恋人ができました !注意! 名前と八左ヱ門がまだ特務機関に異動してないころのお話になります。 「報告するの忘れていましたが、私、恋人ができました」 同期のメンバー、上司の先輩方と食事をしながら他愛のない雑談をしていた。 とは言ってもほとんど軍の話で、時々昔の話。 早く食べ終わって仕事に戻らないといけないんだけど、あまりにも懐かしくて、楽しくて、食べ終わるのが惜しい。 先ほどまで同期のメンバーとエイプリルフールについて話していたから、三郎が潮江先輩や留三郎先輩に嘘をついては遊んでいた。 雷蔵も兵助も、勘ちゃんや八左ヱ門まで嘘をついていたから、私も嘘を皆に言ってみた。 勿論、私に恋人なんていない。というか、恋人を作る時間なんてない…。言っててちょっと悲しいけど。 だけど私の言葉にその場の空気は凍りつき、沈黙が流れ始める。 近場に座っていた兵たちは異変に気づいて早々に去って行くのを生唾を飲み込みながら目で見送った…。 「あ、あの…」 何だろうか、この空気は。嘘なのに何でこんなに………。 そ、そうか!本気にしちゃったんですね! この流れならどう考えても「嘘」だって解るのに何でッ…。 弁解するため声をかけようと同時に、隣に座っていた三郎に腕をガッ!と掴まれ、驚いた。 「さ、ぶろう?えっと…」 「どいつだ」 「は?」 目を細めて私を睨んでくる三郎の背後には、殺気みたいなものが漂っていた。 三郎の質問をきっかけに沈黙はなくなり、近くにいた者同士で何かを話出した。 「同じ機関の奴か?」 「あの三郎、今のは「ねぇ名前、僕らもちゃんと挨拶したいから教えてよ」 三郎の前に座っている雷蔵がニッコリと優しい笑みで声をかけてきたけど、背筋に寒気が走って口元が引きつった。 八左ヱ門に助けを求めようと視線をうつすと、彼は不機嫌そうな顔で私を見ていた。 そう言えば、隣から強い視線を感じる…。因みに隣は兵助だ。 「あはは、一緒にいたのに全然気づかなくてごめんねぇ!俺も祝ってあげたいから教えてよー。立花先輩もそう思いますよね?」 「そうだな、可愛い後輩に恋人ができたんだ。祝ってやるから名を言え」 勘右衛門の隣に座っていた立花先輩も普段と変わらない表情…。だけど雷蔵同様、背筋が凍るような雰囲気を漂わせていた。 これは……自分が思っている以上に厄介な展開になってきたぞ…。 たちの悪い冗談だったかな?ううん、今さっき八左ヱ門が「恋人できました」って言って、「嘘だろ」って皆で笑ってたもん。 私も笑われると思ったのに何でよ。 「いつも一緒にいる留さんなら知ってるんじゃない?」 「いや…。つーか忙しいし作れる暇ねぇだろ」 「そ、そうで「休憩中とか、夜とか…。お前と離れる時間はいくらでもあるだろ」 「うっせぇな、んなの解ってるよ!だから不思議でなんねぇって言ってんだろ!」 「……名前…」 「長次先輩っ。長次先輩なら解ってくれますよね!?」 「…いつからだ?」 もそもそと呟く長次先輩の言葉を聞いて、その場はまた静まりかえった。 「い、…いつからも何も、…あの、私…。恋人なんていません…。嘘です…」 「名前」 「兵助、ごめんね。皆も嘘ついてたから私もついちゃったの」 「相手を庇ってるつもりだろうが、俺は信じてないぞ。いいから名前を教えてくれ」 「兵助っ…!」 だからッ、何で信じてくれないの!?なんで信じて欲しくないことを信じるの!? どうやって誤解を解こうかと唸っていると、箸を置いた七松先輩がカツカツと音を立てて近づいて来た。 「名前ッ」 「はい…」 「別れろ!」 笑顔でハッキリ告げる七松先輩だったけど、目が笑ってなかったので思わず「はい」と頷いてしまい、その場はようやく落ち着いた。 それからご飯が残っているにも関わらず、喉を通ることなく楽しかったはずの昼食を終え、食満先輩に連れられ機関へと戻って行った。 「いいか名前。恋人を作るのは自由だが、できれば付き合う前に俺たちに会わせてくれねぇか?」 「(本当は恋人なんていないんだけどな…)」 「名前?」 「わ、解りました。…あの、でもなんで…?」 「そいつが強いか弱いか確認するために決まってるだろ」 「はぁ…」 笑って教えてくれた先輩に訳が分からないと溜息を吐いて俯いたせいで、鋭い視線で廊下の先を睨んでいる先輩の顔を見ることはできなかった。 「立花せんぱーい、俺ら当分の間、準軍事にいたほうがよくないですか?」 「そうだな。名前が恋人にうつつを抜かして辞められたら困るからな」 「仲のいい八左ヱ門や、一緒にいる食満先輩も知らないとはな…。最近油断していたな、勘右衛門」 「あはは、ほんとだねー」 「ふむ…。やはり留三郎のところではダメだな。今回のことでよく解った」 「ですね。ちゃんと手を打って下さいよ、大事な友人なんですから」 「お願いしまーす」 ( TOPへ △ | ▽ ) |