万々歳 「だるい…」 昨日はなんともなかった身体が、今朝起きたら異様にだるかった。 ベットから起き上がるのも辛かったけど、今日は伊作と一緒に寝ている娘の元へ行かなくては…。不運がうつる。 布団から足を出して、立ち上がろうと力を入れるも、思った以上に入らなくて床に崩れ落ちてお尻を打ってしまった…。 あ、ダメだ…。これ……完全に風邪だ。絶対そうだ。 「どうしよう…」 今日は伊作が休みで、三人で買い物に行く予定だったのにこれだ。 ちょっとは頑張れるか?頑張れそうか…?いや、いけないか……。やっばいぐらい力入らないし、何より気持ち悪い。だるい。寝たい。 『名前1ちゃん、入っていい?』 いつも起きる時間に起きて来なかったから、伊作がやって来てしまった。 どうしようか…。本当にどうしようか! 「名前1ちゃーん……ってどうしたの!?大丈夫!?」 返事もしなかった(否、できなかった)ら、ゆっくり扉を開けて、顔だけ覗かせてきた。 いつもだったら「外で大人しく待ってて」って言って枕を投げつけるんだけど、今日はできない。 座りこんでいる私を見た伊作は、慌てて部屋に入り、私の前にしゃがんだ。 「転んだの!?」 「違う…。身体がダルくて……」 「風邪だね。解った!」 そう言うと私を担いで、ベットへと戻してくれる。…そんな力あったんだ…。 テキパキと、私に布団をかけ、自分の部屋に戻って布団を数枚持ってきてかけてくれた。うん、寒かったんだよね。 転ぶことなく階段を下りて、ちょっとしてから冷えピタと体温計を持って来る。いつもこれぐらいテキパキしてたらいいのに…。 「症状はどんな感じ?」 「…ん、だるい…。なんか寒いんだけど、熱い…」 「喉も……うん、腫れてるね。病院行く?」 測った熱を見て、そんなことを聞かれた。 せっかくの休みなのに病院なんて行きたくない。でも、このまま部屋で寝ているのもなぁ…。子供にうつるのはもっと嫌だし。 「行きたく、ないけど……。早く治したいから行く…」 「……ねえ名前1。何で僕を頼ってくれないの?」 「……」 伊作は薬剤師だ。趣味で漢方も作ってる。(それ以外の怪しい薬も作ってるけど…) だから伊作を頼れば早い。効能がいいのも知ってるし、きっと伊作の薬を飲めばあっという間に治る。 だけど、素直に甘えられない…。だって、いつもあんなに冷たくしてるのに、こんなときだけ頼るのって……。だけど、そうも言ってられないんだよねぇ。 「僕は名前1に頼られたいよ!」 「……じゃあ、薬作っ「任せて!」…早いし…」 全部言い終わる前に伊作は満面の笑みになって部屋から飛び出した。 ほんと…、こういうときは頼り甲斐あるなぁ。 布団の中で楽な姿勢に変え、伊作を待っている間に目を瞑る。 あー…頭ガンガンしてきた…。あ、薬の前に子供に説明してもらったほうが……………。 「―――伊作…?」 「大丈夫?」 「…あれ、私寝てた?」 「うん。ぐっすり寝てたから起こさなかったよ。寝るのが一番だからね」 少しだけ寝るつもりが、結構寝ていたみたいだ。 視界には、眼鏡をかけたまま本を読んでいる伊作がうつる。 起きたことに気づくと、パッと顔をあげていつものように優しく笑いながら額を触った。冷たくて気持ちいー…。 「伊作、きもちいい…」 「っ…名前1!」 「でもうるさい…」 「ごめん…」 額から頬に移動した伊作の手を握ると、伊作が「うわあああ!」と意味不明な悲鳴をあげる。うるさいなぁ…。頭に響くんだから静かにしてよ。 「名前1…、め、珍しく僕に甘えてくれるんだね…!」 「…頼られたいって言ったじゃん…。嫌なら頼らないよ」 「そんなことない!そんなことないよ名前1。いつもなんて贅沢は言わない。今日みたいなときだけでいいから、僕に甘えて」 本当はいつもこうやって甘えてほしいくせに、何で伊作は控えめなんだろうか…。 ああ、素直じゃない私の性格のせいで、伊作は高望みしなくなったのか。それは申し訳ない。 「伊作…」 「なぁに?」 「子供は?」 「留さんのところに預けてきた。今日一日名前1の看病は僕が見るから安心して」 「……不運にそんなこと言われても…」 「今日ばかりは不運じゃありませーん。だから大丈夫!さ、ご飯食べて薬飲もうか」 お粥を作ってくれたみたいで、一旦部屋から出て行った。 目だけ動かして伊作が座っていたところを見ると、暇潰し用らしい本と薬が大量に置いてあった。 本当に今日一日私の看病を見てくれるんだ…。……そっか、うん。風邪引いてるからかな、凄く嬉しい。 「まだ転んでない。まだ転んでない…」 いつも以上に真剣かつ丁寧にものを運ぶ伊作にちょっと笑いそうになるのを我慢する。 そーっとテーブルの上にお粥が入った茶碗を置いて、満足そうに「よし!」と汗を拭う。どんだけ神経使ったのさ。 「名前1、起きれる?」 「……起きれないから抱っこして…?」 「…っうう…!」 「泣くところ?」 「だって嬉しくてぇ…!ぐすん、じゃあ起こしてあげるね!」 「(…起こし方うま…。え、なんか流れるように起こされたぞ?)」 「名前1、僕が食べさせてあげる!」 「…うん」 「っいいの!?いつもだったら絶対に拒否するのに…。言ってみるもんだな!(風邪万歳)」 「風邪万歳なんて言ってたら拒否してた」 「言ってないよ!は、はいアーン…」 「ん……」 「美味しい?(頬が赤い名前1可愛い!眠たそうなのもいい!甘えるのも、ちょっと恥ずかしそうなのも可愛い!)」 「それなり…」 風邪を引いてるせいかあまり味はしなかった。 一口、二口食べてあとは「いらない」と首を横に振る。バカみたいに食べたら吐いちゃうもん。 伊作が作った薬を飲んだあとはまた横になる。 「僕はずっとここにいるから、何かあったらすぐに頼ってね」 「解った…。…寒い」 「じゃあ一緒に寝てあげようか!?」 「………風邪うつるよ…」 「ダメって言わないんだ!大丈夫、風邪引いても薬あるし、今度は僕が名前1に甘えるから!」 「知らない…」 「お邪魔しまー…って熱い!名前1、熱すぎるんだけど…。ほ、本当に病院行かなくていいの?注射打ってもらおうよ」 風邪人の布団に嬉しそうに入るなって突っ込もうとしたけど、そんな元気もなく無視してたら勝手に入ってきた。 下半身だけ布団に入れたまま、汗ばむ額に手を添える。熱いって言われても、私は寒いんだ…。 病院も、もう行きたくない。しんどいから動きたくない。それに、 「行かない…。伊作がいればいい……隣にいて…」 「うー……!(名前1が可愛いすぎるって叫びたい!力強く抱き締めたい!もーっ、キスしたい!)」 「伊作、ちゃんと…いる…?」 「いるよ!ずっと隣にいるからね!安心していいよ!」 「んー…、ありがとう……愛してるよ…」 「ぼ、僕もだよ!僕も名前1のこと愛してる!」 「ありが……………」 眠気には勝てず、唇に何かが当たるのを感じたと思った瞬間、深い眠りへと落ちていった。 「だから言ったじゃん。うつるって」 「……でも、甘えてきたのは名前1だし…」 「は?私がいつ甘えたって?」 「風邪引いたときだよー…。うー、名前1ー、しんどいよー、だるいよー、頭痛いよー」 「はぁ…。ほら、ここにいてあげるから大人しく寝なさい」 「ずっといてくれる?起きても絶対そこにいてね?」 「解った解った」 「名前1がキスしてくれたら元気になれる気がする…」 「そういう甘えは一切聞きません。大人しく治して下さい」 「はい……」 ▼ 匿名さんより。 伊作に対して冷たくない奥さんと伊作のラブコメなお話。 ( TOPへ △ | ▽ ) |