繊細な人 中在家名前1は旦那の長次に夢中だ。 おはようからおやすみまで、彼女の脳内は長次のことでいっぱい。詳しく言うなら、長次と子供たちのことでいっぱいである。 学生時代から全くもって他の男を見ようとせず、ずっと長次ばかり見てきた結果、彼女は最高の幸せを手にした。 結婚してからはもっと長次に夢中になり、誰もが羨むおしどり夫婦として近所では有名になった。 お弁当は長次が休憩前に入る時間帯にわざわざ持ってくるほど、名前1は長次を慕っている。 「……」 そんな彼女が珍しく知らない男性と話していた。 嫁からの愛を毎日浴びていた長次は不思議に思っていたが特に気にしていなかった。話が合うんだろうと。 しかし、翌日も翌日も…。ここ最近図書館にやって来ては、その男と楽しそうに話している。 「じゃあ長次、私帰るね!」 「名前1…」 「なに?」 長次に名前を呼ばれ、嬉しそうに目をキラキラさせる名前1は可愛いと思う。自分のことが好きなんだと、安心することができる。 「何でもない…。……気をつけて…」 「うん!長次も頑張ってね!でも無理は絶対ダメだよ。長次が倒れたら私…私どうしたらいいかっ…!」 「大丈夫だから…」 「長次…!今日も愛してるわ!じゃ!」 いつものように静かな図書館でいちゃつき、名前1は帰って行く。 お弁当を受け取った長次は休憩室へと行こうとしたが、名前1と話していた男に目を向ける。 彼は最近ここに異動してきた男で、自分とそう年も変わらない。 イケメン!と、女性職員から言われているらしいが、自分の友人たちのほうが格好いいと特に気にしていなかった。 なのに名前1はあの男といつも話す。 「…」 もそもそと静かに作りたてのお弁当を食べながら、考えていた。 考えれば考えるだけ何だか胸が苦しい。もやもやするし、何だか落ちつかない気分になる。 これが嫉妬ということにはまだ気づいておらず、「ご馳走様です」と誰にも聞こえない声で呟いて、残りの休憩時間は本を読むのに集中した。 「ちょーじ!」 「……名前1、図書館では静かに…」 「ご、ごめん」 お昼からの業務も問題なく進めていた。 夕方、同じ職場で働く雷蔵と本の話をしていると、何故か名前1がやって来た。 いつもだったら買い物をして、夕食を作っている時間帯だ。 「どうした…?何か忘れ物でも…?」 「長次の顔を見に来たのと、ちょっと用事があって。あの人いる?」 名前1が言う「あの人」とは、いつも話している男のこと。 それを聞いた瞬間、口を固く閉ざす。呼び出そうとも、動こうともしない長次を見て、「長次?」と名前1が覗きこむ。 「えーっと……。ら、雷蔵ー。長次が固まっちゃったんだけど…」 「中在家先輩?どうされたんです?」 「………あいつはいないから帰りなさい」 「え?でも夕方に会う約束し「帰りなさい」 ハッキリと、珍しく聞こえる強い声で名前1の両肩を掴んで睨みつける。 滅多に怒ることない長次に、名前1は言いたいことを全て飲みこみ、何度も首を上下に動かした。 雷蔵はどうしようかと二人の顔を見合わせたが、名前1が帰るのを見送り、長次に話かける。 不機嫌なのは解るが、何でいきなり怒ったか気になって仕方なかった。 「中在家先輩…、あのー…」 「雷蔵…、並んでる…」 「あっ!は、はい、すみません!」 終礼まで意図的に雷蔵を避け続け、誰とも会話することなく家へ帰宅する。 家に近づくたびにイライラが再発して、拳に力が入る。 名前1もあの男も悪くない。きっと本の話をしているだけ。ただの気の合う友達。 何度も自分に言い聞かせるものの、気分はよくない。 こんなに自分が心の狭い人間だったのか…と溜息をついてから、玄関を開けると、すぐに長男と長女が飛びついてきた。 「走ったらダメ…」といつものように注意して、二人の頭を撫でてあげると、嬉しそうに笑う。 子供たちの笑顔を見ると心が軽くなったが、 「お、おかえり長次…」 名前1の顔を見た瞬間、不機嫌オーラが放たれる。 敏感な子供たちは急いで長次から離れ、名前1の後ろに隠れた。 「長次…どうかした?あの、なんか………」 「名前1…」 「はい!」 「話があるからちょっと来てくれないか」 「……うん…」 長次の言葉に顔が青ざめていく名前1だが、言われた通り寝室へ向かう長次の後ろをゆっくりついて歩く。 子供たちにはお風呂に入るよう伝えると、少しだけ不安そうに見上げ、素直に頷いた。 「長次…」 寝室に入り、荷物を置いた瞬間、振り返って名前1を抱き締める。 怒られると思っていた名前1はしばらくの間、固まっていた。 「……なんであの男なんだ…?」 「…え?」 ようやく離して、喋り出した。 長次の声を聞いた名前1は少しだけ身体が震えたが、恐る恐る長次を見上げると、先ほどより機嫌はよくなっていた。 「あの男って?」 「………よく話してる…」 「…ああ、あの人か。あの人がどうかした?」 長次が嫉妬していることに全く気付いていない名前1を見て、深い溜息をはく。 長次に惚れこんでる名前1が、他の男と話しているから気になって、嫉妬してしまう。心が狭いわけじゃない。 大体、寡黙でお世辞にもイケメンとは言えない自分のどこに惚れているのか、未だに謎だ。 それでも、自分は名前1が好きだし、愛してる。ずっとこれからもいたいと思っているし、ずっと傍にいてほしい。 だから、 「あまり………話さないでくれ…」 大きな身体には似つかず、優しい力で名前1を再び抱き締める。 壊さないように、嫌われないように…。そんな気持ちが触れ合ってる箇所から伝わってくる。 名前1の肩に頭を乗せて、「お願いだ」と懇願。 最初は解らなかった名前1だが、長次の言葉をしっかりと考え、嫉妬していたことにようやく気付いた。 「長次っ!」 首に腕を回して、ぎゅーっと抱き締め返す名前1。 その表情は先ほどとは一変しており、デレデレと締まりのない顔だった。 「私、長次しか見てないよ!長次しか絶対に愛せない!これからも、死ぬまでずっと長次のそばにいたい!」 「名前1……」 「もー、こんなに愛情表現しているのに伝わらなかったの?じゃあもっともっと伝えるね!」 普段の愛情が深いから、たったあれだけのことに不安を感じてしまうことに名前1は気づいていないが、 「まずねぇ…。すっごく優しいところが好きでしょー?それから、細かいことに気づいてくれるとも好き!子供に優しいし、しつけ上手だし…」 これでもか!ってぐらい愛の告白をしてくる名前1を見て、ようやく口元に笑みを浮かべるのだった。 ▼ 奈緒さんより。 長次が嫉妬しちゃうお話。 ( TOPへ △ | ▽ ) |