夢/贈り物 | ナノ

逃げ場はありません


最初は「ああ、七松先輩ね」という認識しかなかった。
忍たま六年生で、体力も腕力も全てが人間離れしている、うるさい先輩。
普段の素行を見る限り、「絶対に忍者に向いてない」と思っていたんだけど、


「大丈夫か、名前」
「あ……、はい…」
「潜入中なんだからあまり派手に暴れるな」


その七松先輩と一緒に忍務にでかけたとき、普段見ないような表情や雰囲気、仕草で指導されてしまった。
いけどんしてない七松先輩が見られるなんて…。
忍務中なのに感動してしまい、それからは七松先輩の指示の元、忍務に励んで、楽に終わらせることができた。
七松先輩って実は凄い先輩なんだな…。普段は、失礼だがバカっぽそうなのに、忍務のときはその、


「格好よかったなぁ…!」


くのたま教室で先日の忍者している七松先輩を思い出しながら悶えていると、「名前ー!」と友人が大声で私の名前を呼びながら教室に入ってきた。
くのたまのくせに騒々しい音を立てるな。先日の七松先輩は見事に音を消してたぞ!
などと言ってやろうとしたら、両肩をガッ!と掴まれた。


「な、なに…どうしたの?」
「あんたいつの間に七松先輩に告白したの!?」
「……はい?」
「七松先輩に告白したんでしょ!?」
「え……してないけど?」


確かに格好いいと思ったが、別に好きとかまだそういうのは…。
と、ごにょごにょと伝えると、友人は「はぁ?」と不機嫌そうな顔になって、両肩を掴む手に力を加えた。


「あんた噂になってるの知らないの?」
「噂?」
「名前があの七松先輩に告白したって」
「えーっ!?」


こ、告白なんて…!
告白した覚えもないし、そもそも告白しようとすら思ってないよ!
なんだそれ!誰がそんなこと言ったんだ!大体、私と七松先輩の接点なんて、この間の忍務ぐらいだよ!
必死に「告白してない!」と言っても、彼女はあまり信じていない顔で、「友達なんだから相談ぐらいしてよね」と言って教室から出て行った。


「ど、どうしてこうなった…!」


忍務が終わってから、少し話した程度だ。
それも、「お疲れ様でした」「いい勉強になりました」「ありがとうございます」ぐらいだ。
何がどうなっているのか解らず、とりあえず部屋に戻ることにした。
あー…もしかして七松先輩の耳にも届いてるよね?それってすっごく失礼じゃない?いや、迷惑か。
細かいことを気にしない性格だけど、やっぱり好きでもない女とそんな噂になるのは気分が悪いよね…。


「食堂に行くかー…。もしかしたら七松先輩いるかもだし、ちょっと謝ってこよう!」


んでもって、誰がこの噂を流したか突き止めてやる!
くのたま長屋に戻る足を止め、忍たまも集まる食堂へと足取り早く向かう。
その途中、


「名前、七松先輩と付き合ってるってほんと?凄いね!」

「名前から告白して、付き合ってるんでしょ?」

「え、七松先輩から告白されて、付き合うようになったんだよね?」

「この間の忍務で接吻したって聞いたんだけど、あんたそういう趣味だったの?」

「あの七松先輩と恋人になるなんて凄いねぇ…。あ、でも応援してるからね!七松先輩も嬉しそうだし!」

「名前さぁ、あんたいつの間に婚約したの?何でそんな大事なこと相談してくれなかったの?私たち友達でしょーっ!?」

「あー、名前だぁ!結婚おめでとぉ!今度七松先輩の実家に行くんだってぇ?気をつけてねぇ!」


なんてことをくのたま友達に言われ、さらに私は混乱した。
しかもどんどん話が大きくなってる気がする…!結婚してないよ!付き合ってないよ!接吻もしてないよ!
否定しても、何故か誰も信じてくれなくて、寧ろ「七松先輩ならあっちに行ったよー」と七松先輩の場所を教えてくれる…。
この状況のまま七松先輩に会ったら、きっと怒られる…。でも、意味が解らないから七松先輩に会って、色々と聞きたい。


「あ、七松先輩!」
「んー?」


建物から食堂へ向かう外廊下で、運動場でバレーボールを持っていた七松先輩を見つけ声をかけると、普段と変わらない表情で私を見て、「どうしたー?」と近づいて来てくれた。
声をかけたものの、なにを喋っていいか解らず、「あの…」と口ごもっていると、ニコニコと笑って「名前」と名前を呼ばれる。
よく見る子供っぽい笑顔。身体は大きくても、言動や行動は幼く見えていたが、今目の前にいる七松先輩はどこか大人っぽく、そのまとう雰囲気に身体が熱くなった。


「(恥ずかしいなんて……)」


七松先輩に見られるのが恥ずかしい。
固まっていると、七松先輩と同じ六年生が集まってきて、「おー、お前が名前か」と声をかけられる。


「小平太から聞いたぜ。お前、結構凄いんだって?」


食満先輩の言葉に「え?」と顔をあげると、潮江先輩も「らしいな」と賛同する。


「小平太が止めるほど暴れたって、どんだけ暴れたんだよ」
「おー、こいつ本当にすごかったぞ!」
「小平太が認めるなんてすげぇな。だから結婚したのか?」
「はいっ!?」
「まぁな!だって私、強い女子好きだもん」
「七松先輩!?」
「結婚するのはいいが、まだ学生だろ?」
「大丈夫だ文次郎。私、今年には卒業するから!」
「そりゃそうだ。が、赤点取らないように気をつけろよ」
「テメェもだ、留三郎。は組と小平太はバカだからな…」
「うるせぇ文次郎!」
「なはは!」


…………ようするに、だ。
噂を流したのは七松先輩自身なのか!?
今の会話からして、そうとしか……っ。
私の意思関係なく、何でそんなこと言ったんだ!?え、本当に私のことを………!?いやいやいや!
意味が解らないよ!展開に全くついていけないよ!
脳内はパニックになっているが、身体は固まっており、ジッと七松先輩の顔を見ていた。
食満先輩と潮江先輩がケンカを始め、それを楽しそうに眺めていた七松先輩だったが、私の視線に気づいて顔をこちらに向け、ニコッと笑う。
身体がビクリと飛び跳ね、「え…」と悲鳴に似た声をもらすと、至近距離まで近づいてくる。
何だか怖くて後ずさったら、さらに近づいてきたので後退すると、下の柱に背中を打つ。
逃げれない状況に全身から血の気が引き、恐る恐る目の前の七松先輩を見上げると、目でけ私を見降ろしていた。


「逃げられんなぁ、名前」
「あ、あの……七松先輩…」
「私がお前を気に入った」
「……っあの…」
「学園に噂はまいたし、お前はこうやって私の中にいるし、」


目を伏せてそこまで喋ったあと、グッと顔を近づけて、犬歯を見せて笑った。


「絶対に逃がさんし、離さんぞ」





カイさんへ。
七松があまり出てきませんが、少しだけ策士な七松さんを目指して撃沈しました。



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