夢/贈り物 | ナノ

おめでとう!


「っいい加減にしろこのバカ!」


今日も忍術学園は賑やかだった。
特に、下級生たちの見本にならなければいけない六年生が一番賑やかで、さらにその中で騒がしい部類に入る小平太と名前が、賑やかを通り越し、うるさいを。
今日も今日とて「鍛錬だー」「バレーだー」「マラソンだー」と休憩時間になるたび…、放課後になっても遊び続けていた。
しかし、六年長屋の中庭で元気よく遊ぶ二人を、用具委員会の作業をしていた留三郎に怒られてしまい、ピタリと動きを止める。
いつもだったら、「うるせぇぞお前ら」と軽く注意されるのが、今日だけは本気で怒っている。
留三郎の本気の怒鳴り声が怖い名前は恐る恐る留三郎に視線を向けると、青筋を浮かべた留三郎が名前と小平太を睨みつけていた。


「え、え?俺、ら?」
「お前ら以外に誰が騒いでんだよ!いい加減に静かにしろ!」
「で、でもいつものことじゃん…。な、小平太?」
「え?ああ、解った」


小平太に賛同を求めようとするも、彼は少しずれた言葉を返し、バレーボールを持ったままキョロキョロと周囲を見回す。
意味の解らない行動に不思議に思いながらも、怒った留三郎をどう宥めようかと、とりあえず持っていた苦無をおさめて、シュン…と犬のように静かになった。


「ごめん、留さん…」
「謝ってもどうせすぐに騒ぎだすんだろ。もうどっか行け」
「今日はもう黙るから!黙るから捨てないでくれよぉ!」
「そういうのがうるせぇって言ってんだよ!小平太と裏山にでも行って、その有り余る体力を使い果たしてこい!」
「解った!名前、行こう!」
「はぁ!?それより留三郎に謝罪するのが先だ「いけいけどんどーん!」


ハウス!と言うように、裏山を指さして怒鳴ると、小平太はニッコリと笑って名前の首根っこを掴む。
大好きな飼い主、もとい親友にちゃんと謝りたい名前だったが、小平太に無理やり連れ去られ、忍術学園を後にした。
森に入っても手を離してくれない小平太に、「いてぇいてぇ!」と悲鳴をあげる名前だが、いつも鍛錬する開けた場所に来るまで決して離してくれなかった。


「よし、ついた!」
「っの…!バカ小平太!いてぇし、拉致すんな!」
「だってそう言われたんだもん」
「はぁ!?そうだけど、でも先に謝るのが先だろ!」
「名前、細かいことは気にするな!」
「そこは気にしてくれ!これで留三郎に嫌われたら俺……俺っ…!」
「なはは、名前は犬みたいだな」
「うっせぇ!」


膝をついて泣き真似をする名前を小平太は陽気に笑って、背中をばんばん叩く。
すると、名前と小平太の匂いを嗅ぎつけた山犬が二匹、森から姿を現わした。
小平太も二匹の山犬に慣れているため、「おっす」と軽く挨拶するとクゥン…と鼻を鳴らして小平太に甘える。
メスの山犬が泣き崩れている名前の背中を鼻でつつくと、名前は勢いよく山犬に抱きついて「留さーん!」と叫んだ。
山犬はジッと名前を見降ろしたあと、フセをして大人しくしていることにした。


「どっちが犬か解らんな。ナツ、私たちはちょっと散歩しよう!」


オスの山犬を連れて再び山へと足を踏み入れる獣二匹。
体力が有り余る小平太についていけるものは、五年数名と六年とこの山犬のみ。
獣同士なのか、気も合い、会話ができなくても楽しそうに笑うこともできるので、小平太も名前の山犬を気に入っていた。
裏山のみならず、裏裏山まで足を運び、山犬と十分散歩をしたあと、再び名前の元に戻ってくると、まだ山犬に抱きついていた。


「名前ー、そんなに泣かなくてもいいだろー?」
「だってめっちゃ怒ってた…。あの留三郎が本気で怒るのって珍しいんだぞ!?」
「そうだな。私がいくら小屋やバレーボールを壊してもあんなに怒らないもんな」
「お前は壊しすぎなんだよ!留三郎に迷惑かけんな!」
「そう言う名前もこの間屋根壊しただろ?あと、天井とか。犬小屋も作ってもらってるし、私以上に世話になってるじゃないか」
「うわああああああん!小平太が虐めるよー!ハルー!」


子供のように泣いて山犬の毛に顔を埋めると、山犬が小平太を見て歯を少しだけ見せる。
まだ怒ってはない。警告をしているのだ。


「ハルは名前贔屓だからなー。ナツは私の味方だよな?」


しかしナツも反応せず、小平太を見上げていた。
味方がないことを知って苦笑をこぼしたあと、名前に近づいて背中を軽く叩いてあげる。


「もう夜だ。これ以上迷惑かけないように学園に帰ろう」
「帰ったら一緒に謝れよな!」
「解った解った」
「ごめんな、ハル。今日は何もしてやれなかったから、明日いっぱい散歩しような!」


山犬の頭を撫でてあげると、もう一匹の山犬も名前の腰に顔を擦り寄せ甘える。
甘える山犬二匹にデレデレしてモチベーションをあげたあと、留三郎が待つ忍術学園へと戻る。
近づくにつれ「あー…」とか「うー…」とか渋る声をあげるが、そのたびに小平太が「また怒られるぞ」と一言。


「あ、留さん今日の晩ご飯当番じゃなかったっけ?」
「食べる前に謝ったほうが気持ち的に楽じゃないか?」
「……はい…」


頭巾を外しながら長屋近くに設置されている六年用の台所へと向かうと、灯りがもれていた。
六年生は七人しかいないため、組に分かれることなく全員で晩ご飯などの当番を回している。
今日は留三郎と長次の日。
器用な二人が当番の日は、大抵おいしいものが並ぶ。いつもだったらテンションをあげて台所へと向かうのだが、今日はダメだった。


「と、留さーん…」


名前が中に入ると、誰もおらず、目の前には一つの宝禄火矢がコロコロと転がってきた。


「はッ!?」


と同時に宝禄火矢は爆発。……することなく、白い煙を放って名前の視界を奪った。


「なんだよこれ!小平太ー、お前大丈夫か!?」
「おー!」
「何だ、敵か!?狼呼んだほうがいいか!?」
「落ちつけバカ」


煙が消えていき、先ほどまで誰もいなかった部屋に留三郎が立っていた。
留三郎だけではなく、六年全員が揃っており、ニヤニヤと笑っている。
意味の解らない行動、表情に名前は咳込むのも忘れて首を捻る。
彼らの後ろをよく見ると、「誕生日おめでとう」と書かれた紙が貼られていて、意味がようやく解ってへなへなとその場に座りこんだ。


「お前らなぁ…!」
「お前が邪魔だったから、小平太に頼んで裏山に行くよう仕向けたんだ」
「俺さぁ、留三郎にマジで嫌われたのかと思ってずっと泣いてたんだぞ!?」
「本当か、小平太」
「ずっとハルに抱きついて泣いてた!」


仙蔵の質問に小平太が素直に答え、名前と小平太を除く六年はお腹を抱えて失笑。
名前は若干頬を赤く染めつつ、「うっせぇ!」と怒鳴るが、止まりそうになかった。


「はー…おっかし…。名前は留さんのこと好きだからねぇ」
「確かに壊したり、騒いだりするのは腹立つが、嫌いになることはねぇよ」
「留三郎…!でもゴメン!明日から気をつけるからな!」
「あー、はいはい!」


抱きついてきた名前の背中をぽんぽんとあやしてあげる留三郎。
その間に他の六年が、準備をしていた豪華な夕食を運んでくる。
今日の主役は名前。ということで、名前が座るところにだけ座布団を敷いてあげた。


「毎年だけどよ、何でお前自分の誕生日忘れるんだ?」
「何でだろうな?毎日が楽しすぎて忘れるんだと思う」
「あははっ、名前は毎日笑ってるもんねぇ!そんな名前に僕と留さんからは新しい忍び刀ね!」
「マジか!ありがとう二人とも!」
「名前っ、私はお前のために猪狩ってきてやったぞ!食え!」
「お前いつもじゃん。でもありがとな!」
「名前……、私からはお前の大好きな酒にしておいた…」
「おおおお!ありがとう、長次!さっそく皆で飲もうぜ!」
「ほら名前。お前のためにわざわざ私が描いてやったぞ」


それぞれがプレゼントをくれる中、仙蔵は一枚の紙と折り紙をくれた。
受け取って中身を見ると、なんと表現していいか解らない二匹の生き物が描かれており、名前は首を傾げる。
「これなんだ?」と仙蔵本人に聞こうとしたが、彼は自信満々な表情で名前を見ていたので、そんな失礼なことが聞けず、言葉を飲み込んだ。


「おお…!これはまた…すっげぇな!一般人の俺には解らないほどすっげぇ…その、芸術だ!」
「だろう?名前はそんなナリだが寂しがり屋だから、寂しくなくならないように描いてやった。大事にしろよ」
「おう、ありがとう仙蔵!」


そう言って仙蔵はご飯を取りにいき、最後に文次郎が名前に近づいた。


「あのさ文次郎。これ……」
「あいつな、ああ見えて絵を描くのが好きなんだ。その……何も言わんでくれ」
「いや、嬉しいけどさ…。なんの絵だ?猪か?それとも俺か?」
「お前が連れてる山犬二匹のつもりだ。それと、こっちの折り紙は学園で飼育している狼だ」
「………仙蔵、絵描くの下手くそなんだな…」
「自分ではうまいと思ってんだ。これではすまんと思うから、俺と仙蔵からは傷薬だ」
「あ、すまん文次郎。助かる!」
「いや、ちゃんと止められなかった俺にも責任があるからな」
「気にすんなって。こう見れば……うん、あいつらに見えねぇこともないし!」


出会って六年目に知った事実に戸惑いながらも笑みをこぼし、壊さないよう部屋のすみへと持っていく。


「今日の当番は俺と長次だったからな!味は保証するぜ!」
「…ボーロも作った……」
「皆、今日はありがとう!さっそくだけど長次から貰った酒あけて皆で乾杯しようぜ!」
「いいな!仙ちゃーん、盃も持って来てー!」
「明日も授業あるんだからほどほどにしないとねぇ」
「伊作、こいつらの辞書に「ほどほど」って言葉があると思うか?」
「ないね。でも一応言っとかないと。とか言うけど、文次郎の辞書にもないだろ」
「こいつらよりはある!」
「……どうだか…」
「何だと長次!」
「おーい、酒注いだぞー!盃持てよー」


名前の声にお酒が注がれた盃を持ち、腕をあげる。


「皆、今日はありがとう!これからも宜しくな!」


名前が笑いながらお礼を言うと、全員もそれぞれ違った笑顔をこぼして盃をカシャンと合わせた。


『おめでとう!』
「ありがとう!」





相互の「きなり」さまへ。相互夢!
「お祝い」がテーマ。


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