夢/30万打 | ナノ

七松家はいつでも晴天


七松小平太は雨が嫌いだ。
雨が降れば大好きな外に出れないし、思いっきり身体を動かすことができない。
自分一人なら問題はないが、外で遊ぶなら大好きな名前1や可愛い子供たちと一緒に出たい。
しかしそれは名前1が許してくれない。風邪を引くかもしれないし、服を汚してほしくないからだ。
名前1に「ダメだ」と言われてしまえば、名前1の言うことを素直に聞いてしまう。


「ふふ、くすぐったいよ」
「だって母ちゃん、いい匂いするんだもん…」
「そう?皆と同じ洗剤使ってるんだけどなぁ。あ、こら。チビを殴らないの。ダメでしょ」
「だってこいつ、おれから母ちゃんをとろうとしたんだもん!母ちゃんはおれの!」
「母ちゃんはおれのだ!」
「解ったから暴れないで。ほら、洗濯物がたためないでしょ?」


訂正しよう。七松小平太は雨が大嫌いだ。特に休みの日の雨は大嫌い。
休みの日と言えば、名前1と一日中ずっといれる大事な日。
朝からずっと名前1に抱きついて、甘えて、頭を撫でてもらって…。とにかく名前1に構ってもらいたい日!
だと言うのに、子供たちが洗濯物をたたんでいる名前1の周りに集まっているため、近づくことも、抱き締めることもできない。
庭に出る窓の近くに座ったままジトー…と名前1と子供たちを見ているが、名前1は小平太を見ることはなかった。
絶対視線に気づいてる。それなのにこっちを見ない。


「なぁ、名前1は私のことが嫌いなんじゃないかな…」
「父ちゃんなに言ってんだ?母ちゃんはみんなが大好きだって言ってたぞ!」


長男は小平太の背中によじ登ったり、二の腕に掴まって懸垂をしたり、アグレッシブな遊びをしていた。
長男も小平太同様、体力が有り余っており、雨であろうと外で遊びたかった。
小平太の肩に座って、窓の外を見るも、雨はまだまだ止みそうにない。


「ほらどうしたの。いつもだったら元気なのに…」
「だって雨だもん…。なぁ母ちゃん、つゆっていつなくなるんだ?」
「まだ明けないねぇ…。梅雨が明けたら大好きな夏だから我慢しようね」
「うん!」


名前1が次男や三男の頭を撫でてあげると、暗かった表情も明るくなり、元気よく頷いて名前1の腰に抱きついた。
小平太も長男もムッとして、肩に乗った長男を落とさないように立ち上がり、名前1に近づく。


「名前1っ、私にも構え!」
「お前らさっきから母ちゃん母ちゃんうるさい!母ちゃんに抱きつきたかったら俺に勝ってからにしろ!」


何故か七松家は、年齢を重ねるごとに名前1に依存している。まだ、末っ子のほうが我慢強い。
父親と長男が最強タッグを組んのを見て、次男と三男を中心としたちびっこ軍団が結成する。
名前1を賭けて肉弾戦が開始され、名前1は呆れながらも洗濯物と末っ子たちを連れて部屋の隅っこへと移動する。


「とーたん、けんか」
「ううん、遊びたいだけ」


末っ子を抱っこしたまま苦笑して、決闘を見守っていた。
とは言っても、七松家最強の男、小平太が負けるわけもなく、父親&長男組がちびっこ軍団を打ち滅ぼし、二人はハイタッチをして喜び合う。
彼らにとって、身体を動かす理由さえあれば何でもいいのだ。


「名前1、勝ったぞ!」
「母ちゃん、勝った!」
「そう、おめでとう」


両手を広げて飛びついてくる旦那と長男に微笑むと、彼らは犬のように尻尾を振り、大型犬は背中に、小型犬は胸へと抱きついた。
その後ろには負けたちびっこ軍団が悔しそうに泣いている。
弱肉強食の世界だから仕方はないが、泣いてる子供たちを見て胸を痛める。
だが待て。先に勝者にご褒美をあげないと、大変なことになってしまう。
背中でグリグリとマーキング…もとい、甘えている小平太は幸せそうに笑って何度も名前を呼んでいる。
胸でグリグリとマー……甘えている長男も幸せそうに笑っている。


「母ちゃん、俺強くなった!?強くなった!?」
「うん、強くなってたね。だけど、あんまり弟を殴ったらいけないよ」
「強い者が勝つ!それがこの世の中だ!」
「小平太はちょっと黙ってて」
「はい…」


後ろの大型犬はシュン…と耳も尻尾も垂らしてグスンと鼻をすする。
自分はこんなにも愛しているのに、何で冷たいんだ!と心の中で呟く。心の中で、呟く。声に出してしまえばもっと怒られてしまうから。


「私はいつでも皆のお母さんだからね。私で争わないで」
「でも…母ちゃんいっつもチビばっかかわいがってるもん…」
「前も言ったでしょ?いつでも甘えて来ていいって」
「……母ちゃん…、わかった!じゃあ甘える!いま甘える!」
「わ、私も!私も名前1に甘えたい!」
「小平太はちょっとぐらい我慢を覚えようね」
「やだ!甘えたい!名前1ー、名前1名前1名前1名前1名前1ーっ!」
「もー…解ったから…。そのまま背中にくっついてていいから…」


七松家はスキンシップが過多すぎると、同級生の友人たち全員に言われた。
最初はそう思っていたけど、最近そうは思わなくなってきた。これが慣れと言うやつか…。
どんどん小平太に流されていくのを感じながら、泣いているちびっこたちを手招きしてあげると、全員が涙を拭って飛びついてきた。


「あー、お前たちは負けたんだからダメなんだぞ!」
「言ったでしょ?いつでも甘えて来ていいって。それはこの子たちにも有効なんですー」
「母ちゃんひきょー!」
「嫌いになった?」
「やだ、好き!お前ら、今日だけだぞ!」
「名前1、ずるいー…」
「嫌いになった?」
「そんなことない!愛してる!」
「私も小平太愛してるよ。勿論、皆も」


傍からみたらおかしな光景になっている、七松サンド。
熱いし苦しいしうるさいけど、とてつもない幸せを感じてしまう。
小平太も子供たちも、皆可愛いし大事な家族!
これからも大変だろうけど、ずっとずっと笑って暮らしていきたいな!


「ふふっ、七松家に梅雨なんて関係なかったね」
「おう!我が家はいつでも晴天だ!」
「それで室内に干してある洗濯物も乾けばいいんだけどねー…」
「名前1」
「なに?」
「今晩楽しみだな!」
「え?何かあったっけ?」
「放置してた分のが溜まってる」
「……い、嫌だ」
「嫌いになったか?」
「(うわ、私が言ったことを真似てる…)き……らいになってない…、愛してますよ…」
「じゃあヤろう!」
「声が大きい!」
「父ちゃん、なにやるんだ?」
「なにって、セック「小平太ッ!」ぎゃっ!」





匿名さんより。
梅雨で外に出れなくて滅入る七松家のお話。


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