初めまして、 !注意! 七松家の両親と兄弟が出てきます。勿論オリジナルキャラクターです。 たっぷり出てきます、喋りますので、苦手な方はお気をつけ下さい。 「……」 「……」 学園を出た私と七松先輩は、山道を下り、よく行く町も通り過ぎ、旅人が通る道を歩いていた。 昼が近づくにつれ温かくなってきて、心地よかった。 一歩前には七松先輩がいつもと変わらない速度で歩いている。…いや、若干ゆっくりかな? 特に会話はなかったが、この空気が居心地悪いとか思わず、ただついて行く。 「名字」 「はい」 「寒いか?」 「いえ。太陽も正午を差すころですし、寒くありません。たくさん歩いていますしね」 「だな!では次の町で腹を満たそう。もう少し時間がかかるからな」 「腹が減っては戦はできる。ですね」 「私は腹が減っていても戦はできる!」 「七松先輩らしいです」 会話もそれで終わり、また黙って歩いていると、小さな村が見えてきた。 お店らしいお店はなかったが、立ち食い蕎麦屋を見つけ、一緒に食べる。 あー…なんかいいな、こういうの。まったりと流れる時間は幸せだ。いつもだったら人のおかずを盗ってくるからね…。 「あ、七松先輩」 「ん?」 「実家へ向かう前に手土産を買って行こうと思うのですが、何かありますか?」 「そんなのいらんぞ?」 「いえ、一応ケジメというか、挨拶ですから」 「うーん…。なら、私の町で買えばいい!父上と母上は酒が好きだからそれを買おう!」 「解りました。ありがとうございます」 蕎麦を食べ終わったあと、少しお腹を休めて村をあとにした。 次は七松先輩の実家がある町。 一歩一歩進むにつれ、どんどん緊張していく身体。 時々遅れては、走って追い付くを何度か繰り返していると、グルリと眉間が寄っている七松先輩が振り向いた。 「変な歩き方をするな」 「す、すみません…」 「―――よし。これでいい!」 ガシッ!と手を掴まれ、指を絡まれる。 手……を繋いでる…だと!? 普段では絶対にしないし、してこないから凄く恥ずかしくなって、余計身体に力が入った。 だけど、強い力で引っ張られるので必死について行く。 七松先輩を横目で見上げると、ちょこっとばかり嬉しそうだった。……なら私も嬉しいや。 「少し遅くなったな」 「すみません、私の準備が遅くて…」 「細かいことは気にするな!今日中についたんだからいいさ」 手を繋いでからも無言で歩き続けていると、見たことのない町へ辿り着いた。 旅人や商人がよく利用する町みたいで、かなりの人で賑わっている。 呆気に取られていると七松先輩が腕を引っ張って、美味しいと評判の酒蔵を案内してくれた。 「いらっしゃい。―――おや、坊っちゃんじゃないですか。珍しいですね」 「お久しぶりです!はい、正月があるので帰って来ました。父上と母上への手土産で酒が欲しいのですが、いいのありますか?」 「勿論ですよ!お二人だけではなく、兄君にもお世話になってますからね」 ……坊っちゃん…? いやいや、末っ子とは言え、武家の息子だ。おかしくない、おかしくないのだが、 「似合わないな…」 「なんか言ったか?」 「いえ、何も!」 「ところで坊っちゃん。こちらの子は?」 「後輩です!」 「……お手を繋いでいるように見えますが?」 「後輩です!」 「そうですか。では一寸お待ち下さい」 「はい!」 ニヤニヤと笑う酒蔵の店主さん。でも七松先輩は「恋人です」とも「嫁です」とも言わなかった。 照れることはなかったが、ちょっと……寂しい…。何で後輩と言い切ったんだろうか…。 そーっと七松先輩を見上げると、視線が噛み合って動きが止まる。び、ビックリした…。見ていたのか…! 「傷ついたか?」 「え?」 「ちゃんと紹介せんかったから」 「……」 「すまんな。でも最初は母上と父上って決めてるんだ!」 ……ああ、なるほど。そう言えば七松先輩って、変なとこで几帳面といかこだわりがあるというか…だったね。(変なって言い方は失礼だけど) もやもやしていた気分も一気に晴れ、店主さんを待っていると、小型の酒樽を持って来てくれた。 「いつもの中から一番できがいいのです」 「ありがとうございます!名字」 「はい。えっと、お金お金…」 私が買わないと手土産の意味がない。 七松先輩も解ってるから、私にお金を払わせてくれた。 一度繋いでいた手を離し、私はお金を払い、七松先輩は酒樽を片手で担ぐ。さ、さすがだ…! 「ありがとうございました」 「いえいえ。父君と兄君と楽しんで下さい」 「はい。名字、行くぞ」 「はい!あの、ありがとうございました」 頭を下げて、お礼を言うと、店主さんはニコニコ笑顔で手を振ってくれた。 いい人だったなぁ…。というかこの町は皆笑顔だ。元気いっぱい!領主が七松先輩の一家だからかな? 「ん」 「え?」 「手」 「……繋ぐんですか?」 「だって名字、家が近くなるにつれ遅くなる」 「…」 そうだ…忘れてたけど、これから挨拶しに行くんだ…。しかもお世話になるんだ…! また固まる身体。だけど七松先輩に手をとられ、引っ張られて無理やり歩かされる。 嬉しいけど、…うう、緊張でお腹痛くなってきた…! あ、そうだ。挨拶も考えておかないと!なんて言おうか…。とりあえず、数日お世話になるんだから……。 「ついたぞ」 「もうですか!」 まだ心の準備も、挨拶の練習もできてないのについてしまった! 俯いていた顔をあげ、目の前に建つ大きな家を見て、今度は言葉を失う。 で、でかい…。武家だから大きな家だろうと思っていたけど、まさかここまででかいとは…。 「正門は人が多いから、裏門から入る」 「これで裏門!?」 どこまでお金持ちなんですか!?いや、お金持ちとか関係あるのか!? 入るのに躊躇うも、七松先輩に手をとられているため意味がない。 裏門をくぐり、庭を進んでから玄関へと辿り着く。ひぃ、もうやだ。身分が違いすぎるっ。 「兄上ー。兄上はいらっしゃいますかー?」 どうしよう、どうしよう!挨拶をちゃんとしなくちゃ。いや、だからなんて挨拶すんのさ。落ちつけよ自分! 繋いでいる個所から熱が全身に伝わり、泣きそうになる。何で泣きそうになるんだよバカ!緊張してるからだよバカッ。 「小平太、帰ってくるときは玄関から帰って来なさいと何度も言っているだろう」 「っ!」 「お久しぶりです、兄上!」 静かな玄関(裏だけど)に静かな声が通る。 自然とその声を聞くと緊張がおさまり、いつもの平常心を保つことができた。 ゆっくり顔をあげ、その声の主を見ると、七松先輩に似ているようで似ていない男性が立っていた。 とても落ちついた雰囲気を持つその人は、雄々しい七松先輩とは違い、何だか女性らしい。…うーん、表現が違うな。大人しい?静か?大人?そんな感じ。 髪の毛もボサボサじゃないし、筋肉がついてるってわけでもない。でも、強いっていうのがビリビリと伝わってくる。 七松先輩のお兄様と目が合うと、ニコリと微笑まれ、肩がビクリと跳ねて、少しだけ七松先輩に寄ってしまった。 し、失礼な態度をとってしまった…。でも、………この人、強い。それが見えるからちょっとだけ怖くなった。 「この女性が小平太の言っていた方かい?」 「はいっ」 「そうか」 それだけ言うとお兄様は廊下であるにも関わらず、座り、手をついてから頭を下げた。 「いつも小平太の文で聞いております。今回も突然、小平太の誘われたのでしょう。大変ご迷惑をおかけします」 「っいや!あ、ちがっ、…えっと…!」 「何もないところではありますが、小平太の大切な方として丁重におもてなしをさせて頂きます。どうぞ、実家だと思って寛ぎ下さい」 「(うわああああああ!)ッこちらこそ、大変ご迷惑をおかけします!あの、そっ、…え、………う、すみません!」 何でこんな丁寧に挨拶してくれるの!?土下座して迎えるような立ち場の人間じゃないんですよ!? お兄様の行動に驚きすぎて、変な言葉ばかりもれる。 色々考えていたけど、全て真っ白になって、私も玄関で土下座する。 ほんっとすみません!なんかもう、よく解んないけどすみません! 「何でお前まで土下座してるんだ?」 「だって…!」 「意味の解ら―――………」 言葉を途中で切り、「まずい」と言った表情を浮かべる七松先輩。 それもそうだ。顔をあげたお兄様が七松先輩を睨んでいるからだ。 静かに睨みつけているお兄様の殺気は凄まじかったが、目を伏せてから立ち上がり、私の目の前にしゃがんで目線を合わせる。 「どうかお立ち下さい。せっかくのお召し物が台無しです」 「いえいえ!こんな服なんて…!」 「ああ、言い方がよくありませんでしたね。私が女性にそんなことさせたくないのです。ですから、お立ち下さい」 でも私にはとても優しかった。 手をとり、少し強引に私を立たせたあと、着物についた埃を払ってくれた。 ……紳士だ!この時代にそんな言葉ないと思うけど、紳士だ! 感激しながら立ち上がり、言葉を失う私と、ニコニコしているお兄様と、大人しい七松先輩。 な、七松先輩はお兄様に頭があがないのか…? 「ところで小平太」 「な、何ですか…?」 「女性を連れて帰るとは一言も書いていなかったが?」 「うっ…。……ごめんなさい」 「全く…。大変申し訳ありませんが、お名前をお聞きしても宜しいでしょうか?」 「あ、はい!名字名前と申します!」 「名字さんですね。すみません、突然のことで準備が全くできておりません。すぐに準備させますので、小平太の部屋でお待ち頂けますか?」 「解りました!」 「小平太、ちゃんと案内してあげなさい」 「解った!名字、こっちだ!」 「女性を乱暴に扱わない」 「……はい…」 シュンとする七松先輩が「弟」らしくて、ちょっと笑いそうになった。 でもそのおかげで緊張が少しだけ解(ほぐ)れ、転ぶことなく草履を脱ぐことができた。 っと、その前に…。 「あの、遅れましたが、数日間お世話になります!」 「…。そう固くならなくても構いませんが、宜しくお願い致します」 最初の間が気になったものの、お兄様はニコッと笑って深々と頭を下げてくれた。 慌てて私も不器用なお辞儀をして、先を歩く七松先輩に早歩きで向かう。 『小平太、きちんと説明をしてもらおうか』 『ごめんなさい』 七松家専用の矢羽音には全く気づかず…。 ( TOPへ △ | ▽ ) |