忠犬、拗ねる 「えー、火薬委員会は知ってのとおり原作の都合で六年生がいません。なので、一番人数の多い生物委員会から一人派遣されることになりました」 「だからと言って、委員長である男名前先輩が行かれるのは少々違う気が…。俺が行きます」 「いや、それはダメだ。お前は生物委員会の委員長だからな」 「まだ言いますか、それ…。大体その設定皆忘れてますよ」 「最近真面目に委員会してたからなー…。というわけで、火薬委員会へ行ってきます!」 「どういう意味ですかッ!ちょ、孫兵!お前も男名前先輩を止めてくれ!」 「無駄ですよ。一度言ったら聞かない方なんですから」 「そういうことだ!というか、兵助からご指名がきてんだ」 「兵助から?(な、何で…?あいつそんなこと一度も言ってなかったのに…)」 「そうそう。火薬が大量に入ったから、手伝ってほしいって。ほら、こう見えて俺も力持ちじゃん?」 「力持ちなら七松先輩とか、中在家先輩とかいるじゃないですか…」 「小平太は絶対に爆発させる。長次は忙しい。あと、留三郎も文次郎も忙しいから俺っつーわけ」 「……」 「お前なら大丈夫だ。俺がいねぇ間委員会は任せたぜ!」 「竹谷先輩、諦めましょう。僕もいつも以上に頑張ります」 「孫兵…。孫兵が言うなら別にいいけどよ…。でも男名前先輩、そっちが終わったらこちらにも顔を出して下さいね」 「おーう!」 初日。 「悪い竹谷!ちょっと遅くなりそうだからそっちに顔出せそうにねぇや!」 「男名前せんぱーい、早く戻って来て下さいよー」 「すまん、伊助!終わったら勝手にあがってくれていいからな!じゃ!」 「……」 「竹谷先輩、今日は火薬が大量に入ってきたんですからしょうがいないですよ」 「あ、ああ…」 二日目。 「ごめんなぁ、今日も無理そうだ…。人少なすぎて昨日で終わらなくてよー…」 「男名前先輩、何されてるんですか。早く来て下さい」 「悪い池田!じゃーな!」 「あっ…」 「忙しそうですね、火薬委員も」 「管理するだけなのに…。はぁ…」 三日目。 「今斎藤に追われてんだ!お前も逃げろ!」 「せんぱぁい、こんなとこにいたんですねぇ…」 「きッ、きたァアアア!」 「あ、竹谷くんも。今日こそむしってあげるよぉ!」 「孫兵、あとは任せた!」 「はぁ」 四日目。(休日) 「ああ、今から火薬委員の奴らと親睦深めに団子屋行くんだ。因みに斎藤は実家に帰っているのでいません」 「で、ですがここのところまともな報告が「男名前先輩、伊助と三郎次が待ってますよ」 「おー、兵助ごめんごめん。じゃ、今日ぐらいゆっくり休めよな、竹谷」 「俺、団子屋なんて久しぶりです。いつもは豆腐屋ばかりなので…」 「あはは。お前どんだけ豆腐好きなんだよ」 「そこに豆腐がある限り、俺は豆腐を愛し続けます!」 「な、なんだよそれ…。今日は前々から約束してたのに…!」 五日目。 「男名前先輩、大変です!毒虫がまた脱走してしまいました!」 「……の割には嬉しそうなのは何でだ?」 「(男名前先輩がこれで戻って来てくれるかもって思ってつい…)す、すみません…」 「もしかしてわざとか?」 「ちッ、違います!」 「はぁ…。兵助悪い。ちょっと手伝ってくる」 「はい。こっちは大丈夫です」 「頼りになるな。じゃ、すぐ戻ってくるから」 六日目。 「……そう言えば、俺生物委員会だったな。やっべー、ずっと兵助たちと一緒にいるから忘れてたわ」 「…。ともかく日誌に目を通して下さいよ」 「あー…、でも俺火薬委員会の日誌にも目を通さないといけねぇし…。ほら、俺がいなくても提出できるんだし、出しといてよ」 「ダメですよ!」 「男名前先輩、日誌に目と通して頂けましたか?あ、竹谷」 「……よぉ…」 「今から目を通すよ。ちゃんと目ぇ通して先生に提出しとくからお前は先にあがっとけ。用事があるんだろ?」 「すみません、男名前先輩。でも男名前先輩が来られてから凄く楽になりました。安心するって言うか…」 「上級生って言ってもまだ五年だもんな。兵助はよく頑張ってるよ、偉い偉い」 「わっ!こ、子供扱いしないで下さいよ…」 「お前も俺の可愛い後輩だからな!竹谷、そっちは大丈夫だろ?」 「あ………。は、い…。すみません、失礼します…」 一週間後。 「―――で、拗ねている、と…」 「男名前先輩はもういりません。毒虫脱走に手伝ってくれた食満先輩が生物委員長です」 「え、留さん、手伝ってくれたの?」 「んー…まぁ……。昨日また毒虫が脱走したらしく、たまたま近くにいたから…。あと虫カゴ直したり色々とな」 「火薬委員会が好きならそちらへどうぞ」 「(おい男名前…。竹谷の奴めっちゃ拗ねてるぞ)」 「(でもたかが一週間だぞ!?ちゃんと事前に説明して、納得してもらったのに何で!?)」 「(それでもちょっとぐらい顔出してやれよ!)」 「(いやいやいや!本当に忙しかったんだって!短い間だけど仲良くしたいし、斎藤からは毎日追われるし…)」 「(あのなぁ…。ご主人様が大好きな犬の前で、他の犬可愛がったらどうなる?)」 「(拗ねるか鳴くか怒るか、だな)」 「(それだ)」 「(竹谷は犬じゃねぇよ!)」 「(…)」 「(犬だッ!あーちきしょう…。今回はちょっと間違えたわ…)」 「(トップブリーダーとして失格だな)」 「(マジで反省。一昨日はちょっと怒っちまったし……。どうしよう、留三郎!)」 「(知らん)」 「(一言で終わらせないで!お願い留三郎、助けて!)」 「(……ったく、しょうがねぇなぁ…)」 「竹谷、悪いが俺は用具委員長だから生物委員長になれねぇ」 「では代理でお願いします」 「あー…。でもほら、掛け持ちはできねぇじゃん?」 「男名前先輩はこの一週間されましたが?」 「そ、それは今回だけで…。ずっとも掛け持ちできねぇよ…」 「(留さん、もっと頑張って!)」 「(うるせぇ!)」 「しかし男名前先輩は火薬委員長になってしまいました。……ああ、僕が生物委員長になればいいんですね、解りました。男名前先輩、今までありがとうございました」 「うわああああ!ほんっとゴメン、竹谷!俺が全部悪かったよ!今日からまた真面目に生物委員会に顔出すから許して下さい!」 「は?誰ですか?」 「冷たい目が俺の心をえぐるぜ!いや、本当に反省してるんだよ!ごめんね、竹谷。ごめんなさい!」 「ほら、男名前もここまで謝ってんだから許してやってくれよ。今日から真面目に出るんだろ?」 「うんうん!お前らの倍働くし、組み手も付き合うし、色々教えるから!許してくれ!」 「……火薬と生物、どちらが好きですか?」 「っ生物に決まってんだろ!俺、動物大好きだもん!」 「動物が好きで、俺らは好きじゃないんですね」 「(うっわ、竹谷の奴マジで拗ねてんじゃねぇか…。犬のご機嫌とるのも大変だなこりゃ)」 「お前らも大好きだって!虎若と三治郎と遊びたいし、孫次郎愛でたいし、一平ちゃんの勉強見てあげたい。孫兵に虫遁術教えてあげたいし、竹谷にも教えたいことある!」 「では、俺と兵助、どっちが好きですか」 「う、え…っ…。そ、それはまた……凄い選択肢ですね…」 「食満先輩、今日から俺が生物委員長になります」 「竹谷くんです!竹谷くんが可愛いです!俺の委員会の後輩がどの子たちより可愛いです!だからそろそろ許して下さい!」 「……今回だけですよ」 「はいっ、ありがとうございます!」 「(逆転してねぇか?…あぁ、竹谷も男名前から犬の躾方法を習ってるからか。じゃあ将来、男名前みたいになるのか?楽しみだな)」 おまけ。 「兵助、お前に絶対男名前先輩は渡さねぇからな」 「あ?何を言ってるのだ、竹谷。男名前先輩はお前のものじゃないだろ?」 「そうだけど男名前先輩は生物委員長で、俺らの先輩だ!火薬ごときに渡さねぇ!」 「そうか。でも俺、今度男名前先輩と一緒に町へ出かけるぞ」 「っ俺も行く!」 「忠犬から番犬になるなよ…」 おまけ。その弐。 「伊助ェ!男名前先輩は渡さないからな!」 「男名前先輩は俺らの先輩だもんねー」 「えー?」 ( TOPへ △ | ▽ ) |