休日の過ごし方 「お、あの子なかなか可愛いな!毛づやも良さそうだし、細身だし超俺好み!」 「男名前ー、また新しい猫か?拾ったら竹谷に怒られるぞ」 「いやいや、そうは言ってもあれぐらいの美人さん、滅多に拝めねぇんだぞ!」 「………」 先を歩く小平太、男名前の後ろからゆっくりとした歩調でついて行くのは、小平太と同室の長次。 つい先ほど町についたと言うのに、既に長次の体力は底を尽きかけていた。 体力というより、気力がない。 小平太一人ならここまで疲れたりしないのだが、今日は小平太の悪友で六年の狂犬、男名前がいる。 二人揃って自分勝手に動き、いらないものを拾ったり、寄り道したり…。とにかく町につくまで大変だった。 「あ、ちょーじ!私うどん食べたい!」 「…余分なお金は使うな…」 「でも食べたい!美味しそうだ!」 「ダメだ、止めろ…」 「可愛いなー、むちゃくちゃ可愛いなー。ねぇ、俺に飼育されてみない?きっと楽しいよ」 「男名前、やたらめったら猫や犬に声をかけるな」 「じゃあ鳥ならいいか?」 「よくないっ…!こら小平太、勝手に動くな…」 「ちょーじ、首締まってる!苦しい!」 「な、なんという超絶美人!いや、雄かもしんねぇけど。そこの綺麗な鴉さーん!」 「男名前っ!」 町についてからもあちこち向かおうとする二人の首根っこを掴み、二人を止めようとするのだが、自由人な二人はなかなか止まらない。 さすがにこれだけ騒げば町の人からも変な目で見られ、クスクスと笑われてしまった。 自分たちは忍者だ。今は一般人を装っているが、忍者だ。忍者は目立ってしまってはダメだ。 「お前たち、いい加減にしろ…っ!」 珍しく声に怒気を込め、左右の手で掴んでいた二人を引っ張り、お互いの後頭部で相手の後頭部をぶつける。 二人とも石頭なだけあって相当痛かったようで、声にならない悲鳴をあげてその場に崩れ落ちた。 「目立ってどうする…」 「ひ、久しぶりの町だったからつい…」 「すまん、長次」 後頭部を抑えたまま怖い顔をして見下ろしてくる長次を上目使いで見上げ、素直に謝る二人。 長次を怒らせると大変なことは同室の小平太は勿論、男名前も知っている。 謝る二人を見て、長次は一度目を瞑ったあと、「次は騒ぐな」とだけ言って小平太が行きたがっていたうどん屋さんへと向かった。 それに続こうとした二人だったが、小平太が後ろを振り返り、すぐに男名前も振り返った。 小平太は鷹のように遠くを睨み、男名前は犬のように鼻をスンスンと鳴らす。 「どうした…、入らないのか?」 「入る!」 「あー、腹減ったー!」 長次に声をかけられたあと、二人は元の顔に戻って長次のもとへと向かう。 「だー!小平太ッ、俺のうどん食うなよ!」 「ぬっふふふ。油断していた男名前が悪いのだァ!」 「静かに食え」 今さっき注意したというのに、二人は騒ぎだし、長次からげんこつを食らう。 この二人と一緒にいるとしんどい。何故自分が面倒を見ないといけないのかも解らなくなる。 でも、騒がしい二人を見ていると和んでしまう自分もいる。 食べ終わって、くだらない話をしている二人を見ながら、長次も口元を緩ませ、久しぶりの休日を味わうのだった。 「―――さて、食後の運動でも行こうか」 「おうっ。長次も行くだろ?」 「………どこへ…?」 「「町外れ」」 爪楊枝をくわえた男名前が立ち上がり、続いて小平太が立ち上がる。 湯呑みを持っていた長次は机に置いて、首を傾げた。 会計をさっさと終わらせ、外に出ると二人は先ほど睨んでいた方角に目を向け、長次も解らないまま目を向けた。 「何かあるのか…?」 「危険な奴がいる。きっと戦帰りの兵か、忍者だな」 ジーッと見つめる小平太。長次が見るも、長次の視力では確認できない。 「男名前は見えるか?」と言った意味をこめて男名前を呼ぶと、男名前は苦笑する。 「見えないよ。俺は火薬の匂いが届いたから解っただけ」 あっちは風上だからな。とつけくわえ、歩きだした。 小平太と男名前が同じことを言うのだから、きっと敵がいるんだろう。 「(そう言えば、この近くで戦争があると言ってたな…)」 戦争があるから、この町には近づかないよう学園の先生から注意をされていた。 しかし、遊び盛りの二人には関係なく、注意を無視して町へとやって来たのだ。自分はその保護者役。 仙蔵に「いらないことに巻き込まれるなよ」と言われたのを思い出したが、どうやら今回も「いらないこと」に巻き込まれてしまった。 小平太も男名前も、動くのが大好きだ。戦うのも大好きだ。建前では「町人を守るためにやった」と言うが、本音は自分たちが戦いたいだけ。 「うじゃうじゃとまぁ…」 「ひぃ、ふぅ、みぃ……。えーっと……、ちょーじ、何人だ?」 「大雑把に数えて、百人近く…」 「えっと、三人で割ったら……………」 「……三十三だ…」 「なはは!男名前は本当にバカだな!私はすぐに解ったぞ」 「う、うっせぇ!割るのは苦手なんだよ…。つーかお前も解ってなかっただろ!」 だけど、それは自分もだ。 腕に仕込んでいた縄標を一瞬にして取り出し、くるくると回して構える。 小平太は拳を鳴らし、男名前は指笛で鷹を呼びよせた。 「お前たち、負ける前に戦争に勝ってよかったな!気持ちよく死ねるぞ!」 「高ぶる気持ちを抑えられないのは解るよ。でもダメだよ、町を襲っちゃぁ」 「そのまま大人しく帰ればいいものの…」 「長次の言う通り!というわけだ、死にたくなかったら早めに逃げろよー」 男名前たちと戦帰りの兵士たちの間には緊迫した空気が流れるものの、小平太の明るい声が響く。 ニコニコと、今から友達と遊ぶような無邪気な笑顔だったが、とある兵士が刀を取り出し、刃を男名前たちに向けた瞬間、三人は殺気を飛ばして兵士たちを睨みつけた。 先ほどの笑顔はとっくに消え失せ、忍びの顔で敵に襲いかかる。 相手が百人程度であろうとも、三人の前にしては大した数ではなく、あっという間に終了。 たくさんの人間が横たわる中、三人だけがケガをすることなく立っており、汗を拭う。身体には返り血はついておらず、多少泥で汚れている程度。 「本当に勝った軍の奴らか?すっげぇ弱かったぞ?」 「もうちょっとやりたかったなぁ…。全然動き足らない…」 「…ともかくこれで町は安全だな…」 「「いえーい!」」 長次の言葉に、小平太と男名前は手をパンッ!と叩き、彼らを放置して再び町へと戻って行った。 「うっわ、見たかよ長次!今のむっちゃ格好よくね!?あ、あっちには可愛い子ちゃんが!」 「ちょーじ、今度ここ!蕎麦食べたい!」 「―――はっ…、今呼ばれた気がした…。あの空を飛ぶ彼女から呼ばれた気がした!」 「うーん…、でも今さっきうどん食べたから…。そうだ、今度は甘いものを食べよう!食べ終わったあと蕎麦だ!」 「学習しろ、バカ二匹」 紙一重の日常と非日常に違和感も感じなくなってしまった。 その非日常の世界に足を踏み入れるのも時間の問題。だからせめて、今だけは笑っていたいと三人は夜遅くまで町を歩き回るのだった。 ( TOPへ △ | ▽ ) |