初めまして、 !注意! 七松家の両親と兄弟が出てきます。勿論オリジナルキャラクターです。 たっぷり出てきます、喋りますので、苦手な方はお気をつけ下さい。 「ここ!ここが私の部屋!」 「おお…」 広い家の広い廊下にビクビク、おどおどしつつ案内されたのは七松先輩の自室。 滅多に実家に帰って来ないせいもあり、部屋は全く汚れていなかった。もしかしたら、女中さんたちが綺麗にしているのかもしれないが。 だって長屋はむちゃくちゃ散らかしてるもんね。 「……本がたくさんありますね」 「一応な!長次が喜びそうな本もあるんだぞ!」 「へー。(一応ってなんだろ)」 部屋にあった本や巻物を渡され、すぐに部屋から出ようとする。 「ちょっと父上と母上に挨拶してくる」 「あ、じゃあ私も」 「いや……。先に説明しないと兄上に怒られる…。だからここでジッとしとけ!」 「よく解りませんが…。解りました。ジッとしてます」 「ちゃんと気配消しとけよ!」 「その必要があるんですか!?」 聞くも返事はなく、彼は廊下を走りだす。 本を渡してきたのはこう言う意味か。まぁいい暇つぶしにはなる。 でも、集中して読めるわけがない。緊張してますし、そわそわする。 は、早く挨拶してこの緊張感から解放されたい…! 「失礼します」 「ハイッ!?」 「お茶をお持ちしました」 「あ、はいっ。すみません、わざわざ!」 驚いて元気よく返事をしてしまった…。恥ずかしい…! お茶を持って来てくれたのは女中さん。だからっ、どんだけ立派なお家なんですか!もう止めて下さいよ!庶民にはきついっすよ! お茶を目の前に出され、静かに去っていく女中さんを見送ってから、湯呑みに手を伸ばす。 ……多分これ、高級なお茶なんだろうな…。 「…」 静かな部屋に静かな家。 やっぱり落ちつくことができず、部屋を見回してしまう。 あ、柱に切り傷がある。あれで身長測ってたのかな…。「少し伸びた!」って言って喜んでたんだろうなー。ふふっ、七松先輩らしい。 「……なんか…音がする…?」 湯呑みを置いて耳を澄ますと、廊下の外からドドドドドと言う地鳴り?が聞こえてきた。 「―――いた!」 「うわああああ!」 「お前が名字名前だな!?」 「な、えっ…!?」 「お前が名字名前だな!?」 「はいッ、そうです!あなたは誰でしょうか!?」 「俺はこの家の主であり、小平太の父親だ!」 スパーンと戸を乱暴に開け、姿を現わしたのは巨躯な男。 思わず悲鳴をあげてしまったが、七松先輩の父親だと言う。 「……マジですか!」 「おお、マジだ!」 「あ、いえ!すみません!」 「何がだ?」 「悲鳴あげちゃいましたし、なんか質問しちゃったしで、申し訳ありません!」 「細かいことは気にすんな!」 ガハハ!と豪快に笑うお父様は、まさしく七松先輩のお父様だった…。そっくりすぎる。 「あなたが名前さん?」 「ッ!?」 「初めまして、小平太の母親です。道中お疲れ様でした」 「……い、え…」 お父様に驚いていると、いつの間に隣に座ってお茶を飲んでいた女性、七松先輩のお母様に驚き、言葉を失う。 ニコニコと笑っているお母様はとても綺麗で、女性らしい女性だった。 なのにこの気配の消しよう!さすが七松先輩のご両親だけある。 と、妙に納得したところで、今さっきのお兄様と七松先輩がやってきた。 「父上、母上。名字さんが驚いております」 「おう、すまんな!母さん、今日は赤飯だ!赤飯を頼む!」 「ええ、勿論ですわ。何升炊きましょうかねぇ」 豪快に笑うお父様と、うふふと笑うお母様。 部屋を出て行ったあと、お兄様が私の前に座ってぺこりと頭をさげる。 「驚かせてしまって大変申し訳ありません。紹介が遅れましたが、先ほどのが私と小平太の父と母です」 「あ……挨拶ができなくてすみません」 「いえ、気にしないで下さい。あのような性格ですので、全く気にしておりませんよ」 「でも…厄介になるのに…。あと、遅れましたがこれ一応、手土産です」 自分で考えていた流れ通りにならなくて混乱していたが、とりあえず用意したお酒だけは渡さねばと思い、お兄様に渡すとまた丁寧に頭を下げられた。 こんな人に頭を下げられるとかなり焦る!止めて頂きたいッ。 「わざわざお気を使わなくても…」 「いえ!いきなり来て、しかもお正月もお邪魔させてもらうんですから…。あの、すみません」 「大丈夫ですよ、名字さん。父も母も、勿論私も大歓迎です」 「あと大兄上も帰って来るって!」 「大兄上?」 「長兄のことです。それより小平太、先に手と足を洗って来なさい。名字さんはこちらへどうぞ」 「え!?あ、あの……七松先輩も…」 どういう流れになっているのか…。もうお世話になることは承諾されているのだろうか…。 あと、できるだけ七松先輩と離れたくない。勝手が解らないから、できるだけ慣れた七松先輩の傍にいたい…! 「ふふ、安心して下さい。七松家は名字さんを歓迎していますので、食べようなんて思っていませんよ」 「あ、いやっ!そういう意味じゃなかったんですけど…」 「安心しろ名字!父上も母上も許してくれた!兄上はお前の部屋へ案内してくれるんだ」 ぐしゃぐしゃと頭を乱暴に撫でたあと、急いで廊下へ飛び出た。 すぐに「廊下は走らない」とお兄様が注意すると、「はい!」と返事。…私のときも返事してほしかったなぁ。 残された私はお兄様に連れられ、お客様用のお部屋に案内された。む、無駄に広いし綺麗だ…。 「自分の部屋だと思ってご自由にお使い下さい」 「(使えねぇよ!こんな綺麗な部屋、使えないから!)は、はい…」 「もし何かありましたら女中か小平太に言付け下さい。厠は廊下を出て真っ直ぐ行かれたらあります」 「解りました。(やばい、緊張のしすぎでお腹痛い!やっぱり来るんじゃなかったよ!挨拶もグッダグダだしよー!)」 「大丈夫ですか?」 「はい、何から何まですみません!」 ビシッと姿勢を正して答えると、お兄様は少しだけ寂しそうに笑って私の名前を呼んだ。 う、なんか変なことをしただろうか…。 「何か失礼なことをしてしまったでしょうか…?」 「いえいえ!そんなこと…!」 「とても緊張されているようですし、謝られてばかりで…。本来は実家へ帰るつもりだったのに、小平太に無理やり連れて来られたのでしょうか?」 「ち、違うんです…。その、格式高いというか……庶民の私にはどれも初めてばかりというか…あの……作法にも自信ありませんし、何か失礼なことをしているような気がして…」 混乱と緊張のしすぎでまともな日本語が喋れなかった。 だけどお兄様は意味を理解してくれて、「そうでしたか」とその場に座って、私にも目の前に座る仕草をした。 恐る恐る座って目の前に座るお兄様と目を合わせる。 ……うん、やっぱり七松先輩のお兄様だ。でもこの人は母親似だ。七松先輩は明らかにお父様似だけど。 「先ほども言いましたように、小平太からの文であなたのことはよく知っております。母も父もあなたに会えるのをとても楽しみにしておりました。勿論、私もです。あの小平太が気に入る女性なんてそうそういませんからね」 懐かしむように笑ったあと、私の両手をとって、優しく微笑んだ。 「まだ小平太から言われてないので言いませんが、私たちはあなたと仲良くなりたいのです。緊張しないで下さいとは言いませんが、どうかいつものあなたを見せて下さい。父も母もあのような性格ですし、私も細かいことは気にしておりませんよ?」 「あ……はい…。…えっと、頑張ります…」 「無理強いは致しませんけどね」 最後にニコッと笑ったあと、手を離して立ち上がり、私も立ち上がる。 お兄様は部屋から出ようとしたが振り返り、「名字さん」と名前を呼んだ。 「夕餉、楽しみにしております」 ちょっとだけ意地の悪そうに笑ったあと、部屋から出て行った。 な、何をするんだ…!? お兄様が出て行くと、入れ違いで七松先輩が入ってきて、ポカンと突っ立っていた私を見て、「何してんだ?」と小首を傾げた。 「いや、なんか夕餉を楽しみにしてるって言われて…」 「ああ、あの話か。父上も母上も楽しみにしてるって!」 「は?」 「そんなことより名字!屋敷案内してやる!広いし、からくりもあるからきっと楽しいぞ!」 「からくりあるんすか!?」 「おう!大兄上と母上でよく作ってんだ。結構精密に作られているからいい鍛錬にもなる!」 「さすが七松家ですね…」 「まぁな!しっかりついて来いよ!」 「解りました!」 とりあえずは屋敷探索に専念しようと思います。 無茶苦茶広そうだ…。 ( TOPへ △ | ▽ ) |