にゃんこくん !注意! 猫になってます。猫耳が生えてるとかじゃなく、猫になってます。 実習の日の夜、竹谷ににゃんこくんの自慢をすると、「いいなぁ…」というなんとも幼稚な返答をもらった。お前はガキか。 にゃんこくんにはかなりお世話になったので、お礼の意味をこめてお肉を与えると、野生に戻ったかのようにモリモリむしゃむしゃ、バリバリと食べてくれた。 嬉しかったけど、ちょっと怖かったよりにゃんこくん……。 「あのねにゃんこくん…。昨日は大変お世話になったんだけど、今日はもうダメっていうか…。私も君に頼らず強くなりたいっていうか……」 猫を預かって二日目。いや、三日目?立花先輩から預かったのは夜だから…えっと……。まぁいいや。 とりあえず三日目。にゃんこくんは相も変わらず私の右肩に乗るのが好きなようだ。 ついでに実習にも行きたがるなかなか好戦的な猫だ。 確かににゃんこくんがいると便利だし、いい点数を貰えるんだけど、私自身も強くなりたいので今日の実習には連れて行くまいと決めていた。 それなのににゃんこくんは出入口のところに座りこみ、ジーッと私と竹谷を睨んでくる。それが恐ろしいのなんのって…。 「そろそろ出ないと時間が…」 「どうにかしろよ吾妻!」 「うう……。あ、そうだ。あのね、にゃんこくん。今日は実習じゃなくて座学なんだよ。座学なんて面白くないから外で遊んでていいよ」 ね?と頭を撫でながら教えてあげると、にゃんこくんはダッ!と勢いよく部屋から飛び出して中庭へと向かった。 「ふう…」 「ほんと賢いよな……」 「だね。まぁ本当は実習なんだけどね」 あははと笑って部屋を出ようとした瞬間、中庭に向かったはずのにゃんこくんが土煙をあげながらUターンをして、私へと突撃してくる。 おいおい……そんなUターン…見たことねぇぜ…!お前はエフワンレーサーかよ!! 「ってぇ!―――がふっ…!」 「っ!?」 「たぁ……って、吾妻ーーー!!」 戻ってきたにゃんこくんの目は鋭く、殺気を飛ばしながらまず竹谷の鳩尾に突撃し、竹谷は膝をつく。 と思ったら下から顎に頭突きを食らわし、のけ反った竹谷の顔を踏みつけて私の顔に引っ付く。 い、息が……!! 離そうと思っても爪をたてているから離すことができず、というか離すと爪が痛い! 思いっきりにゃんこくんの背中を叩くも彼は離れようとしない。 涙目になっている竹谷が私とにゃんこくんを引き離そうとしてくれるも、結局私が失神するまで離れてくれませんでした。 なんだよこの猫…!まじで日本語理解してんじゃん…っ。 「竹谷、いい加減飼い主探そう。私たちじゃ手にあまる」 「そうだな…。もっとしっかりこいつの上に立てるような奴じゃないと…」 「お前動物使いだろ!立てよ!」 「俺、勝てない相手には腹見せるんで」 「お前も動物だったのか!」 結局その日の実習もにゃんこくんはついてきて、まぁ色々助けてもらいながらいい成績を貰えることができた。 それは嬉しいんだが、何だかこのにゃんこくんは反抗的だ。 私の言うことなんて聞きやしない。 それに、生物委員会で飼育している動物をたまに部屋にあげるから、このにゃんこくんがいたら……その、危ない気がする。 喧嘩というか、にゃんこくんによる私刑が繰り広げられそうな…。 「でもよー…。こいつお前にかなり懐いてんじゃん。どうやって引き離すんだよ」 「また朝のときように顔にひっつかれたら困るしな…」 「町に連れて行って飼い主探すか?」 「うーん、そうしようかねぇ…。とりあえず今日はもう寝よう。冬はダメだ…寒くて眠い」 「寝るな吾妻!寝たら死ぬぞ!起きろぉおおおお!」 「頭叩くな!!テメェは外で寝て凍え死ね!」 「死んだら泣くくせに」 「っ泣かないし…」 「おい、声震えてんぞ?俺がいねぇと何もできねぇくせに強がんな。ほら、今晩も一緒に寝ようぜ」 「うん…。って毎回バカなことしてたらにゃんこくん、すっごい見てくるんだけどなんで?」 「知らねぇよ…。ともかく今日も七松先輩いないみたいだし、ゆっくり寝れるぜ!」 「でもあの来襲が鍛錬になってんだよね」 「気配を察することに関しては五年で一番だと自負しております、竹谷でっす」 「同じく吾妻です」 寝間着に着替えながらいつものようにくだらないことを喋って、自分の布団と竹谷の布団を引っ付ける。 敷くと同時ににゃんこくんは私の布団のど真ん中に仰向けになって寝るので、邪魔しないように布団の隅っこによって竹谷に寄り添う。 そしたら確実に私と竹谷の間に入ってくるんだよ、このにゃんこ…。 「……竹谷あのさ。ちょっと思ってること言っていい?」 「おー…?俺もう眠いんだけど…」 「寝つきいいな。あのね……前も言った気がするけど、このにゃんこ、七松先輩じゃないよね」 と言った瞬間、「なう」と鳴いて自分の鼻と私の鼻をピトリとあててきた。 冷たくて「わっ」と声を出すと「なーう」と楽しそうに鳴く。…こいつ、わざとか! 「はいはい、寝ようねぇ」 「だって!だって、七松先輩がいない変わりににゃんこくんが来たし、普通のにゃんこより凄い強いし、度々七松先輩らしい動きするし、何より人語理解してるし…」 「こ、怖いこと言うなよ…。人間が猫になれるわけねぇだろ?」 「我が学園にはマッドサイエンティストの善法寺先輩がいるではないか」 「……七松先輩と一緒に寝てんの?まじ怖いんですけど」 「そっちの心配かよ…」 「まぁそれは明日の朝考えるとして、今晩は寝よう。風もすっげぇ吹いてるし寒いし、眠い…」 「寝たら死ぬぞーっ!」 「……」 「寝るのかよ!」 しょうがない。私も寝るか…。 布団で顔が隠れるぐらいまで潜って、体を丸める。 じっとしていると竹谷とにゃんこくんから体温がじわじわ伝わって、次第に眠くなってきた。 うとうとする中、にゃんこくんが「なう」と鳴いたので、 「なんですか、七松せんぱい…」 と答えてにゃんこくんの柔らかい口(髭の部分だけど)に接吻をすると…。 「おっ、やっと戻った」 「………」 七松先輩っ…! なんとなく解っていたけど!だけどこのタイミングで、しかもそんな童話で出てくるような戻り方じゃなくても! 驚きすぎて、声が出ないで目だけ見開いて七松先輩を見ると、七松先輩はニッと笑ってお礼を言ってきた。 「伊作の薬間違えて飲んじゃってさぁ」 「……」 「なんか本当は吾妻に飲ますつもりだったらしいんだけど、私が飲んじゃって…。仙蔵たちは「やかましいのが静かになって嬉しい」って笑っていたけど、やっぱり喋れないのは辛いな!」 「……な、つせん、い…」 「おう、どうした?」 「服着てください!!」 確かに猫だったから!猫だったから戻ったら裸ですよね!ええ、そういうもんですよね!ご都合主義とかあんまりこのシリーズにはありませんからね! とは言っても寝間着はないので、かけていた布団を七松先輩に投げつける。 んでもって竹谷!お前起きろ!!また寝たふりか!? 「おお、気が利くな吾妻。真夜中に裸は寒いからな…」 「いえ、そういう意味ではなく…」 はぁ…。と重たい溜息を吐いて頭を垂れると、さらりと髪の毛が落ちて視界を狭くする。 あ、髪の毛切りたいなと何故かそのときに思って、垂れた髪の毛を耳にかけようとしたらその腕を掴まれた。 「……なんでしょうか」 「え、覚悟決めたんだろ?」 「はい?」 「だって接吻してきたじゃないか」 「あー…。あれは猫だったからであって……その、あの、すみません…。毎回このパターンやめませんか?」 「じゃあヤるしかないな」 「やっぱりいつものパターンとオチでいきましょう」 「しょうがないなぁ…」 布団で身体を包んだ七松先輩は何だか色っぽくて…。 やっぱり直視できないで頼み込んだ。 元々そんなつもりじゃないのか、七松先輩は笑って掴んでいた私の腕を引き寄せ、そのまま布団に寝転ぶ。 「…竹谷の寝間着持ってきますから服着て下さい…っ」 「でももう寒いし」 「じゃあ私、雷蔵たちの部屋で寝るんで離してもらっていいですか!?」 「えー…この恰好で竹谷と寝てたら勘違いされるだろ?」 「だから寝間着持ってくるって言ってるじゃないですか!」 私だって裸の七松先輩と寝ているのを見られたら勘違いされるわ! っていうか竹谷が一番にびっくりするわ! 「持ってくるんでそのままでいてくださいね…」 起き上がって適当に投げられていた竹谷の寝間着を先輩に渡すと、私の目を気にすることなく着替え始めたので背中を向ける。 羞恥心がないのはなんでだろうか…。そして竹谷は何故起きないんだろうか…。油断してるのかな?ああ、それだ。 「少し窮屈だな」 「文句言わんでください。はい、じゃあ着替えたならお部屋に帰ってください」 「え、やだ」 「なんでですか!見ての通り私たちの部屋汚いので部屋に帰ってくださいよ」 「たまにはお前と一緒に寝たくて…」 「………え?」 寂しそうに笑ったと思うと、そんなことを言うもんだから思わず身体に無駄な力が入る。 たまにはって……。一緒に寝たことないですけど、それは置いておいて…。 そ、そりゃあ私だって七松先輩と一緒に寝たいですよ。 「猫になってるとき、改めて思った。私は……。…。私はお前のことを大事に思っている。って、あれ……。えーっと…、…いらんことは言うな」 「はぁ?」 「吾妻、愛してる」 「……。私の背後か!」 勢いよく振り返り、天井を見上げるとカンペを持った立花先輩と伊作先輩が慌てて引っ込んだ。 ちらちらと視線が動く七松先輩に違和感を感じていればこれだ!やっぱりあの二人の差し金か! 七松先輩がこんな態度をとることも、甘い台詞を囁くこともねぇんだ! ヤりたいもん、ヤったもん勝ち!って素で思ってる人だからな! 「いやー…バレてしまったか。しかし、ここ数日間楽しかったぞ」 「小平太が猫になるもいいかもね。静かだし。留三郎も喜んでいたよ。物を壊さないですむって」 「私はあんまり楽しくなかったけどなぁ…。吾妻と一緒に授業を受けれたのは楽しかったがな!」 「もー……!私たちで遊ばないでくださいって言ってるじゃないですか!」 「本当はお前で遊んでやるつもりだったんだけどな」 「伊作覚えてろ。お前まじで生き埋めにしてやるからな」 「さ、伊作。私たちは帰るか。小平太、適当に遊んで帰ってこいよ」 「え?」 「おう、解った!」 「だけどうるさくしないでねー」 「それは約束できんな」 「は?」 「さ、吾妻。寝るか」 「一緒に寝ることは確定なんですか!?」 「服も着たし問題はなかろう?」 「……そうですけど…」 「お前の体温も高いから寒さも凌げるし、何より柔らかいから抱き枕には便利だ!」 下心なしで言うもんだから、反応に困る…! しょうがない。寝るか。寝るぐらいなら私も別に構わない。あったかいし。 諦めて私を真ん中に一緒に寝ることなりました。 「ってあっついわ!!なにこれ!暑すぎる!熱中症になりそうなぐらい暑い!ちょ、先輩、竹谷!お願いだから離れてくれ!」 真冬に大量の汗をかくという不思議な展開に、久しぶりに寝不足になりました。 (△ TOP ▽) |