夢/贈り物 | ナノ

可愛い子


!注意!
六年生男主×勘右衛門のBLになります。






六年ろ組、学級委員長委員会所属の名字名前はキャラの濃い六年生の中でもひときわ濃い性格の持ち主だった。
何せあの学級委員長委員会委員長を務めている人物だ。
ろ組とは言え、頭の回転は早く、要領もいい。器用に何かをすることも、企画を作ることもできる。まさに学級委員長委員会委員長の名に相応しい生徒。
のだが、性格には難があるようで、それら全て悪戯やくだらない遊びなどに使われてしまうという。
噂では、あの天才児三郎に知恵を授けてやるほどだ、とか。あの勘右衛門が唯一勝てない先輩だ、とか…。
噂もそれぞれだが、どれも信憑性の高いものばかり。それほどの実力と実績を持っている。


「でも先輩って本当に趣味が悪いですよね?」
「そうか?」


委員会が始まる前の時間。
勘右衛門が今日の会議場所である教室に向かおうとしたら、気配を消した名前が背後から勘右衛門を捕え、そのまま壁へと押し付けた。
気配を感じなかったのでさすがに驚いたが、目の前でニヤニヤと笑っている名前を見た勘右衛門は呆れたように溜息をはいたあと、台詞をこぼした。
わざととぼけた顔をしたあと、勘右衛門の顔の横に手をついて、ニコニコと胡散臭い笑顔を浮かべる。


「こんなこと、女の子にすることはあっても、されたのは初めてですねぇ」
「ど、いい感じ?」
「名前先輩じゃなければ」


その場から離れたくても、名前の両手が邪魔をして逃げることができない。
息がかかるほど近く、もしこれが八左ヱ門だったら「おほー!?」と焦っているだろう。
だけど勘右衛門はいつもの調子、口調で名前に話しかける。まるで「動じていませんよ?」と言うように笑うも、名前は離れようとしない。


「そろそろ委員会が始まる時間ですよー。遅刻したら庄左ヱ門たちに叱られちゃってもいいんですか?」
「いやぁ…。こんな最高のシチュエーション、手放すの勿体ねぇじゃん?」
「あはは、名前先輩は趣味が悪すぎです」
「ただ、可愛いと思った子は女だろうが男だろうが、イタダキマスしたいのです」
「それが趣味悪いって言ってるんですよー。もー、俺にそんな趣味ないんで止めてくださーい!」


退くどころか、勘右衛門はわざと顔を近づいてお願いをしてみたが、名前も退くことなく「だーめ」と笑った。
「ちぇー…」と軽く頬を膨らませて眉根を寄せて、背中を壁に預ける。
名前はそういった意味でも有名だった。
気に入った子は性別問わず食べているという…。
時と場合、相手によれば食われることも厭わないという、とにかく雑食。
勘右衛門自身もそれなりに雑食だと自負しているが、ここまでではないと自信持って言える。


「名前先輩がこんなんだから、俺も勘違いされるんですけど」
「へー、どんな?」
「男の子に抱いてくださいって言われるしー、知らないお兄さんからも「抱いてやる」って襲われたし?」
「ほー、なんでだろうな?」
「この間名前先輩と一緒に町に行きましたよね?んで、俺の目の前でその人たちに声かけたり、声かけられてじゃないですか。つまり、そういうことです」
「巻き込んじまって悪かったな。でもこれは俺の性分だから」
「いえ、解って頂けたらならいいんです。じゃ、離れてください」
「それは断る」
「なんでですか。本当に怒られますよー?」
「俺、勘右衛門を口説いてるから」
「あっは!これでですか?ただ詰め寄って、逃がさないようにしてるだけですよね?名前先輩に落ちるほど俺は単純でも簡単でもありませんよ?」


何せ勘右衛門も名前同様、「攻め」のほうだ。
今までたくさんの女の子は口説いてきたし、口達者なおかげで他人とも仲良くなれる。
コミュニケーション能力が高いうえに、頭の回転も早い勘右衛門は主導権を握ることができるので、「攻め」にしか見えない。
そんな俺を?というように鼻で笑ったあと、目を細めると名前も目を細めて口端だけに笑みを作る。


「そういう奴を落とすのが好きなんだよ」
「もー、名前先輩性格悪すぎですよー。そんなに俺を落としたいんですか?」
「そうだなぁ。勘右衛門のこと結構好きだし、まぁ食ってみたい気はある」
「ちょっきゅー!そういう先輩、俺も好きですよ。じゃあ、俺を落とせるかどうか頑張ってみてください!俺は落ちないように頑張るんでぇ。さ、話も終わりましたし委員会行きましょうか」


背中を壁から離し、名前の腕を屈んで抜け出そうとした勘右衛門だったが、その腕がいきなり動いて胸倉を掴んだ。
特に驚くことなく「まだ用が?」と視線を元に戻すと、彼は先ほどと変わらず笑みを浮かべている。
少しだけ早くなる心臓は、恋愛からくるときめきではなく、久しぶりに感じた焦り。


「可愛いなぁ、勘右衛門は」
「は?まぁ可愛い要素は持っていると自分でも思っていますが?」
「俺な、小平太たちも好きだし、他の五年生たちも……下級生たちも可愛いなって思う。だけど勘右衛門、お前だけは本当に可愛いと思っているぜ」
「……」
「自分を守るのがうまいな、勘右衛門。本当はすっげぇ緊張してんだろ?俺だから「本当に食べられる」って解ってるもんな。でもバレたら危ないし、悔しいしで軽いのを演じてる」
「なに言ってんですか、名前先輩。俺はこの通り軽いですよ?確かに先輩に食べられるのは怖いですけど」
「本音を隠すのが上手なお前を見ると可愛くてなー…。「こう言っておけば大丈夫」「これで逃げることができる」「よし、自然に話題をそらすことができた」って裏の声が聞こえる」
「…」
「勘右衛門はそうやって生きてきたもんな。そこが可愛いって俺は言ってんだよ。あと、繊細だからこんな話術が身についたんだよな?」


図星だったのか、勘右衛門は複雑そうな顔を浮かべていた。
だが、言い返せない勘右衛門はすでに答えを出している。


「頭が賢いばかりに残念だったな。八左ヱ門なら「え?あの、どういう意味ですか?」とか言ってんぞ」
「……っ…」
「あー、ほんっと可愛い!今すぐ食べてぇや」


掴んだ胸倉を自分に引き寄せ、勘右衛門の返事を聞くことなく半開きになっていた唇を自身の唇で奪う。
さすがに驚いた勘右衛門だったが、六年相手に力で勝てるはずなく、さらに眉根を寄せた。


「っ…!」
「―――いぃ子だねぇ…」


一通り口内を荒らされたあと、数センチだけ残して離れる。
至近距離でどんな表情をしているか解りにくいが、目を見ただけで解る。
勘右衛門の目には戸惑いと、少しばかりの敗北感が宿っていた。


「普段自分が奪ってるからわかんねぇだろ。どうよ、奪われる側は。気持ちいいだろ?」
「そりゃあ先輩のほうが経験豊富ですし?」
「ああ、いいよそれは。いつもみたいに壁作らず本音ぶちまけろよ」
「………。確かに上手だとは思いますが、胸糞は悪いですね」
「うんうん。でも俺のことが好きになればそれもなくなるよな?」
「絶対ありません。俺、名前先輩のこと苦手なんです」
「それも知ってる。だから苛めたいんだよ。お前の泣く姿とか想像しただけでやばいわ。勘右衛門くんの弱音吐くとことか、おねだりするとこが見たいなぁ?」
「心の底から言わせてもらいますね、名前先輩」


力が緩んだ瞬間をついて、名前の胸を押しのけてから珍しく殺気を飛ばした。
勿論、殺気を飛ばす相手は名前。
真ん丸な目が鋭くなって、拳を強く握りしめるのが見えた。


「趣味悪ぃんだよ、名前先輩」
「あっはは!口の悪い勘右衛門も可愛いなぁ!どういたしまして、最高の褒め言葉だ」
「っクソが…」
「おいおい…そんな口、誰に教えてもらったんだよ」
「あんただよ。あーもうっ、胸糞悪いから今日の委員会には出ませーん!」
「じゃあ俺も出るまい。イイコトしようぜー」
「お断りします。兵助ー、兵助どこー?ちょっと助けてー」


殺気を消し、いつもの口調に戻った勘右衛門はさっさとその場をあとにして、同室の兵助を探しに向かった。
そんな彼の背中を満足そうに笑った名前が最後まで見送り、反対方向へと歩き出す。


「しゃぁねぇ。勘右衛門が出ねぇなら俺が出とくか。三郎はどうでもいいんだけど、庄左ヱ門たちには迷惑かけたくねぇしな」


首をコキンと鳴らし、鼻歌交じりに教室へと向かったのだった。





タイムさんへ。
誕生日おめでとうございます!


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