夢/とある後輩の災難 | ナノ

慎みを持つ鍛錬


性別なんて気にしていし、どうでもいいことなのだが、吾妻は女としてはかなり強いと思っている。
自分が気に入っているから、無意識に贔屓しているのかもしれないが、あいつの姿勢は嫌いじゃない。
たまに女々しい部分や、幼い言動をするがまだ仕方のないこと。これから教えてやればいいし、目に余るほどじゃない。
だから、私と同じお城に就職したいと言ったときも二つ返事で「待ってる」と答えた。
実習に来ると文を貰った時も、上司でありこの城の忍び組頭を務める「庄原逸左ヱ門(しょうばら いつざえもん)」に頼み込んだ。
組頭は「小平太が言うなら見るだけ見てみよう」と言ってくれたので、文を返す。


「忍術学園から来ました、吾妻千梅です。宜しくお願い致します」


すぐに実習に来た吾妻の目はやる気に満ち溢れ、堂々とした態度で私たち全員に頭を下げた。
吾妻の隣には組頭。
組頭が簡単に吾妻と忍術学園のことを説明したあと、私の名前を呼んだ。


「折角ですし、先輩後輩の組手を見せてもらいませんか?」


組頭は温和な口調、温和な雰囲気の持ち主だ。
だが、言うことは鋭く、そして容赦がない。でないと組頭なんて勤まらないしな。


「おい小平太。あいつ女だろ?手加減してやれよ」
「篤彦、お前はそんなんだから組頭にいつも怒られるんだ」
「なんだと!」


同期で、風魔流忍術学校卒業生の篤彦が隣で私に話しかけてきたので、いつものように流してやると不服そうな顔をする。
組頭に呼ばれ、前に出ると仲間の視線を背中で感じる。
目の前には組頭。その隣には吾妻。
久しぶりに会った千梅は何だか雰囲気が変わったように思える。久しぶりだからか?お前はそんな顔をしてたかな。


「慣れているでしょうから適当に組手して、吾妻さんの実力を私に見せて下さい。吾妻さんも構いませんね?」
「はい、勿論です」
「私も大丈夫です」
「では、鍛錬場へ。そうそう、武器は苦無だけでお願いします」
「「はい」」


数名に仕事をするよう命令を出し、残ったものだけで城の裏にある鍛錬場へと向かう。
そこで私と吾妻は向かい合って苦無を取り出し、頭を下げる。
審判は組頭。篤彦たちはその周りを囲って静かに私と吾妻を見ていた。


「身体に一発いれることができたら勝ちということで。勿論、殺しても構いません」


その言葉に吾妻だけ目を見開き、すぐに苦無を握る手に力を込めて私をジッと見る。
ああ、解っているさ。だからと言って手を抜くなと言うんだろう?お前はそういう女だからな。
手を抜いたら組頭も千梅を採用しようとしないだろう。それも困る。これからもこいつが強くなるのを傍で見ていたいんだ。


「それでは…。開始」


組頭の声と同時に私に向かってくる吾妻。
そうだな、お前は体力が誰よりも劣るから早々にケリをつけたいんだよな。
そうはさせん。例え女であろうと私は負けたくない。
苦無を苦無で受け止め、千梅の足を払うとする前に横から蹴りが飛んできた。
腕で受けとめると若干だがピリッと痛み、思わず笑みがこぼれる。


「短期間で強くなったな」
「目標がないとがむしゃらに強くなるしかないんです」
「それは…あまりよくないなっと!」
「っつ!」


蹴りを私に食らわせたあと、離れようとする吾妻を掴む。
私に捕まったらもうダメだ。女のお前じゃ振り解けない。それをどう避ける?そこを組頭に見せろ。


「七松先輩、本当にお久しぶりです」
「―――っ……」


捕まったというのに焦った顔は見せず、寧ろ余裕に笑って顔を近づけてきたと思ったら、接吻された。
吾妻からしてくるなんて今までなかったし、元々接吻自体もしてなかったので、吾妻がしている行為に頭がついていけず、声を失う。
だけどすぐに口が離れた瞬間、身体を殴られあっという間に組手は終了。


「お疲れ様です、吾妻さん。動きもよかったですし、回避もお見事でした」
「いえ、あまり使える手ではありませんが」
「それでも小平太には効果的だったようで」
「顔見知りにはかなり有効だと言うことがよく解りました」


…はは、自分なりに技を見つけたんだな。見事だった。次は通用しながな。
力は変わらず弱いが、一瞬の隙を作られてしまった。本当に見事だ。私もまだまだだなぁ…。
組頭と吾妻が数回会話をしたあと、その場を解散させる。
私も篤彦たちと一緒に組頭から離れ、いつもの仕事に戻る。


「小平太、お前なにしてんだよ。後輩に負けるなっつーの」
「私も鍛錬が足りなかったってことだ。次は負けないさ」
「当たり前だろ。あんな弱そうな…つかくノ一に負けんなよ」
「篤彦、あまりあいつを侮らないほうがいいぞ。組頭や先輩方にもよく言われているだろ」
「いやいや!だって年下だぜ?女だぜ?負けるわけねぇじゃん!」
「じゃあ今度やってみるといいさ」
「おーよ!他の奴らもあの女とやりたいって言っていたし、今度時間作ってやろーっと」


なんとか勝てた。あの七松先輩から一本をとることができた。
ドキドキと早まる心臓を抑えつつ、呼吸を整えるように深呼吸を繰り返して目の前の組頭に目線をあげる。


「では吾妻さん。まずは書類に目を通してもらって、それからこのお城の説明と案内をします。今日は初日ですし、ゆっくり休むことだけを考えて下さい」
「解りました」


組頭の庄原さんは柔らかい顔で笑うものの、何だか怖い。強いというのが一目見て解るからだ。
でも喋りにくいとかそういうのは感じなかったので、言われたことには素直に答えることができる。
書類には「ここで見たことは誰にも言いません」「以上を破った場合、誰かに殺されても文句は言いません」などといったことが書かれており、全てを快諾したあと名前を書く。
そのあとにお城の案内、ここでの生活などを全て教えてもらって、忍び隊の長屋に戻って来た。


「実習生さんですし、女性なのでこちらを使って下さい」
「ありがとうございます。でも私そこまで気にしていませんので…」
「君が気にしなくても、嫌がる人はいるからね。今日はもう好きに動いてもらって構いません。何かありましたら誰かに聞いてもらってください。明日からは宜しくお願いします」
「はい、今日はありがとうございました」


案内された部屋は、まだお客様用の小さな部屋。
持ってきた荷物を部屋の隅に置いたあと、正座してみるものの、やることがなくてすぐに立ち上がる。
明日からは同じように扱ってくれるらしいが、今日から扱ってほしいんだけど…。
でもそんなこと言えなくて部屋を出る。
それにしても大きくて広いお城だ…。忍び隊専用の長屋があるのも凄いと思う。


「あ、誰か鍛錬してる」


部屋を出たあと適当に歩いていると、今日はお休みらしい人たちが真面目な顔で汗を流していた。
やっぱりプロとだけあって動きが全然違う…。なかなか目で追えない。
廊下に座って彼らを見ていると「なにしてんだ?」と言われたので素直に答える。
私が来ることは知っていたらしいので、「あぁ、お前か」と言われ、一緒に鍛錬に混ぜてもらうことに。
七松先輩とは違う圧倒的な力。あっという間に叩きのめされ、地面に倒れる。


「お前さー、そんなんでここやっていけねぇぞ?」
「いやいやせんぱーい、こいつ一応女っすからぁ」
「……おお、そうだな!すまんな嬢ちゃん。男みたいな動きしたからついつい」
「いえ……はぁ…。ありがとうございます」
「体力回復したら今度は俺とやろーよ!」
「勿論です…。でもあの、もう少しだけ待ってください」
「さっさと回復しろー!」
「わわっ」


なんとなく雰囲気で解っていたけど、ここにいる人はやはりとても優しかった。
二人の先輩と鍛錬に励んでいると、他の先輩たちも集まってきて、色々教えてもらった。
「ここはこうしたほうがいい」「それよりこっちの動きのほうがいい」…様々な助言にひたすら頷くだけ。
色々な戦法があることに気付いて、それを身体に叩き込む。
日が暮れるころには身体中が悲鳴をあげていたけど、休みたいとは思わなかった。
まだ教えてほしい。まだ強くなりたい。もっと知りたい。もっと強くなりたい。
皆が真剣に教えてくれる。それも嬉しい。


「吾妻さん」
「あ、組頭さん!」
「…初日だからゆっくり休んでくださいと言ったのに」
「すみません。つい…」
「組頭すみません。こいつ貪欲で俺らもついつい熱が入っちまうんです」
「すぐには強くなれねぇけど、将来は楽しみっすわー」
「それはなによりです。しかし皆さん、そろそろ夕食ですよ。手を洗って食堂へ」
『はい!』


声を揃えて返事したあと、いつものノリで上着を脱いでサラシ状態になると全員が「はぁ!?」と声をあげて私から離れて行った。


「は?」
「……吾妻さん、言いましたよね。あなたは気にしなくても嫌がる方がいると…」
「あ……す、すみません。つい暑くて…」
「吾妻さん、あなたはまず慎みを持つところから始めましょう。それも鍛錬です」
「はい…」


頭を下げたあと再び上着をきて、苦笑すると全員がほっと息をついた。
………私が悪いんだけど、ここにいる人たちは乙女か。所詮はくノ一の身体だぞ。
数名の先輩からは笑われたけど、組頭はちょっとだけ頭を抱えていた。
嫌がって、というより呆れてるという感じ。すみません、以後気を付けます。


TOP

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -