夢/30万打 | ナノ

六年生のおもてなし


そろそろお正月を迎える季節。
冬休みに入る忍術学園は、教室、長屋、食堂、職員室などの部屋を全て綺麗に掃除し、新年を迎える準備を整える。
下級生は数名、上級生はほとんどは学園に残り、年始年末を過ごすことになった。
朝から勉学や鍛錬に励み、普段と変わりのない時間が過ぎていく長屋だったが、六年生の七人はとあることを考えていた。
学園に残った者は、家が遠かったり、事情があって帰れなかったりするもので、決して帰りたくないというわけではない。特に下級生はそうだ。
いくら立派に忍者になるためとは言え、まだ子供なのだ。


「お前たちの気持ちはよぉく解った…。解ったが、食堂から出て行け!邪魔だ!」
「すみません、仙蔵さん!でも俺らだって何かしたいんですっ」
「もうつまみ食いしません。味見にしときます!」
「バカ小平太!お前のつまみ食いも味見も一緒だっつーの!お前のせいだぞ!」
「それを言うなら邪魔しかしてなかった虎徹のせいだろ?」
「んだと!?」
「やかましいわ!」
「「うわっ!」」


静かな学園の静かな食堂に響く怒鳴り声。声の主は学園一クールで冷静と言われている立花仙蔵だが、獣…もといバカ二人を前にすればこの通りである。
外では文次郎が真冬だと言うのに上半身裸になって薪割りをしており、食堂から追い出された小平太と虎徹を見て呆れるように笑って汗を拭う。
寂しがってる下級生たちに美味しいものを食べさせてあげよう。
最初にそう提案したのは、虎徹だった。それに賛同した六年生全員は朝から準備に大忙し。
広い教室を借りて、ちょっとした宴会場を作り、下級生が喜ぶだろうと飾り付けも行う。勿論、それは器用な留三郎の仕事。
仙蔵、長次が料理やお菓子を作り、文次郎がそのお手伝い。伊作は下級生たちにバレないよう、一か所にまとめて冬休みの宿題を見てあげていた。
六年生の他に、五年生と四年生も手伝ってくれている。
しかし、言いだしっぺとその悪友は全く役に立たないでいた。


「しょうがねぇ。俺らには俺らにできることしようぜ」
「何かあるのか?」
「おうよ」


追い出された二人は適当に学園を歩き、虎徹はニヤリと笑う。
つられて小平太も笑うが、頭の上にはハテナマークが浮かんでいた。


「町行くぞ、町!買い出しだ!」
「おー!」


うるさくて邪魔しかしない小平太と虎徹が町にでかけたおかげで、準備は問題なく進み、あっという間に夕方になってしまった。
すぐに闇が迫り、寒くて身体がブルリと震える。
身を寄せ合い、伊作が焚いた火鉢にあたりながら夕食を待つ下級生。
冬休みの間はできるだけ上級生がご飯を作るようにしてあげている。決まってるわけではない。六年生がそうしたいんだと名乗り出たからだ。


「―――そろそろだね…」
「伊作先輩?」
「皆、夕食の準備ができたみたいだから行こうか」


戸の向こうに人の気配。すぐに五年生の三郎の気配だと気付いた伊作は、「解った」とだけ三郎に伝え、下級生に笑顔を見せて振り返る。
隣に座っていた左近と、全員が首を傾げたが、伊作に促され、夕食へと向かう。
いつもは食堂なのだが、今日はとある教室。


「あの、食堂では…?」
「ううん、今日はここで合ってるよ。ともかく入って」


作兵衛の質問も笑顔で流し、戸を開ける。
不思議に思いながら、一年生、二年生、三年生とトーテムポールみたいになって部屋の中を覗いた。


『おおおおお!』


部屋は誰かの誕生日会のように派手に装飾されており、机にはたくさんの料理が並んでいた。
見たことのない料理の数々に下級生は目をキラキラさせ、喜ぶ。


「まだ早いけど、お正月だからね」
「今日は遠慮せずたくさん食べろ!」
「私と長次が作ったから味は保証する」
「………おかわりもある…」
「寒かったらちゃんと言えよ。布団も火鉢も持って来てるからな」


六年生の優しい言葉にさらに喜ぶ下級生たち。
廊下には五年生と四年生が微笑ましく後輩たちを見守っていた。


「なーにしてんだよ!お前らも入って食えよ!」
「虎徹先輩っ!?え、今までどこに!?」
「竹谷くん、野暮なことは聞かないの。いいから入れって!」
「で、でもこれは後輩たちを「それはお前たちもだ!どんどーん!」


小平太が無理やり部屋に押し込み、自分たちが最後に入ってから戸を閉める。
「埃をたてるな」と仙蔵に怒られ、自分たちも好きな席に座って下級生たちと一緒になって馳走になった。
下級生たちのために作ったものばかりだと思っていたので、四年生と五年生は戸惑っていた。
だけど、後輩が「おいしいですよ」「一緒に食べましょう!」と誘ってくるのを見て、自然と笑顔になって隣に座る。
やはり最上級生には敵わないな。と苦笑しながら食べる料理は、おばちゃんが作る料理とは違ったが、とても美味しい食事だった。


「あはは、皆楽しんでたねー」
「成功ってことでいいよな?」
「何を当たり前なことを言っている、留三郎。私が作った料理だぞ?」
「…美味しかった…」
「ちょーじのボーロもうまかったぞ!」
「おうともよ!さーて、最後の大仕事が残ってますなぁ」
「口ばっか動かしてねぇで、さっさと運べ」


長く、楽しかった夕食も終わり、学年関係なく遊んで騒いだ。
月は高い位置に昇り、寒さも増す。
文次郎の言葉に六年生は立ち上がり、食べて遊んで笑って疲れて寝た下級生を抱き抱える。
四年生が準備していた別の大広間には布団が敷かれており、起こさないように寝かせてあげる。
そうしている間に五年生がお皿を下げ、汚れた床や机を綺麗にする。
慣れているのか手際がいいのか、どれもすぐに終わった。


「では、僕たちも寝ます」
「とても美味しかったです。ご馳走様でした」


四年生で残っていたのは喜八郎と三木ヱ門のみで、六年生と五年生に頭を下げて、部屋へと戻る。
彼らも最後のほうは眠たそうな表情をしていたので、止めることなく笑顔で見送った。


「じゃあ俺たちも寝ますね」


五年生で残っていたのは勘右衛門と八左ヱ門と三郎で、同じく頭を下げて部屋へ戻ろうとしたら、虎徹が八左ヱ門の頭をガシッと片手で掴んで引きとめた。


「何を言ってんだい、五年生諸君」


驚いて顔をあげる八左ヱ門と、ちょっと楽しそうに笑っている勘右衛門と、面倒くさそうな顔を浮かべている三郎。
六年生は全員、ニヤニヤと笑いながら整列していた。


「大人の時間はこれからですよ?」
「見ろ!私と虎徹で買って来た!」


昼間、町へ買い出しに行って買ったのは大量のお酒。
こうなることは解っており、自分たちは自分たちで楽しもうと最初から考えていたのだった。
「面倒くせぇ」と言った言葉が三郎の顔に出ていたが、八左ヱ門と勘右衛門はノリノリで「付き合います!」と返事をして、三郎も巻き込む。
既に盃とつまみは用意されており、適当に座ってからそれぞれが盃を持つと、五年生が六年生にお酒を注ぎ始める。これも暗黙の了解。


「虎徹先輩、俺久しぶりに飲みます」
「そうか、そりゃよかった。たくさん買ってきたら遠慮せず飲めよな」
「はいっ!」
「ほら盃持てよ。俺が注いでやる」
「え!?」
「何だよ、まずくなるってか?」
「そんなっ…!あ、ありがとうございます!」


虎徹と八左ヱ門は安定の主従関係を皆に見せつけ、全員の盃にお酒が注がれた。
自然と視線が文次郎にむかい、文次郎はゴホンッと咳を払ってから盃を持っている手を少し上にあげる。


「もう残り少ねぇし、これから先、一緒に酒を飲むなんてないだろう。だからお前ら、楽しんで飲め!」
『おう!』


下級生たちを起こさないように気をつけながら、乾杯。
四年生にはまだ早い。五年生と六年生にしか楽しめない大人の時間が今、始まった。





「虎徹先輩」
「……おう、竹谷。どうかしたか?」


飲み会は夜遅くまで続いていた。
冬だと言うのに鍛錬組はほぼ裸に近い状態で騒いでいる。
仙蔵は珍しく始終笑っており、羽目を外しているようだった。
全員が楽しく、騒いでいたが、虎徹だけはある程度楽しんだあと、席を外した。
寒い廊下に出て、月をボーッと見ながらゆっくり飲んでいる。
いつもと様子が違う虎徹に、後輩の八左ヱ門が気づいてお酒を持ったまま隣に座った。


「いえ、いつもと何だか様子が違ったので…。た、楽しくなかったのですか?」
「楽しすぎてちょっとなー」


盃を縁側に置き、下ろしていた片方の足をあげて苦笑を見せる。
普段は明るくて元気いっぱいの虎徹。八左ヱ門もそんな虎徹しか見たことがない。
しかし目の前にいる虎徹は何だか寂しそうに見えた。それと同時に、妙な色気を感じた。
男の色気とでも言うのだろうか。女では出せないような色気に、八左ヱ門は視線を前へと向ける。


「酒はうまいし、友は楽しいし、後輩は可愛い。それもあと数ヶ月だと思うとねぇ…」


虎徹の声は耳に届いていたが、脳には届いていなかった。
盃を持ったままチラリと横目で虎徹を見ると、彼も前を向いて笑っていた。
すぐ寝れるようにと寝間を着て、髪の毛を下ろしている。
小平太に似てボサボサの髪の毛先は四方八方にはねており、無防備に晒されている喉や肩にまとわりついていた。
寂しそうに目を細め、「俺らしくないよな」と八左ヱ門に顔を向ける。


「っ…!」


月明かりを浴びた虎徹の頬は若干赤く染まっており、心臓が高鳴ってあからさまにそっぽを向いてしまった。


「んだよー、寂しがる俺が気持ち悪いからってそんな態度はねぇだろぉ」
「い、いえ…。そうではなく……」
「つーかちょっと顔が赤いぞ。あんま飲みすぎんなよ」


これは確実に虎徹のせいだ。
そんなことを言えば「はぁ?」と怒るだろうから、「はい」とだけ答えた。
それ以降特に会話することなく、静かな時間が流れる。
沈黙の時間さえ、気持ちいいと思う二人は、お互いの心内が解っているのか、ニッと笑顔を見せて盃に入っていたお酒を飲みほした。


「うーし、恒例の早飲み勝負するか!」
「今度こそ勝たせて頂きます!」
「よく言った!小平太、五年と飲み勝負だ!」
「おっ、今日もやるのか!?よし、私は鉢屋と勝負しよう!」
「今夜こそ負けませんよ。私だってそれなりに強いんですからね」
「ならば尾浜。お前の相手は俺だ」
「潮江先輩ですか。うわー、俺負けちゃいそー」


勿論、早飲み勝負だけですむことなく、太陽が昇るまで宴会は続くのだった。





匿名さんより。
六年と酒盛りで色気のある獣主のお話。


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