二人の関係性 「あ、女名前。おはよう。調子はどう?」 「おはようございます、伊作先輩っ。はい、特になにもありませんよー」 「あんまり無茶しないようにね」 「はーい!」 「……女名前…」 「長次先輩だー!どうかされましたか?」 「これ…、読みたかった本が届いたから…」 「わぁ、わざわざありがとうございます!さっそく読ませて頂きますねっ」 「文次郎先輩、今日のお菓子はなんですかっ?」 「お前は俺の部屋に何しに来てんだよ…」 「お菓子を貰いにです!」 「…はぁ。そこの戸棚に入ってるから好きなだけ持って行け」 「よう、女名前。今日もちょろちょろとしてんな」 「留三郎先輩、私のこと犬扱いしてませんか?もしくは子供。私もう五年生ですよ?」 「そりゃすまん。…ところでここに饅頭があるんだが…」 「頂きます!」 「女名前ッ!」 「何ですか、小平太先輩」 「おっ、なんだもう驚かないのか?」 「どこから現れようと驚かなくなりました!」 「女名前」 「仙蔵先輩、なんでしょうか?」 「ちょっと試したいことがあるから「なんなんすかさっきから!」 今日も一日中女名前と一緒にいた。 同じ組だし、同室だし、気が合うし、一緒にいるのおかしくない。 それに女名前は普段鈍くさい奴だし、知らない人間にもついていくほど警戒心が薄い。 そんな奴を一人にしてみろ。女だってことがすぐにバレちまうだろうが! だから女名前が女だって知ってる奴一人が女名前と一緒に行動するようにしている。俺は大体一緒にいるけどな。 「何だ、竹谷。私は女名前に用があるんだぞ?」 「なんなんすか、先輩方は暇なんですか?」 「は?」 六年の先輩方も、女名前が女だということを知っている。 心配をして声をかけてくれるんだろうと、最初は思っていたが、どうも違う。 普通に女名前を可愛がっている。 女名前も甘えるの好きだし、声をかけられるとホイホイとついて行っちまう…。 それが危ないって何度も注意するけど、女名前は笑って「大丈夫だよー」としか言わねぇ! 今日一日のことを立花先輩に伝えると、立花先輩はフッと笑って隣にいた女名前の頭を撫でて持っていた饅頭を手渡す。そういうのも止めて下さい! 「私はただ可愛がってるだけだぞ?何をそこまでムキになる」 「ムキになっていませんよ。女名前だけそういう扱いするのを止めて下さいと言ってるんです。女だとバレてしまうでしょう!?」 「これぐらいでバレるとは思わんがな」 「上級生が女名前を異常に可愛がればバレますよ!最近女名前を女として見てる奴もいるんですから!」 「ほう…。それはお前もか?」 ニヤニヤと笑いながら俺に迫ってくる立花先輩…。 解っていたけど、この人は本当に性格が悪い! でも口で言ってもこの人には勝てないのは解ってるから黙ってると、女名前の肩に手を回す。 女名前も何で抵抗しねぇんだよ!あいつ知ってたけど警戒心なさすぎ!そんなんで忍者が務まんのかよ! 「黙っているということは、肯定か?」 「み、見てませんよ…。女名前は大事な仲間です…!」 「そうか、私は見ているがな。ついでに、六年全員女名前のことを犬だと思って可愛がってるぞ」 「ッ女名前をそういった目で見るのは止めて下さい!女名前、行くぞ!」 「えッ!?」 俺たちがなんの話しているか解ってない女名前の腕を掴んで、その場から離れる。 一応立花先輩に頭を下げたけど、まだ笑っていたので睨んでやる。 俺ほんっとあの先輩苦手!まだ七松先輩の千本ノック受けてるほうがいい!……あ、いや、やっぱなし。無理だ。 「ハ、ハチ…?」 そりゃあ女名前は可愛いさ。いっつも笑ってっし、元気だし、頑張りやだし、女々しくねぇし…。弱音も吐かねぇ強い奴。 でも、真面目でかなり繊細。能天気っぽいけど、裁縫とか料理は結構得意で、くノ一より女らしい。 だから、女名前を犬扱いしてほしくねぇ!しかも女として見てるってなんだよ!見んなよちきしょう! 「ごめんね、ハチ!私またなんかしたかな。仙蔵先輩と私のことを話してるのは解ってたんだけど、意味は……。ごめんね、気をつけるから!」 「女名前…」 泣きそうな顔で必死に謝る女名前を見て、足を止める。 自分が思っていたより強く腕を掴んでいたことに気がつき、慌てて手を離すと、そこの部分だけ赤く染まっていた。 悪い!って謝ろうとしたけど、女名前は全く気にしてなく、まだ俺に謝っている。 「い、いや、もういいから!」 「怒ってない?」 「……女名前に怒ってたわけじゃねぇし…。あれは……その、立花先輩たちに怒ってたんだ」 「…仙蔵先輩たち?でも先輩たち、皆いい人だよ」 「いい人でも無闇に近づくな。いいか、お前は一応男なんだぞ?男が無闇に抱きついたり、懐いたりするか?」 「……しないの?」 「しねぇ」 「解った。じゃああんまり喋らないようにするね!」 「よし!じゃあ飯でも食いに行こうぜ。きっと雷蔵たちも行ってると思うし」 「うんっ」 そうだ、女名前は今男だ。男があんな風に先輩たちに甘えるのはおかしい。違和感ありすぎる。 女だとバレないためにも、俺は注意するんだ。女名前を女として見てるわけでもねぇ!友達を守ってるだけだ! 「でも、ハチがいるんだから大丈夫だよ!」 「は?」 「ハチがいるから、私ここまで頑張ってこれたの!いつもありがとうね!」 「っお、おう!これからも任せとけ!」 「うんっ」 面倒だし、大変だし、冷や冷やするし…。いいことなんてねぇけど、女名前の笑顔が見れるならまた明日も頑張って守ってやるか。 「仙蔵、竹谷の忠誠心上げてどうすんだよ…」 「まぁそう言うな、文次郎。なかなか純情でいいじゃないか。楽しいだろう?」 「趣味が悪ぃ」 「あはは、でも竹谷の慌てっぷりは見ていて面白いと思うよ」 「というか、何故竹谷はあんなにも焦ってたんだ?」 「今まで大事に守ってきたご主人様だぞ?忠犬なら慌てるだろう」 「………飼い主というより、姫…だな…」 「お、それだ。苦労性な武士と、純粋無垢な姫さんって感じだな!」 「で、僕たちがお姫様にちょっかいを出す厄介者ってこと?」 「ならば、最後まで手を出させてもらうとするか」 「…仙蔵、ほどほどにしとけよ」 ( TOPへ △ | ▽ ) |