夢/30万打 | ナノ

生物委員会の関係図


僕が所属する委員会の先輩方は、とてもお優しい。


「ほーら一平ちゃん、高いだろー」
「わわっ、虎徹先輩っ!高いすぎです!」
「虎徹先輩、一平だけじゃなく俺も!俺もお願いします!」
「僕もーっ」
「孫次郎は苦手だったよな。じゃあ俺とあっちで饅頭でも食わないか?」
「竹谷先輩…。はいぃ…!」


一年生の面倒見もよく、委員会が終わると絶対に遊んであげる。
いつも笑顔だし、教え方も優しく、怒ることなんてない。
注意するときでさえ、相手の様子を窺いながら、言葉を選びながら注意をする。
お二人の見た目からは想像できない。言い方は悪いけど…。
お二人とも背は高く、身体つきもいい。好戦的な性格をしているのに、後輩たちには凄く優しい自慢の先輩だ。


「ほら、そこは前も教えただろ?」
「えーっと…えーっと…」


委員会が終わり、少し遊んでから一年生の課題に付き合ってあげる虎徹先輩と竹谷先輩。
僕も出された課題を出して筆を走らせる。
自分で言うのもあれだが、僕はい組で成績も優秀。だから先輩に聞くことはない。
それに、先輩たちは一年生の面倒を見るので精一杯。邪魔はしたくないから、例え解らないところがあっても絶対に聞かなかった。


「(本当は僕も見てもらいたいんだけどな…)」


チラリと一年生四人が座っている机のほうを見ると、虎徹先輩と虎若、三治郎が笑っていた。
虎徹先輩は冗談を言いながら勉強を教えてあげる。
勉強が楽しい!ということを教えてあげたいんだと、この間言っていた。
いいな…。僕も虎徹先輩と笑い合いながら課題をしたい…。
虎徹先輩に、「さすが孫兵だな!偉い偉い!」と頭を撫でられたい。


「(でも……)」


僕は虎徹先輩が少し怖い。
いや、言い方が違うな。
虎徹先輩を尊敬しているから、声をかけるのが怖い。
何か粗相をしそうで怖い。嫌われたくないから怖い。
竹谷先輩にはそんなこと思わない。とても優しいし、頼りになるし、話しかけやすい雰囲気を持ってるし…。
虎徹先輩だって話しかけやすい雰囲気はある。あるけど……何だろう。その中にも畏怖を感じる。
ああ、これで野生動物も従えているのか。僕も所詮は動物なんだな…。


「孫兵」
「っはい!」
「そんなに驚かなくても…」
「すみません…。それより何かご用ですか?」
「筆止まってるけど、どうした?解んねぇとこでもあったか?」


色んなことを考えていると、突然虎徹先輩に名前を呼ばれて驚いた。
やっぱり、虎徹先輩に名前を呼ばれると嬉しいし、ちょっと怖い…。
一年生の面倒は竹谷先輩が一人で見ていて、虎徹先輩は俺の目の前に座って教科書を覗きこんだ。


「おー、さすが孫兵。もう埋まってんじゃん」
「あ……はい…。授業で習ったんで」
「授業で習っただけでここまでちゃんと覚えてる孫兵は凄いな」


ニコッというより、フッとした笑顔を浮かべて頭を撫でてくれた。
たったそれだけなのに、胸が苦しくなって、徐々に顔が熱くなる。
心臓もどんどん早くなって、どこを見たらいいか解らず俯く…。
嬉しい。嬉しい嬉しい嬉しいッ!虎徹先輩に褒められた!


「あの、虎徹先輩っ…!」
「おう、どうした?」
「ここが「虎徹せんぱーい、ここ解んないんでーす!」
「三治郎、ちょっとは頑張ったんだろうな」
「えへへー」
「あ……」


もっと褒めてもらいたかった。もっと笑いかけてほしかった。もっと頭を撫でてほしかった。
だから、解る問題をあえて虎徹先輩に質問しようとしたけど、三治郎に邪魔をされてしまった…。
虎徹先輩は腰をあげ、三治郎の前へと移動する。
喪失感に襲われ、ゆっくり俯く。


「(三治郎は一年生だからしょうがないよ…。僕は三年生だし、我慢しないと…。それに、これ解る問題だ)」


沈んだ気持ちのまま、今日の課題をさっさと終わらせた。
あとは自室に帰って予習復習をするだけ。
課題を終わらせると、一年生も終わったみたいで虎徹先輩と一緒に机を片付けていた。
竹谷先輩と一平は飼育小屋の鍵を確認しに行っていたので、姿は見えなかった。


「まーごへい」
「はい」
「今さっき何か言いかけてただろ?何だ?」
「…いえ、もう解ったので大丈夫です。わざわざすみません、ありがとうございます」


教科書と課題を持ったまま頭を下げると、虎徹先輩は「んー…」と何やら唸って僕を見つめていた。
突き刺さる視線に、頭をあげるかどうか悩んでいると、両頬に虎徹先輩の大きな手が添えられた。


「孫兵くん」
「な、なんでしょうか…」


そのまま顔を持ちあげ、視線を無理やり合わされた。
強張る身体に早まる心臓。やっぱり、虎徹先輩は怖い…。あの目で見られたら心を読まれるみたいで怖い。


「もっと甘えていいんだぞ?」
「……え?」
「遠慮なんかすんな。まだ孫兵だって下級生なんだし素直に先輩に甘えなさい!」
「…虎徹、先輩…」
「それとも孫兵は俺のこと嫌い?」
「っそんなことないです!」
「でも俺のこと怖いと思ってるでしょ?」
「………それは…。虎徹先輩に嫌われたくないから…っ、迷惑かけたくもありません…。だから、…それにうち、一年生が多いじゃないですか…」


視線を反らそうとすると、少しだけ目が細くなって肩がビクリと震えた。


「俺が孫兵を嫌いになるわけねぇだろ?それとも、無意識のうちに俺がそういう雰囲気を出してたか?そうだったらごめんな…」


だけどすぐに悲しそうな顔で笑って、手を離してくれた。
名残惜しそうな手を、今度は僕が掴んだ。
僕より大きくて、ごつごつしてる手は温かかった。


「違います!そんなことないですっ!」
「孫兵…」
「ぼ、僕もっ…。その……あのっ…」
「うん」


なんて言って甘えるのか僕には解らなかった。甘えたことなんてないから。
言葉に詰まっていると、虎徹先輩は膝をついて視線を僕に合わせてくれる。


「僕も、虎徹先輩に…、褒められたい!ですっ…!」
「そうか!」


言うや否や、満面の笑みになって僕を力強く抱き締めてくれた。
色んな匂いが混じってたけど、虎徹先輩の匂いが鼻をかすめると、ホッと安堵の息がもれた。


「孫兵は賢くて自慢の後輩だ!しかもイケメンだしな!」

「いつも頑張ってるの知ってるぞ。ほら、いい子いい子!」

「はー、孫兵は可愛いなぁ!不器用なとこも可愛いし、真面目なところも可愛いし、とにかく可愛い!」

「どんどん強くなってるし、俺が卒業しても安心して任せることができる!」


色んな事を言われた。褒められた。
最後には僕の両脇に手を入れ、力を込めて持ち上げる。
浮遊感に襲われたと思ったら、虎徹先輩に肩車をされていた。


「虎徹先輩!?」
「しっかり掴んでろよー!竹谷ー、俺の孫兵が超可愛いんですけどーっ」
「うわああああ!」


ニッと笑ったあと、突然走り出す虎徹先輩。
きっと虎若や三治郎だったら喜んでる。けど、僕は怖くて虎徹先輩の頭に手を回してしがみついた。
怖いと思いながらもゆっくり目を開けると、今まで見たことのない世界が目の前には広がっていた。


「高い…」
「高いだろー。俺の見てる景色だぜー。あれ、竹谷いねぇなぁ…」
「虎徹先輩の世界って…広い…ですね!」
「まぁな!でも孫兵はこれ以上の広い世界を見てほしいな。俺を追い抜かして欲しいと思う」
「……はい、頑張ります!」


本当は追い抜かせるなんて思っていない。
だけど、虎徹先輩ならきっと、こっちの言葉のほうが喜んでくれる。
現にそう言ったあとの先輩の顔はとても幸せそうに笑っていた。
僕もつられて笑うと、一平を連れた竹谷先輩がやってきた。


「何してるんですか、虎徹先輩」
「孫兵を褒めてた。俺なりのコミュニケーションをとってた。どうだ、可愛いだろ!」
「孫兵が可愛いのは知ってますが、「あーっ、伊賀崎先輩だけずるい!俺もしてください!」
「僕もー!」
「僕もしてほしいです!」
「うちにはたくさんの子供がいるんですから無闇にしないほうがいいですよ。と言おうとしましたが、遅かったみたいですね」
「いやー、たくさんの子供を持つお父さんって大変ね!でも今日は孫兵くんだけですぅ。お前らは明日な!」
「ずるーい!」
「ずるーい!」
「いいなぁ…」


一日の最後だけ、虎徹先輩を独占することができた。


「虎徹せんぱーい、これで合ってますか?」
「おう、大丈夫。三治郎と一平も正解だぞー。孫次郎はもう少しだな」
「は、はい…」
「虎徹先輩」
「おう、どうした孫兵」
「できました」
「……すっげぇ…完璧じゃねぇか…」
「できました」
「…あはは!孫兵はほんとに賢いな、よしよし」
「っ…!あ、ありがとうございます…っ」
「虎徹先輩ぃ…」
「孫次郎もできたな。よーしよしよし!」
「えへへ…!」
「……」
「…竹谷、お前も何並んでんだよ…」
「いや…俺も課題終わったなぁって…」
「テメェは五年生だろうが!我慢しろ我慢!」
「そんなぁ!俺だって褒められたいっす!褒めたら伸びるタイプっすよ!?」
「俺は下級生のみ甘いんですぅ!残念でしたーっ」
「くっそー…」
「竹谷先輩!」
「ん?どうした虎若」
「よしよし!」
「あ、僕も!よしよしです、竹谷先輩!」
「と、虎若…三治郎ぉ…!このままいい子に育ってくれ!」
「あ、ずるい、俺も!俺もしてくれ!」

「……生物委員会はどうなってんだ?」
「さ、さぁ…。虎徹が楽しそうならそれでいいけどさ…。傍から見たらおかしい光景だよね…」





凛さんより。
勉強とかお使いができて孫兵を褒めてあげるお話。


TOPへ |

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -