片思い一年 「佐助くん!」 「佐助ぇ!」 午前中の授業が終わって、お昼の準備をしていると聞きたかった声とやかましい声が佐助の耳に届いて苦笑をこぼす。 彼女のために愛情こめて作ったお弁当と、お弁当と呼ぶには疑問が湧く大きなお弁当を持って教室の外へと向かう。 「授業お疲れさん」 「佐助くんもお疲れ!」 「佐助、飯だ!飯!」 「はいはい…」 佐助と幸村の血は繋がってないにも関わらず、一緒に暮らしているので大食らいな彼のために毎日手作りのお弁当を作ってあげている。 小さなお弁当は大好きな彼女の分。彼女と言っても付き合っているわけではない。 今はまだ佐助の片思い。確実に、相手も自分のことを好きになってもらいたいので、ゆっくりと手懐けている最中。 好きな子に嫌われたくはないし、「付き合ってほしい」と告白して断られたくない。 欲しいと思ったら絶対に手に入れたい。そのためならいくら時間がかかってもいい。というのが佐助の考えであり、想いである。 なのでこの高校二年間。ずっと餌付けしてきた。 クラスが違うので、始終一緒にいられないのが辛かったが、幸村と同じクラスなので少しだけ安心している。 幸村に重箱のお弁当を渡すと、彼は暑苦しくお礼を言って、教室に帰って行った。 残った佐助と名前は笑って幸村を見送ったあと、いつも通り屋上へと向かう。 屋上にはあまり人がいないので、二人の時間を作るにはぴったりの場所。 「今日のおかずはなんだろー」 「開けてからのお楽しみ。ってね」 先を歩く彼女の後ろをニコニコとついて歩く佐助。 階段をのぼり、屋上について日光を身体いっぱいに浴びる彼女が本当に眩しい。 純粋で明るくて、元気いっぱいの子。自分とは正反対の性格だから惹かれたんだと思う。 改めてそう感じた佐助は少しだけ胸が苦しくなった。 こんな子を自分が好きになっていいんだろうか。自分には不釣り合いすぎる。 そうは思うものの、惹かれているのだから仕方ない。この気持ちを止めることもできない。 「佐助くん、早く!」 佐助に近寄って腕を掴み、太陽の下に引っ張る名前。 一つ一つの行動も可愛くてたまらない。 触られた場所がなんだかくすぐったくて、何を言うことなく笑うと「どうしたの?」と首を傾げてくる。 「何でもないよ。さ、ご飯にしようか」 「うん!」 いつもの場所に向かい、佐助が鉄柵にすがって座ると、名前は無防備に佐助の胸の前にすとんと腰をおろして寄り掛かる。 勿論最初はこんなことなかった。 それを徐々に…時間をかけてここまでにしたのだ。 いやらしくなく、でも密着できる上に抱きしめることができる体勢。 小さな生き物が自分の胸の前に座るのがまた可愛い。抱きしめたい。いつも思う。 「今日はキャラ弁作ってみたよー」 「凄い!さすが佐助くんだね!食べるの勿体ない…。あ、写メとっていい?」 「勿論」 名前が振り返ればキスができそうなほど近い距離に毎度心臓が止まりそうになる。 思わず手を出しそうになるのをグッと理性で押さえつけ、名前の肩に顎を乗せてのしかかる。 「重たいよ」とか「くすぐったいよ」と言う名前も可愛い。その声と顔が見たいからこんな体勢でご飯を食べている。 勿論、今さっきみたいに辛いことがあるけど、それはまぁ我慢しよう。 この恋を成就させるために我慢をする佐助は結構、真面目で冷静。 「どう、おいし?」 「美味しい!佐助くんの作る料理は何でもおいしいから困るよー。はい」 「あー……。ん、やっぱり俺様が作る料理はうまいな」 「だから美味しいって言ってるじゃん」 そして食べさせてもらうのが最高の幸せ。 そのために佐助は彼女の昼食をずっと作り続けているのだ。 いちゃいちゃと本物のカップルのように食べる二人だが、先ほども言ったように付き合っていない。 佐助の片思い。 「(いつ告白しようかねぇ…。確信が欲しいけど、俺の気持ちは知られたくないし…)」 「これも美味しいねぇ。あとこれもー」 「(冗談で「俺のこと好き?」って聞いて、「うん、好きだよ!男友達として」って言われたらさすがの俺も凹むっつーの…)」 「佐助くん。私、明日は……あれ、佐助くん?」 いつもだったら、自分の言葉にすぐに反応をくれるのに、反応がなかった。 気になって振り向くと、背中に軽く抱きついていて、顔を見ることができなかった。 「佐助くん?」と名前を呼んでも、彼は反応しない。 名前はお弁当を置いて身体ごと振り返って、下から覗き込む。 「……どうしたの?何かあった?私、変なことしたかな…」 「ううん、違うよ。名前ちゃんは何もしてないから安心して」 「でも苦しそうだよ?」 「ちょっと嫌なこと考えちゃって」 心配してくれて嬉しいのに、胸が苦しい。 ずっと自分の胸に閉じ込めておきたい。誰にも見せたくない。自分だけの女の子になってほしい。 でも傷つきたくないし、嫌われたくないからその場に留まってしまう。 それがダメなのは解っている。幸村のライバルにして、相談相手である政宗や慶次にも「もっと押していけ」と言われた。「弱気な佐助は面白いな」とも笑われた。 「大丈夫?私でよかったら何でも聞くからね?いつもお世話になってるんだし、遠慮なく言って!」 ああ、笑顔が眩しい。自分と釣り合わない。汚したらいけない。だからこそ惹かれるんだ。 色々な葛藤が入り混じって、作っていた仮面をとうとう壊してしまった。 「わっ!」 我慢できない。といった顔で目の前の名前を抱きしめ、胸に閉じ込める。 抵抗されたらどうしようと思ったら、名前は抵抗してこなかった。それどころか背中に手を回してくれた。 ビクリと震えたけど、手は名前を離さなかった。 「……」 「佐助くん、元気になれた?もっとギューする?」 「っ…!」 「…お願い、泣かないで?私じゃ頼りにならないの知ってるけど、私、佐助くんの笑ってる顔が好きだよ」 安易に「好き」だなんて言って欲しくない。 きっと自分の「好き」と彼女の「好き」は違う。まだ言ったらダメだ。まだ……。 「俺ね、名前が好きなの」 「うん、私も好き」 「……」 間を置かずして返ってきた言葉に、言葉は出てこず、変わりに名前を離して、触れる程度のキスをした。 本当に触れる程度。それでも自分にとっては「やっちまった」ことで…。 キスしたあとは顔を見ることができない。早く、「大嫌い」と言って頬を殴ってほしい。中途半端な態度をとられるときっと引きずってしまう。 「えへへ、やっとキスしてくれた」 「……は?」 「だって佐助くん、してくれないんだもん」 「…えっと………。して、よかったの?」 「うん。何でしちゃダメなの?私たち付き合ってるのに」 「はぁ!?」 「いたっ」 「あ、ごめん!」 思わず掴んでいた肩を握りしめてしまい、名前の悲鳴に慌てて手を離した。 きちんと謝りたいけど、彼女の言葉が気になってしまい、また近づいて今度はジッと見つめた。 「俺たち……付き合ってた…?」 「え?だって佐助くんが一年のときに「好き」って言ってくれたじゃん。私も好きって答えたし、……え、つっ付き合ってなかったの!?私の勘違いだった!?」 「えええええ!?」 「いやーっ、恥ずかしい!やだっ、やっぱなし!ごめんなさい!佐助くん忘れてぇえええ!」 真っ赤になって耳を抑え、佐助から逃げ出そうとする名前。 勿論逃がすわけがない佐助に腕を掴まれ、強制的に胸の中に。 強い力で抱きしめると「苦しいよ!離して!」と言われたが、ニヤける顔のまま「だーめ」と笑う佐助。 「あー…俺ってば超バカじゃん」 「もう喋らないで!恥ずかしいからお願い!」 「一年間も無駄に片思いしてたし…」 「佐助くん!」 「名前、よく聞いてね」 抱きしめたまま顔を名前の耳に近づけて甘い声で囁いた。 「愛してる」 ▼ むぎすけさんへ。 お誕生日おめでとうございます! ( TOPへ △ | × ) |