夢/とある後輩の災難 | ナノ

明けました!


「先輩たちがいないっていいな…」


一階広間のソファなどに座って談笑しているのはいつもの同期メンバー。
暖房もつけ、部屋全体が温かくなっているのでマットの上に寝転んでも寒くない。
でも風邪をひかないように、身体を冷やさないようにと一応ブラウンケットで背中や足もとを温めている。
文句を言いながらも一緒のブラウンケットを背中にかけてテレビを見ている八左ヱ門と千梅を見ながら三郎が呟く。
三郎の言葉に隣に座っていた雷蔵はコーヒーカップを置いて苦笑を浮かべ、兵助はコクリと素直に頷いた。


「静かだし、好き勝手できるしねー!でも、立花先輩の奢りで旅行とかは羨ましいな」
「俺は絶対に断る!旅行して楽しかった記憶が全くねぇ…」
「そうだね、八左ヱ門くん…。私も振り回された記憶しかないよ…」


仙蔵の奢りという名の暇潰しでよく旅行をする。
そのたび、先輩たちに振り回される後輩たちはあまり旅行が好きではない。
彼らがいなければ楽しいのかもしれないが、ゆっくりのんびり過ごすほうが自分たちには合っている。
だからと言って外に出るのが嫌というわけではない。
勘右衛門は朝帰りするし、三郎と雷蔵はよくショッピングに出かけるし、兵助も豆腐屋巡りしている。八左ヱ門と千梅だって冬であろうが外で遊んでいる。
ようは、先輩たちがいなければいいのだ。


「それよりそろそろ年越すけど、本当に神社行かないの?」


携帯を机の上に置いて、コーヒーを淹れながら勘右衛門が全員に問いかける。
テレビを見ていた八左ヱ門と千梅の二人は声を揃えて「行きたい」と言うのだが、三郎だけは渋った様子で「行かない」と答える。


「三郎は寒いのが苦手だからね。でも僕は行きたいなー…おみくじ引きたいし」
「何故だ雷蔵!何故寒い思いして並ばないといけないのだ!ならここでテレビを見ながら年を越したい!」
「俺もちゃんとお参りしたいのだ」
「俺も俺も!あと甘酒飲みたい!」
「三郎、皆もこう言ってんだから行こうぜ?」
「三郎お父さーん、千梅、行きたいな?」
「八左ヱ門うざい、吾妻気持ち悪い。はぁ……解った。だけどすぐに戻るからな!」


寒いのが苦手と言ったはずなのに、皆に甘い三郎はすぐに承諾した。
その場を適当に片付け、すぐに部屋へと向かう。
寒くない恰好に着替えたあと揃って外に出ると、


『さむっ!』


ほぼ全員が声を揃えて目を瞑った。
だけど外に出たいと言ったためし、このまま戻るのは気が引ける。
「歩いていれば温まるだろ」という八左ヱ門の言葉に近くの神社へと歩き出す。
先頭に八左ヱ門と勘右衛門、その後ろに雷蔵と兵助、そして最後尾に三郎と千梅。
何故か綺麗に二列になっているのは先頭の二人で風避けをしているためだ。


「三郎、そんなに縮こまらなくても…」
「寒い。お前はよくそんな恰好で歩けるな…」
「寒いのも我慢するのが女の子のお洒落なのさ」
「本音は?」
「ばっかじゃねぇの。寒さ我慢してまで可愛くありたくねぇよ、寒いよ。でもちょっと着たかったんだよ…!七松先輩…っていうか先輩たちがいない今だと思ったんだよ…寒いよ三郎くぅん!」
「今日だけ腕を絡めてくるのを許してやろう」
「上から目線ってのがむかつくがしょうがないな」


マフラーをぐるぐる巻きにしたうえ、可愛い耳あてをした三郎の防寒は完璧だった。
それでも寒いと文句を言う三郎に、珍しく女の子らしい恰好をした千梅が近寄って腕を組む。
先輩の前だとこんな可愛い恰好をするのは恥ずかしいらしい。
自分でも可愛らしい恰好は似合わないと思っているが、やっぱり年頃の女の子。憧れからこっそり買って、いつか着ようと思って隠していた。
だか、着るタイミングを間違えた。年末、おまけに夜中となればかなり寒い。
それでも神社近くになれば足を出している女性を見つけ、「自分だけじゃなかった…」と安堵の息をついた。
三郎は千梅の体温のおかげで少しだけ表情が和らいでいたが、勘右衛門と八左ヱ門の二人に「あらお似合いね」とからかわれ、すぐに眉をしかめた。


「うわー……すっごい並んでるね」
「寒い中待つのか…。勘弁してくれ…」


六人が神社に到着すると、拝殿から長蛇の列ができていた。
神社から出て、一般道路にまで達しているため誘導する警備員が赤い棒を持って働いている。
千梅と三郎の言葉を聞いて他の四人も「どうしようか」と会議を始めた。


「でも折角来たんだし並ぼうぜ!六人で待ってればすぐだろ!」
「じゃあ俺出店で何か買ってくるよ!甘酒ー」
「勘ちゃん、豆腐あるかな。一応持ってきたけど足りるかどうか…」
「ということで三郎。もうちょっと我慢しようね」
「雷蔵……。解ったよ…。空気を読めないほど酷い男じゃないからな、私は」
「空気云々じゃなくて、三郎は優しいんだよ。私たちに甘いよねー!」
「うるさい黙れ吾妻。それより八左ヱ門、吾妻。姫はじめって言葉を知っているか?」
「なに?」
「なんだそれ」
「かくかくしかじかだ」
「「おほーっ!」」
「バカが…」


そんなくだらないことを話ながら最後尾に並ぶ六人。するとすぐに後ろに列ができた。
列はゆっくり進んでいき、勘右衛門が出店で買ってきたフライドポテトや甘酒で身体を温める。
不機嫌そうな顔をしていた三郎の顔も通常に戻り、雷蔵も楽しそうに食べている。


「はっ!私いいこと思いついた…」


食べるものも食べ、飲むものも飲んだ六人。
拝殿まで残りちょっとなときに千梅は真剣な顔で皆に話しかける。


「ちょっと私囲んでよ!そしたらきっとあったかい!」
「そんな服着てくるから…」
「いーからちょっと私囲ってよ!」


三郎の冷たい視線を無視して皆に囲んでもらう。
全員自分たちより身長が高いうえに筋肉質な身体つきなので、千梅の空間がホワンとした温かい空気に変わった。


「なにこれあったかい……やばい。威圧感やばいけど、あったかいからこのままでお願いします」
「そう言えば勘右衛門、女の子紹介してくれるんじゃなかったのか?」
「えー…はっちゃんに紹介してもいいけど、大体「友達以上に見れない」って言われるじゃん…」
「それはしょうがねぇだろ!だからさ、こんな俺が好いてくれそうな子を紹介してくれよ!」
「八左ヱ門は難しいことを頼むね」
「そんなのがいたら今頃彼女できてるだろ」
「勘ちゃん、手握って。寒いのだ…」
「お願いします、勘右衛門様!もっかい紹介してくれ!」
「いーけどさー…。あ、ダメ!はっちゃんちょっとズレてるからダメ!俺まで勘違いされちゃう…」
「ズレてねぇよ!何がズレてんだよ!」
「女の子相手に「あ、エロ本読む?」はないよ!」
「え…?え、八左ヱ門…?」
「ぶはっ!勘右衛門、それ詳しく!」
「三郎たちには帰ってから話すね。ちょっとここで話すのはさすがの俺も恥ずかしいよ。いい、はっちゃん!千梅と話すノリで他の子に接したらダメだからね!」
「だ、だって俺…。女の子の扱いよくわかんねぇもん…」
「じゃあ今度雷蔵が女の子になってデートの練習しようよ」
「え、僕!?なんで僕が!?」
「だって女子力高そうじゃん?」
「勘ちゃん、ちょっと抱きついていい?寒い……眠い…」
「いいな、それ。雷蔵、女装して八左ヱ門のデート指南してやれよ」
「嫌だよ!なんで僕がそんなことしないといけないの!?絶対に嫌だからね!」
「ああああああ!私の頭上で会話するなよ!寂しいだろ!って言うか女なら私がいるだろ!何でそこで雷蔵なんだよ!」


八左ヱ門弄りかつ、千梅弄りをしていたらようやく拝殿まで辿り着いた。
準備をしていた五円玉を取り出し、三人に別れて参拝する。
邪魔にならない場所に移動してからなんのお願いごとをしたのかと適当な会話をして、おみくじを引いた。
それでも盛り上がったあと、今度は熱燗で身体を温める。
ほろ酔いになったころに除夜の鐘が鳴り響き、すぐに新年を迎えた。


『明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします』


一つの区切りを迎えた六人は丁寧に頭をさげて、挨拶をかわす。
今年はどんな年になるんだろうなぁ…と呟く兵助に、勘右衛門以外は複雑な表情を浮かべて乾いた笑いをこぼした。


「さ、帰るか。帰って布団に潜り込みたい…」
「じゃあ俺、三郎をあっためてあげるー!」
「俺も寒いの苦手だから勘ちゃんとはっちゃんに挟まれて寝たい」
「ちょっと兵助!八左ヱ門は私のものよ!横から取らないでっ」
「何を言ってるんだ千梅。お前が一番だよ」
「八左ヱ門くぅん…!」
「なら僕は八左ヱ門と千梅の間がいいな。二人とも体温高いし、千梅は柔らかいし寝やすいかな?」
「きゃっ、雷蔵くんったら大胆ね…。恥ずかしいけど私も二人に挟まれてねたーい!」
「残念だがそれはできんぞ」


さぁ、帰ろう!というとき、聞き覚えのある声に六人は固まった。
先ほどまで楽しく、和やかな雰囲気だったのに、ピキンと凍りつく空気。


『立花先輩……』
「やはりお前たちがおらんと寂しくてな、少し戻ってきた。年を越したところでどうだ一緒に」


現れたのは、旅行に行ってたはずの先輩六人。
全員私服姿でニヤニヤと笑っていた。


「さぁ私が準備したお店に向かうか」
「いやいや、勘弁してくださいよ」


三郎がハハハと笑いながら、肩に手を回した仙蔵の手を払いのけ、さっさとその場をあとにしようとするのだが、彼らが逃がすわけもなく…。
既に囲まれた三郎たちは逃げる気を失い、「はい…」と言って大人しくついて行くことになった。
結局、静かで楽しい年越しを送れなかったのだった。


「ところで吾妻」
「なんですか、七松先輩」
「今日は珍しい恰好をしてるな。寒くないのか?」
「寒いです。特に足もとが寒いです」
「じゃあこれやる」
「……カイロ?」
「長次が持っとけってうるさくてな。でもやっぱり熱いし邪魔だからやる」
「…ありがとうございます」
「それでも寒かったら言えよ。いつでも上着貸してやるから」
「………。暑いんですか?」
「動くとどうしてもな」
「じゃあ寒いので貸してください」
「そうか!それは助かる!」
「(男物の服って重たいんだよねー…。でも温かいし七松先輩の匂いするし……いいね)竹谷ー、見てみてー!」
「あー?」
「彼シャツってやつだ!萌えるか?」
「萎える」
「即答やめろ!」
「あと七松先輩、見てるこっちが寒いんでちゃんと着てください…」
「そうか?」


今年も面白い一年になりますよーに!


TOP

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -