下剋上の恋 !注意! よそのお子様をお借りしております。陽介くんです。 陽介くん→後輩主の要素が入ってますので、苦手な方はお気を付けください。 ぼくには好きな先輩がいる。 それが「恋」なのか「憧れ」なのか「尊敬」なのかは解らないけど、名前先輩を見てると幸せな気分になってくる。 一緒にいたいって思いが膨らんで、どうしようもなくなるときがたまにあるけど、ぼくは名前先輩の隣にいたいんだ。 「陽介、お団子買ってきたよー!一緒に食べよう!」 「もちろんですっ。あ、ぼくお茶いれてきますね!」 「じゃあ準備してるから宜しくー」 今日も学級委員長委員会会議は暇だった。 暇じゃないけど暇。優秀な先輩たちと優秀な後輩たちによってあっという間に終わり、すぐに解散。 今日の片付けはぼくが当番なのでテキパキと片付けていると、名前先輩が私服姿でやってきた。 何でぼくがいるのが解ったのかな。やっぱり五年生にもなるとわかるものなのかな…。だったらすごいな! 今さっき片付けたばかりの湯呑を取り出し、三郎先輩が隠しているとっておきのお茶をいれた。 お客さんなんだし、いいよね? 「陽介大丈夫?手伝おうか?」 「だ、大丈夫です…」 丁寧に、ゆっくりと…。 名前先輩の前だからいつもより丁寧を心掛けていたら逆に心配されてしまった。 ちょっと恥ずかしかったけど、気遣ってくれる名前先輩はやっぱりやさしくて好きだ。 「長時間並ばないと買えないお団子なんだよー。皆には内緒な!」 そんないいものを貰っていいんだろうか…。 最初は戸惑っていたけど、ぼくの頭を撫でて「食べな」って言いながら目の前に出してくれる。 ニコニコと名前先輩は何だか嬉しそうだ。ぼくが食べたらもっと喜んでくれるかな。名前先輩が笑うなら食べたい。 お団子も好きだけど、名前先輩の笑顔が一番好きだもんね。 名前先輩はぼくの隣に腰を下ろして、自分用のお団子を頬張った。 余程おいしかったのか、「んー」っと頬に手を添えながら声をもらしている。 ぼくも頬張ると、名前先輩に「おいしい?」って言われたから、「おいしいです」と言って笑うと、さっきより嬉しそうに笑ってくれた。 「はるくんが美味しいなら安心した!遠慮せず食べろー」 「はい、いただきます!」 「それにしても陽介は真面目だねぇ…。どうせ大した仕事ないんだからサボっちゃえばいいのに」 「三郎先輩と勘ちゃん先輩に迷惑かけますし…。それに、後輩たちだってがんばってるのにぼくだけ……」 「えー…じゃあ私が遊ぼうって誘っても?」 「え!?う、あの……それは……っもう名前先輩!」 「ごめんごめん!いい子だね、陽介は」 食べ終わった団子の串を口にくわえたまま笑ってぼくの頭を撫でてくれた。 三郎先輩たちとは違う大きな手は柔らかくて、ちょっとあたたかい。 名前先輩は男らしいってよく言われるけど、そんなことない。いや、男の人みたいにたくましいんだけど、ちゃんと見たら女の人らしさがある。 それを言っても皆気づかない。でもそれでいいと思う。名前先輩の魅力はぼくだけが知ってたらいいんだ。 「ところでそっちは竹谷先輩にお土産ですか?」 「これ?これは七松先輩に」 ぼくだけが知ってたらいいんだ。 だけどぼくより先にその魅力に気付いた人がいた。 この学園の最上級生で、三郎先輩が苦手とする、七松先輩。 ぼくの親友のシロをいっつもボロボロにさせるからぼくも苦手な先輩。 「今日は実習から帰ってくるから甘いものを準備しとこうかと思ってな!」 「…」 歯を見せて笑う名前先輩を見上げ、団子を握っている手に力を込める。 ぼくに笑いかけてくれた笑顔とはちがう…。もっと……言葉にできないものがあの笑顔にはこもっている…。 ぼくにはそんな風に笑ってくれない。 名前先輩を見上げて何かをしゃべろうとしたけど、胸が苦しくて、のどから言葉が出てこなかった。 「なに?」と首を傾げる名前先輩はいつもの表情に戻っていて、もう一本お団子を食べ始める。 「名前、先輩は…。その、七松先輩がお好きですよね」 「へ!?あ、………まー…うん」 恥ずかしそうに頬をかいたあとお茶を飲み、「美味しいお茶だね」と言ってくれた。 嬉しいけど、嬉しくない。そんな気分。 一緒にお団子を食べて、お茶を飲んだあと、名前先輩は怒った久々知先輩に連れられ委員会へと向かった。 静かになった部屋に取り残され、少し余韻を楽しんだあと部屋の片づけに戻る。 「忘れものなし。よし、部屋に戻ろう」 でもやっぱり名前先輩と一緒にお団子を食べれたのはうれしかったな。 思わずこぼれる笑みをかみしめて、三郎先輩がいる五年長屋に向かおうとしたら角で誰かにぶつかってしまい、尻もちをついてしまった。 忍たまのくせに情けない…。油断しすぎた。 「すみません…」 「おっ、なんだ陽介じゃないか。大丈夫か?」 尻もちをついたまま見上げると、目の前には実習帰りの七松先輩がいた。 土で汚れた身体……と、煙と血の匂いに眉をしかめると、気付いてくれたみたいで「すまん」と謝ってくれる。 七松先輩は暴君だって言われるけど、まさにそうだと思う。 でもこうやって手を引いて起こしてくれる優しさも持っている。……手が土で汚れたけど…。 「おっ、名字の匂いがする。陽介、名字と一緒にいたのか?」 「…いました。七松先輩がいない間、一緒にお団子食べてました」 「そうか、それは羨ましいな」 口ではそんなことを言いながら、顔は笑っている。 その顔を見ると何だか悔しくて、また胸がもやもやした。 ぼくのほうが名前先輩のこと好きなのに。七松先輩みたいに名前先輩をふりまわしたりしない。ずっと幸せにしてあげる自信がある。七松先輩よりある。 それなのに名前先輩はぼくを見てくれない。七松先輩しか見てない。 くやしい。ぼくを見てほしい。ぼくだけを見てほしいのに見てくれない。 七松先輩がキライだ。大キライだ! 「キライだ…」 「…。私は陽介が好きだぞ?」 「っぼくはキライです!」 絶対に勝てないのはわかっている。 だけど体が勝手に七松先輩の足を掴んで押し倒す。 押し倒せるなんて思ってなかったのに、倒れてくれた。 そう、倒れて「くれた」んだ。それがまたイヤで、馬乗りになって下の七松先輩をにらみつけると、七松先輩はじっとぼくを見てきた。 「名前先輩がぼくを見てくれないのは、七松先輩がいるからだ!」 「……」 「ぼくのほうが名前先輩のこと好きなのに!七松先輩より好きなのに!」 「……」 「七松先輩なんてキライです…っ。ずるい…!」 「そんなにあいつが好きなのか。…陽介、そんなに悔しかったら私から奪ってみせろ」 自分が子供のワガママを言っていることは解っている。 いるけど、この気持ちをどう言葉にしていいかわからない。 涙は見せたくないから奥歯をかみしめ、ふるえる手で七松先輩の胸倉をつかむ。 なのに七松先輩は普段と変わらない顔でぼくを見つめるどころか、挑発的な言葉をぼくに言った。 ニィと笑うと犬歯が見え、びくりと震える体。 「お前も男だろ。なら好いた女ぐらい奪ってみせろ。お前は賢いし、根性があるからきっと強くなる」 「……」 「今はまだ私のほうが強いがな」 「っ…!」 ガシガシと頭を掴んでなでられた。 やっぱり七松先輩はキライだ。その余裕の態度がキライだ。 浮かんでいた涙をのみこみ、手を離してからもう一度にらんでやる。 「奪っても怒らないでくださいね」 「おう。楽しみにしてるぞ」 ぼくにしかできない方法で奪ってやる! ▼ 佐上さんへ。 とても可愛い佐上さんの息子さんをお借りしてしまってすみません。 イメージを壊されたら申し訳ないですが、私はとても楽しませてもらいました。 またよかったら貸してください。 以下はおまけの会話文。 「はい、七松先輩。お団子です」 「おー、気が利くな。ありがとう、名前」 「いえ!お茶もいれてきますね」 「すまんな」 「名前先輩っ」 「あれ陽介?どうしたの?」 「すみません、ちょっと手伝ってほしいんですけどいいですか?」 「ん?」 「三郎先輩にわたすはずの巻物がなくなってしまったんです…。怒らないと思うんですけど、大事なものだから…」 「も、もしかして私が片付けの邪魔をして団子に付き合わせたから…?」 「いっ、いえちがうんです…!すみません、知らないかなーっと思って聞いただけで…。あの、すみません!」 「待って陽介!私も手伝うから!七松先輩すみません、ちょっと陽介手伝ってきますね!」 「……。あー……もしかして陽介のやつ、本気か?参ったな…。名字の扱いをよく解ってる…」 ( TOPへ △ | ▽ ) |