夢/七松デー | ナノ

初めまして、


!注意!
七松家の両親と兄弟が出てきます。勿論オリジナルキャラクターです。
たっぷり出てきます、喋りますので、苦手な方はお気をつけ下さい。





夕食を済ませたあとはずっと七松家の人たちと色んな話をしていた。
忍者として役に立ちそうな話も聞いたし、裏事情も教えてくれた。
七松家は思ってた以上に力を持っていてビックリしたけど…。あと潮江先輩のこともちょこっと。
夜になると私が買ったお酒で盛り上がったが、お義兄様の「そろそろお開きにしましょう」という言葉で、お開きになる。
やっぱり七松家の者はお酒に強かった…。
お義母様と一緒に片づけをして、お風呂に入る。お義母様からも色んなことを教えてもらった。
七松家の嫁とは。からくりとは。などなど……。おっとりしているように見えて、凄くよく考えている人だった。
昔の七松先輩の話にはちょっと笑ったけど、とてもいいお義母様でどんどん緊張が解かれていく。これはもう七松マジックだ。


「遅くなってしまいましたね。湯ざめしないようしっかり拭いて下さい」
「はい、ありがとうございます!おやすみなさいませ!」
「おやすみなさい、名前さん」


お風呂からあがり、廊下で別れて部屋へと向かう。
七松先輩にも挨拶したほうがいいんだろうか…。
悩んで足を止めると、塀の向こうに何か気配を感じてバッと振り向く。だけど、何もいない。
月明かりのおかげで庭の様子が見えたが、鳥も犬もいない。
気のせいかと歩き出した瞬間、背後に殺気。
懐に手を伸ばすも、湯上りのため何もなかった。


「ッ!」
「貴様、何者だ」


背後から口を抑えられ、廊下に組み敷かれる。両手は片手で拘束後、頭上で固定される。
背中と頭を強く打って視界が揺らいだが、次第に元に戻って、私を捕まえた人物をようやく見ることができた。
忍び装束を着ていたため、目しか見えなかったが、とても見覚えのある目だった。


「(七松先輩?いや、違う。……もしかして一番上のお義兄様か?)」
「女中ではない。客人でもない。敵だな」


ギリッと手首を拘束している力が強まり、眉間にシワが寄った。すっごい力だ…。
「客人です」と伝えようにも口を抑えられているので喋れない。どうやって抜けだそうかと考えるが、あまりの殺気に身体がすくんで動かなかった。


「(いやいや、すくんでる場合じゃないだろ!マジで殺されるぞ!?)ッ!」
「おっ?」


伊達に七松先輩に振り回されてねぇんだよ!
無理やり口を開いて、歯を立てて手のひらを噛んでやる。
それだけでは勿論離してくれなかったが、油断した瞬間を狙って腕に力を入れて、片方だけ脱出!
拳を作って殴ろうとしたが、簡単にかわされ、目を細めて笑う。―――七松先輩の本気モードだ…。
やばい、これはやばい。絶対に喜んでる!
でも口を解放してくれたので、息を思いっきり吸って、


「七松先輩助けて下さい!」


と、助けを呼んだ。
この言葉で、「今目の前にいる女は、小平太の知り合い、もしくは後輩なのか?」と思ってくれたらいいのだが、火がついた長兄らしき人の耳には全く届いておらず、楽しそうに笑っていた。
今度は両手で私の腕を抑えつけ、ギリギリと締めあげてからニヤリと笑う。
ちょおおおお!マジでこの人怖いんですけど!七松先輩みたいで怖いんですけどぉ!


「盗人か!?」
「盗人ですか?」
「盗人が出たのか!?」


七松先輩を呼んだのに、助けに来てくれたのは、お義父様、お義兄様、七松先輩の三人。
押し倒されている私を見て、一番に助けてくれたのはお義兄様。
「兄上様、何をされてるんですか!」と言いながら…。やっぱり長兄の方か…。


「すまんすまん!見たことのない奴がいたから、てっきり敵かと思ってな!」
「なわけないでしょう…。女性を組み敷いたうえ、乱暴に扱うなど言語道断ですよ」
「細かいことは気にすんな!」
「大兄上、お久しぶりです!」
「おー、小平太!お前は相変わらずちっせぇなぁ!ほら、お手玉にしてやる!」
「結構です!」
「はぁ…。名字さん、お怪我はありませんでしたか?」
「大丈夫です。ただ、ビックリしたけで…」
「申し訳ありません…」


お義父様は息子だと解ると、残念そうな顔をして部屋へと帰って行き、残された三兄弟と私は廊下に座ったまま話していた。
大義兄様と七松先輩は楽しそうに会話をし、お義兄様は私に謝る。
ええ、ビックリしただけで、大丈夫ですとも。まぁ…命の危機は感じましたが。


「お前なかなか面白い女だな!好戦的な娘は嫌いじゃないぞ!」
「大兄上、こいつ私のです!私が鍛えてるんですよ!」
「え、お前の女なの?くっそー、俺が貰おうかと思ったのに…」
「兄上様!」
「解った解った。そう怖い顔するな弟よ。名字っつったな?」
「あ、はいっ」
「この家の長兄だ。今日帰ってきたから明日から俺が鍛えてやる!」
「えッ!?」
「なかなか鍛え甲斐のありそうだからな!よし、小平太。鍛錬するぞ。強くなったか見てやる!」
「勿論です!今日こそ一本取って見せます!」
「―――もう夜中です。家の者だけならまだしも、ご近所様にご迷惑をかけるというなら、この家の跡取りである私が許しません」
「「……はい…」」


どうやら兄弟の中で一番強いのは次兄のようです。
すぐに静かになった上下を見て、私に振り返る。


「名字さん、お騒がせ致しました。もう静かになりますので、お部屋へお戻り下さい。朝餉の準備ができましたら女中を向かわせますので」
「あ、……はい。ではおやすみなさい」


会釈をして部屋に戻ると、廊下のほうがまた騒がしくなったが、すぐに静まり、何かを引きずる音がしてちょっと怖くなる。大体想像はつくよ…。
用意されている布団を敷いて、横になると、すぐに疲れが襲ってきて、今日の出来事を思い返すことなく眠りに落ちた。


「―――……」


身体は疲れているはずなのに、次に目が覚めたのは、いつも起きる時間帯だった。
普段の習慣って怖いな。
ゆっくり身体を起こして、身体を伸ばすと外が騒がしいことに気づいた。
適当に身なりを整えたあと、部屋から顔を出すと、道場があるという方向から大きな音が届いていた。


「…うし、私も行くか!」


やっぱり習慣って怖い。朝から身体動かさないと、なんだかしゃきっとしない。起きたって感じがしない!
部屋用の動きやすい着物も用意されていたので、それに着替えて足早に道場へと向かうと、上半身裸の三兄弟を見つけた。


「おはようございます」
「おー、名字。お前も早起きだな」
「おはようございます、名字さん。あまり寝られませんでしたか?」
「いえ。いつもの習慣で目が覚めただけです」
「なんだなんだー?お前も参加するか?」
「はい、できればご指導のほうをお願いしようかと…」
「いい心がけだ!俺が相手してやるからこい!」


最初は大義兄様に相手をしてもらい、ボロボロになった。やばいぐらい強い…。
さすがプロ忍なだけあって、実力は七松先輩以上。
ちょっと休んで、今度はお義兄様に刀の相手をしてもらう。これも勿論ボロボロに負けたけど。
さすが武家の息子とだけあって、動きが違う。何をしても軽くかわされ、すぐに一本取られる。
最後に七松先輩に相手をしてもらって、やっぱりいつもみたいに負けた。
凄く疲れたし、身体中が痛いけど、かなり楽しめた!


「あらあら、迎えに行ってもいないからどこに行ったのかと思ったら…」
「「「おはようございます、母上」」」
「お、おはようございます!」
「うふふ、楽しそうですね、名前さん」
「いやー…。勉強になります」
「それはよかったです。ところで、朝餉の準備ができましたよ。汗を拭いてからいらっしゃい」


昨日と変わらず優しく笑ってくれるお義母様の言葉に従い、三人はそれぞれの部屋へと戻る。
私も着替えようかと思ったけど、お義母様を追いかけて足を止めた。


「あの、すみません」
「え?」
「朝の準備を手伝おうかと思ったのですが……」
「あら、そんなこと気にしなくていいのですよ」
「でも、数日もお世話になるのに甘えてばかりは…」
「あら可愛い。ではお願いしてもいいかしら?」
「はいっ、何でもします!」
「お願いは一つ。夕餉のお手伝いだけしてくれませんか?」
「…夕食、だけですか?」
「だって、朝は鍛錬で忙しいでしょう?お昼はお勉強で忙しいでしょう?」


……冬休みの宿題があるの忘れてた…!
しかも七松先輩もあるから、多分私が見てあげないとやらない…。


「…お言葉に甘えさせて頂きます」
「ええ。子供はまだ甘えるべきですわ。きっとご両親もあなたに甘えてほしいと思ってますよ」
「っ…そう……だといいのですが…」
「相手の気持ちばかり考えてるいい子ですね。大丈夫、きっと笑ってくれるわ」


よしよし。と頭を撫でられ、心が温かくなった。
照れ臭かったけど、自然と笑顔になってコクリと頷く。
よし、今度の休みに帰ろう。言わなくちゃいけないこともたっぷりあるしね!


「名字ー、早くしないと大兄上にご飯盗られるぞ」
「常に七松家は戦ってますね」
「世の中は弱肉強食だ!」
「あ、ところで七松先輩。お昼は出された課題しましょうね」
「………長次みたいなこと言うな」
「ですが卒業がかかってますし」
「いいのだ。学校についてからやる!」
「ダメですよ!中在家先輩に怒られますよ!?」
「もー、うるさい!課題なんてせん!名字がしろ!」
「無理ですよ!字でバレますし、何より私にも課題あるんすから!」
「じゃあ早く終わらせたら何かしてくれるか?」
「………内容によりますね」
「よば「却下。無理です無理。頑張って逢引ぐらいしかできません」っケチ!」
「解りました。ならば中在家先輩に連絡をとって、七松先輩が課題をしないと報告させて頂きます」
「卑怯だぞ名字!」
「卑怯で結構です」
「むー…」


言い争いながら部屋に戻り、戸を開けると、グイッと腕を掴まれ、部屋へと無理やり入る。
戸を閉めて、その戸に私を押し付け、逃げないよう両手で左右を塞いでから唇を奪われた。
一瞬何があったか理解できなかったが、ペロリと唇を舐められ、「ひっ」と悲鳴があがる。
すぐに悲鳴と一緒に七松先輩の口で塞がれ、背中に鳥肌が立った。


「―――いきなり……!」
「これで頑張る」


釈然としない顔で私から離れる七松先輩だったが、釈然としないのは私の方だ!
ああもう…あなたの実家でこんなことしないで下さいよ!見つかったら、


「何だ小平太、もう終わりか!?男ならガツンといけ!」
「あらあら、まぁまぁ。小平太ったら随分大人になったのねぇ。真っ赤な名前さんも可愛いわよ」
「小平太ばっかずりぃ!俺も彼女欲しいなーっ」
「父上、母上、大兄上!」
「ぎゃあああああ!」


見つかったら、じゃなくて、もうすでに見つかっていました。
部屋の天井から顔を出し、三人とも笑っている。


「兄上は?」
「…小平太、そういうのはちゃんと結納をすませてからにしなさい…」


姿は見えないが、三人の向こう、天井の奥にお兄様がいることも解り、さらに顔が真っ赤に染まった。なんて家だ!


「さ、皆さんご飯ですよ。大広間に向かいましょうか」
「いやー、息子のああいう姿を見ると嬉しくなるな!母さん、今晩どう?」
「やだあなたったら…。勿論よ」
「ちぇー…。やっぱ俺も若いときに彼女作っとくんだったなー」
「小平太、名字さんを困らせるんじゃないぞ」


天井から降りて、大広間へと向かう七松家を見て、うまくやっていける自信をなくしました。
早く正月よ明けろ!


「もっとさせてくれたら頑張るが?」
「お断りしますッ」


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