ビデオ鑑賞会 「七松先輩どっか行ったし、一緒に見ようぜ」 「おー………そうだね、いないなら…」 これからどうやって暇を潰そうかゴロゴロしてたら、竹谷がやって来た。 ソワソワした様子で事情を説明して、私の腕を掴んで無理やり部屋から引きずり出す。 若干怪しい行動だったけど、まぁ…七松先輩がいないならいっかと思って、再び下に降りると、 「名字、ここ!ここ座って!」 いるじゃねぇかボケェ! そう目で訴え、無言で竹谷の胸倉を掴むと、竹谷はそっぽを向いて口笛を吹きだした。 白々しいんだよ!何がしたんだお前は!そして、何がしたいんすか、七松先輩! 嬉しそうにニコニコ笑って自分の横を叩く七松先輩は可愛いですけど、一緒に座ってAVなんて見たくないっすよ! 「いいから座れ」 「はい…」 でも、七松先輩の威圧に負けてしまい、重たい足取りで近づいて、座る…。 隣に七松先輩がいると思うと、そちら側の腕が妙に寒い…。これが殺気というものかっ…! 「竹谷くん、ちょっと私の隣に座って」 「は?嫌だよ、狭い…。お前だってガタイのいい男二人に挟まれるの嫌だろ?」 「今すっごく寒いんだぁ!いいから座れよ!」 無理やり反対に竹谷を座らせ、ガチムチサンドのできあがり。わー、むさ苦しい…。自分で作っといてあれだけど。 「じゃあ最初っから流しますね」 「おう!」 「(帰りたい…)」 そして再び始まるAV観賞会…。借りるんじゃなかった。バカだ、自分。 いつもだったらテンションあげて、竹谷と盛り上がるんだけど、今日ばかりは無理だった。 隣に七松先輩いるし、時々七松先輩から視線を感じて、居心地が悪くなる。 落ちつかなくてソワソワしていると竹谷に「うぜぇ!」と言われた…。相棒が冷たいよう。 「……」 「…っ」 「おほー…」 AVのほうは前戯に入り、さらに居心地が悪くなる。 目はテレビを見ているようで見ていない。なんていうか、泳がせてる。 耳を抑えたくなって、動こうとしたら、先に七松先輩が動いてビクリと肩が飛び跳ねた。 ただ座り直しただけだった…。うっわー……意識していた自分が恥ずかしい! 座り直したせいで、自分との距離がちょっとだけ詰まった。それが気になって、恥ずかしくなって、不自然にならない動きで竹谷にちょっと近寄る。 大丈夫。竹谷はテレビに夢中で気づいていない! 「…」 「(え、ちょっ、また来たっ…!)」 七松先輩と自分との間にできた隙間にホッとしていると、また近づいてきた。 今度はすぐに竹谷に近づいて、竹谷の服をギュッと握る。 竹谷が一旦テレビから私に視線をうつして、「お前じゃないんだよなぁ…」と、残念そうな台詞とともに視線を戻す。すっげぇムカつく。 「(もうマジでなんなの!?何で近づいてくんの!?AV見たいんなら見ろよっ。そっちに集中しろよなぁ!)」 手に汗を握り、心の中で文句を言いながら、どうすればいいか考える。 まず逃げたい。でも無理。七松先輩の命令は絶対だ。 ソファから降りたい。いや、きっと一緒に降りてくる…。 トイレに行くってのは?…いやいや、停止ボタン押して、私が帰ってくるのを待つだけだ…。 「(いっそ、誰か帰って来てくれたらいいのに)」 呟くと同時に、ふと七松先輩に視線を向けてしまい、楽しそうにニヤニヤと笑っている七松先輩と目が合った。 ―――ああ、私で遊んでんだ。 解った途端、一気に顔が熱くなって思いっきり竹谷に抱きついた。 「んだよ名字!狭いんだから近づく……って、近づきすぎだろ!」 「そんなことない!」 「名字、こっち広いぞ!」 「いえ、結構ですッ!」 「七松先輩のほうがっつり空いてんだろ!俺マジでこれ見てんだからそっち行けよ!」 「その真面目を勉強で使え!」 「彼女できたときのために、今勉強中なんですぅ!七松先輩、名字どうにかしてくださよ!」 「名字、こっち来い」 「い、嫌です…!私ちょっと竹谷に抱きつきたい気分何です」 「俺は結構です。もー…俺、下に降りるから二人が座って下さいよ」 呆れながら竹谷はソファから降りて、下の床に座ってテレビに近づいた。 おかげで広くなったソファ。竹谷が座っていたところに避難すると、やっぱりついてくる七松先輩…。 「七松先輩っ、狭いです!近づかないでください!」 「いやー、面白いな名字」 「面白くありません!」 「私は面白いぞ。仙蔵の言った通りだし」 「は?」 ニコニコと笑顔のまま、私の肩に手を回して、グッと引き寄せられる。 目を細めて笑った七松先輩を至近距離で見て、さらに心臓が早まり、息も止まりそう…! 「異性として見てるから、恥ずかしいんだろ?」 「ッ!」 「なァ…、名前」 「んぎゃああああ!」 「黙れって言ってんだろ!今さっきからうっせぇんだよお前!」 だって!耳元で名前呼ばれた!低い声で名前呼ばれた!背筋がゾクッてなったんだもん! 腰が抜けてソファから落ちた私は竹谷にぶつかってしまい、竹谷はとうとう切れた。 言い訳するも怒った竹谷は私の胸倉を掴んで拳を振り上げる。 いつもだったらこんなことで怒ったりしない竹谷だが、AVになると沸点が高くなる! 囁かれた耳を抑えて抵抗していると、竹谷の動きが止まった。 「お前……名前呼ばれただけで照れてんのか?」 「っ違う!照れてない!」 「うっわ、マジかよ。気持ち悪いぞ?」 「うるさいってば!照れてないもんっ。全然、全く、照れてません!」 「七松先輩、他に何したんすか?」 「名前呼んだだけ。な、名前?」 「いやーっ!」 「え、マジでそれだけ?何だよ、お前も女の子なんだな。下ネタ言ったり、AV見たりするから女じゃなくなったのかと思ったのに」 「うるさい!違うって言ってんじゃん!七松先輩も止めて下さいよぉ!」 「いやいや、真っ赤になった顔で言われてもなぁ…。うん、そっちんが女の子らしくていいぜ!可愛いじゃねぇか!」 「止めろそれ!頼むから止めて竹谷!」 「いつもそんな感じでいろよー。マジで可愛いわ」 「っ……!ううっ…竹谷のバカァ…!」 七松先輩の精神的攻撃と、竹谷からの追加攻撃をくらい、私の羞恥心はマックスを超えた。 顔も熱ければ、頭も耳も……いや、もう全身が熱かった。 どんだけ言い返しても、そんなことを言われ、喋るのが怖くなってしまい、拳を作って握り締める。 そしてとうとう決壊した涙腺。 食いしばって泣くまいとしたが、できなかった。 竹谷は「えッ!?」と驚いた声を出し、慌てふためく。ざまーみろ!困るがいいさ! 「竹谷、虐めるのよくないぞ」 「あ、いや…まさか泣くとは…!ごめんな、名字!」 「うえぇ…!竹谷嫌いだ、バカ、いなくなれ、タコ、ボサ髪…ッ」 グスンと鼻をすすって、後ろに座っていた七松先輩の膝に座って泣きつく。 七松先輩は背中をぽんぽんと叩いてくれながら、竹谷に何か言っていたけど、楽しそうな声色だった。 元の原因は七松先輩だけど、やっぱり最後に頼ってしまうのは七松先輩なんだよなぁ…。 甘えるのも嫌いじゃない。だから、ここぞとばかりに七松先輩に甘えた。 首に腕を回して、ギュッと抱きしめると、少しだけ抱き締め返してくれるのが凄く嬉しくて、すぐに涙は止まった。 後ろでは竹谷が必死に謝っている。 「なー、名字!ほんっと悪かったって。言いすぎました。だから泣き止めよなー…」 「って竹谷が言ってるぞ」 「……今日は顔見たくないって伝えて下さい…」 「って名字が言ってる」 「名字ーっ!」 七松先輩は優しいし、竹谷は面白いし、もうちょっとこのままでいよう。 「………仙蔵から「帰ってくるな」ってメールが届いたから、何かと思えば…」 「ね、ねぇ留さん…。あれどういう状況?何で竹谷、土下座してるの?」 「いや…、つーか名字と小平太の二人…何で抱きあってんだよ…!つかあの体勢、どう見てもヤ………」 「え?じゃあ、竹谷もそれに混じりたくて土下座してるの…?」 「……。伊作」 「なに?」 「あと二時間ぐらい外で時間潰そうぜ」 「え、何で?僕疲れたから部屋に帰り「いいから行くぞ!」 「なんか急いで出て行ったな」 「また善法寺先輩が忘れものでもしたんじゃない?それより早くお菓子食べようよ!」 「……勘ちゃんちょっと待て。あれ…」 「んー…名前と七松先輩?え、なにあの体勢。あれ確実にヤってんじゃん!しかも服着たまま」 「勘ちゃん、声が大きいぞ」 「大きくもなるよー。帰ってきたら先輩と同級生がヤってんだもん!しかも最初が騎上位とか凄くない?名前って初めてなんでしょ?」 「とは言ってたが、七松先輩の命令だったら聞きそうじゃないか?」 「あ、そうだね。あははっ、名前ってほんっとマゾだよねぇ。てか、八左ヱ門は何してんの?」 「土下座してるのだ」 「「俺も混ぜて下さい!」って言ってんのかな」 「はっちゃんと名字がそういう関係になるとは思えないが…」 「でもそうなら、俺も混ざりたーい!ちょっと行ってくるね!」 「気をつけて」 「七松せんぱーい!俺も「もう言いません!ごめんなさい、名字さん!」 「許さない。お前この間、私のポテチ食っただろ」 「さーせん!執念深いっすね!」 「…………何だ、セックスじゃなかったのか」 「どんまいなのだ、勘ちゃん」 「(おーおー…。勝手に勘違いばかりしてるな。私が見せるわけないだろ、こんな可愛いの)」 「竹谷のバーカ!」 「いい加減許してくれよなぁ!」 ( TOPへ △ | ▽ ) |