夢/30万打 | ナノ

恋に落ちた瞬間


!注意!
過去話。長次高校三年生。嫁高校二年生。





「長次先輩っ」
「……名前1、図書室では静かに…」


最初の印象は「怖い先輩」。
勉強のために図書室に行っても、いつも無愛想な顔で受け付けに座ってて、本を借りるときも声が小さいうえにこっちを見ようとしない。
「嫌な先輩だな」と思っていたけど、図書室に通い、一言二言話すようになってからは気にならなくなった。
それどころか、身体が大きいのにに本が好きというギャップにやられてしまい、今では長次先輩目当てに図書室に来るようになった。
勿論、本の話もする。本は大好きだし、図書室は静かだから勉強がはかどるし。
その合間に長次先輩と話すのが日々の癒しになっている。
あの見た目に反して、可愛い系のぬいぐるみやキーホルダーが好きだし、甘いもの好きだし…。
知れば知るほど長次先輩を好きになる。


「(でも、恋って感じじゃないんだよねぇ…)」


机に座って、教科書を開きながらそんなことを思う。
相変わらず無愛想な顔で受け付けに座って、本を呼んでる長次先輩。
初めて図書室を利用する生徒は、あの顔を見ると大抵ビックリする。そのたびにショックを受ける長次先輩は可愛いけど…。
そうなんだよ。「可愛い」んだよ、長次先輩は!だからそういう目で見れないのかな…。


「(私、たくましい人好きだしね…)」


そう、男は格好よく、雄々しくあってほしい!
いやいや、長次先輩のあの身体は好きだよ。変な意味じゃなくてね。
筋肉質だし、大きいし、たくましいし。でも性格が落ちついているからなー…。
もっとこう…好戦的な人が好きなのよ!自分から喧嘩を売りにいくぐらいの人が好きっ。
例えるなら、長次先輩と仲良しの七松先輩!でも七松先輩には相手がいるからなぁ…。
潮江先輩も好きなんだけど、あの人にも大事な人がいるらしい。噂では交換日記をしているとか……いや、冗談だろうけど。
食満先輩は学内で有名なほどのバカップルだし…。
あー…やっぱり素敵な人には既に素敵な人がいるんだね……。


「名前1…」
「うわ!」
「……そんなにビックリしなくても…」
「すみません、ごめんなさい!ちょっと色々と考えてたので…」
「それはすまなかった…」
「いえいえっ。で、なんですか?」
「少し席を外したいから、…受付を見ててくれないか?」
「私でいいんですか?」
「…他に頼める相手がいないから……」


ちょっと恥ずかしそうな表情で頭をさげる長次先輩が可愛すぎて、「お任せ下さい!」と大声を出して、怒られた…。
とは言っても、受付に座るんじゃなくて、誰かが来たら「今はいない」と伝えるだけの簡単なお仕事。
図書室には誰一人いないので私に頼んだんだろうけど、嬉しかった。


「ま、利用する人なんて少ないから、のんびり本でも読もーっと」


一通り勉強をすませ、長次先輩から勧められた本を開く。
長次先輩のお勧めする本はちょっと難しいけど、どれも楽しいから好き。
解らない言葉は優しく教えてくれるし、読み終わったら談義もできるし、ほんっと楽しい!


「おっ、何だよ中在家いねぇじゃん」
「おっかしいなぁ…。いつも放課後になるとここにいるのに…」


静かな図書室に似つかない荒い声。
その声に、本に集中していた私はビクリと飛び跳ね、出入り口へと目を向ける。
そこにはいかにも「不良」ですって感じの先輩が二人…。
い、嫌な予感しかしないよ…!


「おいそこの二年!」
「は、はい…」
「中在家どこ行ったかしんねぇ?」
「あ……」


ど、どうしよう…!素直に答えるべきか、答えないべきか…。
っていうか怖い!不良は嫌いだ!いや、常識が通じなさそうな不良は大嫌いで苦手だ!
怖くて口ごもっていると、もう一人の先輩が「ほっとこうぜ」と言って、本棚へと向かう。
何をするかと思ったら、いきなり本棚にあった本を全て床に落としはじめる。


「な、なにしてるんですか!?」


その行為には思わず声が出て、一人の先輩の腕を掴む。
鬱陶しそうな顔をして引き離され、また本を落とす。
そ、そんなことしたら長次先輩が悲しむ!大事な本をそんなっ……!


「止めて下さい!何でこんなことするんですかっ」
「うっせぇなぁ!殴られたくなかったらすっこんでろ!」
「嫌です!止めて下さい!」


長次先輩だけじゃない。私だって、ここを利用している生徒だって悲しむ…!
怖いけどそこだけは引き下がれない。
腕を掴んで無理やり図書室から引っ張り出そうとするけど、ビクともしない。
逆に腕を掴まれ、肩を押されて足元がフラついた。後ろの本棚で頭を打ったあと、床に座りこむ。
打った箇所は痛いけど、それ以上に意味の解らない行動をする先輩たちに心が痛んだ。


「本を……本を踏まないで「何をしている」


後頭部を抑えながら声で抵抗しようとしたら、いつもより大きな声を出した長次先輩の声が図書室に響く。
長次先輩に目を向けると、鋭い目つきで彼らを睨んだあと、私を見て目を見開いた。
すぐに駆け寄って「大丈夫か?」と優しく声をかけてくれて、思わず涙腺が緩む。
「私は大丈夫。だけど本が…」
と言おうとしたが、うまく喋ることができず、首を横に振っただけ。
それをどうとったのか、長次先輩はグッと拳を作って二人に近づく。


「お、やっぱいんじゃん!いなかったらいなかったでよかったんだけどな」
「何をしていると聞いてる」
「見てわかんねぇのかよ。テメェが大事にしてる本を捨てようとしてんだよ」
「何故そんなことをする」
「テメェのダチの七松が俺のダチをぶっ潰したからに決まってんだろ!テメェも前々から気に食わなかったしな!」
「それに彼女の何の関係がある」
「邪魔したからだろ。はっ、何だよ。この女、お前のか?じゃあこいつにも―――っかは…!?」


彼らの言葉の意味はよく解らなかったが、先輩がニヤニヤと笑ったあと、私に手を伸ばしてきて身体が震えた。
危ない。と言うことだけは解ったからだ。
だけど、捕まる前に長次先輩が私と先輩の間に立って、胸倉を掴んで持ち上げる。
本棚に抑えつけ、ギリッ…と掴む手に力をこめると、先輩は苦しそうに暴れる。
それでもビクともしない長次先輩…。
仲間の先輩が動く前に目で制止させる。後ろからだからちゃんとよく見えないけど、睨む長次先輩の横顔は凄く怖かった。


「彼女に手を出してみろ。これだけではすまさん」


あの、いつも声が小さくて、耳に全神経を集中させないと聞こえない長次先輩の声が、こんなにもハッキリ聞こえるなんて…。
そのたくましい背中に、さっきまで感じていた恐怖はもうなく、ドクンドクンと胸が騒ぐ…。
次第に熱くなる顔と身体に、とあることを自覚した。


「小平太に恨みがあるなら、小平太に行け。私に恨みがあるならいつでも相手になる」


長次先輩はそれだけ言って、先輩を掴んだまま出入り口に持っていき、廊下にぽいっと投げて鍵をかけた。
そのまま窓に向かって、「小平太」と名前を呼ぶと、少し離れた位置から「なんだー?」と大きな声が返ってくる。
すぐ隣にいるかのような声量で話す長次先輩。ま、まさか全部聞こえてるの…?
少しして、「解った!」と元気のいい声が聞こえ、窓を閉める。


「……名前1、大丈夫か…?」
「え?…あ、はいっ」
「すまない。私と小平太のせいで……」
「いえ…」
「痛むか?」


未だ座りこんでいる私に合わせしゃがみ、本を扱うかのように優しく頭を撫でてくれる長次先輩。
一度俯いて「長次先輩」と名前を呼んで、先輩の胸倉を掴んで自分に引き寄せる。
唇を当てるだけのキスをして離れると、目を見開いて驚いている長次先輩が目にうつる。


「好きです、付き合って下さい!」
「…………え?」
「惚れました!」
「…え?」
「さっきのすっごく男前で、すっごくたくましくて、すっごくすっごくキュンキュンしました!さながら恋愛小説に出てくる主人公のようで…ッ!」
「…あの……」
「だから好きです。長次先輩に惚れたので付き合って下さい!」


混乱気味の長次先輩は可愛い!さっきまで格好よかったのに、今はすっごく可愛い!
腕を掴んで「ダメですか?」と聞くと、グッと唇を噛みしめ、深い溜息を吐いた。


「…私が……言おうとしたのに…」
「え?」
「席を外すと言ったな…?これをお前に渡そうとしてたんだ…」


そう言って、ポケットに入れていた一つの手紙を渡してくれた。
シンプルな便箋。中を確認すると、達筆な字が綴られていた。


「………」
「…あの、……名前1…?」
「…」
「す、すまない…。あまり喋るのが得意ではないから、…だから手紙のほうが素直に伝えられると思って……」
「長次先輩」
「…何だ」
「言葉がとても難しくて解りません。いつもみたいに教えてくれませんか?」


とびっきりの笑顔で言うと、目を伏せて口元で笑う。


「名前1、お前が好きだから私と付き合ってくれないか?」
「はい、喜んで!」





沙蕨さんより。
過去話で長次に一目ぼれしたお話。


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