夢/七松デー | ナノ

獅子像と狛犬像


!注意!
妖怪パロになります。
日記のほうに詳しい?設定を載せております。




『なぁ相棒』
『なんだい、相棒』
『この寺が焼かれて、何年経った?』
『さぁねぇ…。もう五十から先は数えてないや』
『俺も』


とある村から山二つほど離れた山奥に、ひっそりと寺は建っていた。
昔は旅人や山伏などが休憩に来たりして賑わっていた。
特に有名ではないが、よく利用されていた。それが五十年以上前のお話。
今では見るも無残に……いや、もう何もなくなっていた。
草木が生い茂り、時々見かけるのは動物か虫のみ。
和尚様が手入れしていた庭や階段は獣道へと戻っていた。


『俺ら石だから燃えなくてすんだけどよー…』
『そうだとしても、寺がないんじゃ私たちの存在意味ないよね』


燃えた寺は全て炭になった。
寺を守っていた狛犬の二匹は石だったため、燃えることなく今も寺に背中を向けて守っている。
向かって右側の獅子像が阿形、左側の狛犬像が吽形。(今では二つ合わせて狛犬と言う)
二匹には人間のように意思があり、今日も静かに誰かを待っていた。


『おほー…、鳥はいいなー。色んなとこに行けるんだぜ』
『鳥だけじゃなく、動物も虫も人間も、どこにも行けるんだよバカ』
『俺もどっか行きてぇなぁ…』
『また言ってるよ…。私たちは神使なんだからダメに決まってんだろ』
『でも人間来ねぇじゃん!寺だってねぇしよー!』
『そう、だけど…。でもいつか誰かが建てなおしてくれるよ…』
『五十年以上放置されてるんだぜ!?…っ、俺らの存在する意味ねぇじゃん!』
『そんなの解ってるよ!でもしょうがないじゃん!待つしかないじゃん!』


動けない彼らにとって、ここにいるのは悲しい。必要とされてないからだ。
神使にとって、ここにいるのは辛い。守るべきものがないのは存在意味がないと言われるも同然だから。
最後にはいつも言い争いになり、今日も喧嘩したまま夜を迎えようとしたが、獅子像が何かを察して狛犬像を呼ぶ。


『誰か……来てねぇか…?』
『え、嘘…。もしかして人間!?』
『解んねぇけど…。気配がする…』


旅人たちが通るおかげでできた道も草木によって塞がれているため、人間がここに来ることは絶対にない。
でも気配は感じる。もしかしたら、寺を直しに来てくれたのかもしれない。旅人が道に迷って辿りついたのかもしれない。
二匹は色んな感情でこれから現れる人間を待ち構えた。


「お、出た」
『……人間だ。おい相棒、人間が出たぞ!来た!』
『やったね相棒!ああ、何十年ぶりだろうか…。嬉しいなぁ!』


草木を割って二匹に姿を見せたのは一人の男だった。
狩衣を着ている人間は、身体についた葉っぱを適当に手で払い、二匹に近づく。
狩衣を着ている。ということは、貴族(公家)のものか、陰陽師(術者)だ。
どちらにせよ、そんな人間がこんな山奥にやってくるなんて、おかしな話なのだが、久しぶりに人間を見た二匹はとても喜んだ。


『どうしよう!ねえ相棒、どうしようか!』
『どうしようかって言われても何にもできねぇしなぁ…!』
「んー……」


男は腕をまくりあげ、二匹の前に仁王立ちしてキョロキョロと周囲を探った。
何をしているのか全く分からないが、二匹は騒ぎながら男を観察していた。


『………この人間なにか考えてんのか?黙りっぱなしだぞ』
『お前のアホ面にビックリしてんだよ』
『何だと!?』
「…お前らか!誰かを呼んでいたのは!」
『『え?』』


驚くことに男は、二匹の声が聞こえていた。
二匹は勿論驚き、『なに言ってんだ?』と喋りかけたところ、グルンッと男が首を向けてジーッと見つけてきた。


「お前ら主人はいるか?」
『……意味がよく解んない…』
『こえぇよこの人間。こっち見てくんなよ…!』
「見たところ寺はないし、人間も来てないみたいだな。じゃあお前ら貰うぞ!」


こっちの事情も、質問も答えることなく、男は懐から札を二枚取り出し、それぞれの像にペタリと張った。
中指と人差し指を口の前で立て、目を瞑って聞いたことのない呪文を唱えると、札と男の腕につけていた数珠が突然光り出し、二匹は混乱の悲鳴をあげる。


「我、七松小平太の名に置いて………えーっと、なんだっけ…。まぁいいや!名を与え、我が僕(しもべ)とす」
『な、何だ何だァ!?』
『この人なにしてんの!?意味わか………あれ…?」
「……相棒、お前人間になってんぞ…?」
「いや、相棒こそ人間になってるよ?」
「「……何で!?」


光りを放っていた札は宙を浮き、札から金色と銀色の鈴へと変わった。チリンと鳴る音は、とても心地いいものだった。
阿形の獅子像は男へとなり、吽形の狛犬像は女へとなり、お互いの顔を見て驚いている。
上半身裸、下半身は狩衣のようなものをはいているが、裸足姿の人間が立っている。女のほうのみ胸にサラシが巻かれていた。
背中にはしめ縄を背負っており、人間の形をしているが、頭には耳、お尻には尾が残っている。


「お前が八左ヱ門で、お前が名前な!」


驚いている二人を見ながら、男…小平太はそう言った。
すると数珠の一粒に名前の頭文字を取った漢字が刻み込まれ、宙を浮いていた鈴はその場に落ちて、拾い上げる。


「今日から宜しくな、八左ヱ門、名前!」
「いやいやいや!なんの説明もなく、「宜しくな!」っていい笑顔で言われても!」
「そうだよ!何で俺ら人間になったんだよ!つーかお前誰だよ!ただの人間じゃねぇだろ!」


ぎゃあぎゃあと説明を求める二人に小平太はイラッとして、何を言うこともなく一発殴った。
初めての痛みに二人は悶絶し、地面に倒れ込む。


「お前らうるさい」
「す…すみません…」
「ごめんなさい…」


躾は最初が肝心と言うが、これほど見事な躾があるだろうか。
一発でどちらが上か把握させ、ため口も止めさせた。本当に陰陽師なんだろうかと不安になる二人だが、この状況を説明してほしかった。


「まず最初に。あなたは陰陽師ですか?」
「みたいなもの。私もよく解らん」
「やっべぇよ相棒…。この人きっとバカだ…」
「何だと?」
「すみません!」
「えーっと、次に私が…。私たち、何で人間になったんですか?」
「私のものにしたから」
「……それがよく解らなくて…」
「私も解らん!」


ハッキリと告げる小平太に、名前はがっくりと肩を落としたが、小平太はこれまでのことを簡単に離してくれた。
小平太は名のある陰陽師で、色んな妖怪や怨霊などを封印または成仏(滅殺)している。
別に自分一人でも十分なのだが、下僕が欲しいと思って、今までも色んな妖怪を使役してきたが、どいつもこいつも逃げ出したという。
そこで、仲間である長次という男に相談したところ、「契約すれば逃げない」と、妖怪を使役するための術を教えてもらって、二人に試した。ということだ。


「…こっちの事情聞かずにかよ…!」
「つーか使役を知らない陰陽師って何だよ…。こんな陰陽師がいてたまるかよー…」
「でな。この鈴が契約の証になるんだって。これが壊れたらお前たちは元の狛犬に戻るから気をつけろよ!」


札から鈴に変わったそれは、契約の証。
不思議な光りを放ち、鈴なのにいくら動かしてもチリンと鳴らなかった。さっきは鳴ったのに何故?と二人は首を傾げる。
この鈴が壊れたとき、二人は元の獅子と狛犬に戻れるが、二度と契約を結ぶことができなくなる。


「因みにそっちの数珠も光ってましたよね?それは何ですか?」
「これはこの鈴と繋がってる!」


小平太が腕につけている数珠は透明な石。
真っ白だった数珠の二つには名前一文字入っており、ゆらゆらと動いていた。
これは鈴と繋がっており、鈴が壊れたとき、名も消えて、契約が終わったこと知らせてくれる。
それとは別に、重要な役割りがある。
この名が入った数珠が壊されたら、使役されている妖怪、つまり自分たちは消滅するとのこと。
また、八左ヱ門や名前たちが危険な目に合えば、数珠は赤く光り出すという。命の灯とも言うらしい。


「と言うわけだ!宜しくな!」
「だからッ、俺ら契約したいなんて言いましたか!?いきなり何するんだよ!」
「あ?」
「すみません!いきなり何するんですか!」
「でもお前たち捨てられたんだろ?」
「っ捨てられてません!私たちは………」


何十年、誰かを待ち続けた。しかし、誰もやって来なかった。
和尚様を助けることもできなかった。誰かを呼ぶこともできなかった。
何が守り神だ。何が神使だ。何もできないだけの石造…。
言い返したかった名前だが、言葉が見つからず口を固く閉ざした。
それを庇うように八左ヱ門が前に出て、しっかりと小平太を見つめた。


「捨てられてはいません。主人がいなくて、新しい主人を待っているだけです」
「だから、私が新しい主人だ」
「俺らは獅子像と狛犬像です。だからここにしかいれません。ここが俺らの場所なんです」
「ここはもうダメだ」
「そんなことありません…。また前みたいに人が来て、…くれる、はずなんです…」


拳を握りしめ、グッと涙を堪えてから一つ一つの言葉に気持ちをこめる。
昔みたいとは言わない。また誰かに来てほしい。必要としてほしい。守りたい。見送りたい。
色々な感情が溢れたが、小平太の言葉に全身から血の気が引いていった。


「ずっとそこにいたから気付かんかっただろう。ここより離れた場所に旅人の道がある。そこには店も寺もある。―――新しい獅子像と狛犬像もいる」
「……え…?」
「な、何言ってんすか…!」
「いい加減悟れ。お前たちはもういらんのだ」


厳しい言葉だったが、小平太も少しだけ寂しそうな、悲しそうな表情を浮かべて森の奥を見つめる。
信じたくない言葉だが、心のどこかで解っていたのか、素直にそれを受け入れることができた。
八左ヱ門が自嘲気味に笑うと、名前が八左ヱ門の背中に寄り添い、静かに涙を流した。


「でもな、私はお前たちを必要としている。鍛え甲斐もありそうだし、何より強そうだ!」


ニコッ!と今度は嬉しそうに笑う小平太。
すると、小平太が持っていた二つの鈴がチリンと鳴り響いた。まるで、「必要としてくれて嬉しい」とでも言っているようだった。


「名前も与えた、契約もした。もう断れんぞ?」
「……今度の主人はひっでぇ人だな、相棒」
「…ふふっ、そうだね、相棒。でも、足ができたから色んなとこに行けるよ?」
「おう!俺の夢が叶ったってことで……」


二人は小平太の前で並んで、肩膝をついて頭を下げた。


「八左ヱ門。この名において、我が主をお守りすることを誓います」
「名前。この名において、我が主をお守りすることを誓います」
「許す!」


南の陰陽師。ここに新たな仲間を使役せんとす。


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