悠々閑々 「おっはよーさん、名前」 「おはようございます、名前さん」 「……っ、よう、……ます…」 最近の名前はヒーローとして自信が持ててきた。 相変わらずスカイハイの援護や、人命救助しか行っていながいが、それでも誰かの役に立てるのならとキースのように努力を怠らなかった。 それはヒーローとしてだけでもなく、名前であるときもで、前までキースに引っ付き、何をするにも彼とともにしていた。 しかし、最近ではキースから離れ、一人でトレーニングルームにやってきたり、積極的に挨拶やコミュニケーションをとろうとする努力をしている。 そのおかげか、前まで一言も喋れなかったのに今では多少言葉を交わすことができるようになった。 「今日もお前一人か?スカイハイはどうしたんだ?もしかしてサボってんのかー?」 「おじさんじゃないんですから…」 「知ってるっつーの!冗談だろ、冗談。で、スカイハイはどうしたんだ?」 「…う、…その………まだ…」 とは言っても虎徹みたいに積極的にこられるとオーバーヒートしてしまい、真っ赤になった手でスケッチブックを取り出し、ペンを走らせる。 「おじさん、近づきすぎですよ」 「ああ、すまんすまん!」 「で、何て書いてあるんですか?」 「『もうすぐ来ます』だってよ」 「おはよう、諸君!おはよう!」 虎徹が読むや否や、キースの爽やかな声が耳に届いた。 虎徹とバーナビーが挨拶を返す横を名前が走り、元気よく「おはようございます!」と挨拶をする。 「最初に比べたらマシになってきてるけど、若干凹むよなー」 「え?」 「だって露骨すぎんじゃん」 ぶー。と子供のように不貞腐れる虎徹を横目で見たあと、溜息を吐きながら自分のトレーニングへと向かった。 「今日も一人で来れたんだね、偉いぞ名前君!」 「挨拶もできましたっ」 「そうか!名前君は本当努力家だね。私も負けないよう頑張ろう!」 「私も頑張ります!」 こうして今日もうるさい師弟コンビはトレーニングが始った。 最近ではこうした光景も当たり前化になってきており、誰もが温かい目で二人を見守っている。 時々ホァンが一緒に混じってトレーニングをしたり、虎徹が茶々をいれ、バーナビーがそれを回収したりと、賑やかなトレーニングはお昼まで続いた。 「っと、そろそろ飯だな。休憩休憩っと」 「今さっきルームランナーで寝転がっていたのにまたですか」 「そういうなって!って、何だありゃ」 ルンルン気分で昼食を買いに行こうとする虎徹の視界に、キースと名前の姿をうつった。 「はい、師匠。約束のお弁当です。お口に合えばいいのですが…」 「ありがとう。そしてありがとう、名前君!とても美味しそうだ。これも残りもので作ったのかい?」 「いえ。師匠に渡すのならと思って、今朝作りました」 「そ、それはすまない。そういったつもりで言ったわけではないんだが…」 「わ、私が差し出がましいことをしただけです…。すみません…」 「今度からは残りもので構わないよ!名前君が作るものは何でも美味しそうだ!」 「解りました!心遣い、ありがとうございます。あ、お茶いりますか?」 「いただこう!」 ベンチに座って、お弁当を広げる二人からは相も変わらないほのぼのオーラが漂っている。 二人を見ていると力が抜け、苦笑しか浮かばない。 「まるで夫婦ね」 「恋人でもねぇのに…」 それを見ていたのは虎徹とバーナビーだけじゃなく、ネイサンもだった。 虎徹の溜息混じりの言葉に、「あら」と指を顎に添えて虎徹をチラリと見る。 「名前ちゃんはスカイハイにベタ惚れよ?」 「え!?ま、マジかよ!」 「見てれば解るじゃない」 「そうだけどよー…」 「愛というより、敬愛・崇拝に近いですけどね」 「崇拝?」 「今のところはね。名前ちゃんがどういう気持ちでスカイハイに憧れているか解らないけど、いつか「愛」に変わるわ!」 んふふ。と楽しそうに笑いながら二人に視線を向けると、二人は幸せそうに笑いあっていた。 「でもスカイハイはどうなんだよ。あいつ博愛主義だろ?」 老若男女問わず好かれる男、それがキース・グッドマン。またの名をスカイハイ。 彼は彼に接してくる人間に対して贔屓なく笑顔(愛情)を振りまく。だから一人の女性を好きになるなんて到底考えられなかった。 だからこそ女性ファンも多い。 「そうなのよねぇ〜…。それだけが心配だわ。鈍感さんだし」 「彼はそういったことに疎そうですね」 「疎すぎたわ。誰かが教えてあげないとダメかもね」 「そういうことはおじさんに任せなさい!これでもパパだからね!」 「関係ないでしょう。それと余計なことはしないほうがいいですよ。娘さんから嫌われてるくせに」 「嫌われてねぇよ!全然、全く嫌われてねぇから!」 「解ったからご飯買ってきなさいよ。あ、ハンサムくんは私と一緒にお昼しない?」 「結構です。失礼します」 「あらやだ、つれないわねぇ…」 三人もそれぞれの昼食を取るべくトレーニングルームを出ていくと、そのタイミングでイワンが入ってきた。 二人の姿を確認して、持っているものを見つけると目を輝かせて近づいた。 「名前殿!」 「っ折紙先輩!?」 「こ、これはもしかしてお弁当というものではござらぬか!?」 「あ、はい。そうですよ。ご存知なんですか?」 「勿論でござる!」 目を輝かせてお弁当を見るイワンに名前は少々混乱気味。 そこでスカイハイが「折紙君はジャパンマニアなんだよ」と教えてあげた。 「日本がお好きなんですか?」 「あっ…」 名前の質問に、興奮が収まったイワンは眉を寄せてその場にしゃがみこんだ。 「僕もお弁当を作ってみようと頑張ったんだけど、うまくいかなくて…。難しくて…。不器用で…」 「確かによく手が込んであるね」 「それは師匠に食べてもらうから気合い入れただけです…。あの、折紙先輩。食べかけですが、もしよかったら私のお弁当食べますか?」 「え、いいの!?」 「お口に合えば嬉しいのですが。私のは昨日の残り物ですので」 「いいです!それでいいです!あ、代わりに僕のお昼あげます。交換して下さい!」 「あ、はい。解りました」 その場でお弁当と、パンを交換。 イワンはキースとは反対の名前の隣に座って、感動した様子でお弁当を眺めている。 「箸は使えますか?」 「勿論でござる!」 目をキラリと光らせ、名前から借りた箸を器用に操って卵焼きを口に運ぶ。 「こ、これが出し巻きでござるか…!」 「正解です。本当によくご存じですね」 「スシバーのマスターから色々聞いたり、本でも見たから覚えてるでござる!」 「スシ、バー?もしかしてお寿司のことでしょうか?」 「知らないんですか?」 「お寿司は知っていますが、スシバーというものは…」 「ならば今度一緒に行くでござる!あ、いえっ…。行きましょう」 「本当ですか!?喜んで!」 きゃっきゃと盛り上がる二人を見て、キースは口を動かしたまま、もやもやする気持ちがなんなのか考える。 皆で食事をともにするのは賛成だ。美味しいものがもっと美味しくなるから。 だけど二人を見ると、先ほどまで美味しいと思っていたお弁当が美味しくなくなる。何も感じない。ただもやもやしながら二人を見ているだけ。 「師匠も一緒に行きませんか?」 「スカイハイさんも是非!」 しかし二人が笑顔を自分に向けると、もやもやは消え去り、いつものように笑って「ああ」と力強く答えた。 「それと、ずっと言おうと思ってたんですけど…」 「はい」 「その、日本について色々教えて下さい…!」 「はい、構いませんよ」 だけど、やっぱり笑いあう二人を見るともやもやが完全に消えることはなかった。 (2011,0704) ( △ | ▽ ) |