夢/10万打夢 | ナノ

悪友二人と忠犬一匹


「よーし、今日の委員会も無事終了。竹谷、下級生たち先に帰しといてくれるか?」
「解りました」


学校で飼育している生物たちの世話はすませ、今日の委員会は終了した。
今日は誰も脱走せず、久しぶりにまともな委員会活動を送れたと思う。いっつも慌ただしいからな…。
男名前先輩に言われた通り、一年生四人と孫兵を連れて井戸へ向かい、簡単に汚れを落としたあと別れる。
もうすぐ太陽が山に沈む時間帯。下級生たちは体力も集中力もきれていているから、早めにあがらせる。
下級生たちを見送ったあと先輩のもとへ戻ると、先輩は自分が飼育している動物たちの世話をしていた。
男名前先輩が飼育している動物、主に犬や狼、鷹だが、そいつらは下級生たちには扱えない。
男名前先輩が見てるから絶対に手を出さないと思うけど、何があるか解らないから絶対に触らせないし、見せることもない。


「男名前先輩、あいつら帰らせました」
「おう!じゃあ、今日もやろうか」
「はい、宜しくお願いします!」


優しい顔をして動物たちを撫でていた男名前先輩が立ち上がり、俺に振り向く。
賢い動物たちは男名前先輩から離れ、一か所に固まって待機している。本当に偉いよなぁ…。


「今日こそ一発入れます!」
「それ毎回言ってるじゃん」
「…今日こそ!」
「あはは、はいはい解った。解ったからさっさとかかってこいよ」


動物なしでの殴り合い。
男名前先輩は動物の扱いに長けてるけど、体術にも長けている。
そりゃあ武闘派な食満先輩や、学園最強って言われている七松先輩とつるんでいるからそうなるんだけど、二人がいなくてもきっと強いと思う。
勘が鋭く、反射神経もいいから動きを捕えるのが難しい。
三郎や兵助みたいに相手の何手先を読みながら戦うのが苦手な俺だけど、男名前先輩と戦うときは脳もフルに活動させる。じゃねぇと勝てねぇ!


「(―――っしゃ!一発頂きッ!)」
「甘いな!」


休む暇なく蹴りや拳を繰り出し、ようやく隙を作った。
拳に力を込め、隙めがけて突き出したけど、男名前先輩に腕を取られ、背中に回されてしまった!
背中で両腕を拘束され、地面に倒される。起き上がって反撃しようとするも、背中に男名前先輩が腰をおろして勝ち誇った顔で笑っていた。


「はい、今日も俺の勝ち」
「っくそー…!」


絶対に無理な体勢だったんだ。あそこから俺の腕を掴むなんて。
……それを可能にするのが男名前先輩と七松先輩なんだよなー…。何でこの人たち人間なんだよ…。


「まぁでもお前もどんどん強くなってるよ」
「俺の背中に座りながら言われても、説得力ありませんって…」
「そりゃあ悪かったな。さ、帰るか。俺腹減ったー…」


拘束していた腕を離し、立ち上がって動物たちの元へと向かう。
何匹か撫でたあと、男名前先輩の部屋に向かって指さすと動物たちは素直にその方向に向かって歩き出す。


「竹谷、お前今日何食べんの?ちょっと分けてくれよ」
「嫌ですよ。俺だって腹減ってるんすから」
「今日も俺に負けたくせに!?」
「あげるなんて約束していませんから」
「じゃあ明日からは晩飯賭けてやろうぜ」


廊下に置いていた手のぐいを持って、食堂へ行く前に井戸へ向かうと、井戸には頭巾を外した七松先輩が水浴びをしていた。
結っていた髪を解き、犬ように首を振って水気を飛ばす。人間なのにその仕草が似合いすぎて怖ぇ…。
俺と男名前先輩の気配に気づいた七松先輩がこちらを向くと、男名前先輩も「よー」と軽く声をかけて七松先輩に近づく。


「珍しいなお前がこんな早くに帰ってるなんて。今日は裏裏裏裏山までマラソンじゃなかったのか?」
「おお、行ってきたぞ。まだ時間もあるしもう一回行こうとしたら滝夜叉丸に止められてしまってな…。三之助もいなくなるし止めて帰って来たんだ」
「……お前さ、もっと後輩のこと考えてやれよ…」
「え、考えるぞ?でも私にできるんなら、皆にもできるだろう?」
「できるかドアホウ!お前が超人類だってこといい加減自覚しろよ!」
「でも男名前も長次も文次郎も付き合ってくれるじゃないか!」
「それは必然的にそうなっただけで、普通は無理なんだよ!後輩を振りまわすなって、可哀想だろ!」
「なはは、細かいことは気にするな!」
「お前はもうちょっと気にしてくれ!」


…前から思っていたことがある。
男名前先輩と七松先輩は仲がいい。食満先輩と善法寺先輩とは違った仲の良さがある。
それを「悪友」と呼ぶのを、最近になって立花先輩から教えてもらった。
二人が一緒にいるとためにならない。戦場ではお互いの殺気にあてられて暴走するって文句言ってたし。
でも、一年のころから仲が良く、ずっとつるんできている。
悪友と親友は紙一重で一緒だ。とも言ってたな…。


「…近くねぇか?」


男名前先輩と七松先輩。二人の距離が妙に近い。
男同士なんだし、そこまで近づく必要なんてないと思うんだけどなー…。
仲良しなんだし別にいいんだけどよ…。なんか、二人のそういったの見たくねぇっつーか、離れてほしいっつーか…。


「なんか言ったか、竹谷」
「おお、いたのか!全然気づかなかった」
「うっわ、六年のくせに気づかないなんてダメすぎだろ…」
「男名前の気配が強すぎてな!」
「なんだそりゃ」


なんだそれ。男名前先輩ばかり見ていたから俺に気づかなかったってことか!?
これでも男名前先輩より身長少し高いし、身体もちょっとばかり大きいのになんでだよ!


「で、なんか言ったか?」


適当に七松先輩の言葉を流したあと、男名前先輩が俺を見て聞いてきた。
七松先輩は男名前先輩の肩に顎を乗せ、「腹減ったー」と泣きついている。


「お二人とも、距離が近くありませんか?」
「「は?」」
「ですから、会話されるときも、今も…。男同士なのに顔が近くておかしいと思うんです」


別に大したことじゃないのに、何だか腹が立っていた。
こんなこと先輩に対して言うことじゃない。だけど口は止まることなく二人を責め続ける。
前にもこんなことがあった。あのときも近かったなどなど…。
喋っている途中から自分が理不尽なことを言ってることに気づいたけど、口が止まらない。
最後まで言い切ると、二人は首を傾げていた。俺の言葉を少しだけしか理解していないような表情。


「ようするに、俺らの顔が近いから離れろと?」
「………そういうことです」
「そうか?私は別に気にしてないぞ?なぁ、男名前?」
「そうだなー、俺も別になんとも思ってねぇし…。つーか近いか?」
「近いですよ!今だってなんで七松先輩は男名前先輩の肩に顎を乗せてるんですか!」
「なんでって…。もう動けんからだ!」
「嘘はいいです!男名前先輩から離れて下さいッ」


ハッキリ言うと、二人は呆然とした顔で俺を見た。だけどすぐにニヤッと笑って、七松先輩が男名前先輩を後ろから抱き締める。
思わず眉間にシワを寄せると、男名前先輩も七松先輩の頭を優しく撫で始める。


「男名前先輩ッ!」
「いやー、これもいつものことだから気にするな」
「いつもって「男名前ー、腹減ったー!もう動けんから連れてってくれ!」
「小平太は子犬みたいに甘えん坊だなぁ。今日だけだぞ」
「おー!男名前はいつも優しいな!お前のそういったとこ好きだ!」
「俺はお前の全部が好きなんだし、お前も俺の全部を好きだって言ってくれよ」
「男名前、全部好きだ!」
「そりゃどうも。ほら竹谷、一緒に食堂行こうぜ」
「結構ですッ!」


七松先輩をひきずりながら食堂へと向かおうとする男名前先輩は俺を手招く。
だけどこんな気持ちで一緒に食事なんてとれるわけがねぇ!
二人して俺で遊んでることが解ったけど、七松先輩が男名前先輩に抱きついているのを見るに耐えられない。
二人に背中を向けて部屋へと戻り、怒りを込めて戸を締める。


「くっそォ…!」


七松先輩が羨ましい。
俺じゃあ男名前先輩の組み手相手も満足にできない。
七松先輩みたいに男名前先輩の隣に立ちたい。肩を並べたい。
一年の壁は薄いけど、高い。もっと俺が早く生まれていれば、あの隣にいれたかもしれない。
歯がゆいけど、どうしようもないこの壁。


「でも、近づく必要はないと思うんだよ!」


あー、クソ!やっぱ七松先輩腹立つ!んでもって羨ましすぎる!


「小平太ー、重たいから離れろよ」
「え、連れてってくれるんだろ?」
「本当は歩けるだろ。ほら、苦しいから離れろ」
「ちぇー…。ところで竹谷は放っといていいのか?」
「大丈夫大丈夫。あとで飯持って行くから」
「竹谷は本当に男名前に忠実だなー。嫉妬してたぞ」
「あいつ、俺の何になりたいのか解んねぇんだよ。忠実通り越して、独占欲強すぎだろ」
「犬ってのはそんなもんだろう?」
「……ああ、そうだな。あはは、そうだったそうだった!」
「でも気をつけろよ。犬ってのは上を狙ってくるぞ」
「言われなくても知ってるよ。でも、逆らわないように毎日躾してるから大丈夫」
「男名前、後輩は可愛がらないとダメだからな」
「可愛がってるじゃん。俺流だけど」
「アハハハハ!」


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