喜色満面 街を歩き回り、名前が欲しいと思っていた家具も購入することができた、夕方。 休憩に入ったカフェで二人がそれぞれ好きな飲み物を注文し、カフェテラスで一息つく。 家具などの大きな荷物は配達してくれるみたいで、手には少しの荷物しかない。 その中にはキースがこっそり名前の為に買ってあげた少し大きめの犬のぬいぐるみも入っていて、そのぬいぐるみを見るたび名前の口元はいとも簡単に緩んだ。 「そんなに喜んでくれると、私も嬉しいよ!」 「えっ。そ、そんなに顔に出ていましたか?」 「とても幸せそうだったよ。とても!そして私も幸せだ!」 「だって…。まさか突然プレゼントされるなんて思っていませんでしたから…」 ネイサンにぬいぐるみをプレゼントするようアドバイスを受けた。 きっと名前なら何でも喜ぶが、今まで親しみがなかった可愛いものがいいだろうと言われ、お店を回りながら何をプレゼントするか考えていた。 そしてとあるお店で見つけた犬のぬいぐるみ。見た瞬間「これだ!」と思い、名前に気づかれないよう購入。そのあとすぐにプレゼントしたら名前は本当に驚いて固まっていた。 「私このぬいぐるみ大切にします!」 「ありがとう。そう言ってもらえると本当に嬉しいよ!」 名前の驚いた顔や喜ぶ顔を見れて、キースも心が満たされた。 「今度ファイヤー君に会ったらお礼を言おう」と思いながら飲み物を胃に届け、気がついたように名前に視線を向けた。 「他に買いたいものはあるかい?」 「いえ、もう特には…」 「では私の家に行こう!」 「あ、そうですね。もう夕方ですね…。。本物のわんこに会えるのも楽しみです!」 休憩も終わり、キースが会計を済ませてからカフェを後にした。 何度もお礼を言う名前に、キースは「気にしないでくれ」と名前の荷物を持って歩き出す。 「あ、あのっ…。自分の荷物は自分で持ちますから…!」 「女性に荷物を持たせるなんてできないよ。それよりはぐれないよう気をつけてね」 「気をつけます…!」 両手は荷物で塞がっているため、手を繋ぐことができなかった。 名前がはぐれないようキースはいつも以上に歩くスピードを気をつけ、名前は絶対に遅れないよう一生懸命ついていく。 「………静かですね…」 「元々静かな住宅街なんだが、夕方になると人がもっと少なくなるんだよ」 街から少し離れた場所にキースが暮らすマンションがある。 そこは閑静な住宅街で、夕方にもなれば人はまばら。 今までいた場所や、自分が暮らすところとは少し違った雰囲気に名前は少々緊張気味。 そんな名前の前に大きなマンションが現れ、思わず「大きい…」と素直な感想をもらす。 「キースさんはお洒落ですね」 「どうしてだい?」 「だってこんな大きなマンション、テレビやお話でしか聞いたことありません…」 「私は高い場所が好きだからね。それにここを紹介してくれたのは社長なんだよ」 「さすがキングオブヒーローは違いますね…」 「名前君も高い場所は好きかい?」 「はい、好きです!」 「じゃあ気に入ってくれると思うよ」 マンションに入り、エレベーターに乗ってキースが住まう階へと向かう。 最上階とまではいかないがそれなりに高い階に住んでいた。 初めて人の家にあがる名前は緊張しながらキースの後ろに続く。 鍵を開け、玄関の扉を開くと何か大きなものがキースに飛びかかった。 それが例の愛犬だと解り、恐る恐る覗くと愛犬も名前に気づいて、キースのときのように飛びかかってきた。 「わあ!」 「名前君!」 思っていた以上に力も体重も重く、支えきれずに尻もちをついた。 名前の上に乗ったまま愛犬が匂いをかいで、ペロペロと口周辺を舐める。 最初はどうしたらいいか解らず戸惑っていたが、次第にくすぐったくなって小さく笑う。 「その子はお客さんだよ」 そう言って愛犬を抱え、名前から引き離した。 声をかけながら名前の手を握って立たせたあと、「驚かせてしまってすまない」と苦笑交じりに謝罪。 「いえ、大丈夫です。それより可愛いですね…!」 「人懐っこい性格だから噛むことはないよ」 「キースさんの愛犬ですもん。噛むなんて想像できません」 「それは少し照れるな…。どうぞ」 「お邪魔致します」 一人で住んでいるにも関わらず広い玄関。 靴を脱いで丁寧に揃えて、端のほうへ寄せて、キースを追いかける。 廊下を抜けると一面ガラス窓のリビングが広がり、そこから広がる空に名前は息をのんだ。 自分で空を飛ぶときとは違う、空の光景に感動を覚え、そのまま窓に近づき、見下ろす。 高くて足はすくむが、ドキドキと胸を高鳴らせる。 「そんなに気に入ったかい?」 「あ、すみません…。あまりの光景に感動してました」 「空を飛んだときとは少し違うのが魅力的だよね。私も最初ここへ来たとき、名前君みたいにずっと見ていたよ」 「本当に凄いです…!」 感動する名前の横顔を見て、キースも満足そうに笑う。 すると愛犬がキースに擦り寄り、キースは愛犬のご飯を準備してあげた。 それと一緒に自分と名前の分の飲み物も用意して、未だ立っている名前に「適当に座っててくれ」と声をかけた。 そこでようやく窓から離れ、テーブルのそばに正座する。 「はい」 「ありがとうございます」 用意してくれた飲み物を受け取り、マグカップに口をつけ、一口喉を潤した。 「キースさん、あれは何ですか?」 「ああ、あれは手紙だよ」 部屋に一角に丁寧に積まれた荷物を見つけ、質問した。 そこだけではなく、壁やいたる場所に子供が作ったような人形や、似顔絵が張られていた。 全ては助けた人たちや、子供たちからのプレゼント。 それを全てとまではいないが、できる限りのものを家に持ち帰り、丁寧に飾っている。 そんな几帳面なキースを見て、さらに関心する名前。本当に市民を大切にしているんだ。と実感した。 「私も早く師匠みたいな立派なヒーローになります!」 「それは頼もしい!私も助かるよ」 決意を新たに固め、もう一度飲み物を口にふくんだ。 するとご飯を食べ終わった愛犬が名前の隣にやってきて、フンフンと鼻を動かしてペロリと名前の頬を舐めた。 「どうやら気に入ったらしいね」 「本当ですか?ふふっ、嬉しいです」 しかしどう触っていいのか全く解らない。小型犬なら平気かもしれないが、キースの愛犬は大型犬。 怖くはないが変に緊張してしまって、撫でてあげたいのに腕が動かない。 愛犬は尻尾をぱたぱたと揺らし、撫でてもらうのを待っているように見える。 「そう緊張することはないよ」 名前の気持ちに気づいてか、キースが名前の後ろに座って、利き手を後ろから掴む。 ピクリと跳ねる背中。余計緊張してしまったが、キースは気づくことなく喋り続けた。 「拳を軽く握って下から鼻に近づける。匂ってくれたら、そのまま胸を撫でてあげるんだ」 「えっと…、こうですか?」 「そうそう」 キースの言われた通りにすると、愛犬が名前の拳をペロリと舐める。 少し驚いたが、キースが名前の腕を動かして愛犬の胸に近づけさせた。 恐る恐る胸を撫でると、手触りのいい毛が絡んで、そこでようやく肩の力が抜けた。 「そこから顎、横腹、背中と撫でてあげるのさ。但し、尾や足、足先は気をつけてね」 「わ、解りました。……ふわふわで気持ちいいですね!」 「だろう?一緒に寝るととても気持ちいいんだよ。夢見心地も最高さ!」 次第に慣れてきた名前が両手で愛犬を触っていると、嬉しいのか尻尾を激しく振りだし、「もっと撫でて」と言うように名前に擦り寄った。 「あはは、解った解った。たくさん撫でるよー。撫でさせて下さいねー」 名前も楽しそうにたくさん撫でてあげる。 それを見ていたキースも楽しくなり、名前と愛犬をまとめて抱き締めた。 「き、キースさん!?」 「すまない!二人が楽しそうだったからつい私も二人まとめて抱き締めてしまったよ!」 「ビックリしました…。あ、あなたもビックリした?でも今のはご主人様のせいですよ」 「すまない、そしてすまない!」 「あ、でも楽しそうですね」 「私も楽しいよ!」 こうして特に何もすることなく、ゆっくりとした時間が過ぎて行った。 (2011.0707) ( △ | ▽ ) |