七松家夫婦で「離婚してください」 「離婚して下さい」 今日はエイプリルフールということなので、さっそく小平太に嘘を言ってみました。 こんな嘘、小平太にはすぐバレるから意味ないんだけど、せっかくなのでついてみたら、小平太は真面目な顔になって私をジッと見つめてくる。 もしかして本気にした?小平太には嘘はすぐにバレるはずなのに……。 小平太が喋らないから私も黙って彼を見ていると、彼は一度目を閉じて私の名前を呼んだ。 「実はな、私も名前と離婚したいんだ」 「え?」 「他に好きな奴ができたから離婚してくれ」 まさかの切り返しである。 一瞬心臓が止まり、血の気が引いた。 小平太は嘘なんてつけない性格。だから……これは…まさかっ…! 「こ、小平太…」 「でな、そいつがもう来てるんだ」 「えッ!?ど、どういうこと!?」 衝撃な告白に軽い眩暈が襲ってきたが、真実が知りたくて彼の名前を呼ぶと、さらに衝撃的なことを言ってきた。 ドキドキというより、ドッドッと心臓の音が鳴り響いて苦しい…。 やだ、離婚なんてしたくない…!小平太とずっと一緒にいたいのにこんな…。 泣きそうな目で小平太を見ると彼は私を無視して玄関へと向かう扉に近づき、開けた。 「入ってこいよ」という小平太の言葉に、遠くから高い声で返事をする。 ……ん? 「よいしょ…よいしょ…」 入って来たのは、私の洋服を着た長男だった。 ズリズリとスカートを引きずって、一生懸命歩いている。 化粧もしていたけど、下手すぎておかしなことになっている。 吹き出しそうになったのを堪え、俯いた。わ、笑っちゃダメだ…! 「私の好きな奴だ」 「…ん…、そ、そっか…!」 「ふー…、歩きにくい…」 「どうだ、可愛いだろう?」 「ふっ…!……ぐ、…うん…」 長男は小平太の足に手をつき、一度呼吸を整えてから私をキッと睨んできた。 だ、ダメ…!その顔でこっち見ないで!口紅が唇からはみ出てて…なんか面白いことになってるから! 「父ちゃんはオレのだ!―――間違った!小平太さんはわたしのです!だ!」 間違ったことを盛大に言わなくていいよ! 可愛い!バカワイイってのはこの子のことを言うんだと思う! 「母ちゃんには小平太さんはふさわしくないですわ」 「そ、そっか…。それは…そうだね…」 笑いたいのを精一杯我慢し、長男の演技に便乗してあげる。 小平太は関係なく笑っていて、長男の頭を撫でてあげていた。 「わたしのほうが父ちゃんさんをあいしてます。だからわかれてください!」 「わ、私も…っ…、その…小平太のこと愛してるから…、それは無理、だ…よ…っ…」 「きぃ、なによこの母ちゃん!ちょっと小平太さん、なんとか言ってくれ!」 日本語がめちゃくちゃで、何を言っているのかちょっと解りにくい。 長男が小平太を見上げると、笑っていた小平太は笑うのを止めて私に近づいて来た。 小平太の行動の意味が解らなくて、私も笑うのを止めて彼を見ていると、隣に座って肩をグイッと寄せられた。 「すまんな。やはり私は名前が好きだ。だからお前とは結婚できん」 「小平太…」 演技なのは解ってるけど、何だか嬉しくなった。 本当はそのまま抱きつきたいけど、子供の手前、できなくてジッと見つめるだけにしておいた。 「くっ…。それならしかたない…。オレは身を引こう。さらばだ!」 まるでヒーローアニメに出てくるような悪役みたいに捨て台詞を言って、身を翻して出て行った。歩くのは相変わらず遅いけど。 廊下に出ると扉を閉めることなく、廊下で待機していた弟たちからタオルを貰って化粧を落としていた。姿は見えないけど子供たちの声だけでなんとなく解った。 「小平太、子供たちと一緒に考えたの?」 「おう。ビックリしたか?」 「本気でビックリした」 「そうか!でも私もビックリした」 「うん、ごめんね。嘘でもこういうのは言わないほうがいいね」 「だな!」 「父ちゃん、母ちゃん!」 彼らを待っている間今さっきの嘘を謝り、笑い合っていると、化粧を落とし……きれてない長男が勢いよく入ってきた。 後ろには弟たちがワラワラといて、私を騙せたことに満足そうに笑っていた。 「ねえ、口が赤いよ?」 「こ、これは…!肉食ったからだ!」 「ダイレクトな食事したねぇ」 「それより今さっきの女だれだ!?」 「何でもないよ」 「それに別れるって聞こえた…」 「嘘だよ嘘。小平太のこと好きだし、皆もいるし別れない」 「そっか!オレも母ちゃんと父ちゃん、弟たちが大好きだからずっと一緒にいたい!」 「うん、私もだよ」 そう言うと少し照れくさそうに笑って、私と小平太の間に飛び込んできた。 それに続いて他の子供たちも私と小平太に抱きついてきた。 「小平太、これからもずっと一緒にいようね!」 「勿論だ。名前が嫌だって言ってもずっと一緒にいるからな!」 「うんっ」 ( TOPへ △ | ▽ ) |