夢/30万打 | ナノ

双忍とお遊び


「では行きます」
「おう」


大きな石の上に座っている虎徹の前には、学園で有名な同じ顔をした生徒が二名。
虎徹の返事を聞いたあと、草陰に隠れ、すぐに姿を現わした。


「「本物の不破雷蔵はどちらでしょうか」」


声も一緒、姿も一緒、細かな動作も、全て一緒のその二人を虎徹はジッと見つめたが、虎徹はすぐに笑って(自分から見て)左の人間を指さした。


「こっち」
「えー…、何で解ったんですか…?」
「変装名人としての名が…」
「何でだろうな。野生の勘?」


当てたことにニヤニヤと笑う虎徹は、とても楽しそうだった。
対して雷蔵は驚いた顔で、三郎は悔しそうな表情を浮かべている。
三郎が「もう一度!」と言うので、笑って首を縦に動かす。
今度も草陰に姿を消したが、先ほどよりなかなか姿を現さない。もしかしたら作戦会議を行っているのかもしれないと、空を見上げて待つ。


「虎徹先輩」
「おー」


声をかけられ、視線を元に戻すと、一人だけしか出て来てなかった。
ああ、比べる対象があるとバレる可能性が高まるからか。とふっと笑い、目の前の人間をジッと観察した。
穴が開くんじゃないかと思うぐらい真剣に彼を見る虎徹。
何分経っても答えを言わない虎徹に、彼は視線を少しだけ泳がせた。


「鉢屋だろ」
「……。本当は既に解っておりましたよね?」
「まぁな!」
「うーん、一人で出てもダメかー…」


その仕草で三郎だと解った虎徹はすぐに答えた。
三郎が怪訝そうな表情を浮かべ、文句を言っていると、草陰から顎に手を添えた雷蔵が出て来た。


「解ってて何で答えなかったんですか」
「自信がなかったから」
「嘘ばかり」
「へへ!お前らに遊ばれるのもあれだから、俺もお前らで遊んでやってんの」
「ではお聞きしますが、何故私だと?」
「勘」
「何か根拠があるでしょう?」
「んー…」


いくら三郎が変装の名人だと言っても、所詮は心を持った人間だ。
観察力に優れている虎徹を前にしたら、変装なんて無意味。それでも、油断をすれば三郎の変装には時々騙されてしまうのだが。


「鉢屋は俺の目が苦手だろ?」
「……」
「というか、人に凝視されるのが苦手だからな、だからジッと見つめて確証を得た」
「あはは、やられちゃったね、三郎」
「対して雷蔵は人の目とか気にしねぇ性格だからな」
「僕の性格まで…」
「では次回から気をつけましょう」
「それでも俺の勘は外れねぇけどな!」
「…先輩は本当に人間を辞めるべきです」
「俺なんてまだいいほうだっつーの。仙蔵や小平太に同じことしてみろよ、面白いことになるだろ」
「僕、立花先輩苦手だなー…。きっと色んな質問してくるから…。僕きっと答えられないや」
「私は七松先輩のほうが苦手だ。あの人は匂いで当てるからな」
「そうやって苦手が別れてる時点で、あの二人にもバレるだろうな」
「「…」」


黙る二人を見て笑ったあと、石から降りて二人に近づく。
自分より頭一つ分ぐらい小さい彼らの頭に手を乗せて、グリグリと撫でてあげる。
雷蔵は「わわっ!」と焦りながらも素直に頭を撫でさせてくれた。
三郎は嫌悪そうな表情を浮かべ、今すぐにも止めろという雰囲気を放つ。
それを見て、虎徹はさらに笑う。


「思っている以上に二人は解りやすいぞ」
「それは解りましたから、下級生のように頭を撫でないで下さい」
「虎徹先輩、首がちょっと痛いです」
「すまんすまん!」


撫でるのを止め、二人から一歩離れる。
ボサボサになった髪の毛を戻している二人。
雷蔵は嬉しそうな、三郎は恥ずかしそうな表情を浮かべていた。


「俺を騙せるようになったらまた遊ぼうな」
「はい、頑張ります!」
「遊びかよ…」
「鉢屋、聞こえてる」
「はい、頑張ります!」
「アハハ!じゃーな、しっかり鍛錬に励めよなー」


背中を向ける虎徹に、二人は頭を下げて見送った。


「雷蔵、悔しいが鍛錬するぞ」
「うん。あそこまでバレバレだったら双忍の名がすたるもんね!」
「ああ!」


やる気になった天才と優秀な雷蔵が本気を出せば、六年生を騙せるようになるのもそう遠くなかった。





赤魔さんより。
野生の勘で三郎か雷蔵かを当てる遊びをするお話。


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