夢/30万打 | ナノ

寝ても覚めても


「元気に走り回って遊んでるから、寝付きだけはいいね」
「だな!このまま元気にたくましく育ってくれー…」
「ふふっ、留三郎がいるから大丈夫だよ。それに、妹がいるから強いお兄ちゃんになるんだ!っていつも張り切ってるしね」
「じゃあ俺は子供たちと名前1を守るためにもっと強くなんねぇとな!」
「留三郎は十分強いよ。さ、下に降りようか」


今日も子供たち三人が仲良く川の字になって寝ているのを確認した二人は、デレデレと可愛い寝顔を見たあと、静かに扉を閉めて階段を下りる。
賑やかな長男、静かな次男、そして可愛い長女がいなくなった居間はとても静かで、テレビの音だけがむなしく部屋に流れていた。
名前1がソファに座り、留三郎が少し離れた位置のカーペットの上に座り、置いていた子供用おもちゃを手にとる。


「留三郎、おもちゃはまた今度にしなよ。今日は疲れたんでしょう?」
「いや、あいつらの喜ぶ顔が見てぇから直す。大丈夫、体力だけには自信があんだから!」
「それは知ってるけど…。でも、留三郎のことが大事だから心配してるんだよー?」
「名前1…!お前はほんといい嫁だな!よしっ、今のでやる気が出た!」
「もー…」


呆れる名前1だったが、本当に嬉しそうに笑う留三郎を見て、何も言えなくなってしまった。
やっぱり、大好きな人から「いい嫁」と褒められると嬉しいし、こっちまでニヤニヤしてしまう。
頑張る留三郎の背中を見たあと、ゆっくりと自分の時間を過ごす名前1。
本当は留三郎の手伝いをしたいけど、自分は彼みたいに器用ではない。逆に邪魔をしてしまったり、気を使わせてしまったりするから手を出さないようにしている。
ソファの前のテーブルに置かれたリモコンを取って、何か面白い番組がないかと色々変える。
丁度、好きなバラエティ番組が流れていたので、そこにチャンネルを合わせ、ソファの奥にゆっくり身体を預けた。


「名前1」
「―――え?」


テレビに夢中になっていると、不意に名前を呼ばれて留三郎に視線を向ける。
しかし彼はおもちゃを手に持ったまま、俯いていた。
よくよく彼の動きを見れば、首で船をこいでおり、寝ていることが解った。
静かに留三郎に近づいて顔を覗きこむと、やっぱり寝ている。


「留三郎、こんなとこで寝ると風邪引いちゃいよ?」
「……」


声をかけても反応しないなんて珍しいことだった。
いくら寝ていても、気配に敏感な留三郎は声をかけると起きてくれる。
でも今日は起きてくれない。余程疲れているんだと思い、一度二階にあがって、毛布だけ持って降りる。


「私の力じゃ持ってあがれないからね」


横に寝かせ、布団をかけてあげる。
本当は服も着替えさせてあげて、二階の寝室に連れて行ったほうがいいんだろうけど、名前1の力ではできない。


「じゃあ今日は私もここで寝るかな」


言うや否やテレビを消し、留三郎が作ってくれたパジャマへと着替えて自分の布団も持って降りる。
旦那が嫁バカなら、嫁も旦那バカだ。


「あ、でもちょっと明日の準備しないと…」


明日の朝、ドタバタしないようにキッチンを片づけ、明日の準備をするために留三郎から離れる。


「そう言えば、名前呼ばれた気がしたんだけど…。寝てるのに?」


テレビに集中していたから、呼ばれたかどうかの記憶が曖昧だった。
でも、寝ているはずの留三郎が名前を呼べるわけもなく…。
不思議に思いながらも食器を片づけていると、また後ろから「名前1」と名前を呼ばれる。
今度はハッキリと聞こえたし、何かに集中をしているわけでもないので、ハッキリと呼ばれたことが解った。


「……留さん、起きたの?」
「名前1」
「え、なに?」


フラフラと危ない足取りで名前1に近づき、ギュッと抱き締める。
抱きつかれるのは嫌いじゃない。だけど、いきなりの行動に名前1の頭の上にはクエスチョンマークが飛び交う。


「何でいなくなったんだ?」
「え?あ、ごめん。ちょっと準備をしてて…」
「うーん、隣にいねぇとダメだろ…」
「っ…ちょっと留さん、嬉しいけど恥ずかしいよ…」
「だってそう言ったのは名前1じゃねぇか」
「言ってない、けど…?あれ?」


抱きついたまま、むにゃむにゃと喋る留三郎の様子が少しおかしいことに気づき、抱きついている留三郎から離れると、目がトロン…としていた。


「寝ぼけてる?」
「名前1ー…。名前1ー?」
「留三郎、起きるならちゃんと起きて!」


頬を軽く叩くと、間を置いて首を傾げた。
どうやらちゃんと目を覚ましたみたいだ。


「え、俺…?」
「寝ぼけて名前呼んで、歩いて、抱きついてきたところです」
「マジかよ!悪い!」
「ううん、いいの。でも疲れてるならちゃんと寝よう?」
「そ、そうだな…。さすがにやべぇわ…。ちょっと便所行ってくる」
「うん」


寝ぼけていたとは言え、自分の名前を呼んだり、わざわざ歩いて抱きついてきてくれるのは嬉しい。
口元が緩みながら片づけを終え、留三郎を待つ。


「あ、帰ってきた。どっか身体打たなかった?」
「ちょっと足打った」
「もう…。起きたなら寝室で寝ようか」
「そうだな。…あ、いや、ちょっと待って」
「どうしたの?」


留三郎に腕を掴まれ、先ほどまで寝ていた場所に連れて行かれて座る。
お互い向い合って座り、「どうしたの?」と声をかけると、ニッコリと笑顔を浮かべる。
笑うと少しだけ幼く見えるのは昔と変わらない。
胸がキュンとときめいたあと、ゴロンと横になって、膝の上に頭を乗せてきた。


「なぁに?」
「久しぶりに二人でゆっくりするなぁと思って…。嫌だったか?」
「そんなわけないじゃん」


笑って頭を撫でてあげると、ニヤける顔を抑える留三郎の表情が見えて、先に名前1がニヤけた。
あまりにも留三郎が可愛いので、頬にキスを落とすと、照れ臭そうに笑ったあと、「ありがとな」と律義にお礼をくれた。


「もー、留三郎可愛い!格好いい!」
「可愛いのは名前1だろ。あー…抱きついていいか?」
「いいよ。私は留三郎のものなんだから」
「っその言い方やばい…!」


起き上がり、真正面からギュッと名前1を抱き締めて、頬と額にキスをする。
嬉しくなった名前1が留三郎に同じことをしてあげて、至近距離で笑い合ったあと、唇を重ねる。


「にひひ!」
「何だよ、その笑い声は…」
「いや、幸せだなーって!」
「ああ、俺もだよ。子供がいるのも勿論幸せだけど、それは名前1がいてからなんだよな」
「それは私の台詞でもあるよ。愛してるよ、留三郎」


先ほどよりゆっくりと、時間をかけてお互いの唇を堪能し、留三郎が名前1を床に押し倒す。
既に名前1の目は気持ち良さそうにトロンとしており、見上げる留三郎に期待していた。


「かーちゃん…、のどかわいたー…」
「っ牛乳飲む!?」
「うん…。あれ、父ちゃん、なにしてんだ?」
「お前らのおもちゃ作ってたら、部品がどっかに飛んじゃってよー!」
「ふーん……」


が、長男の登場に急いで離れた。
牛乳を渡し、全部飲んだのを確認して、部屋まで送ってあげ、ハァ…と扉を閉めてから溜息を吐いた。


「ね、寝ようか留三郎」
「だな…」


居間を片付け、いつもより早めの就寝。
同じベットに肩を並べて入り、電気を消した。


「おやすみ、留三郎」
「おやすみ、名前1」


コツンと額を合わせたあと、幸せを噛みしめるかのように目を閉じた。





穂乃花さんより。
食満家でひたすら甘く、いちゃいちゃするお話。



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