夢/贈り物 | ナノ

ほのぼの膝枕


「ちょーじー?……あ、いた」


探していた人物を見つけて、とととっと近づくと長次は目線を手元から彼女へうつし、「どうした?」と聞き取りにくい声で呟く。
何をしているかと思えば、自分のじゃない制服を縫っている。きっと同室の小平太のものだ。
すぐに解ってクスリと笑えば、こてんと首を傾げる長次。


「何でもないよ」
「ならいいが…。何か用か?」
「いや、大した用でもない」
「そうか」


素っ気ない会話だったが、これもいつものことなので特に気にすることはなかった。
どこか温かみのある長次の言葉にニコニコと笑顔になって、隣に座り手元を覗きこむと「あまり見ないでくれ…」と言って、恥ずかしそうに身体を少しだけ背ける。
大きな身体の割に照れ屋な性格。そのギャップにきゅんきゅんしながらも返事をして、長次の背後に回る。


「名前…?」
「これなら見れないよ?」


だからと言って背後にこられると気になって仕方ないのだが…。
呟こうとしたが、名前の気遣いになんて言っていいか解らず、また裁縫に戻った。
静かな時間が過ぎる中、名前は空を眺めたり、遠くの山を見たり……。
日差しも今の季節にしては温かく、何だか瞼が重たくなってきた。


「……」


大きな背中をジッと見つめ、何を言うことなく背中にギュッと抱きつけば、ビクンと飛び跳ねる身体。
顔を後ろに向けて「……なんだ」と聞けば、「えへへ」と答えになってない言葉を返した。


「長次はあったかいね」
「……」
「日差しも気持ちいいけど、長次がやっぱりあったかくて気持ちいい…安心する」


ぎゅーっと小さな身体で大きな身体に抱きつく光景は微笑ましいもので、幸せそうに抱きついている名前の顔を見た長次は、返す言葉が見つからなかった。


「………。…名前は、…柔らかいな」
「長次、ちょっとむっつりっぽい」
「怒るぞ」
「ごめんなさい」


どれも冗談なのは解っているから二人して笑って、長次は裁縫へ、名前は目を瞑って時を過ごす。
こんなに静かな学園…長屋は珍しい。長屋に誰もいないからだと思うが、本当に珍しい。
のんびりとした時間が過ぎていき、本格的に眠りそうになったとき、「名前」と優しい声で名前を呼ばれた。


「なに…?」
「こっち」
「こっち?」
「ん」


ぽんぽんと自分の膝を叩く長次。膝枕をしてやると言っているのだろう。若干恥ずかしそうだったが、嬉しそうな表情でもあった。


「こっちおいで」
「長次…。うんっ、お邪魔します」


長次の背後から膝へと移動して、遠慮することなく膝を借りて見上げると長次の顔が真正面からようやく見れた。


「でも恥ずかしいね」
「まぁ…。でも後ろで寝られるよりこっちのほうがいい…安心する…」
「そっか、ごめんね邪魔して。でも眠たいから寝る」
「おやすみ、名前…」
「おやすみ、長次。キリがよくなったら起こしてください」
「解った」


横を向いて、手で顔を隠す名前を見てから裁縫に戻る。勿論、名前の顔にかからないように注意して…。
先ほどと同じく静かな時間が流れるが、今度は名前の寝息が規則的に聞こえる。
そのリズムが心地よく、長次自らも眠気に襲われるが、自分まで寝たら意味がないと裁縫に集中。
チラリと視線を落とせば愛しい人が寝ており、その顔を見るだけで自分が忍たまをしていることを忘れてしまうほど、嬉しくて仕方ない。


「んっ……」


頬が緩んでいた長次だったが、ごそごろと動いて猫のように丸まる名前を見てハッと我に変えった。
起こしてしまったか?と思ったが、どうやら少しだけ寒いようだった。
あわあわと周囲に何かかけてあげるものがないかと探すが、そんなものは一切なく。そもそも、あったとしても動けるわけがない。
起こさないように一人で焦っていた長次だったが、あることに気づく。


「……」


自分の上着を脱いで名前にそっ…と静かにかけてあげると、眉間にシワが寄っていた名前の表情は和らぎ、また規則正しい寝息が響く。
ホッと息をついて頭を撫でてあげると、ほんのり笑みを浮かべる。
やはり、この時間は幸せだ。いや、名前がいるだけで幸せなのかもしれない。
撫でていた手を止め、辺りに誰もいないことを確認してから、頬に触れる程度の接吻をしてすぐに離れる。
ほんのり頬を染める長次だったが満足気に笑って、裁縫に戻った。
こんなんだから「むっつり」だとか何だとか言われるのだが、恥ずかしいものは恥ずかしいし、そういうことは堂々とやるものじゃない。だからいいんだ。
無理やり自分に言い聞かせたあと、屋根裏や草陰から「ぶふっ…」という笑い声が聞こえたので、近くに置いてあった縄標を握って容赦なく投げつけた。


「……いつからいた…」
「す、すまん長次…!私じゃなくて仙蔵たちが」
「私のせいにするのはよくないぞ、小平太。全部は文次郎が悪い」
「俺のせいにもすんじゃねぇよ!」
「それから、屋根裏に忍んでる二人……」
「俺たちはその……通りにくかったから屋根裏から…。なぁ伊作!?」
「う、うん!ごめんね、見るつもりはなかったんだけど、ほら…長次勘が鋭いし、僕たちもすぐに動けなくて…!」
「……覚悟は…できているな…?」
「やばい!長次が本気で怒った、逃げろ!」
「文次郎、ちょっと時間稼ぎしてくれ」
「断る!」
「と、留さん待って!」
「早くしろ伊作!殺されるぞ!」





むぎすけさんへ。
長次とほのぼのネタを頂いたので!



TOPへ |

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -