夢/嘘 | ナノ


五年生に嫌いと言う


●兵助のバヤイ●

「あのね、私兵助のこと嫌いなの」
「……」
「あ、固まった」
「…いつの間にかお前に嫌われるようなことをしていたんだな。すまない、名前」
「あれ?」
「できれば、どこがダメなのか教えてくれないだろうか。たったそれだけでお前との友情を終えてしまうのは耐え難い」
「あ、あの兵助…」
「それとも長年我慢してきたのか?…そ、そうだとしたら俺は名前になんて詫びれば…!」
「ちっ違うの兵助!嘘だよ嘘!兵助のこと大好きだよ。嫌いじゃないから!」
「…好き?」
「うん、好き好き!嫌いじゃなくて好きなの!」
「そっ…!名前っ、女性が無闇やたらに「好き」なんて言うもんじゃないぞ!いいか、そういうのは将来、夫となるべく人に言うものであって……。いや、嫌いじゃない。お前からそう言われると嬉しいんだが、…やはりダメだ…!」
「兵助…、真面目すぎるよ…」

兵助は真面目なのでそのまま受け取ってしまう。



●勘右衛門のバヤイ●

「あのね、勘右衛門。私勘右衛門のこと嫌いなの」
「えー、なんで?」
「……なんで?」
「うん。だって嫌いになるってことは何か理由があるからでしょ?その理由を教えてよ」
「(そこまで考えてなかったなぁ…)」
「で、理由は?」
「ごめん、勘ちゃん。嘘だよ」
「ちぇ」
「え?」
「これで終わりかー。面白そうな切り返ししてきたらいいのに」
「…なんかごめん」
「嘘つくのもいいけど、次の手を考えてないとダメだよ?」
「ご、ごめん…!(ダメだしされた…)」
「ま、名前が俺のこと嫌いになっても俺は逃がさないけどねぇ」
「勘ちゃんって時々黒いよね…」
「素直って言ってよ!」

なんでも楽しもうとする性格だが、若干黒い。



●八左ヱ門のバヤイ●

「八左ヱ門が嫌いなの」
「……どうした、いきなり」
「いっつも私のことバカにするし、子供みたいに頭撫でるし…」
「そ、そんなことしてねぇよ!」
「してるよ。だから八左ヱ門嫌い。だーい嫌いっ」
「なんだよそれ…。俺はお前のこと好きだぞ!確かに俺らの中じゃ体力ねぇけど、頑張ってるの知ってるし、絶対弱音吐かねぇし…。そういうとこ認めてんだぞ!?いっつも笑顔なのもいいし、時々照れた風に笑うのも好きだし…。俺はお前のこと大好きなのにっ…!」
「わ、解ったから大声で言わないでよ恥ずかしい!」
「じゃあ俺のこと好きか!?嫌いになってねぇか!?」
「嫌いになってない。なってないから泣きついてこないで!」
「何だよ!やっぱり嫌いなんじゃねぇか!」
「そうじゃないよ!うえーん、三郎、雷蔵ー!誰でもいいから八左ヱ門止めてッ!」
「おい待てよ名前!」

素直すぎる。嫌われたくないので必死。



●雷蔵のバヤイ●

「雷蔵」
「どうしたの、名前」
「私ね、雷蔵のこと嫌いなの」
「え?……そっか、名前は僕のこと嫌いなんだ…」
「…(あれ?なんか………)」
「何で嫌いになったかじっくり聞かせてほしいな」
「いっ…。あ、あの雷蔵さん…、手首痛いです」
「うん、だって名前、今の僕見たら逃げようとするでしょ?だから逃げ出さないように捕まえてるの」
「に、逃げません!逃げないから離して下さいっ…」
「断る。それより理由を教えて」
「雷蔵さんっ、目が据わってますよ!」
「そりゃあ好きな子から嫌いなんて言われたら悲しいでしょ?」
「悲しそうな目じゃないよ!?ごめんね雷蔵!本当は大好きだよ!」
「それ本当?」
「うん、本当も本当!」
「ふふっ、嬉しいなぁ。ありがと、名前。僕も名前が好きだよ」
「あ、あははは…」

普段は温和。許されない領域に入った途端温和じゃなくなる。



●三郎のバヤイ●

「さぶろー、ちょっといい?」
「丁度いいところで会った。名前、突然だが、私はお前が嫌いだ」
「えッ!?」
「前々から思っていたのだが言えなくてな…。ようやく言えてスッキリした」
「え……そ、それ本当…?私…っ、三郎に何かした?だったらごめんね!全然気づかなくてごめん。ちゃんと直すから嫌いにならないで!私は三郎が好きだよ!」
「ああ、私も名前が好きだぞ」
「……れ?」
「お前さ、解りやすすぎなんだよ。あと八左ヱ門同様単純すぎ」
「…騙したの!?」
「騙そうとしていたから逆に騙してやっただけだ」
「むー…、三郎めぇ…」
「でもそれで気持ちが解っただろ?」
「気持ち?」
「兵助たちから全部聞いた。あいつらがどんだけ悲しんだか身にしみて解っただろ?」
「…はい…」
「冗談でも言っていいことと悪いことがあるぐらい知ってるくせに」
「ごめんなさい」
「解ればいいさ。まぁ、私たちの好きとお前の好きは意味が違うけどな」
「先輩たちにもやろうとしたけど、止めとくよ…。絶対に怒られる…」
「……名前」
「え、なに?」
「お前さ、人の話は最後まで聞けよ」
「何か喋ってた?え、ごめんね!?」
「はぁ…」





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