未来の竹谷くん 小平太に両腕を後ろで拘束され、ポーンと竹谷へ投げられる。 竹谷は暴れる俺をいとも簡単に抑え、自分の膝の上に乗せてギュッと抱き締めた。 蹴りを食らわせても、それすらも余裕で抑え、「落ちついて下さいよー」と笑った。こいつッ、慣れてやがる! 助けを求めようと留三郎と伊作を見るも、周囲には誰もおらず、絶望した。無駄に忍者すんなよ! 「あいつらァアアアア!」 「二人っきりっすよ、虎徹先輩!」 「嫌だ!お前と二人っきりは絶対に嫌だ!」 「そんな…、俺は虎徹先輩と二人っきりになれて凄く嬉しいのに…」 「しゅんとすんじゃねぇよ!止めろよそれェ!何で図体でかいくせに子犬みたいになるんだよ!」 「虎徹先輩…、俺のことそんなに嫌いですか…?」 「だから止めろってば!苦手なんだよ、その仕草!」 捨てられた子犬みたいに悲しそうな目をして俺をジッと上目使いで見てくる。 自分の身が危ないって言うのに、俺の良心がズキズキと痛んだ。 「嫌いですか?」 「きっ……嫌い、じゃねぇけど「じゃあ好きなんすね!俺も好きっすよ!大好きです!」 先ほどまで泣きそうな表情だったのに、俺の言葉を聞いた瞬間、ころりと笑顔に変わって……、 「なに押し倒してんだよテメェ!」 「相思相愛なら問題なしです」 「問題ありだよ!大あり!」 押し倒しやがった! 片方の手で拘束された俺の腕を頭上で固定し、片方の手で俺の服を脱がそうとする。 近くで誰かが吹き出して笑うのが聞こえたが、今はそれどころじゃない! マジで食われちまう!この俺がッ。この俺がだぞ!? 「止めろ!離せッ!」 「未来の虎徹先輩には勝てませんが、今の虎徹先輩になら余裕で勝てますからね。すみません、男なら覚悟決めて下さい」 「絶対に嫌だ!」 下から睨みつけてやると、竹谷を取り巻く空気がガラリと変わる。 後輩だから。と、余裕でいたし、どうにかなると思っていた。 だからこいつがプロ忍者だと言うことをすっかり忘れていた。 おまけに、この数年で性格も少し変わったみたいだ。 必死に抵抗すると、どんどん目を細めて喜んでいってる…。 バカで可愛くてヘタレな後輩が、サドな下剋上犬へと成長していた! み、未来の俺!どうやってこんな奴と戦ってんのか教えてくれ! 「おい竹谷ッ、命令してるだろ!?離れろ!」 「すみません、虎徹先輩。最近耳が遠くて…」 「っおま…!脱がすんじゃねぇ!触んな!止めろ、気持ち悪い!」 「細いっすねぇ」 上半身をいつの間にか脱がされ、ツツツッ…と横腹を触ってきて、思わず身体が飛び跳ねる。くすぐったいし、気持ち悪い! その反応でさらに興奮する竹谷の目は完全に欲情していた。男の身体に欲情すんなよ! こうなったら動物を呼ぶしかねぇ…!友達だと思ってた奴らは助けてくれる様子がねぇしな! 「っと、口笛も吹かれたら困るので止めて下さいね」 「言われて止めると思うか!?」 「なら俺の口で塞ぎっぱなしにしときますけど、構いませんか?」 「………」 「残念です」 本当に残念そうに苦笑する竹谷。 こいつがこうやって、ところどころに忠犬っぽい態度を出すから、文句を言えなくなる。 いや、そんなこと言ってる場面じゃねぇんだけど、やっぱり可愛い後輩だと思っているから、絆されてしまう。 「じゃあ、ヤりましょうか。勿論突っ込むのは俺です!未来の虎徹先輩になら突っ込まれてもいいんですけど、今の虎徹先輩はとても可愛らしいので是非とも俺が…!」 「絶対ェやだ!断る!」 「安心して下さい!気持ちよくしますから!てか、やだって言い方がまた可愛らしい…ッ!」 「安心できねぇよ!現在進行形で安心できねぇから!」 「もー…、虎徹先輩の怯える姿、マジでドツボっす…!興奮しまくりです」 「知らねぇよ!そんな報告しなくていいから離れろ!」 「今から繋がるのにですか?お断りします」 「さっきから下ネタを混ぜるな!た、竹谷ァ!竹谷竹谷竹谷ーーー!」 「俺ならここにいるじゃないですか。あ、もしかして不安なんですか?大丈夫です、虎徹先輩相手なら俺優しくする自信があります!」 「―――虎徹先輩、どうかされ…………な、何だお前!」 「竹谷、助けて!今すぐ助けて!」 「……やってくれましたね、虎徹先輩。まさか昔の俺を呼ぶとは…。ですが、忠犬なのは昔も今も変わりませんね。褒めて下さい」 「今のテメェは発情した駄犬だよバカッ!竹谷、こいつをどうにかしろ!」 「わ、解りました!」 そう、俺が呼んだのは今の時代の竹谷。 早々に姿を現わした竹谷は、若干混乱しつつも大人竹谷に持っていた苦無を取り出し、投げつける。 勿論、大人竹谷はそれをかわす。 「うわ、おそっ…」 「くっ…!」 「油断してるお前にドーン!」 竹谷の相手に注意がいった瞬間、下から大人竹谷の鳩尾を蹴りあげる。 くっそ、固くてしっかり入らなかった…! それでも逃げ出せるだけの時間を作れたので、下から脱出! すぐに竹谷の後ろに隠れて大人竹谷を睨みつける。 「あー…油断してた。失敗失敗…」 「あの、虎徹先輩…。あいつ、誰ですか?俺に似てる気が……」 「虎徹先輩、これからがいいとこですよ?逃げないで下さいよ、寂しいじゃないですか」 「断る!大体、お前が好きなのは未来の俺だろ!未来の俺に手を出しやがれ!未来の俺は逃げも隠れもしねぇ!」 「………」 「おい、聞いてんのか!?」 「あのー…、俺全然話についていけないんすけど…」 「ちっちゃいのに相変わらず男前っすね…!やっぱり俺、虎徹先輩が好きです。何があっても虎徹先輩と結ばれますから」 「おうよ、落とせるもんなら落としてみろ!未来の俺を!」 「解りました。そのこと、未来の虎徹先輩に伝えます」 嬉しそうに笑ったあと、大人竹谷の身体はどんどんと透けていき、ふっ…と消えた。 残るのは静寂のみ。 未来に帰った、んだよな…? 「虎徹先輩…」 「あ、すまん。ありがとな、竹谷。おかげで助かったぜ!」 「いえっ、虎徹先輩のお役に立てて嬉しいです!」 照れ臭そうな顔で背筋を伸ばしてそんなことを言うもんだから、思わず抱き締めて頭を撫でてやる。 「先輩!?」と混乱気味の声を出すが、それがまた可愛くて、さらに力を込めて撫でてやった。 「いいか竹谷。お前はこのままでいろ!今のお前が俺は好きだ!」 「わ、解りました!」 「よし!じゃあ……」 「ところであの人は一体?」 「すまん竹谷。俺は今から友人だと思っていた奴らを始末しに行くからちょっと待ってろ」 「え?」 「仙蔵、文次郎、長次、小平太!んでもって、留三郎に伊作ゥ!絶対に一発ずつ殴ってやるから覚悟しろよなァ!」 俺は絶対にお前らを許さん! ▼ 花月さんより。 成長した押せ押せな竹谷が来てタジタジになる獣主と面白がって観察する六年のお話。 ( TOPへ △ | ▽ ) |