夢/30万打 | ナノ

新しいお遊び


「すまん、勘右衛門!俺の代わりにあいつらの散歩行ってくんねぇ!?」
「えー……。俺、ちょっと用事があるんだけど…」
「そこをなんとか!今日中に課題提出しねぇと進級に関わるんだ!」
「はっちゃん…。授業中居眠りするのはよくないよ?」
「うっ…。こ、今度から気をつけるからお願いします!」
「解ったよ…。散歩って山犬?」
「おう!頼んだ!」


と言われ、山犬がいる裏庭へと向かうと、そわそわしている山犬が待っていた。
まぁ…。はっちゃんには色々と迷惑かけてるし、助けてもらってるからこれぐらいいっか。
用事って言っても町に遊びに行くだけだったもんな。
たまには友達を助けて恩を売るってのもいいよね!


「ほらほらお前たち。ジッとしてないと連れて行かないぞー」


はっちゃんが躾をしたのか、それとも生物委員会の委員長である虎徹先輩が躾をしたのか解らないが、俺の言葉に山犬たちは尻尾を振りながらお座りをした。
素直で賢い子たちだな…。でも、部外者である俺の言うことを聞くのはどうかと思うぞ?忍犬失格だ。


「―――ああ、今さっきはっちゃんと一緒にいたから、その匂いが残ってんのかな?」


だとしたらやっぱり賢い子たちだ。
繋がれていた鎖を離し、三匹の山犬と一緒に門へと向かう。
途中で食満先輩や善法寺先輩と出会って、驚いた顔をされた。
「珍しいな」って言われたけど、俺が働くのってそんなに珍しいのかな?友達からの頼みごとは断れない性格だよ?


「おっ、勘ちゃん。山犬連れて何してんだ?忍務か?」
「あ、虎徹先輩」


小松田さんに事情を伝え、門を開けてもらっていると、生物委員長の虎徹先輩がやってきた。
手ぶらでのほほんと歩いてるその姿は、とても委員長を務めている姿に見えない…。
それが先輩らしいと言えばそうなのだが。


「はっちゃんも苦労してんなぁ」
「え、なんて?」
「いえ、何も。それより虎徹先輩お暇ですか?」
「いや、暇じゃねぇよ」
「お暇ですよね?俺、山犬の扱いあまり解らないので手伝ってくださいよー」
「嘘つけよ…」
「先輩、お願いします!」
「しょうがねぇなぁ!」


虎徹先輩は後輩に甘い。だから、「お願い」をすると大抵のことを聞いてくれる。
五年生相手にもそれがきくから俺はよく使ってる。忍者なら、使えるものは何でも使わないとね。それが例え尊敬する先輩であっても。
後頭部をかきながら近づいて、しゃがんで山犬の頭を撫でてあげると、山犬はキューンと鼻を鳴らして甘え始めた。


「勘右衛門、紐離していいよ」
「え?でもそんなことしたら逃げませんか?」
「俺がいるから大丈夫」


六年生に「大丈夫」と言われたら、ホッとするのは何でだろうね。
やっぱり、実力が伴ってるかな?俺もそんな頼れる先輩になりたいな。
言われた通りつけていた紐を離してあげると、山犬たちは身体を振って、尻尾をピンッと立てて虎徹先輩を見上げる。


「よしよし。さあ、散歩に行こうか」


虎徹先輩が先に出て、続いて山犬が出る。最後に俺が出ると門を閉められた。
うーん…。紐なしでいいなら俺がいる必要ないよね?
と思ったけど、八左ヱ門に頼まれたので、山を登ろうとしている虎徹先輩を走って追いかけた。
山犬たちは嬉しそうな表情で山を駆けのぼり、草木の匂いをかぐ。
時々、虎徹先輩を振り返って、虎徹先輩が「いいぞー」と言うとまた走り出す。まるで確認をしているみたいだった。


「いっつもこんな散歩してるんですか?」
「さあ?俺は散歩しねぇから」
「え、しないんですか?」
「山犬の散歩は下級生がしたがるんだ。だからしないようにしてる」
「ああ、なるほど」
「でも何で今日に限って勘ちゃんがしてんだ?」
「八左ヱ門に頼まれたんです」
「……そう言えば今日は一年生も三年生もいないんだっけ?」
「下級生たちは戦場見学しに行ってますからね」
「あー……言ってたな。すっかり忘れてた」
「ちゃんと委員会出てます?」
「最近またサボってる」


虎徹先輩はあまり委員会に顔を出さない先輩として有名だ。
有名と言っても、知ってるのは六年生と五年生と伊賀崎程度。
過去に卒業していった先輩たちと色々問題があって、それをよく目撃したから知っている。特に下級生のころは酷かった…。
それが原因で、先輩は委員会に顔を出さない。
六年生になってからは出すようになったらしいけど、他の六年生に比べたら全然…。
八左ヱ門は、「動物は生物委員以外にもいるから、そっちに忙しいんだ」って笑ってたけど、やっぱり出るべきだよねぇ。


「ハナコ、ちょっと離れすぎだぞ」
「虎徹先輩。そんなに卒業していった先輩方はお嫌いでしたか?」
「え、なにいきなり」
「いえ、ちょっと気になりまして」
「んー…。まぁ卒業していったしな。ああ、嫌いだよ」
「偉そうだったからですか?」
「まぁな!だって俺より動物の扱い下手なくせに偉そうにすんだぜ?そりゃあ確かに強かったってのあるけど、偉そうにする人間には従えないんだよなぁ!」
「とは言いますが、立花先輩も偉そうではありませんか?」
「あっはは!勘右衛門、ハッキリ言いすぎだぞ。でも仙蔵は、偉そうじゃなくて偉いんだ。実力が伴ってるし、自分の立ち位置というものも理解してる。賢いから俺らの頭になって色々命令するのは、「偉そう」じゃないと俺は思うんだ」
「…ふむ、そうですね」
「とかなんとか言うけど、動物の扱いでは負けたくなかったから反抗してただけなんだよ。現に、先輩方は竹谷や勘ちゃんたちには優しかっただろ?」
「………虎徹先輩って結構負けず嫌いなんですか?」
「動物の扱いのみな」


にしし!と歯を見せて笑う虎徹先輩は、俺より幼い子供に見えて、思わず笑ってしまった。
でも虎徹先輩の言うことも理解できる。
俺も万力鎖では誰にも負けたくない。あと、お団子早食いでも。


「気持ち、解らなくもないです」
「勘右衛門も負けず嫌いだよな」
「ええ、まぁ。それより山犬の姿が見えないのですが大丈夫ですか?」
「おお、あいつらいつの間に…。浮かれてんなぁ」


苦笑しながら名前を呼ぶと、すぐに姿を現わして虎徹先輩に擦り寄る。
先輩は「目の届く範囲にいろよな」と軽く叱っていたが、顔には締まりがなかった。
動物が好きなんだとすぐに解って、俺も山犬の頭を撫でてあげる。


「他にも理由ありますよね?」
「……何で?」
「下級生のころ、よく怪我をされてたのを見てましたから」
「よく見てるな。しかも記憶力抜群ですか」
「これでもい組ですからねぇ」
「お見それしました。そうだな、俺が一年のころの六年生はよかったよ。次もまぁ…。その次がなぁ……」


虎徹先輩が三年生のときの委員長が最悪だったらしい。
性格が合わないってのもあるけど、動物の扱いが酷かったと虎徹先輩は目を細める。
動物が大好きな先輩にとってそれはタブーだ。
動物の扱いについて何度も衝突したうえ、殴り合いの喧嘩もした。
六年と三年では腕力と体力に差がありすぎる。一方的に殴られ、骨折したとケラケラと笑いながら思い出を語ってくれる。


「骨折したなんて…想像できませんよ」
「俺だって可愛い時期はあったんだぜ?」
「あはは!可愛いってのは言いすぎですよ、せんぱーい」
「いやいや、マジだって!」


その後も、虎徹先輩の昔話を聞きながら散歩をして、適当な時間になってから学園へ戻って来た。
学園内ではさすがに紐をつけ、もといた場所に戻してあげる。


「じゃあ俺は先に帰るな。ありがとう、勘右衛門」
「いえいえ、面白いお話が聞けてよかったです」


山犬を戻してから、虎徹先輩は笑って長屋へと帰って行った。
うん、面倒だなって思ったけど、なかなか面白かった!八左ヱ門には感謝しないとね。


「おーい、勘右衛門」
「あ、八左ヱ門!丁度よかった」
「散歩ありがとな!……なんかすっげぇご機嫌だな。そんな遠くまで行ってくれたのか?」
「いや裏山まで。きっと虎徹先輩が来てくれたからかな?」
「っ虎徹先輩来たのか!?」


両肩を掴まれ、迫真な表情の八左ヱ門に思わず身体に力が入った。
はっちゃんが虎徹先輩が好きなのは知ってたけど…、こんなに慕ってたんだ…。あはは、犬みたい!


「何で!?最近来ないと思ったら……何で今日に限って…ッ!」
「たまたま見かけてさ。手伝ってもらったんだよ」
「ずるい!俺も一緒に散歩行きたかった!」
「知らないよ…。はっちゃんがちゃんと授業受けないからでしょ?」
「くっそォ!」


すっごい表情で悔しがる八左ヱ門を見て、あることを思いついた。
うーん、俺って意地悪!


「一緒に散歩しながら虎徹先輩の面白い話聞いちゃった!」
「え、何!?なに聞いたんだ!?」
「えー?過去の話とか…まぁ色々?」
「なんだよそれ!お、俺にも教えてくれ!なんの話!?」


虎徹先輩との会話も面白かったけど、八左ヱ門の反応もなかなか!
また時間があったら一緒に散歩に行こっかな!





直さんとダージリンさんより。
竹谷が悔しがるのと、勘右衛門と意気投合するお話。


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