでキースに近寄った。 「どうしてここへ?」 「社長に頼まれて名前君を迎えに来たんだよ」 「わざわざ私を?ありがとうございます!」 お礼を言う名前の手をとり、車に乗せて、自分も乗りこんだ。 運転手に会社へ行くよう告げ、身体を座席に預ける。 「大丈夫かい?」 「あ、はい。師匠、…キースさんも色々忙しいって聞いています」 「私はもう慣れてるからね。名前君はあまり顔色が良さそうに見えないが?」 「……慣れた、とは言え、やはり一人だと心寂しいです…」 「ヒーロー失格ですよね」と息をついて、視線を足元へと落とす。 「一緒にいてあげればいいんだが…」 「すみません、弱音を吐いてしまって。でも大丈夫です!」 無理に笑顔を作る名前を見て、なんて声をかけていいか悩む。 慣れたとはいえ、未だ人見知りが激しいからできるだけ傍にいてあげたい。 でも名前が引っ張りだこと同時に、その相棒でもあるスカイハイも引っ張りだこ。 元々忙しかったが、最近は特に忙しくなっている。 「せめて会社に着くまで休んでなさい」 「はい、そうさせて頂きます」 頭を撫でて優しく声をかけてあげると、名前はほんのり笑みを浮かべて頭をキースの肩に預けて目を瞑る。 静まる車内はそのまま道路を走り続け、ポセイドンライン本社に到着した。 短い時間だが深い眠りについていた名前はキースに起こされ、重くなった身体に鞭を打って車から降りた。 「すみません、気がつきませんでした」 「いや、気にしないでいいよ」 時々ふらつきながらも社長の元へと向かう。 会社に入ると全員の視線をひしひしと感じた。 スカイJr.の素顔を知った社員は、まさか名前だとは思っておらず、未だ驚きを隠せない。 名前とキースを見ては何か囁く社員達。 居心地悪そうにその場を早足で去り、エレベーターに乗って最上階を目指す。 「失礼します」 「失礼します」 「やあ、待っていたよ。二人ともそこへかけてくれ」 社長室には社長一人しかおらず、名前とキースに言葉通りソファに座る。 社長は機嫌がいいのか始終ニコニコと笑みを絶やすことなく、二人の目の前に座った。 「名前君が素顔を晒したおかげでスカイコンビは人気だよ!あのタイガー&バーナビーに負けを取らないほどね!」 「そうですか…」 「それで、他にも仕事が入っているんだが大丈夫かい?」 「あ……」 「どうしたんだい、名前君」 「社長、名前君は少々疲れているようです。一日だけ休息をお願いできませんか?」 「ふむ…。そうだな、本人の顔色も悪そうだし明日一日休みたまえ」 「ありがとうございます」 ほっと息をついて、名前とキースは社長室をあとにする。 最後にキースが出るとき、社長に呼び止められ、振り返る。 「その代わり、君にはもう少し頑張ってもらうよ」 「勿論です。弟子を助けるのが師匠の務めですから!」 任せて下さい。というように力強く頷き、先に歩いていた名前の元へ走って向かう。 キースが呼びとめられていたことすら気づいてなかったは驚き、「すみません」と謝った。 「何か話されたんですか?」 「いや、特に。それより明日はゆっくり休みたまえ。ヒーローは身体が大切だからね!」 「あ、はい。……正直助かりました」 覇気のない名前の声。 エレベーターのボタンを押して、くるのを待つ間、沈黙が二人の間に流れる。 「そうそう。あのときは忙しく言えなかったけど、能力を自在に操れるようになってきたね」 「え?」 「銃弾を風で真っ二つに割っていたじゃないか。素晴らしいぞ。日々の努力あっての技だ」 「あ…。あれは師匠を見てこっそり練習してたんです。私はまだまだです」 「それでもいい判断だった。よくやったぞ。やったぞ、よく!」 「はい、ありがとうございますっ。あ、折紙先輩にもお礼を言わないと…」 エレベーターが扉を開き、キースが先に乗ってから名前も続く。 名前の言葉に言葉を切って、再び沈黙が流れた。 「……そう言えば折紙君が援護したんだっけ」 「はい。震える私を勇気づけてくれたのも折紙先輩です。ずっと手を握ってくれました」 それは知っていた。 名前に小型通信機とカメラを取りさせたが、折紙にも取りつけられていた。 だから二人の会話はしっかり録音されており、映像もまだ残っている。 それを見て、とうとう気づいた名前への想い。 エレベーターは止まることなく下へとおり続けている。 「できれば私がそこにいたかった」 「…キースさん?」 あのときのことを思い出し、覇気のない声を出して名前を抱き締める。 いきなり抱き締められ、状況を把握できない名前は戸惑いの声をもらすも、キースは名前を離さない。 「こうして私が抱き締めて、大丈夫だと勇気づけてあげたかった」 「あ、あの、師匠?」 「名前君、私は君を愛してるんだ」 「―――へ?」 キースの告白に、名前が素っ頓狂な声をもらした。 キースの言葉を耳で聞き取り、脳に辿り着いてゆっくり解析をして意味を理解する。 すると顔が熱くなり、真っ赤に染まった。 「名前君?聞こえなかったかい?」 「し、師匠…!」 「今はキースだよ」 「ちっ、違う…。そうではなくっ…!」 「名前君、君を愛しているんだ」 再び告白された名前はパニックで意味の解らないことを喋り出す。 対照に、キースはスッキリした様子で名前の顔を至近距離で見つめていた。 ようやく伝えることができた想い。それだけで幸せな気分になる。 抱き締められていることに抵抗せず、真っ赤な顔をして自分を意識している名前を見ると、さらに嬉しくなって強く抱き締めた。 「あのっ、キースさん…」 「ん?」 「その、言葉はどちらでしょうか…」 「どちらとは?」 「………わ、たしもキースさんのことが好きです…。いつもキースさんのことばかり考えてます…。これをブルーローズ先輩は恋だと言いました。…私はキースさんに恋をしています」 恥ずかしさで顔をあげることはできないが、自分の気持ちを素直に伝えた。 想うだけで幸せだったのに、こんなにも簡単に両想いになれるなんて思ってなかった。 ただ隣にて、これからもずっと相棒を続けられればいいと思っていたのに…。 「お慕い申しております、キースさん…!」 自分はダメな子供だと言われ、育ってきた。 そんな自分を好いてくれる方がいた。しかも自分が敬愛してならない人。 嬉しさがこみあげ、心が苦しくなる。 こんなにも幸せになっていいのだろうか。もしかしたら夢ではないのか。 そう思うも、このぬくもりは消えることなく、泣き続ける名前を抱き締め続けている。 「ああ、よかった!もしかしたら振られてしまうのかと思っていたよ。本当によかった!」 「ど、どうしてですか…?私はずっとキースさんを敬愛してますよ?」 「だって折紙君と仲がいいだろう?」 「折紙先輩は優しいですから…」 「そうだね。彼はとても優しい。優しい、とても!だから嫉妬していたのだよ。そういう気持ちがなくてもね」 「嫉妬…。……え、キースさんがですか!?」 「おかしいかい?」 「いえ、おかしくはありません…。だけど少し驚いてしまって…」 ふとエレベーターの階を見ると、そろそろ1階につきそうだった。 名前はキースから離れようとする動作を見せると、キースはさらに力を加えた。 このままだと大勢の人に見られてしまう。 名前が慌てて階を指さすと、納得したように離してくれた。 長かったような短かったような時間は過ぎ、二人揃ってエレベーターをあとにする。 「私はまだ仕事があるから残るが、名前君は真っ直ぐ寮に帰るんだよ」 「あ、はいっ。お疲れ様です」 会社の玄関まで送り、いつもとは違う優しい笑顔で名前に手を振る。 晴れて恋人同士になった二人だったが、関係はあまり変わらない。 「名前君」 「はい」 「今度、デートしよう!外だと騒ぎになってしまうから、名前君の部屋か私の部屋で!」 「っはい!」 だけど、とある一線を越えることはできたのだった。 通じ合った想い (2011.0711) ( △ | ▽ ) |