夢/30万打 | ナノ

二人の後輩


!注意!
BL要素あります。
喜八郎→獣主←八左ヱ門





「動物せんぱーい」
「おー、どうした喜八郎」
「なんでもないです」
「そうかそうか」


六年長屋の縁側で、自室で飼育している犬や猫たちの毛並みを整えていると、泥まみれの喜八郎が中庭からやって来た。
また穴を掘っていたんだろうと思い、「落とし穴もほどほどにしとけよ」と軽く注意すると、彼はジッと虎徹を見て素直に頷いた。
喜八郎はあまり他人に指示をされたり、注意をされたり、命令をされるのが好きではない。
忍務となれば話は別だが、普段生活していてそんなことを言われると、イライラしてくる。
普段は楽しいことをしていたいし、自分の好きないように暮らしたい。だから嫌いだ。
それを解っていて、六年生全員は喜八郎にそういったことは言わないし、しない。
その中で、仙蔵と虎徹は喜八郎の扱いに長けていた。
仙蔵は委員会が一緒なので扱いに長けて当たり前。寧ろ上手に喜八郎を扱う。
虎徹は、動物的直観なのか彼との距離感を絶妙に保ってコミュニケーションを取っている。
仙蔵とは違う扱い方に、喜八郎自身も気づいているのか、虎徹には甘えることがあった。この距離感が心地いいと。


「動物先輩」
「んー?お前は毛並みが本当に綺麗だなぁ。よしよし」
「僕、動物先輩のこと好いてますよ」
「そうか、そりゃあ嬉しいな。お前は竹谷に似てボサボサだな」


縁側に座っている虎徹の背中に自身の背中を預け、泥で汚れた鋤を握りしめたままそんなことを呟く。
虎徹の反応に少しだけ眉間にシワを寄せ、頭をガツンガツンと虎徹の後頭部に当てる。


「痛いって。何すんだよ」
「指笛先輩って色んな女性とお付き合いされてますよね」
「あ?ああ、それなりにだな」
「おまけに喋れない動物たちと心が通じ合ってますよね」
「そりゃあ忍者界で有名な動物使いになりたいですからねぇ」
「なのに察しが悪いのはどうかと思いますよ」
「ごめんなぁ。俺、人間相手には心読まないようにしてるから」


動物に比べ、人間の心を読むのは簡単だ。
目をジッと見るだけで、何を考えているのか、何を思っているのか大体解る。
特に同じ学年の小平太、留三郎、伊作は解りやすい。逆に解りにくいのは隠すのが上手な仙蔵、文次郎、長次。
しかし読めないことはない。獣に比べたら簡単だが、それには体力も集中力も使うからあまり心を読まないようにしている。


「つーか、心を読むっつっても、身体の動きとか目の動きとかで推測してるだけだから」


無意識のうちに行っている仕草。ボディランゲージで心理を読むのに虎徹は長けている。
動物と長年一緒にいるからこそ、培われた観察力。
膝の上で寝ている猫の頭を撫でながら喋っていると、ガツンッ!と先ほどより強い力で頭突きをされ、後頭部を抑えた。


「だから痛いってば!」
「ならこっち見て下さいよ」
「喜八郎が後ろにいるから見れねぇの!」
「じゃあこれなら解りますか?」


首だけを後ろに回すと、不機嫌そうな顔をした喜八郎が上目使いで睨んでいた。
六年生と四年生だから身長差があるので、自然と上目使いになるのは確かだが、低くないか?とよく見ると、喜八郎が自分の背中に寄りかかり、抱きついているのに気づいた。
鋤は隣に置かれており、土で汚れた手を虎徹の腰に回し、四年生にしては強い力でギュッと虎徹を逃がさないよう抱き締めている。


「解りますか?」
「……。四年生にもなってまだ甘えんのか?そういうのは仙蔵にしとけよ」
「虎徹先輩、好きです」
「…」


喜八郎もどちらかと言えば解りやすい人間だ。
興味のない人間にはこんなことしないし、「好き」なんて言葉も言わない。
すぐに、自分に好意を寄せていることは解った。
それをはぐらかそうとした虎徹だったが、喜八郎はド直球に想いを伝え、虎徹は脱力するように溜息を吐く。


「虎徹先輩。虎徹先輩は僕のこと好きですかー?」
「後輩として好きだよ。可愛い可愛い後輩」
「僕は虎徹先輩を抱きたいと思ってます」
「お前が抱くのかよ!」
「じゃあ抱いてくれるんですか?」
「いや、俺は女の子にしか興味がないんで」
「じゃあ僕が女装すればいいんですね」
「女装しても中身は男じゃん…」
「しかし、性別は変えれませんよ?」
「うん、だから無理だって」
「解りました。ではやはり僕が虎徹先輩を抱きますね」
「意味わかんねぇし…」


扱いには長けているからって、思考回路までは理解できない。
抱きついている喜八郎を引きはがそうと腰に巻きついている腕を掴んだが、力が強くて離れない。
膝の上で猫が寝ているから、立とうにも立てない。眠りの邪魔はしたくないと、動物バカは思う。
静かに攻防戦を続けていると、五年長屋のほうから足音が聞こえ、助けを求めようと顔を向けると、八左ヱ門が目を見開いて立っていた。


「(うわ、面倒くせぇ…)」
「おまっ、喜八郎ッ!」
「うわ、面倒臭い」


虎徹は心の中で呟いたが、喜八郎は遠慮することなく言葉に出して呟いた。
ズカズカと大股で近づいて来た八左ヱ門は、虎徹と喜八郎を引きはがした。
乱暴で大雑把だったため、寝ていた猫は驚いて飛び起き、地面へと着地。


「お前、虎徹先輩に何してんだよ!」
「抱きついてました」
「何で抱きついてんだよって聞いてんだ!」
「動物先輩を好いてるからですよ」
「ハァ!?」
「僕、動物先輩のこと好きなんです。だから、恋人同士の時間を邪魔をしないでください」
「こッ…!?虎徹先輩、どういうことですか!?」
「いや、恋人同士じゃねぇし」
「でも、動物先輩も僕のこと「好きだ」って言ってくれましたよね?」
「あれは「なんすかそれ!俺も言われたことないのに!」……はぁ…?」


引きはがされた喜八郎だったが、再び虎徹の背中へと抱きつき、シレッと嘘を吐く。嘘ではないが、本当でもない。
ゴロゴロと甘える喜八郎を再び引きはがそうとした八左ヱ門だったが、喜八郎の言葉に、怒りの論点が少しだけズレた。
キッ!と虎徹を睨み、両手を掴む。


「虎徹先輩っ、俺も虎徹先輩のことが好きです!大好きです!」
「いやいや…。あのね八左ヱ門くん、意味が違うんですよ」
「竹谷先輩、邪魔しないで下さいって言ってるじゃないですかー。それに、横恋慕はダメですよ」
「俺はお前が入学してくる前から虎徹先輩のことを慕ってたから、横恋慕したのは喜八郎だ!」
「じゃあ僕は産まれたときから虎徹先輩のことを慕ってます」
「出会ってねぇだろ!」
「運命です」


自分を挟んで言い合う後輩二人に、目を細めて黙りこむ虎徹。
どうにかしてこの場から脱出したいが、腰は喜八郎に掴まれ、両手は八左ヱ門に握りしめられているから逃げだそうにも逃げられない。


「虎徹先輩っ、虎徹先輩は俺と喜八郎、どっちが好きですか!?勿論、俺ですよね!俺ずっと虎徹先輩と一緒にいますし、色々知ってます!」
「虎徹先輩、僕、虎徹先輩のこと好きです。フラれたらきっと泣いちゃいます。後輩泣かすのよくありませんよ」
「俺、女の子が好きだから…」
「っ頑張って女装します!」
「竹谷先輩が女装すると化け物になるので、僕がします。作法委員会ですし、立花先輩から仕草も学んできます」
「だから…、中身が男なら意味ねぇじゃん…」
「じゃあどうやったら俺のこと好きになってくれますか!?」
「ではどうしたら僕のこと好いてくれますか?」


面倒くせぇええええ!と、断崖絶壁で叫ぶ姿をイメージしてほしい。
さて、どうしたものかと捨て去りそうだった思考回路を無理やり働かせ、とあることを思いついた。
空を見上げ、口笛を鳴らした。
八左ヱ門と喜八郎もつられて空を見上げたが、空には何もいない。


「………動物先輩、今さっきまで寝ていた犬たちが僕を睨んでるんですけど」
「虎徹先輩、何されたんですか…?」
「いやー、ただ口笛が吹きたくなって吹いただけだから。あ、俺のこと好きになってくれてありがとう。俺と恋人同士になりたいならこいつら倒してください」


大人しく寝ていた犬や猫は毛を逆立て、後輩二人を囲む。
唸り声をあげ、牙を見せている。
指令を出した虎徹はシレッとした表情を浮かべ、一匹の猫を撫でている。


「むー…。卑怯です、口笛先輩」
「何で?」
「(が、頑張れば手懐ける…はずっ…!)」
「無理無理。この子たちは絶対に俺以外に懐かないから」
「……」
「もしこの子たちに勝てたら、今度はハルとナツに勝って下さい。それにも勝てたらナナシにも勝って下さい。お付き合いはそれからです」


一番小さい猫を抱きあげ、縁側から腰を浮かせて中庭へと降りて歩き出す。
二人が虎徹を追おうとしたが、犬猫が睨んでくるから動こうにも動けない。
彼らの目からは「虎徹に近づくな」と意思がビシビシと伝わってきた。


「俺、今は動物が恋人なんだよね」


首だけ二人を振り返り、ニッと犬歯を見せて笑ったあと、生物委員会の飼育小屋へと向かって行った。
今回の勝負、虎徹の逃げ勝ち。
残された二人は、打倒動物たち!を目指し、コンビを組んだのだが、お互いが虎徹を譲ることはなかった。





緋蓮さんより。
喜八郎が獣主のことが好きで好きでアタックするけど、竹谷も獣主のことが好きで好きでアタックするお話


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