夢/七松デー | ナノ

おまけ


「久しぶりの学園ですね」
「だな!伊作はちゃんと生きてるかな」
「死んでたら死んでたでざまーみろです」


正月が明け、七松家の挨拶回りに付き合ってから学園へと戻ってきた。
長かったような短かった七松家は、……楽しいかったと言っていいのか迷う。
ご飯は美味しいし、鍛錬にはなるし、とても明るかった家庭だが、困ることが一つあった。
いつも以上にひっついてくる七松先輩にいつもドキドキして、そのたびに気配を探ってしまう。
接吻の数も学園にいるとき以上にしてたし…。
実家だもん、バレてもいいだろう。というのが七松先輩の考えだけど、こっちとしては辛い。いや、恥ずかしい。


「あ、三郎発見!では七松先輩、私はこれで。数日間ありがとうございました。またお礼の文を送りたいのでご住所を教えて下さいね」
「おう!じゃあ、またあとな!」
「え?」
「おっ、留三郎!」


またあとで?約束してたっけ?
いやいや、もう夕刻だし、何もないだろ。
不思議に思いながら三郎に近づくと、足を止めてくれた。


「おかえり、名字。結局実家に帰ったのか?お前がいるかと思って急いで帰って来たのに」
「ただいま。あら優しいわね、三郎くん」
「お前が寂しがってると思って、帰って来てやったんだ。あと、明けましておめでとう」
「相変わらず嫌味だわぁ。明けましておめでとう!」


五年生はまだ三郎しか戻って来てないらしい。
荷物を長屋に持っていき、解らなかった課題を三郎に見てもらう。
夕食は食満先輩と山田先生が作ってくれた料理を食べ、お風呂も入る。
六年生は、最初からいる伊作先輩と、伊作先輩が心配で帰って来た食満先輩と、七松先輩しかいなかった。五年より下の後輩はまだ誰も帰って来てないらしい。
風呂上がりに三郎の部屋に遊びに行って教えてもらい、代わりに私も冬休みのことを三郎に話すと、ニヤニヤしながら「よかったな」と一応、祝ってくれた。


「明日の朝食当番は私と名字だしそろそろ寝るか」
「あ、そっか。忘れてた…。……伊作先輩に薬盛ってやろうと思うんだけどダメかな?」
「あの人に薬は効かないだろ。諦めてちゃんとしたものを作れ」
「ちっ。じゃあおやすみ、三郎」
「おやすみ、名字」


三郎の部屋から出て、隣の部屋に入る。
いつもなら竹谷がいるけど、今晩はいない。別に珍しいことじゃないけど、やっぱり同室がいないのは寂しいなぁ。
明日から三郎と寝ようかなー…。ほら、寒いし、誰かいたほうが部屋もあったかくなるじゃん?
灯りをつけてから冷え切ったお布団を敷いて、荷物を片づける。着物とかは明日洗濯しよう。
布団に潜って、しばらくの間ジッとして温めたあと、頭を出して灯りに息を吹きかける。


「おやすみなさーい」


誰もいないけどそう言って、目を瞑ると、すぐに睡魔が襲ってきた。
ああ、お世話になってる間、かなり体力を消耗したからな…。居心地が悪かったというか、ただ私が緊張していただけなんだけどね。
寒いなぁ。と心の中でぼやきながら寝返りをうつと、何かにあたる。それはとても温かくて、寒くて眉間にシワが寄っていたのが、元に戻った。
それにギュッと抱き締められると嬉しくなって、抱き締め返すと、「名字」と名前を呼ばれる。………。


「っ七松先輩!?」
「おー!」


それは七松先輩だった。
抱きついていたので至近距離に顔があり、かなり驚いた。
七松先輩はいつもと変わらず笑っている。な、何してんだこの人…!
離れようとしたが、腰をガッチリ掴まれているので逃げることができず、寧ろグイッと引き寄せられる。近い近い近い!


「な、何かご用ですか!?あ、鍛錬とか!?」
「あのな。ここから六は部屋はかなり離れている」
「え?あぁ、そうですね…」
「鉢屋はバカじゃない」
「ええ、まぁ…。賢いですよね」
「でな、夜這いにきた」
「……意味わかんないですよ!なんなんすか今までの会話!」
「長屋じゃ竹谷がいるから無理だろ?だから実家でヤってやろうとしたんだが、兄上に阻止されてな…。で、ヤるなら竹谷がいない今だと思った!」
「なるほど!じゃなくてっ、三郎!三郎にバレます!」
「だから言っただろ。あいつは賢いから聞こえぬフリをしてくれる」


そうですけど、聞かれたくありませんよ!
と、文句を言おうとしたが、すぐに塞がれた。もうっ、相変わらず自分勝手な人だ!
胸を押し返すも強い力にビクともせず、腰に回していた手がスルリと下へ移動して、変な声がもれる。
苦しいのに解放してくれない。触られると力が抜けていく。
ちきしょう…やっぱり七松先輩との接吻好きだぁ…。気持ちいい…。
一度唇を解放してくれたと思ったら、すぐに首筋を舐めて、カリッと甘噛みをされる。痛いはずなのに凄く気持ちよかった。
その頃には抵抗する力もなく、なすがまま押し倒されていた。


「うん、絶景」


ペロリと自分の唇を舐めたあと、ニッと笑う七松先輩を下から見上げる。
これはやばい…。確実にヤられてしまう…!
どうしようか。いいんだろうか!いやいや、せっかくここまで守ってきたんだから最後まで頑張ろうよ!いや、でも、周りの皆に聞かれるのが恥ずかしいから拒絶をしていたんだ。
誰もいないなら……その、別に…いいんじゃないかとっ…思うわけですよ…!三郎くんがいるんですけど、うん……もういいかなぁ…。


「抵抗せんのか?」
「………」
「無言は肯定ととるぞ?」
「……うー…!」


あーどうしよう!気持ちいいから触ってほしいんだけど、まだ理性が働いているから羞恥心というものがあるんです!
どうしたらいい!?どう動けばいい?全部七松先輩に任せていいのか!?いや、マグロになってはダメだ!あれは萎える!
悩んでるうちにまた首筋を舐めてきて、肩が飛び跳ねた。
その反応を見たあと、スルリと胸元に手を入れ、胸を触った瞬間、


「おほー、やっぱ長屋が落ちつくぜー!」


同室の竹谷くん、ご帰宅です…。
竹谷は私と七松先輩を見て小首を傾げたが、状況を理解した途端、慌てて部屋から出て行った。
やばいっ、見られた!うわああああああ!やばいやばいやばい!もうっ、竹谷にバカって言うべきか、七松先輩にバカって言うべきか解らん!


「よし、続きするか」
「無理ですよもう!竹谷ッ、入って来い!いや、やっぱちょっと待って!」
「続きするぞ!」
「竹谷が帰って来たから無理です!」
「我慢してたのに!?」
「それは大変申し訳ないですが、竹谷がいるなら無理なんですよ!三郎もいますし!」
「さっきは気持ち良さそうな声出してただろ!」
「ぎゃああああ!もう黙って下さい!」


はい、いつものお約束展開。
また七松先輩の頬をひっぱたいて下から脱出。
立って部屋を出ようとしたが、腰が抜けていることに気づいて驚く。
這いつくばったまま戸に向かい、開けると竹谷が耳を抑えたまま固まっていた。


「竹谷くん助けて!」
「うわあああ!近づくなよ!止めろよ!ほんっと悪い!」
「いやもういいんです!何もしてませんから!ね、ほら、一緒に寝ようぜ!」
「それより後ろの鬼をどうにかしろよ!いや、してください!」


竹谷にそう言われ、振り返ると、額に青筋を浮かべている七松先輩が笑いながら立っていた。
悲鳴すらあげることができず、慌てて竹谷の後ろに隠れる。竹谷は必死に謝っていたけど、怒っている七松先輩の耳には全く届いていない。


「名前……これで三度目だ…」
「ごめんなさい!本当に申し訳ないと思ってますが、竹谷くんがいるなら無理なんです!恥ずかしいですぅ!」
「空気読めなくてすみません!俺、裏山で寝るんでどうぞどうぞ!」
「やだーっ。竹谷くん今晩は一緒に寝てくれるって言ったじゃない!」
「誰が言うかよ!ふざけんなっ、お前マジ死ね!俺を巻き込むな!」
「なら、竹谷も混ざればいいのか?」
「「は?」」
「竹谷も混ざれば恥ずかしくないだろ」


叩いた箇所を抑えながら近づき、そんなんことを言ってきた。
な、何を言ってるんだこの人は…!


「いや、何言ってるんですか…。無理ですよ…!」
「七松先輩、ご自分がヤりたいからと言って、俺を巻き込むのは勘弁して下さい!」
「だって名前がいつまで経ってもヤらせてくれんから!竹谷も一緒なら構わんだろ!恥ずかしいのは竹谷もだ!」
「童貞ですからねぇ!って言わせないで下さいよ!」
「名前ッ!」
「絶対に嫌です!嫌ですし……」


六年になれば、房中術もある。だから恥ずかしがってるなんてダメだ。
忍務となれば自分の身体を売ることもしないといけない。色んな事ができるようになっておかないといけない。
解ってる。解ってるけど、


「初めては…普通がいいです……」


竹谷の後ろに隠れたまま、聞こえるか聞こえないかの声で呟く。
だって、怖いもん…。


「バカ名字!お前喋んな!」
「え?」


竹谷に怒られ、七松先輩を見ると、……とても興奮されていた。
瞳孔を開いた目で私をジッと見つめ、一歩近づいて来る仕草に恐怖を感じる。
やばい、犯される!


「七松先輩ヤバいっすって!それだけはヤバいです!」
「竹谷どけ」
「竹谷どくな!絶対にどくな!」
「そうは言っても俺が七松先輩を止めれたことねぇだろ!」
「そこをなんとか!」
「―――テメェら夜に騒ぐんじゃねぇよ!」
「「食満先輩、助けて!」」
「あ?小平太なにしてんだ?」


なんとか食満先輩に七松先輩を止めてもらい、犯されずにすんだ…。
やっばい、変なこと言うもんじゃないね…。
食満先輩に連れて行かれる七松先輩を見送っていると、


「冬休みはまだあるからな」


とだけ残し、六年長屋へと戻って行った。


「……竹谷くん、これからずっと「俺また実家帰るわ」そこをなんとか!助けてくれ!」
「あ、雷蔵のうちに行って課題教えてもらおーっと」
「竹谷くぅん!」


年が明けて安心してたのにこれだ!
早く冬休みよ終われ!終わってくれえええええ!


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