夢/30万打 | ナノ

潮江家と立花家


「……」
「あ、立花くん!」
「やあ文次郎。デパートで出会うなんて偶然だな」
「こんにちは、文次郎さん。こんにちは、陽菜子ちゃん」


出会いたくなかった家族と、偶然にも出会ってしまったお昼。
今日は娘にねだられ、一緒にデパートへと遊びに来た。
それがいけなかった…。まさかこんなところで仙蔵とその息子に会うとは!
仙蔵とは昔からの付き合いで、仕事でもそれなりに交流をしている。そのせいでお互いの家族とも仲が良い。
いや、俺はあまり関わりたくないのだが、娘と仙蔵のとこの長男が同級生なのもあって、嫌でも交流が生まれてくる。


「立花くんもパパとお買いもの?私もなんだよーっ」


どうやって回避しようかと模索している間に、娘が笑顔で俺の手を強く握りしめる。
思わずニヤけそうになるのを必死で堪え、仙蔵を睨みつけと想像通り、ふくみ笑いをしてやがった。
ああ、どうせ似合わねぇよ!自分でもそんなこと解ってる。解ってるが、可愛いもんは可愛いんだ。


「陽菜子ちゃん。僕のことは誠一でいいって言ったよね?」
「うーん、でもみんなの前でそう呼んじゃうと怒られるから…」
「陽菜子ちゃんは特別だから構わないよ」
「あはは、誠一くんは口が上手だよねー!」


仙蔵の息子、誠一が娘を狙っていることはずっと前から知っている。
仙蔵も「誠一の嫁にぴったりだ」と俺に言ってくるほどだからな。
絶対にやらん。誠一だろうと、長次の息子にだろうと、小平太の息子にだろうと、留三郎の息子にだろうと、娘は誰にもやらん!
その願いが通じているのか、娘も誠一に落ちる様子はない。
それが唯一の救いだが、…その、なんだ。かわしかたがやけにうまくないか?他の奴からもそんなことを言われているのか?だから慣れた様子で誠一をかわしているのか!?


「文次郎、顔が百面相になってるぞ」
「……。娘はやらんぞ」
「それを私に言っても無理な話だ。そういうのは本人同士で決めることだからな」
「絶対にやらん!」


大体まだ娘も誠一も小学生だぞ!?勘弁してくれ…。
片方の手で頭を抱え、無意識に娘を握る手に力を加えると、俺の顔を覗きこみながら「大丈夫?」と心配してくれる。
ああ…本当にうちの子供は可愛いな。名前1に似て上品だし、素直だし…。……あいつに似たからかわし方がうまいのか。そうか、よく似てくれた!


「せっかく出会ったんだ、一緒に回らんか?」
「結構だ」
「せっかくだし回りましょうよ、お義父さん」
「おい、今「お義父さん」と言っただろ」
「はい、間違っていませんよ?」
「(このクソガキ…)陽菜子、お前はどうしたい?お前が行きたいと言ったんだから、俺はお前に合わせるぞ」
「じゃあ一緒に回りたい!みんなで回ったほうが楽しいもんっ」
「……」


まぁ…娘は天真爛漫で、楽しいことが好きだからな…。
仕方ないと思いつつ、深い溜息を吐かざるをえなかった。
できるだけ誠一や仙蔵に娘を近づけさせないようにして、娘が行きたいと言うお店に寄る。


「陽菜子…。せっかくの休日なのに、仙蔵たちがいてよかったのか?」
「うんっ。だってパパの友達でしょ?パパうれしいかなーって思ったんだけど…」
「…俺のためか?」
「うん…。ダメだった?わたし、なにかまちがったかな?」
「っいいや!お前は間違ってない!人を気遣えるいい子だ!」
「ほんと!?うれしーっ、パパにほめられたー!」
「……文次郎、お前ほんと気持ち悪いな」
「陽菜子ちゃんって、本当笑顔がよく似合うね」
「ありがと、誠一くん。でもしょうがないよ、パパといっしょだもん!」


どうしてうちの娘はこんなにも賢いんだろうか。
いや、賢いなんてどうでもいい。一番大切なのは、「人を思いやる」気持ちだ。
まだ小学生なのにそれをちゃんと解ってるなんて…!
やはり、陽菜子がこの世で一番いい子だな。


「あ、パパッ。あのお店入っていい?」
「ああ、いいぞ。俺は店の外で待ってるからな」
「陽菜子ちゃん、僕も一緒にいていいかな?」
「うん。じゃあいっしょにえらぼう!」
「誠一が行くなら「文次郎、男に二言はないよな?」


誠一が行くなら俺も一緒に行けばよかった…!
仙蔵に肩を掴まれ、店の外で一緒に待つことに。
娘が入る店は俺には似つかない可愛い店だから、あまり入りたくない。
それでも娘が「いっしょに入りたい!」と言えば入るのだが…。
油断していた…。一緒に来ている人物は立花家だぞ、しっかりしろ文次郎!俺が陽菜子を守るんだ!


「で、文次郎」
「あ?」
「いつになったら陽菜子をうちに嫁がせるんだ?」
「まだ小学生だろうが!」
「誠一は気に入っているぞ?」
「陽菜子が誠一を気に入るかどうか解んねぇだろ!?」
「ほう、なら気に入れば認めるんだな?」
「そうは言ってねぇ!」
「言った。そうかそうか…。ならこちらも全力で攻めさせて頂こう」
「つーか何で俺んとこの娘なんだよ!長次の娘でも、留三郎の娘でも、伊作の娘でもいいだろ!?なんだったら不破もいるし!」
「年齢がな、やはり近いほうがいいと思ってだ。それに、長次のとこは不破とくっつくだろ。留三郎の娘は男勝りになりそうだし…。伊作の娘でもいいが、不運と親戚になるのは少しな…。それに、お前なら遠慮せんですむからだ」
「俺はテメェのなんだと思ってやがる…」
「文次郎、お前は私の大事な親友だ。心の友と書いて「止めろ!」


これが運命というなら、受け入れてやろう。だが、娘だけは絶対にやらんからな!
ニヤニヤと笑う仙蔵を睨みつけて、娘と誠一を見ると、お互い笑い合っていた。


「ほら見ろ。お似合ではないか」
「うっせぇ!陽菜子!」


さっさと家に帰ろうと決意し娘に近づくと、誠一が店の商品である花のピンを手に取り、娘の髪の毛にさした。


「ほら、やっぱり似合ってる。陽菜子ちゃんは可愛いから、こういう可愛いものがよく似合うよ」
「あ、ありがとう誠一くん…!」


あのクソガキが…!ド直球で攻めてきやがった!
珍しく戸惑った表情を見せて、笑顔を浮かべる娘の名前を呼ぶと、いつもと変わらない、俺だけに見せる笑顔で抱きついてくる。
しっかりと抱き締めたあと、大人気ないとは思うが、ピンをとってあった場所に戻した。


「陽菜子、今日はもう帰ろう。名前1と弟が待ってるからな」
「もう?うーん…パパが帰るって言うなら……。じゃあね、誠一くん!また明日!」
「うん、また明日学校でね。さようなら、お義父さん」
「だから、お義父さんって呼ぶんじゃねぇよ。仙蔵、俺らは帰るぞ」
「そうか。今度はゆっくり食事でもどうだ?」
「結構だ」


娘を抱きあげ、二人に背中を向けてからデパートをあとにする。
くそー…せっかくの休日ぐらい、娘とゆっくり過ごさせろよ。
今度からは気をつけねぇとな。


「誠一くんって、いつもあんな風なんだよ。ちょっとドキドキしちゃった」
「え、は…?ドキドキ、ってことは……。お、お前は誠一が好きなのか…?」
「好きだよ?いっつも優しいし、解らないことを教えてくれるし…」
「(ああ、友愛の意味でだな。よしよし…)」
「でも、誠一くんよりパパのほうが好きっ!何でも知ってるし、すっごく強くてかっこいいんだもん!」


頬にキスをしてくる娘を見て、改めて「嫁にはやらん」と誓った。





蜜月さんより。
立花家と潮江家の攻防戦のお話。


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