潮江家と立花家 「……」 「あ、立花くん!」 「やあ文次郎。デパートで出会うなんて偶然だな」 「こんにちは、文次郎さん。こんにちは、陽菜子ちゃん」 出会いたくなかった家族と、偶然にも出会ってしまったお昼。 今日は娘にねだられ、一緒にデパートへと遊びに来た。 それがいけなかった…。まさかこんなところで仙蔵とその息子に会うとは! 仙蔵とは昔からの付き合いで、仕事でもそれなりに交流をしている。そのせいでお互いの家族とも仲が良い。 いや、俺はあまり関わりたくないのだが、娘と仙蔵のとこの長男が同級生なのもあって、嫌でも交流が生まれてくる。 「立花くんもパパとお買いもの?私もなんだよーっ」 どうやって回避しようかと模索している間に、娘が笑顔で俺の手を強く握りしめる。 思わずニヤけそうになるのを必死で堪え、仙蔵を睨みつけと想像通り、ふくみ笑いをしてやがった。 ああ、どうせ似合わねぇよ!自分でもそんなこと解ってる。解ってるが、可愛いもんは可愛いんだ。 「陽菜子ちゃん。僕のことは誠一でいいって言ったよね?」 「うーん、でもみんなの前でそう呼んじゃうと怒られるから…」 「陽菜子ちゃんは特別だから構わないよ」 「あはは、誠一くんは口が上手だよねー!」 仙蔵の息子、誠一が娘を狙っていることはずっと前から知っている。 仙蔵も「誠一の嫁にぴったりだ」と俺に言ってくるほどだからな。 絶対にやらん。誠一だろうと、長次の息子にだろうと、小平太の息子にだろうと、留三郎の息子にだろうと、娘は誰にもやらん! その願いが通じているのか、娘も誠一に落ちる様子はない。 それが唯一の救いだが、…その、なんだ。かわしかたがやけにうまくないか?他の奴からもそんなことを言われているのか?だから慣れた様子で誠一をかわしているのか!? 「文次郎、顔が百面相になってるぞ」 「……。娘はやらんぞ」 「それを私に言っても無理な話だ。そういうのは本人同士で決めることだからな」 「絶対にやらん!」 大体まだ娘も誠一も小学生だぞ!?勘弁してくれ…。 片方の手で頭を抱え、無意識に娘を握る手に力を加えると、俺の顔を覗きこみながら「大丈夫?」と心配してくれる。 ああ…本当にうちの子供は可愛いな。名前1に似て上品だし、素直だし…。……あいつに似たからかわし方がうまいのか。そうか、よく似てくれた! 「せっかく出会ったんだ、一緒に回らんか?」 「結構だ」 「せっかくだし回りましょうよ、お義父さん」 「おい、今「お義父さん」と言っただろ」 「はい、間違っていませんよ?」 「(このクソガキ…)陽菜子、お前はどうしたい?お前が行きたいと言ったんだから、俺はお前に合わせるぞ」 「じゃあ一緒に回りたい!みんなで回ったほうが楽しいもんっ」 「……」 まぁ…娘は天真爛漫で、楽しいことが好きだからな…。 仕方ないと思いつつ、深い溜息を吐かざるをえなかった。 できるだけ誠一や仙蔵に娘を近づけさせないようにして、娘が行きたいと言うお店に寄る。 「陽菜子…。せっかくの休日なのに、仙蔵たちがいてよかったのか?」 「うんっ。だってパパの友達でしょ?パパうれしいかなーって思ったんだけど…」 「…俺のためか?」 「うん…。ダメだった?わたし、なにかまちがったかな?」 「っいいや!お前は間違ってない!人を気遣えるいい子だ!」 「ほんと!?うれしーっ、パパにほめられたー!」 「……文次郎、お前ほんと気持ち悪いな」 「陽菜子ちゃんって、本当笑顔がよく似合うね」 「ありがと、誠一くん。でもしょうがないよ、パパといっしょだもん!」 どうしてうちの娘はこんなにも賢いんだろうか。 いや、賢いなんてどうでもいい。一番大切なのは、「人を思いやる」気持ちだ。 まだ小学生なのにそれをちゃんと解ってるなんて…! やはり、陽菜子がこの世で一番いい子だな。 「あ、パパッ。あのお店入っていい?」 「ああ、いいぞ。俺は店の外で待ってるからな」 「陽菜子ちゃん、僕も一緒にいていいかな?」 「うん。じゃあいっしょにえらぼう!」 「誠一が行くなら「文次郎、男に二言はないよな?」 誠一が行くなら俺も一緒に行けばよかった…! 仙蔵に肩を掴まれ、店の外で一緒に待つことに。 娘が入る店は俺には似つかない可愛い店だから、あまり入りたくない。 それでも娘が「いっしょに入りたい!」と言えば入るのだが…。 油断していた…。一緒に来ている人物は立花家だぞ、しっかりしろ文次郎!俺が陽菜子を守るんだ! 「で、文次郎」 「あ?」 「いつになったら陽菜子をうちに嫁がせるんだ?」 「まだ小学生だろうが!」 「誠一は気に入っているぞ?」 「陽菜子が誠一を気に入るかどうか解んねぇだろ!?」 「ほう、なら気に入れば認めるんだな?」 「そうは言ってねぇ!」 「言った。そうかそうか…。ならこちらも全力で攻めさせて頂こう」 「つーか何で俺んとこの娘なんだよ!長次の娘でも、留三郎の娘でも、伊作の娘でもいいだろ!?なんだったら不破もいるし!」 「年齢がな、やはり近いほうがいいと思ってだ。それに、長次のとこは不破とくっつくだろ。留三郎の娘は男勝りになりそうだし…。伊作の娘でもいいが、不運と親戚になるのは少しな…。それに、お前なら遠慮せんですむからだ」 「俺はテメェのなんだと思ってやがる…」 「文次郎、お前は私の大事な親友だ。心の友と書いて「止めろ!」 これが運命というなら、受け入れてやろう。だが、娘だけは絶対にやらんからな! ニヤニヤと笑う仙蔵を睨みつけて、娘と誠一を見ると、お互い笑い合っていた。 「ほら見ろ。お似合ではないか」 「うっせぇ!陽菜子!」 さっさと家に帰ろうと決意し娘に近づくと、誠一が店の商品である花のピンを手に取り、娘の髪の毛にさした。 「ほら、やっぱり似合ってる。陽菜子ちゃんは可愛いから、こういう可愛いものがよく似合うよ」 「あ、ありがとう誠一くん…!」 あのクソガキが…!ド直球で攻めてきやがった! 珍しく戸惑った表情を見せて、笑顔を浮かべる娘の名前を呼ぶと、いつもと変わらない、俺だけに見せる笑顔で抱きついてくる。 しっかりと抱き締めたあと、大人気ないとは思うが、ピンをとってあった場所に戻した。 「陽菜子、今日はもう帰ろう。名前1と弟が待ってるからな」 「もう?うーん…パパが帰るって言うなら……。じゃあね、誠一くん!また明日!」 「うん、また明日学校でね。さようなら、お義父さん」 「だから、お義父さんって呼ぶんじゃねぇよ。仙蔵、俺らは帰るぞ」 「そうか。今度はゆっくり食事でもどうだ?」 「結構だ」 娘を抱きあげ、二人に背中を向けてからデパートをあとにする。 くそー…せっかくの休日ぐらい、娘とゆっくり過ごさせろよ。 今度からは気をつけねぇとな。 「誠一くんって、いつもあんな風なんだよ。ちょっとドキドキしちゃった」 「え、は…?ドキドキ、ってことは……。お、お前は誠一が好きなのか…?」 「好きだよ?いっつも優しいし、解らないことを教えてくれるし…」 「(ああ、友愛の意味でだな。よしよし…)」 「でも、誠一くんよりパパのほうが好きっ!何でも知ってるし、すっごく強くてかっこいいんだもん!」 頬にキスをしてくる娘を見て、改めて「嫁にはやらん」と誓った。 ▼ 蜜月さんより。 立花家と潮江家の攻防戦のお話。 ( TOPへ △ | ▽ ) |