意識してしまった故の 嬉しいことがあっても、楽しいことがあっても、所詮は忍者である。 簡単な忍務を組頭さんから言い渡され、私と先輩二人の三人で密書をとあるお城に届けていた。 中身を確認しているわけではないが、どういう内容かは大体解る。 最近、私たちがいるお城だけじゃなく、どこも戦で忙しい。そういう流れになっていると組頭さんは言っていた。 今はお城を守るために味方を増やしているが、そのうちにこちらからも攻撃をするようになると言われたとき、もやっとした。 戦忍びとしてここに就職したのに、死にたくない、怖いといった感情が湧いてきてしまったのだ。 人間なんだから当たり前の感情だが、忍者としては失格。 何でこんなことを思うようになったかと言うと、先日七松先輩が私の両親に挨拶をし、私も挨拶したからだ。 七松先輩の嫁になることができる。それを思うと、戦が怖くてたまらなくなる。 なんて弱い精神だ。こんなんじゃダメだと思って、ひたすら鍛錬を励んでいたところに今回の忍務。 簡単な忍務だけど、気を緩めることなく遂行していたのだが、 「まさかくノ一がいるとは思わなかったよ。君、強いの?」 見知らぬ忍者に捕まってしまった。 森を駆け抜けていたところを背後から襲われ、一人の先輩が残って私たちを逃がしてくれたのだが、相手はかなり強かったみたいで先輩をあっという間に殺した。 言い方は悪いが、時間稼ぎにもならず、私ともう一人の先輩に追いついてすぐに捕らわれる。 先輩と一緒に抵抗したんだけど、いつの間にか集まっていたそいつの仲間に逃げ出すことは不可能…。 せめてと密書を燃やしてなんとか隠すことができたのだが、牢屋に繋がれ先輩と一緒に拷問される。 拷問は学園にいたときからやられていたし、ここにきてからもやっていたので、なんともない。 女であろうが容赦なく蹴ったり、殴ったりしてきても悲鳴は決してあげない。水責めされようが火責めされようが表情を歪めるだけ。 先輩も辛そうだが、まだ余裕といった顔をしていた。 私たちを最初に見つけた男がクスクスと怪しい顔で笑いながら私の前にしゃがみ、顔を覗き込んできた。 笑っているのに笑ってない目にゾクリと背筋が震えたが、意識をしっかり保って睨みつけてやるとさらに笑う。 「…」 「いいなぁ、君たちみたいな強い子好きだよぉ…?もっとさ…もっと憎悪の目を僕に向けてくれないかなぁ。その目、大好きなんだよねぇ」 殺意を好むって…。どうやら相手は変態さんらしい。 その変態さんに何故か気に入られてしまい、そいつ一人にひたすら拷問された。 指を一本折るにも、私の反応を見るためにわざとゆっくり時間をかけて折る。 骨が折れる音とともに悲鳴をあげまいと歯を食いしばると、「愉悦だ…」と震える声で呟く。 変態に好かれるなんて胸糞悪い! ここで悲鳴をあげたらどうなるんだろうか。こういうタイプはきっと萎えるに違いない。 「(だけど…負けたくない…)」 いや、ここは悲鳴をあげるべきだ。そう思うだろうが、違う。 悲鳴をあげることによってこの男は私から興味を失うだろうが、他の忍びは喜ぶかもしれない。 それにこの男は私の命をとろうとは思ってない。動いている相手に興味があるから、ギリギリのところで生かしている。 この男の相手をしているほうが生存確率もあがる。だから悲鳴はあげない。負けたくもない。でも怖い。痛い。助けてほしい。 「こーれーでー…。何本目だろうねぇ?痛くて痛くてたまらないね、お嬢さん」 「…っ…!」 「ああ、その顔いいなぁ…素敵だよ。あっちの男もいいけど、僕ね、女の子を虐めるほうが好きかな?だって、好きな子にはできないでしょう?くノ一の君ならいいかなって…ふふっ!」 「…ゲスに……っ好かれた女の子が哀れだな…っ」 「絞り出す声いいね。ほらもっと喋って。もっと僕を睨んでよ!君の殺気が気持ちいい!生きてるって実感するからさぁ!ほら、もう一本折るよ!また目を見開いて、焦燥する顔を僕に見せて!」 牢屋に骨が折れる音と、重たい何かが殴られ、蹴られ、叩かれる音だけが響く。 私たちがなんの忍務をしていたなんて興味がないらしい。こいつらド変態だな。 そうは思っていても、さすがに何本も指を折られ、殴られ、蹴られたら息があがって、脂汗が大量に溢れて冷たい牢屋の床を濡らした。 視界が霞む。息苦しい。さっきまで痛かったのに、今はもう何も感じない。ひたすら眠くて、このまま意識を絶ちたい。 「ねーえ?今そこで意識絶ったら、君を他の奴らに渡すよ?くノ一だからどうされるか解るよね?輪姦されてもいいの?」 「…ふ、…ぐっ…!」 「わー!いいね、やっぱり君いいよ!じゃあ続きするね!ねぇねぇ、次はどこがいい?折るのはもう飽きたんだけど、君の顔があまりにも可愛くてさ!」 意識をしっかり呼び戻せば、再び襲ってくる痛み。 ヤられるぐらいなら全部折ってもらったほうがマシだ!気持ち悪い! 別に純潔を守ろうとは思っていない。だって忍者の世界なんだし。 でも、だからってヤられたいわけじゃない。他のくノ一だってそうだ。好き好んで嫌いな男に抱かれたいとか思ってる子なんていないはずだ。 だったらこの変態に付き合うしかない! 両手は背中で拘束され、床にうつ伏せに転がされている私から一度離れたあと、苦無を取り出して私の目の前に置く。 「痛かったらこれで死んでいいよ」 「……」 「次はね、爪を剥ごうと思うんだ!爪を剥いだら使い物になるからあんまりしたくないんだけど、どんな顔するか楽しみでさぁ……君の泣く顔とかも見たいなぁ!でも悲鳴あげちゃダメだよ?楽しくないからね!」 頭イってるなぁ…。なんてのんきな考えが頭に浮かんで、目の前の苦無を口でくわえる。 勿論死ぬためじゃない。こいつを殺すためだ。 こっちに来てくれないかな…。一瞬でも怯んでくれたらこっちのものだ。 頭の中でどうこいつを倒すか考えている瞬間、今まで感じたことのない激痛が指先に走り、小さくではあるが悲鳴をあげてしまった。 その悲鳴には萎えなかったようで、寧ろ楽しかったようで彼の笑い声が牢屋いっぱいに広がり、頭を抱えて私から一旦離れる。 痛いなんてもんじゃない。いっそのこと殺してくれ!と言いたくなったし、思ってしまった。 くわえていた苦無は床に落ちて、呼吸が乱れる。それからすぐに身体中が寒くなってまた意識が飛びそうになる。 もう嫌だ。誰か助けてくれ。七松先輩、助けて下さい。 弱い自分が悲鳴をあげている。情けない言葉が脳内をぐるぐる回って、フッと意識が飛んだ。 「あー……まだ一枚しか剥いでないのに…」 「おい、意識飛んだんだからそいつ寄越せよ」 「こっちの男なんて死んじまってよぉ…。つまんねぇの!」 「君たちは容赦なさすぎだよ。もうちょっと拷問の面白さを勉強すべきだと思う」 「いいから寄越せっつーの!」 → → → → (△ TOP ▽) |