は組の先輩 「吾妻、吾妻」 「なんですか、七松先輩」 「何でもない」 「そうですか。なら黙って後輩たちが登山してくるの待ちましょうよ」 今日も今日とて体育委員会はいけどん登山をしていた。 勿論最初に頂上に到達したのは、我らが委員長の七松暴君小平太様。 続いていつも七松先輩に振りまわされ、追いかけられ、理不尽に殴られ、鍛錬に付き合わされ、自然と体力や腕力がついた五年の私。 本当は体力が尽きるであろう金吾やしろちゃんをおんぶしてあげようとしたんだけど、滝夜叉丸が「面倒事は全て私が見ますのでご安心して七松先輩を追いかけ下さい。ええ、雑用は全てこの滝夜叉丸にお任せ下さい!」とグダグダ言うので任せた。 きっといいように使われているんだけど、まぁ……いっか。ってなっちゃう。滝夜叉丸、グダグダとうるさいけど後輩の面倒見だけはいいからね。 で、今さっきからその後輩たちを待っているんだけど、なかなか到着しない。 いつもだったら「遅い!迎えに行くぞ!」と暴君…じゃなくて七松先輩が仰るんだけど、今日は私の肩を指でツンツンしてくる。 ツンツンして振り返るけど笑顔で「なんでもない」と言って止める。その繰り返し。何がしたいんだこの先輩は。 「吾妻」 「なんすか」 「えい」 「いつっ…!な、何するんですかっ…」 またツンツンと突いてきたから返事をすると、結構な早さで首のとある部分を突かれた! 勢いもあったから痛かったけど、それとは違う痛さを感じた。 「痛かったか?」 「今さっきから痛いけど、今のが一番痛かったです…」 「実はな!伊作からツボを教えてもらったんだ!」 「また余計な知恵を授けやがって…」 どおりで痛いはずだ。ツボは健康にいいものだけど、あんなスピードで突かれたら痛いに決まってる! しかも教えたのがアホの伊作先輩だとぉ? あの人普段アホでドジで不運だけど、たまにエグいことしたり、黒かったり、いらんことを言ったりするから苦手だよ! 脱力していると七松先輩は楽しそうに私の身体をツンツン突いてくる。いや、ツボを刺してくる!いてぇんだよ!ピンポイントすぎだろ! 「先輩ッ、マジで痛いから止めて下さい!」 「でもツボだぞ?身体にいいぞ?」 「でも痛いから嫌です!つか教えてもらっただけでこうも的確につけるって凄いっすね!」 「まぁな!えいっ」 「だから痛いってば!」 「タメ口か?」 「痛いです、七松先輩。止めて頂けないでしょうか」 「断る!」 「(この暴君野郎!)」 結局、滝たちが到着するまで七松先輩に人体のツボを刺されまくった。 健康体にはなったかもしれないが、痛すぎる。あの人いつか、指で人体に穴を開けそうだな…。 委員会終了後、服を脱いで刺された部分を確認すると、やっぱり赤くなってた…。でもここがツボかと思うと、ちょっと勉強になるかも。ってなるかーい! 「伊作先輩ッ!」 「え、なに千梅。こんな夜遅くに。小平太の部屋は隣だよ?」 「私はあなたが憎いです!」 「僕、何かした?」 「とぼけてんじゃねぇぞ元祖アホはァ!」 「痛いッ!」 自室に戻る前に六年長屋の伊作先輩の部屋に押し掛けると、薬を煎じていた。同室の食満先輩はいない。 天然なのか、アホなのか、バカなのか。とぼける伊作先輩に近づいて殴りつけると、いとも簡単に吹っ飛んだ。 最初に言ってたとおり、私は七松先輩に鍛えられているからかなり力が強い! 伊作先輩ぐらいなら楽勝で殴り飛ばせるってなもんよ! 「い、痛い…!なにするんだよぉ…」 「男のくせに殴られたぐらいで泣くんじゃない!何で七松先輩にツボとか教えるんですか!見て下さいよこの跡!」 「ぐすん…。………あ、ツボの見本としてはいいかもね。的確についてる」 「関心してんじゃねぇぞヘタレ野郎!」 「ぎゃっ!」 背中やお腹を見せるとジッと見つめて関心しやがったのでもう一回殴ってやった。 すると伊作先輩は、上級生とは思えないぐらい情けなく泣きだして、しまいには「留さぁああん!」と叫び出した。 こいつはほんっと情けねぇな!保護者がいなければ後輩に言い返せねぇのか!見ろ七松先輩をっ。あの人何もなくても私や竹谷を殴るぞ! 七松先輩と伊作先輩と足して二で割ればいいのに! 「びええええ!留さん留さん留さーん!」 「うるせぇ伊作この野郎!」 「千梅に殴られたーっ」 両手で顔を覆って部屋から飛び出し、保護者を探しに行く伊作先輩。 情けねぇ。と思いながら背中を見送っていると、ピタリと足を止めた。何だ、やるか? 「今度ケガしたとき覚えてろよ」 「え?」 「あとお茶飲むときもな。うえーん、留三郎ぉ!」 「こ、こわぁああああ!」 振り返ることなくボソリと呟いてまた泣きながら走り去って行った…。 久しぶりに黒伊作を見ちまったぜ…。これは……あれか。死亡フラグってやつか。 とりあえずケガしないように気をつけよう…! 「でもするよね!」 そう、無理な話だ。何でって?七松先輩に振りまわされているからだよ! 翌日の委員会中に捻挫をしてしまい、歩くのも辛い。湿布欲しい…。 欲しいけど昨日のこともあって、保健室へは行けない。というか、伊作先輩に会えない。 「だからってよ…、俺んとこに来るなよ」 「やだ。伊作先輩怖い。食満先輩、湿布持ってないですか」 「あー……飴と饅頭しか持ってねぇや」 「そこは用具委員長なんだから釘とかを持っておきましょうよ」 「いいから保健室行けって」 「やだーっ!」 「じゃあ俺もついて行くから」 「ほんとですか!?途中で逃げないで下さいよ!?」 「解った解った」 食満先輩の服を掴みながら保健室へ向かうと、なんだか怪しげな雰囲気が漂っていた…。 これは……何かを作ってるな、あの不運野郎! 「あ、留三郎。…と千梅。どうしたの?」 「うっわ、胡散臭い笑顔…」 「千梅がケガしたんだよ。悪いけど診てやってくれるか?」 「あーあ、ケガしちゃったんだ。ほら、見せて」 「いやああああ!笑顔が怖いいいいい!」 「いいから黙ってろよ」 「ぎゃあああああ!いてぇ!捻挫部分を握んな不運野郎!」 「え、ああ。捻挫したんだ。ごめんねぇ、解らなかったよ」 「嘘つけ!」 「さーて、どこが悪いのかなぁ。んー……頭と口だね」 「ちげぇよ!捻挫したって言ってるじゃないですかっ。解ってんならさっさと治療しろよ!」 「その口塞いでやろうか?」 「解ってるならさっさと治療しやがれです、伊作先輩!」 「…。留さん、そこの針と糸取ってくれる?」 「食満先輩助けて!こいつ後輩を虐めようとしてる!」 「はぁ…、いい加減にしろよ二人とも…。伊作、こいつの躾は小平太に任せろよ」 「あ、そっか。そっちのほうが的確だよね!じゃ、小平太呼んでくるねー」 「うおおおお!食満先輩っ、あなたも私を売るんですね!信じてたのに!後輩を守ってくれるいい先輩だと信じてたのに!」 「俺が守るのは下級生だけだ!お前も上級生なら少しは自分の力でなんとかしたらどうだ!」 「食満ぁ…。は組にしてはいいこと言うんだな…」 「おい、呼び捨てすんな。つかこのタイミングは、「留三郎お兄ちゃん助けて」だろ!?」 「ねーよ!私にそんなこと言われて嬉しいのか!?嬉しくないだろ!?」 「ああ、嬉しくねぇよ!でも俺の子供好きフィルター舐めんなよ!?」 「誇るとこじゃねぇよペド野郎!」 「留三郎ー、小平太連れてきたよぉ」 「何だ吾妻。呼んだか?」 「ちきしょう!言い争ってる間に逃げればよかった!羽目やがったなアホはの分際で!」 「俺は本音を言ったまでだ!」 「どっちにしろ最低だよバーカッ」 「吾妻、バレーしよう!」 「はい詰んだー。私死んじゃったよー!今日も終わったよー!」 (△ TOP ▽) |