夢/30万打 | ナノ

昔と繋がりと今


!注意!
低学年のころのお話になりますので、ショタになってます。
獣主二年生、竹谷一年生。





「すごい…」


生物委員会に入った一年ろ組、竹谷八左ヱ門は虫とり網を持ったままポカンと口を開けて呟いた。
目の前では、生物委員長と一つ上の先輩、虎徹が得意の獣を使って対戦、組み手をしていた。
どうしてこうなったか覚えておらず、小さな身体で大きな先輩にぶつかっていく虎徹は、身長も体格も変わらないはずなのに大きく見える。
勿論、六年生相手に体術で勝てるわけなどないが、獣の扱いは負けていない。
指示も早いし、的確。狼との信頼関係も抜群みたいで、名前一つで指示ができるほど。


「せ、せんぱいっ。おれ、あのせんぱい見たことないんですけど、だれですか?」


隣に立っていた五年生の服を掴み、興奮気味に名前を聞くと、二人の組み手を見ながら名前を教えてくれた。
最近入ったばかりの八左ヱ門だが、生物委員会のメンバーは全員覚えていた。しかし、虎徹の存在は今日初めて知った。
二年生なのに何であんなにも上手なのか。あんな風になりたい!と強く思い、鼻息荒く両手を握りしめる。
そのせいで虫とり網を前に倒してしまい、慌てて拾い上げた。


「マジであいつムカつくよな…」
「委員長に喧嘩売るなんて…身の程を知れっての」
「動物の扱いだけじゃねぇかよ。つか今使ってる狼って、前委員長が可愛がってた狼だろ?」
「二年生があの狼使ってんじゃねぇよ!」
「……せんぱいたちは、虎徹せんぱいがお嫌いなんですか…?」


隣で悪態をつく先輩に、八左ヱ門は小首を傾げながら純粋に質問をしてみた。
すると先輩は黙り、「何でもねぇよ」と言って八左ヱ門の頭を撫でる。
撫でられて嬉しかった八左ヱ門だが、先ほどの言葉が引っかかって素直に喜べない。
虎徹は未だ生物委員長と組み手をしていたが、そろそろ体力の限界をむかえはじめ、息が荒くなっていた。
それに気付いた委員長は組み手をやめ、頭を下げる。虎徹も肩で息をしながら頭を下げて、狼をどこかへと連れて行く。
委員長は見学していたメンバーに色々な指示を出し、虎徹同様狼を連れて行く。
八左ヱ門も言われた通り、虫カゴの修理を手伝い、その日の委員会活動はすぐに終了。


「つかれたーっ」


疲れたが、とても充実した委員会活動だった。
全員で片づけを終え、全員で食堂へと向かおうとしたが、虎徹だけ別の方向へと向かって行くのを見つけた。
不思議に思ってあとを追いかける八左ヱ門。
こそこそと後ろを追い、辿り着いたのは狼と鷹が飼育されている小屋。
委員会が終わったあとは動物を連れだしてはいけない規則になっている。


「ど、どうしよう…!」


先輩を呼んでくるべきか、自分が止めるか…。
その場であわあわと焦る八左ヱ門だったが、心配とは裏腹に、虎徹は狼や鷹を撫でるだけだった。


「……うれしそう…」
「誰かいるのか?」
「わっ!」
「…一年?なにしてんだ、お前」


こっそり見ているつもりが、思わず声を出してしまい、虎徹にバレてしまった。
怒られる!と思って隠れたが、虎徹は小首を傾げたまま怒らず近づいてきた。


「あ、あの…おれ…」
「えっと、新しく入ったのか?」
「はいっ。竹谷八左ヱ門っていいます!」
「竹谷な!お前もシロウさわりてぇの?」
「さわって、いいんですか…?」
「連れだすのはダメだけど、さわるのはいいんだよ!」


そう言って八左ヱ門の手をとり、狼の元へと連れて行く。
まだ一年生だから、狼は触らせてもらえなかった。だから、こんなに近くで見るのは初めて。
ドキドキと緊張する八左ヱ門を見て、虎徹は笑いながら「さわってみろよ」と言ってくれる。
目の前の狼、シロウは八左ヱ門の前でフセをして撫でられるのを待っている。


「わっ、ふかふか!」
「シロウはやさしい子なんだぜ!」
「せんぱいは、シロウとお友だちなんですか?」
「おうよ!シロウはおれのゲボクなんだぜ!それに、おれにあつかえない犬はいねぇ!」
「おお!」


えっへん!と自信満々に言う虎徹だったが、立ち上がったシロウに制服を噛まれ、思いっきり引っ張られて派手に転ぶ。
八左ヱ門が心配して近づくと、「いた…」と痛みに耐える虎徹の表情が見えた。
まだまだ未熟だ。と、狼は溜息をついて元いた場所に戻ってフセる。


「そっか、竹谷も動物が好きなんだな」
「はいっ。どうぶつも、虫もだいすきです!」
「おれも好きだぞ!うちが鷹匠やってるから、動物の言葉とかなんとなくわかるし」
「すごいですね!」
「いつか竹谷にもきこえるよーになるって!一緒にがんばろうぜ!」
「はい!」


その日はそれで別れ、寝る前に八左ヱ門は「あした、犬のあつかいを聞こう」と張り切って決意し、就寝した。
しかし、虎徹はそれっきり委員会に姿を現わさなかった。
先輩たちに聞いても、「さあな」としか言わず、会おうにもなかなか会えない。
次第に、「会いたくないんだ…」と思うようになり、八左ヱ門は寂しく思いながらも委員会を過ごしていた。
そうして、再び出会ったのが自分が三年のころ。
雨に打たれている虎徹は泣いているように見え、思わず声をかけてしまった。これ以上嫌われたくなかったし、また話したい。と言う気持ちがあったからだ。


「―――というわけでですね…、俺と虎徹先輩は一年のときにはもう会話してたんですよ」
「……悪い、全く覚えてねぇわ…」
「はぁ…。だと思いましたよ。それより、あの日の夜に先輩方に殴られていたことは初めて知りましたよ…」
「あっはっは…。まぁそれがきっかけで委員会に出ないようになったんだよなぁ…」
「だからって俺を避けなくてもよかったじゃないですか…」
「いや、あれはさ…。俺と一緒にいたら竹谷まで虐められるかもって思って…。……多分」
「そうでしたか…。お気遣いありがとうございます」
「いえいえ」
「さて、では小休憩はこれぐらいにして、組み手の続き、始めましょうか」
「おう。次こそは俺から一本取ってくれよな!」
「はい、次こそ取って見せます!」


昔大きかった狼のシロウは細くなっていたが、殺気や雰囲気だけは若い狼に負けていない。
そして、どの獣も扱えるようになった虎徹はあの日から何倍も強くなって、可愛い後輩にの前に立ち塞がり、余裕の笑みを浮かべて待ち構えていた。





りくたさんより。
獣主と竹谷の低学年のときのお話。


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