夢/10万打夢 | ナノ

デートと出会い


!諸注意!

現代パロです。苦手な方は進まないように。
若干ですが、転生編を読んでいないと解らない、かも?
1年は組も小学生として出てきますが、彼らには記憶がありません。





「うおおおお!やって来ました動ッ物ッ園ッ!」
「うるさい!」
「いでッ」


後頭部を抑えながらその場に座りこむのは、私服姿の男名前。
その後ろには面倒臭そうな顔をした仙蔵。拳からは漫画のように煙があがっており、男名前の後頭部を殴ったのは仙蔵だとすぐに解る。
さらにその後ろにはいつものメンバーが並んでおり、苦笑するものもいれば、普通に笑っているものもいた。


「なんだよ。せっかく皆部活もバイトもないからデートに誘ったって言うのに…!」
「動物園にか?高校生にもなってデート場所が動物園か?男名前、お前女にモテないだろう」
「……何故知っている…」
「昔から知っていたが、お前と小平太は本当にバカだな」
「小平太ー、仙蔵がお前のことバカだって!」
「お前もだ!」
「だ、だから殴るなって!」
「まぁまぁ二人とも落ちついて」


動物園に入ってすぐの場所で言い争いをしているものだから、係員の人や動物園に遊びに来た人たちから注目を浴びていた。
伊作が視線に気づいて男名前と仙蔵の間に入ろうとしたが、その手前でつまずき、男名前に向かって倒れる。
二人して頭を打ちつけ、いつもの不運な展開に留三郎が溜息を吐きながら二人を起こしてくれた。


「ったく…。どこに行っても騒がしい奴らだな…」
「……だが、懐かしい…」
「まぁな」


三人の様子を静かに見ていた文次郎、長次が笑っている間、今度は小平太が三人に向かって突撃し、三人揃って小平太の下敷きになってしまった。
さすがにここまで騒ぐと係員が近づいてきたので、仙蔵はサッと四人から離れ、文次郎たちのとこに戻る。
友達ではあるが、こういったときには友達と思われたくないらしい。
「元はと言えば仙蔵が男名前を殴るから」なんて言えない文次郎と、言う気がない長次は係員に謝る留三郎を見て思った。


「改めて…。動物園にやって来たぞー。さ、どこ行く?」


まだ入り口だと言うのに留三郎は精神的に疲労しきっており、伊作もすでに膝を負傷している。
元気なのは男名前と小平太のみ。


「何が悲しくて男六人で歩き回らんとならん。私は一人で行動させてもらうぞ」
「…動物園に来たことは嫌じゃねぇのか?」


五人に背中を向けて歩き出す仙蔵を、文次郎が止めた。
仙蔵のことだから、「こんな獣臭いとこいたくない」と文句を言うと思っていたのに、回る気があるのに驚いた。


「私がいつ動物嫌いなんて言った?色んなものを見て、調べて、学ぶことは悪いことではない。絶対に将来に役立つからな」
「ああ、お前はそういった奴だったな」
「そういうことだ。行くぞ、文次郎」
「俺もかよ」
「えー、皆で回ろうよー!」
「すまんな伊作。文次郎は回る順路があるらしい」
「あ、テメェいつの間に!」


仙蔵がフッと笑って懐から取り出したのは、少しよれたパンフレット。
パンフレットのあるページにはここの地図が載っており、目立つ色で線を引かれていた。
実は文次郎も楽しみにしていたみたいで、自分なりの順路を組み立てていたのだ。
それを知っていた仙蔵はパンフレットをいつの間にか盗って我が物顔で広げ、その順路通り進んで行く。


「じゃあまたここに集合な!」
「了解した」
「おい仙蔵!俺の話聞いてるのか!?」


二人を見送ったあと、五人でどこから回るか話し合うのだが、なかなかまとまらなかった。
入園してすでに三十分は経とうとしている。


「だーかーら!ライオンは目玉だぞ!?最後に決まってるじゃねぇか!」
「嫌だ!私は一番最初にライオンを見たい!」
「お前草食系に興味ねぇからライオン見たらすぐ飽きるだろ!」
「興味あるぞ!」
「どうせ「美味しそうだな」って言うんだろ!ここ現世だぞ!?サバイバルの必要ねぇんだからそんなこと考えるなよな!」
「だって美味しそうなんだもん!」


百獣の王であるライオンを最初に見たい小平太と、最後に見たい男名前は言い争いを止めない。
伊作が二人を宥めようとするのだが、熱くなっている二人の耳には届いていなかった。
長次は入園すぐにある猿山を一人で眺めており、留三郎は周囲の目を気にして二人を止めようとする。


「じゃあもう俺らも別れようぜ。男名前と俺と伊作で順路通り進んで行くから、小平太と長次は先にライオン見て来いって」
「おお、そうだな!ちょーじ、ライオン見に行こう!」


小平太に呼ばれた長次は特に文句を言うことなく、コクンと頷き、走り出す小平太を追いかける。


「俺らは順路通りに進もうぜ。それでいいだろ」
「留三郎…。お前はほんっと優しいな…!よし、じゃあ三人で行こうぜ!」


機嫌を良くした男名前を見て、留三郎もやっと安堵するのだが、テンションの高い男名前を見て気を引き締める。
きっと動物を見てテンションをあげるだろう。しかも男名前は動物に好かれている。きっと何かあるに違いない。
男名前を止める仙蔵はいない。伊作も役に立たない(不運的な意味で)。信じられるのは己のみ。


「猿可愛いな!」
「可愛いねー!」


だけど、猿山を眺める男名前と伊作を見て、ふっと笑みをこぼして伊作の隣に立つ。
きっと問題を起こすだろうが、やっぱり友達と一緒にいるのは楽しい。
はしゃぐ二人を見ながら自分も笑う。


「………おい、なんか騒がしくねぇか?」
「そ、そうだね…。ボスっぽい猿が男名前を見て威嚇してる…」
「だな。きっと俺を敵だと思ってんだろ」
「動物がお前に喧嘩売るなんて初めて見たぞ」
「売るさ。昔は常に獣に殺気飛ばしてたけど、今の俺、殺気出してねぇもん」
「そうだったの?え、恐怖で使役してたの?」
「野生動物にはな」
「へー…、初めて知った」
「とにかくこれどうにかしろよ。他のお客さんも怖がってるぞ?」
「しょうがねぇなぁ…」


そう言って男名前は目を細め、猿山の頂きに座っていたリーダーらしき猿を睨みつけた。
するとすぐに黙り、静かに男名前を見つめる。
リーダーが黙ると周りにいた猿も黙り、いつもの穏やかな時間が流れ始めた。


「お前、一つの場所にあんまり長居しねぇほうがいいんじゃね?」
「いつもはしてねぇよ」
「いつもは?」
「ふっ…。俺はここのフリーパスを持ってんのさ!」


猿山をあとにしながら男名前は懐から動物園のフリーパスを取り出し、二人に見せつける。
一ヶ月に一回は絶対に顔を出していると自慢気に言う男名前を、二人は「さすが動物バカ!」とお腹を抱えて笑う。
その後も順路通り進んでいき、あまり長居することなく動物を見ていた。
男名前の異常なテンションの高さに時々留三郎が止めたりするも、特に問題なく進んで行く。


「ここが俺のお勧めでーす!」


ある程度回ったあと、辿り着いたのは小動物や鳥が集まる「お触りコーナー」。
たくさんの子供たちで賑わっており、高校生の自分たちがその場にいるのは不釣り合いだ。
だけど男名前は関係なく可愛い兎に囲まれ、はしゃいでいる。
その場にいた兎が全て男名前に集中するので、子供たちが不服そうな顔を浮かべるのだが、男名前は子供たちを手招きして兎を渡す。
兎を捕まえるのは至難の業だ。コツを掴めば簡単だが、子供にはよほど人間に慣れた兎以外捕まえることは不可能。
男名前から兎を手渡された子供たちは喜び、男名前と一緒に笑い合う。


「留さん、男名前が生き生きしてる…」
「動物好きには天国だろうな。しかも子供にも懐かれてるし」
「子供かー…。なんかあの子たち見てると乱太郎を思い出すよ…」
「そうだなー…」


男名前を保護者の位置で見ていた二人だったが、しんみりと目を細める。
五年生たちとは出会うことができたし、記憶も取り戻した。
だけど五年生たちだけだ。まだ四年生や、三年生…。下級生たちとは出会っていない。
今も十分幸せなのに、もっと昔を求めてしまう。
贅沢だな。と笑う留三郎と伊作の後ろで、男名前が慌てて近づいて来た。


「何だよ男名前…。もっと遊んでて………って…おい…!」
「虎若だ!俺の可愛い後輩だ!」


うるさく自分たちの名前を呼ぶ男名前を振り返ると、彼は一人の男の子を抱き抱えていた。
特徴的な眉毛。ぷにぷにとした頬。初対面だと言うのに知らない人間に自分を抱かせる警戒心の薄さ。そして極めつけの男名前の言葉。
伊作が虎若を見たあと、男名前の後ろを覗くと、見たことある子供たちが兎と触れあっていた。


「乱太郎!?」
「しんべヱ、喜三太!」


見忘れることなんてない。二人は兎を抱っこしていた子供たちに近づき、周囲の目を気にすることなく抱き締める。
兎が慌てて逃げ出し、子供たちは文句を言っていたが、二人の耳には届いていなかった。


「いったいなんで…。というかいきなりすぎるよ!」
「小学校の遠足で来てるんだって。な、虎若?」
「はいっ!」


虎若を肩車して、二人に近づく男名前。
伊作は涙を浮かべながら幼い乱太郎に話しかけると、乱太郎はすぐに笑顔を浮かべる。
しんべヱと喜三太も抱きついてくる留三郎が誰か解らないが、笑って抱き締め返してあげると、留三郎の目にも涙が浮かんだ。


「他のは組もいんの?」
「は組?」
「あ、すまん…。えーっと、三治郎とかは?」
「お兄さん、三治郎のことしってんの?」
「まぁな!」
「三治郎たちはおれたちと班がちがうから一緒じゃないです」
「そっか!じゃあ悪いんだけど三治郎たちのとこに案内してくれるか?」
「いいですけど…。お兄さんたちだれ?」
「お前たちの先輩!」


ハッキリと笑顔で言うと、虎若は不思議そうな表情を浮かべる。
だけど笑顔の男名前を見ていると、不思議と嬉しくなって、「はいっ」と明るい声で返事をする。
男名前はすぐに仙蔵と小平太に電話をかけると、彼らもまた嬉しそうな声で出てくれた。


「留三郎、伊作。行くぞ!」
「おう!」
「え、乱太郎たち迷子なの?」
「はい。きり丸たちとはぐれてしまって…。大丈夫かなぁ…」
「大丈夫、他の子たちはもう見つかったぜ」


それぞれの手を取り、電話で決めた場所へと一緒に歩いて行く。
一年生たちに記憶がないのは解ったけど、彼らは記憶がなくても仲が良く、そして楽しそうなのを見て、三人も笑みをこぼすのだった。


「―――きり丸!」
「乱太郎、しんべヱ!どこ行ってたんだよ、心配したんだぞ!」
「それはぼくたちのせりふだよぉ!」

「うっしゃ、この調子で学園全員集めようぜ!」
「絶対骨が折れるな…」
「でも皆に会えるのはやっぱり嬉しいなー!」
「……不破も喜ぶ…」
「皆集まったらまた登山したいな!」
「バカタレ、お前のいけどん登山に付き合えるか。あと委員会はもうねぇんだぞ」
「ともかく、また進歩だな。だが、全員集めるならまだまだかかるぞ」
「かかってもいいじゃん!俺は一人でも頑張るつもりだぜ」
『それは俺(私)(僕)もだけどな(ね)』






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