初めまして、 !注意! 七松家の両親と兄弟が出てきます。勿論オリジナルキャラクターです。 たっぷり出てきます、喋りますので、苦手な方はお気をつけ下さい。 「……小平太」 「す、すみません…」 「名字さん…」 「ごめんなさい」 目の前にはニコニコと笑っているけど、雰囲気は怒っているお兄様が腕を組んで仁王立ちしており、私と七松先輩は正座したまま謝った。 屋敷を案内してもらいながら、作られたからくりで鍛錬をしていたはずなのに、何故か怒られた。 「からくりで遊ぶなと何度も伝えたはずだが?」 「いい鍛錬になるかもと思って…」 「そのせいで一人の女中さんが転んでしまった。迷惑をかけるなとあれほど言っただろう」 「……からくり作ったのは大兄上と母上だもん…」 「言い訳は?」 「ごめんなさい、兄上!名字、お前ももっと謝っとけ!兄上は温厚に見えて一番厄介なんだぞ!」 「すみません、お兄様!もうしませんのでどうかお許し下さい!」 「今回は名字さんもいるので許しますが、二度目はありません。無闇やたらに作動させないで下さい」 「「はい!」」 「はぁ…。ああ、それから。夕餉の準備が整ったので案内します。まずは手を洗って来なさい。名字さんは着物を準備しておりますので、そちらへお着替え下さい」 どうやら、からくりの存在を知らなかった女中さんが驚き、転んで頭を打ちつけてしまったらしい。 怒ったお兄様は私と七松先輩を捕まえ、説教。 うう、申し訳ないことをしてしまった…。んでもってはっちゃっけてしまった…! 七松先輩の隣にいるとダメだ。緊張感がなくなってしまう。ちゃんとしないと…。 一緒に手を洗ったあと、ついさっき案内部屋に戻ると、きちんとたたまれた着物が置かれていた。 これ絶対に高いよね…。確実に高いよね。あー…汚さないようにしないと。 「お手伝いしましょうか?」 「うわっ!」 誰もいないと思っていた(気配もしなかったし)部屋に、落ちついた声。 素で驚いて構えると、七松先輩のお母様が隣に立っていた。 またか!また気配を消してたのか!心臓に悪いよもう…。 「え、っと…。何でしょうか…?」 「ほら、息子が三人もいるでしょう?女の子に恵まれなくてね…。だから、ね?お着替えさせて?」 ……なるほど。七松先輩が人の話を聞かないのはこのお母さんが原因か。 うきうきした様子で着物を広げ、私の身体に合わせてくる。とても楽しそうだ。 「名前さんのために買ってきたんですよ。ほら、よく似合うわ!」 「え!?わざわざですか!?」 「だってお客様だもん。今はまだですけどね。控えめな着物もいいけど、やはりこのぐらいの年はもっと可愛いの着ないとダメですよ?」 「あ、や、…あの……自分には似合わないので…」 「そんなことないわ!あ、では色んな着物着ましょう!それで似合うか似合わないか私が見てあげますっ」 「いえいえいえ!そんなっ…、いいですよ!質素なものでいいですし、あの、一応替えの着物も準備したのでそれを着ます!」 「春さーん、着物を準備してくれますー?」 「あの、お母様!?人の話聞いてますか!?」 「まずはこれにお着替えしましょうね」 ニコッ。と笑うお母様の顔は、お兄様が時々見せる優しい笑顔に似ていた。いや、お兄様がこのお母様に似ているのだけど。 強引なところも七松だ…。こんな家族を持ては必然的に七松先輩が暴君になるわけだよ、全く。 「うん、これでいいかしら!」 「……ありがとうございます…」 用意された着物に着替えさせられ、ようやく決まった。 お母様は腕をまくったまま汗を拭い、満足そうに笑っている。 人の話を無視し続け、私を人形のように着せかえるお母様はとても生き生きしていた…。私は結構疲れたけど。 お母様に手を握られ廊下へと出て、大広間へと向かう。 家族はそこでご飯を食べるそうだ。 しかも夕食の準備はこのお母様が一人でしているんだって。凄いなぁ…。 「小平太の横に座って待ってて下さいね」 大広間の戸の前でそう言われ、お母様は大広間とは違う場所へと向かう。 多分これから膳を持ってくるんだと思う。て、手伝ったほうがいいのかな…。 そう思って追いかけようとしたら、戸が乱暴に開いて驚いた。 「あれ、母さんは?」 「あ、多分ご飯を取りに…」 「そうか!名字名前、お前はまだ客人なんだから中で待ってろ!俺が手伝ってくる!」 「はぁ…」 戸を開けたのはお父様で、足取り軽くお母様を追いかける。何だか仲の良さそうな夫婦だ。 見送って大広間の中を窺うと、七松先輩とお兄様が仲良く談笑していた。 と見せかけ、七松先輩が一方的にお兄様に話してるようだった。お兄様はそれを静かに聞いている。 さすが兄上。弟の扱いをよく解ってらっしゃる。 「名字さん、こちらへどうぞ」 「おー、名字。着替えたんだな」 「あ、はい。お母様に色々されて…」 「よく似合ってますよ」 「……ありがとうございます」 サラリと挨拶をするように褒められて一瞬照れ臭くなったが、笑いながらお礼を言って用意されている席へと座る。 「七松先輩。ここは何をする部屋なんですか?」 「色々だな。夜になればここで酒飲むし、時々鍛錬もしてる」 「一応、客人を迎えるための部屋です。他の町の領主と情報交換したりをしているんですよ」 「なるほど…」 「激しい鍛錬は道場のほうでしてる!」 「そう言えば道場があると言ってましたね」 「父上は剣術に長けているんだぞ!時々文次郎も来て、鍛錬をつけてもらってるぞ」 「潮江先輩も来られるんですか!?」 「潮江家が支えている家と我が家は昔から繋がりがあるのです。小平太、教えて差しあげなかったのか?」 「だって必要ないかと思って」 「馬鹿者」 これは凄いことを聞いてしまった…。 というか、潮江先輩の実家のこと、初めて聞いたぞ!?今度詳しく聞こう…。んでもって竹谷たちに教えてあげよう。絶対にビックリすること間違いなしだ! 「ガキどもー!飯持ってきたぞー!」 「あなた。乱暴に開けてはダメですよ」 「すまんな!」 お父様は何をするにも全力だ。 また大きな音にビックリしてしまった…。 きちんと座り直すと、目の前に膳が置かれた。 庶民の私にはそう簡単に食べれそうにないものばかり並んでいる。すっごい美味しそう…。 お父様の声により、一緒に「いただきます」をして恐る恐るおかずに手を伸ばし、口に入れる。 「(う、うまああああ!)」 「名前さん、お口にあったかしら?」 「は、はい!すっごい美味しいです!」 「この俺の嫁だぞ!当たり前だ!」 「やだあなた、恥ずかしいですわ」 「食堂のおばちゃんのご飯もおいしいけど、やっぱり母上が一番です!」 「小平太、ご飯粒飛んでる。口に物を入れているときは喋るのではない」 「はいっ」 賑やかな夕食が進み、私も遠慮することなく出されたご飯を全てたいらげた。 いや、お世辞とかじゃなく、マジでうまい。やばいぐらいうまい。 ご飯を食べ終わり、お茶を飲んでお腹を休ませていると、隣に座っていた七松先輩が突然、「あ」と何かを思い出したように声を出した。 「父上、母上、兄上!」 「おう、どうした小平太」 「おかわりはもうダメよ?」 「小平太、もう夜になるのだから静かにしなさい」 「こいつ私の嫁です!」 「―――ブハッ!」 今ここで言います!?しかもいきなり!もうちょっと何かあったでしょう!? あ、いや。紹介されたんだから私もお茶を吹いてるバヤイじゃなく、ちゃんと挨拶しないと! 「あの「おお、ようやくか!じゃあもういいよな、母さん!」 「もー、早く言ってくれないから忘れてるのかと思ったわ。うふふ、ようやく娘ができて嬉しいわ!」 「名字さん、大丈夫ですか?」 「……え、あ、はい…。あの、なんか様子が…」 「ああ、すみません。実は小平太から夕刻のときに聞いていたのです。一応、名字さんのいる前で報告しようと、今まで黙っていたのですよ」 それで、「まだ小平太から言われてないので言いませんが」って言ってたのか!楽しみにしてるって言ったのはこれのことか! もー……自由すぎるっていうか、なんていうか…。 「―――名字名前と申します。小平太さんにはいつもお世話になっております。若輩者ですが、宜しくお願い致します」 床に手をつけ、そう告げてから頭を下げると、顔は見えなかったが、四人が笑ってくれた気がした。 七松家らしい話の展開に、驚きを通り越し、笑いそうになる。 うまくやっていけるか不安だけど、なんとかなる気がしてきて、頭を下げたまま笑いを堪えた。 ( TOPへ △ | ▽ ) |