夢/贈り物 | ナノ

鈍感な恋


「おはよー」
「おーっす、名前」


重たい身体、眠たい目に必死に鞭を叩いて朝早く学校に来たら、朝だと言うのに爽やかな笑顔をした八左ヱ門が笑って迎えてくれた。
この顔が見たいから、しんどい朝も頑張ろうと思える。同じクラスになってよかった、神様ありがとう!
心の中にいるもう一人の自分は舞い踊っているけど、そんな顔を見せずに八左ヱ門の前の席に座る。
クラスも一緒、席も近い。今が最高に幸せかもしれない…。
一生分の運を使い切ってしまったんだろうね。うん、本望本望。


「八左ヱ門は相変わらず朝早いね…」
「んー?そうか?」
「だって一番でしょ?」
「まぁな!それよりここ教えてくんねぇ?今日多分当たるんだよー…」
「しょうがないなぁ…」


私だって本当は勉強なんてしたくない。
だけどこうやって八左ヱ門が私を頼ってくるから頑張って勉強している。
少しでも八左ヱ門と一緒にいたい。何でもいいから八左ヱ門に頼られたい。
だって八左ヱ門のことが好きなんだもん。好きな人のために何かしたいってのは当たり前のことでしょう?
教科書を開き、一緒に数式を解く時間も幸せ。
距離が近くなって、八左ヱ門の石鹸の香りが鼻をかすめる。
お洒落なシャンプーとか、香水とかしないもんね。そんな素朴な彼が好き。愛しくなる。


「よっしゃ、できた!」
「おめでとー」
「ありがとうな、名前!いっつもすまん!」
「いいよ、私の復習にもなるし」
「今度お礼に俺が弁当作って来てやる!」
「ふふっ、なにそれ」


しかも上から目線で「作ってきてやる」とか…。
冗談なのは解ってるけど、おかしくて笑ってしまった。


「ははっ!なんか、名前の笑顔見れただけで不思議と嬉しくなるわ!いや、楽しく、か?」
「もー、なにそれ」


こうやって心臓を鷲掴みにしてくるところも好きだよ。
好きすぎて苦しいよ!何でこのタイミングでそんなこと言うのさー、もー!
八左ヱ門は皆に優しい。ノリもいいし、面倒身もいいからクラスの中心。
だから必然と女友達も多いんだけど、彼女はできない。
一応告白されるたびに断ってるらしいが、何で断ってるんだろうか…。嬉しいことなんだけど、気になる。もしかして本命がいるのか?そうなのか!?


「(本命がいたら私学校来ないぞ…)」
「ん、どうした?」
「ううん、なんでもない」
「そうは見えないけど?」


恋愛に関しては鈍感なくせに、こういうところは敏感だ。
大丈夫と笑ってみせても、ジッと見つめてくる。
恥ずかしくて顔を背けると、「隠し事か!」と顔を掴んできたが、お前のせいだ!


「名前ー、呼ばれてるよー」
「「え?」」


八左ヱ門に勉強を教えてあげていたら、徐々にクラスメイトが集まっていた。
そのクラスメイトに名前を呼ばれて振り返ると、教室扉のところに知らない男の子と立っていた。
見たことない人だよ?なのに何で私に?


「誰?」
「知らない。まぁ呼ばれているみたいだから行ってくるね」
「え、あっ…」


自分が忘れているかもしれないが、もしかして知り合いなのかもしれない。…いや、それはないと思う。
でも行かないわけにはいかないので、椅子から立ち上がって扉に向かおうとしたら、パシッと手首を捕まれる。犯人は勿論八左ヱ門。
八左ヱ門も何で自分がこんなことをしたか解らない顔をしていた。


「八左ヱ門?」
「わ、悪い…。なんか……あいつ見て、お前見たら……えっと…。離したくないって思って…そしたら身体が勝手に動いてた…」


俺、何してんだろうな?
と私に聞いてきたが、私が聞きたい。
自惚れだと言い聞かせながらも、八左ヱ門の言葉が嬉しくて顔がにやけそうになった。
凄く凄く嬉しくて、目に涙が浮かんでしまうほど嬉しくて…。
涙を拭うと八左ヱ門は慌てて手を離して、「ごめん!」と大きな声で謝る。そのせいでクラス中の視線を集めてしまった。


「えっとね、とりあえず待ってるから行かないと…」
「……」
「多分大した用事じゃないから……あの…」
「俺な、今…胸ん中モヤモヤしてんだ。多分…お前が関係してるっぽい」
「え…?あ、いや…その…」


離したはずの手をもう一度握り、俯いたまま喋り続ける。
クラスメイトの視線はまだ私たちに集まっている。
これじゃあまるで八左ヱ門に告白されるみたいだ。


「自分でもよくわかんねーけど…、好きなんだと思う…」
「へっ!?」
「俺、お前が好きなんだ」
「はぁ!?」


真っ赤に染まった顔をあげて、私の目を見て告白してきた八左ヱ門。
釣られて真っ赤になると、周囲がワーッ!と騒ぎ始める。
でも私と八左ヱ門は時が止まったまま見つめ合っている。
こ、これは……どう答えたらいいんだろうか…。
勿論、私も好きだ。多分八左ヱ門よりずっと前から八左ヱ門のことが好きだ。
なのに言葉が出てこない。言いたい言葉はあるのに出てこない。


「…名前は…俺のこと…嫌いか?」


私より大きいくせに上目使いをしてきて、さらには捨てられたわんこオーラまで出してきた。
断るつもりなかったのに、何だか責められた気持ちになって「うっ…」と言ってしまう。


「嫌い、なわけないでしょ……。好きだから…毎朝早く来てんの…!八左ヱ門の顔を一番に見たいから来てんの!」
「え、じゃあ…」
「好きだよ八左ヱ門!」
「っ俺も好きだ!名前が好き!」


握られていた手をグイッと引っ張られ、教室の中で抱きしめられる。
さらに周りが盛り上がり、やんややんやとお祭り騒ぎ。
時々、「ようやくか!」とか「やっとか!」って聞こえたけど、どういうこと?
いやそれより私を呼んだ男の子!なんの用があったのかと八左ヱ門に抱きしめられたまま振り返ると、三郎がいた。
え、まさか……?
私の心の声が聞こえたみたいで、ニヤッと笑ってピースをされた。
してやられた…。でも、


「やったー、俺にも彼女できたー!」


八左ヱ門と付き合えるようになったからよしとするか!





リオさんへ。
遅くなりましたが、お礼に。


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