彼女の胸は彼のもの 「んー……」 委員会が始まる前に、集合場所近くにあった縁側に座って、自分の胸を触る。 一日一回は竹谷に「貧乳」と言われるので、自身が貧乳だと言うことは自覚してるし、別に気にしてもいない。七松先輩からも「お前胸ないな」って言われるしねー。 貧乳貧乳って皆よく言うけど、ちょっとはある。くノ一の子たちと比べられたらあれだけど、あります。 大体、たくさんご飯を食べても七松先輩に振りまわされるから、全部筋肉に回るんだよ…!胸にいきやしない! しかも筋肉が上手につくよう振りまわすから、一見細身に見える私の身体だが、かなり力持ち。 「どうやったら大きくなるのかな…」 やっぱ揉むしかないか…。 何でも、豆腐を食べると大きくなるとか、お風呂上がりに揉むと大きくなるとか、異性の人の揉んでもらうと大きくなるとか…。 とりあえず最後のやつ以外全部試しているが、……大きくなってるのか? 「ま、一朝一夕で大きくなるわけもあるめぇ。気長に揉み続けるか」 「名字先輩」 「お、三之助!珍しいね、迷子になることなく来るなんて…」 「はぁ、まぁ。作兵衛に、「行きたいと思う方向とは別の道を行け」と言われまして…」 「さすが作兵衛…」 「名字先輩お一人ですか?」 「うん、まだ私だけ。七松先輩はもう少ししたら来る予感がする」 「そうですか、ならさっさと頼もう」 「何を?」 あまりやる気の感じられない表情と覇気。 でも実力は折り紙つき。そりゃあ七松先輩に鍛えれてますからね。 私の隣に腰をおろして、ちょっと前のめりになって顔を近づけてきた。 「もっかい抱きついてもいいですか?」 「は?私に?」 「はい」 「別にいいけど…。え、それだけ?」 「はい。いけませんか?」 小首を傾げる三之助可愛い! どうした、クールに見えて実はホームシックか?寂しいのか!?よし解った、飛び込んで来い! 「では失礼します」 「おうともよ!」 両手を広げてあげると、三之助はやっぱり表情を変えないまま私に抱きついてきた。 ギュッと腰に回した腕に力をこめ、胸に顔を埋める。ちょっとくすぐったい。 「(これで胸が大きかったら、もっと癒してあげれるんだろうけどな…)」 「名字先輩。やっぱり胸小さいっすね」 「今大きくしてる最中だよ。そして大人になるころにはもっとでかくっ…!」 「……あ、でも前よりは少し大きくなってるかも」 そう言いながら片手で人の胸を揉みだす三之助。 ちょっとびっくりしたけど、まぁ三年生だし下心なんてないだろ。 「あはは、三之助。ちょっとくすぐったい」 「んー…すみません」 「それにしても遅いねぇ。滝は三之助探してるかも…」 「あー、そうっすかもねぇ」 「金吾と白ちゃん、迎えに行こうかな…」 「名字せんぱーい」 「は?え、ちょっ…いた」 金吾と白ちゃんが遅いのが気になり、迎えに行こうかと思ったら、三之助に押し倒されてしまった。 後頭部を廊下で打ちつけ、痛みを耐えながら三之助の名前を呼ぶと、胸に顎をのっけたまま、「なんすか?」と聞いてきた。 「痛いでしょ!なにすんのさ!」 「いや、いい枕になるかもと思いまして…」 「は?」 「おっぱい枕」 「ああ、なるほど。…そう言うのはもっと胸のある子でしなさい。ほら、暑いから離れて」 「気持ちいいから嫌です」 キッパリ断ったあと、胸にゴロゴロと甘える三之助。 いやね、誘ったのは私だし、別に嫌じゃないよ。嫌じゃないけど、第三者が見たら驚く光景だと思うんすよ…。 あとおっぱい枕されている間、私はどうしたらいいんだ? 「三之助ー」 「っ…。…なんすか?」 「え、なにその間」 「別に」 「おっぱい枕はまたやってあげるから今日はもうどいて。そろそろ七松先輩も来るし」 「私ならもういるぞ?」 「ひっ!」 「あ、(やべ)」 「三之助、なにしてんだ?」 いつからそこにいたのか教えて頂きたいっ…。あと、気配を消して現れる癖、どうにかなりませんか!? 私の頭上でしゃがみ、小首を傾げて見下ろす七松先輩。ちょ、髪の毛が顔にあたってくすぐったい! 七松先輩の登場に、三之助は目を反らして私の上から降りてくれた。 「名字先輩が抱きついていいって言われてたので、抱きついてました」 「そうか。それで何で押し倒す?」 「眠くなったので」 「そうか。しかし胸を触る必要はないだろう?」 「気持ちよかったですし、名字先輩も気にしていませんでしたので」 「名字」 「はいっ!ええっとですね…、ホームシックかなぁと思いまして…。か、下級生に甘えられるのは嫌いではないし…!」 無表情というか、通常の表情で淡々と質問をする七松先輩。 三之助を見たまま名前を呼ばれ、肩が飛び跳ねた。声から殺気を感じられないけど、なんか怖い…! おどおどしながら答えると、やっぱり「そうか」と答えて私を担いだ。 「三之助、そこにいろ。滝夜叉丸には遅れると伝えてくれ」 「…。解りました」 不機嫌そうな顔で素直に頷いたのを、七松先輩に俵担ぎされてる状態で見た。 基本的にぼーっとしてる子だから、ああいう表情するの珍しいな。 って、三之助のことを考えてるバヤイじゃなく…っ。 私を担いだ七松先輩は廊下を歩き、近かった私と竹谷の部屋に遠慮することなく入った。 部屋には、今日の夜、一人で忍務に出かけるため、仮眠を取っている竹谷がいた。 七松先輩の気配で布団がビクリと動いたが、起きたらいけない雰囲気なのを察して、頭まで布団に潜り込んでわざとらしくいびきを立て始める。 「な、七松先輩…?」 「よいしょっと」 七松先輩は竹谷を跨いで、私のスペースに私をおろしてくれた。 向い合ったまままだ中腰になっている七松先輩を見上げると、いきなり接吻をされ、変な声が部屋にもれる。 きっと布団に潜り込んでる竹谷が耳を塞いでいるに違いないっ…! 「―――っ…なに…いきな…っ!?」 「なんか腹立ったから?」 「いや、疑問形で言われましても…」 一旦解放してくれた七松先輩は小首を傾げて、腰を下ろす。 七松先輩の思考回路は私には理解不能だ。全く解らない。まぁ、六年全員わかんないんだけどね…。 その中でも群を抜いて解らんのがこのお方…。 手で唇を隠していると、腕を捕まれまた接吻。 わざと音をたてるので徐々に焦って、さらに変な声がもれる。な、何がしたんだ! 「ひっ…ちょ…!まっ……なにを、…ななっ…ぱいっ!」 「んー……」 「あ、んっ…!」 接吻をしながら、片方の手で服の上から胸を触ってきた。触ってきた! 三之助のときには感じなかった感覚に襲われ、背中に鳥肌がたつ。 「ちっちゃい…」 「う、うるさい…!」 「でもこれ私の」 「は?」 「これ私の」 さっきまでちょっと子供っぽかったのに、次に見た顔はとても大人びていた。 怒ってるような、拗ねてるような態度。 ああ、嫉妬か。相変わらず解りにくいうえに、遠回りですね…。 とかなんとか思っているうちに、胸を揉んで、接吻をしてくる七松先輩。 ぞわぞわする!居心地が悪い! 「ちょ、ちょっと待って下さい!」 「やだ」 「っ竹谷!竹谷いるんすから止めて下さい!起きちゃいますよ!?」 つーか起きろゴラァ! と矢羽音を飛ばすも、彼は受信してくれなかった。どうやら電源をオフにしているか、保留にしてやがる! 「名字が騒がんかったら大丈夫だ!」 「いやいやいやいや!もしもってあるじゃないですか!もしもは大切ですよ!」 「むー…。竹谷、起きるなよー」 「ういっす」 「ほら、大丈夫だ!」 「いや、今おもっくそ返事しましたよ!起きてるじゃないですか!ぜ、絶対に嫌だ!」 初めてが友達の横でとか、こんな羞恥プレイレベル高すぎだろ! あ、七松先輩にとっては普通か!でも私にとっては高すぎるから止めて下さい! 「私、名字の目好きだぞ」 「は?なに………いきなりなんですか…?」 「口では嫌がってるくせに、目はそうは言ってないからな!」 「……いや、そんなことは…」 「言ってるぞ。もっと虐めてほしいって」 「なんすかそれ!私そんなこと思ってもないし、言ってもいません!」 「ならお前にはそういう素質があるってことだな」 腕を自分に引き寄せ、至近距離で…目をジッと見ながらそんなことを言うもんだから、羞恥心が爆発して反対の手でまた平手打ちをしてしまった。 パァンと久しぶりに聞く心地いい音に「終わった…」と目を細め、急いでその場から脱出! 逃げるとき、竹谷の腹を踏んでやるのを忘れず、体育委員会集合場所へと向かい、集まっていた滝夜叉丸に抱きつく。 「何をされるんですか名字先輩!私には輪子と言う「ごめん!ほんっと悪いんだけど、このままにして!」 「………」 「いたっ!三之助、お前まで何をする!」 「滝夜叉丸死ね」 「聞こえてるぞ!何だ反抗期か!」 「もうマジ無理…。無理だよ!羞恥心で死ねる!てか七松先輩レベル高すぎだよ!ごめんね、竹谷!でも助けてくれなかったからざまぁみろ!」 「は?あの、名字先輩…―――七松先輩に何をされたのですか…。すこぶる機嫌のいい七松先輩が降臨されたのですが…」 「うぎゃああああ!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」 「名字、マラソンしよう」 「嫌だ!絶対に嫌だ!」 「名字、マラソンしよう」 「許して下さい!本当にごめんなさい!」 「ちょっと名字先輩!力を入れないで下さい!苦しい…!」 「……」 「だから三之助!何故、私を蹴る!」 「ムカつく」 「名字」 「ごめんなさい七松先輩!」 「……時友先輩…。先輩たちは何をして…」 「ぼ、僕にも解んないんだな…」 「今日の委員会も死ぬのかなぁ…!」 「僕も頑張るから金吾も頑張ろう…っ」 「先輩っ…!」 「この場で犯されるのと、マラソンに付き合うの、どっちか選ばせてやる」 「マラソンで!但し、私は最後尾を走らせてもらいます!」 「チッ!」 「(絶対外で続きするつもりだった…!だから何でレベルがたけぇんだよ…!)」 「名字先輩も三之助も!私を絞め殺そうとしたり、蹴ったりしないで下さい!」 「(七松先輩はずるい。滝夜叉丸はムカつく)」 「三之助、名前は私のだからなー」 「……」 「返事は大切だぞ!」 「そうですね、しっかり覚えておきます」 「返事は?」 「…解りました」 「おう!よし、じゃあ委員会を始めるぞ!」 ( TOPへ △ | ▽ ) |