巻き込み夫婦喧嘩 「父ちゃん…」 「おー、どうした?珍しいな、元気がないなんて。また名前1に怒られたか?」 「あ、あのね…。きょう、早くかえってきたら、家にしらないおじさんがいて、母ちゃんと話してた…」 「え?」 小平太と名前1の息子、長男が戸惑いながら今日のことを小平太に話す。 今日は珍しく遊ばずに家に帰ってきた長男。 名前1を驚かせようと気配を消して家に近付き、玄関に手をかけようとしたら、中から名前1の声がしてすぐに身を隠す。 出てきたのは名前1と知らない男性。話している内容は分からなかったが、名前1がとても嬉しそうに笑っているのを見て、長男の胸はもやっとする。 それを夜、お酒を飲みながら次男や三男たちの相手をしている小平太に告げると、素っ頓狂な声がもれて、名前1に目を向ける。 「名前1、笑ってたのか?」 「うん…。なんか、いやだった…」 旦那も独占欲が強ければ、息子も強いわけで…。 息子の話を聞くや否や名前1の名前を呼んで、彼女に近付く。 丁度洗い物を終えた名前1は「なに?」と首を傾げた。 「名前1、お前浮気してるのか?」 「え?」 勿論、ストレートな言い方しかできない小平太。 ストレートすぎて名前1は意味が理解できず、「なに?」「は?」「意味わかんない」と単語単語をこぼす。 それが逆に怪しく見え、小平太は名前1を睨み付けて不機嫌オーラを出す。 子供たちはすぐに避難し、居間には小平太と名前1のみ。 「な、何言ってるの?」 「やっぱり浮気してたんだ!私がいないから知らない男、家にあげて…!」 「なにそれ…。私浮気なんてしてないし」 「でも笑ってたって言ってた!何で私以外の男と話して笑うんだ!」 「小平太じゃなくて、楽しければ笑うよ」 「っバカ!」 「理由も聞かずにバカとは失礼な!というか、小平太にだけは言われたくない!」 「名前1の浮気者!」 「だから浮気なんてしてないってば!変なこと言わないでよ!」 「仙蔵に訴えてやる!」 「してないって言ってるじゃんっ。もう小平太なんて知らない!話も聞いてくれない小平太なんて大嫌い!家出させて頂きますっ」 「おうっ、出てけ出てけ!」 売り言葉に買い言葉。まるで子供のような口喧嘩をして、名前1は本当に家から出て行ってしまった。 静かになった居間に、避難していた子供たちが顔を出して小平太を呼ぶ。 しかし、怒っている小平太は返事をすることなく、静かに立ち尽くしていた。 「昔からそうだけど、小平太は人の話を聞かなさ過ぎるんだよ!そう思わない、名前2!」 「え、ええ、そうですね…。あの、先輩…、ちょっと飲みすぎですよ…?」 「子供たちや小平太がいるから滅多に飲めないの!今日ぐらいいいじゃない!」 「そ、そうっすね!」 七松家を飛び出した名前1は、仲のいい竹谷家へと来ていた。 そこまで夜遅くなかったので、竹谷家の子供たちが起きていたが、名前1の剣幕におされ部屋へと撤退。 高校時代後輩だった八左ヱ門の嫁、名前2に愚痴を吐き出し続けてもはや小一時間。 いくら高校のときにお世話になった先輩とは言え、こうも居座り続け、さらにはお酒を飲んで暴れたそうにされては迷惑だ。 早々に退散してもらうには? 竹谷家の大黒柱、八左ヱ門は七松家へと向かい、その嫁は名前1の相手をしている。 「もー…何で私の話聞いてくれないのよー…。私は小平太しか愛してないのにぃ…。浮気するわけないじゃん…!」 「そうですね、七松先輩はちょっと酷いっすよね!人の話全く聞かないし、横暴だし、暴君だし…。それについていく名前1先輩が凄いっす!」 「……ちょっと名前2、小平太のことバカにしたでしょ…」 「してないっすよ!でも、横暴で理不尽で、我儘で人の話聞かないのは本当ですよ?先輩も言ったじゃないですか」 「そうだけど…。そうだけで私以外の人が小平太の悪口言わないで!小平太は格好いいんだもんっ」 「ちょ、睨まないで下さいよ!でも…じゃあ今回も許したらどうっすか?落ちついて話し合えばどうにかなるでしょう?七松先輩もちょっと頭に血がのぼっただけだと思いますし…」 「解ってるよ!小平太の全部を知ったような口しないでよばかー!バカ名前2ー!もう帰る!」 「じゃあ外まで送ります。気をつけて下さいね」 「小平太呼ぶから大丈夫だもん!変な人が現れても小平太呼ぶもん!強いもん!」 「あー、はいはい、解りましたから」 酔っぱらって同じようなことを喋り続ける名前1の背中を支えながら、七松家の近くへと送ってあげる名前2。 その一方、七松家の居間には静かに座っている小平太と、七松家の子供たちに囲まれて遊ばれている八左ヱ門がいた。 「だからお前ら痛いってば!」 「竹谷ー、竹谷ー!」 「竹谷のとーちゃん、組み手しよーぜ!きょーこそかってやるっ」 「解った!それはまた今度な!それより七松先輩」 「私、悪くない」 「っすか…」 嫁は名前1を説得し、旦那は小平太を説得しようとする。 面倒見のいい八左ヱ門はついつい人んちの夫婦喧嘩をどうにかしようとしてしまう癖があり、そのせいで心身ともに疲れてしまうのだが、性分なため無視できない。 いくら小平太に話しかけても彼は「名前1が悪い」としか言わず、話は平行線のまま…。 「じゃあ……名前1先輩が全部悪いんすか?」 「そうだ。だって勝手に知らない男入れるし、笑ってるって言ってたし…。浮気だ!私以外の男を見るなんて最低だ!」 「それはちょっと言いすぎな気が…」 「でもやだ。名前1はずっと私だけ見てればいいんだ」 「(独占欲強ぇなぁ…)はぁ…。じゃあ別れるんですか?」 「え?」 「おいコラ小太郎!お前いい加減にしろよ!?いてぇんだよ、さっきから!」 「竹谷遊べよー!組み手しろよー!」 「七松先輩に怒られるか、止めるかどっちがいい?」 「………母ちゃん帰ってくるまで布団に入ってる…」 「他のチビどもも回収して行けよ!」 「竹谷、今なんて言った?」 「え?あぁ、離婚するんですか?って聞いたんです」 「りこん……離婚…?」 「だって浮気したんすよね?じゃあ別れないと。そんな最低な女と別れちまって、新しい奥さん見つけたらいいじゃないっすか。ほら、この間行ったお店の「名前1の悪口を言うな!」っがは…!」 「名前1が最低な女なわけないだろ!名前1は私が見つけた最高の女だぞ!竹谷だって名前1には面倒になったのに何だその言い方は!」 「(わざとなんだけど、やっぱ殴られるのは痛ぇや…)で、では今回ぐらい許してあげてもいいのでは…?」 「……」 「もしかしたら勘違いかもしれませんよ?」 「勘違い?」 「学校の先生かもしれませんし、セールスマンかもしれません…」 「……そっか!」 単純な答えが何故出てこなかったのか…。 殴られた鳩尾を抑えながら溜息をはく八左ヱ門。 丁度玄関から、「小平太ぁ!」と名前1の叫び声を響き、小平太はすぐに玄関へと向かった。 八左ヱ門も遅れて玄関に向かうと、ガシィ!と熱い抱擁をしている七松夫妻の後ろに、自分の嫁がいることに気づいてお互い静かに頷いた。 「小平太は格好いいよー!小平太しか見てないのに何であんなこと言ったのぉ!?」 「すまん名前1。私が少し勘違いしていたようだ…。話も聞かなかったし…だから離婚はせん!」 「離婚しないよ!小平太のこと好きなのに何で離婚しないといけないのよ!バカ小平太ー!」 「うん、私も名前1のこと愛してる!」 「私もだよ、小平太!ずっと一緒にいるーっ!」 「………名前1先輩、酔っぱらってんのか?」 「お酒がんがんに飲んでたから。お疲れ、鳩尾大丈夫?」 「名前2こそお疲れ。鳩尾は…まぁ平気。子供たちは?」 「多分寝てる。名前2先輩が怖かったから素直に部屋に引っ込んで行ったよ」 「そりゃ便利だ。じゃあ七松先輩、俺ら帰りますね」 「なんだっ、ただのセールスマンだったのか!」 「うん、そうだよー。愛想良くしたほうがさっさと帰ってくれるからそうしてただけなの!」 「そっか!どこぞのやからが名前1を狙ってるのかと思って心配した…。名前1は私の嫁だからな!」 「小平太は私の大事な旦那様だよ!本音としてはキャバクラとか行ってほしくないけど…。小平太触っていいの私だけなのに…」 「名前1っ……!」 「「はいはい、邪魔者は退散しますよ」」 お世話になった竹谷夫妻を無視し、自分たちの世界を作る七松夫妻。 呆れつつも、元の二人の戻ったことに笑顔をこぼし、静かに七松家をあとにした。 「竹谷ー」 「だから、お前も竹谷だっつーの」 「私も八左ヱ門のこと好きだよ」 「っ……!だからってその不意打ちは止めろ…」 「あはは!」 ▼ ケイコさんより。 嫉妬からの夫婦喧嘩で竹谷家を巻き込む七松夫妻のお話。 ( TOPへ △ | ▽ ) |