夢/とある後輩の災難 | ナノ

にゃんこくん


!注意!
猫になってます。猫耳が生えてるとかじゃなく、猫になってます。





朝、にゃんこくんが発情期の猫のように激しく鳴いて、起こされた。
幸い、隣の部屋の三郎が怒鳴ってくる前に止めることができたが、早すぎていい迷惑だ…。
朝鍛錬するつもりだったからいいけど、うるさすぎる。
二人揃って欠伸をしながら制服へ着替えようとすると、にゃんこくんが目の前に座って私を待っている。
人間の身体に興味あるのか?見るほどの凹凸はないぞ?


「ってやかましいわ!」
「お前朝っぱらから楽しそうだな…」
「やだ竹谷くんっ、こっち見ないでよ」
「凹凸もない身体を見てもなぁ…」
「やかましいわ!」


仕切りに隠れて着替えることなく、ささっと用意を終わらせて部屋をあとにしようとすると、にゃんこくんも私たちについて来ようとするのでそれを止めた。
だけど、引き留めることができず、それどころか私の右肩に張り付いた。
爪をたて、強い力で落ちないようにするにゃんこくん…。若干痛いよ…。


「どうしよう竹谷…。このままだと動けない」
「いいな、忍犬ならぬ忍猫?」
「お前は朝から能天気だな」
「うるせぇ!別にいいんじゃね?逃げそうにないし」
「そうだけど…。でも右肩めっちゃ重たい…」
「鍛錬鍛錬。さぁいくぞ!」


竹谷は気にするなと笑って、さっさと外に出る。
うーん…確かに逃げそうな雰囲気じゃないからいいんだけど、右肩重たい…。
ってか、猫って軽いんじゃなかったけ?なのに何で重たいの?
チラリと自分の右肩に視線を落とすと、クリクリの目が私をジッと見ていた。
「なう」と鳴いたあと、私の鼻の頭をかぷりと噛んで、「行け」というようにまた鳴いた。


「なんだよこの猫…。見た目可愛いのに可愛くないよ…!」
「おい吾妻、なにしてんだよ」
「今行くってば!」


猫を肩に乗せ、いつものように竹谷と組手を始める。
いつもだったらそろそろ七松先輩が登場するんだけど、今日は朝食の時間になっても現れなかった。
もしかしたら実習に行ったのかな?だったら一言声をかけてくれるはずなんだけど…。


「今日も朝から元気だな」
「おはよう、八左ヱ門、千梅」
「おっす、三郎と雷蔵」
「おはよー」
「で、吾妻。お前は朝からお笑いを取ってるのか?」
「違うよ!かくかくしかじかでして!」
「「ふーん」」


歯ブラシと手拭いを持った三郎と雷蔵に軽く挨拶して、猫のことを話すと声を揃えてにゃんこくんを見る。
にゃんこくんも負けじと二人を見る。愛玩動物のくせにこの眼力は素晴らしい。
雷蔵は気まずそうに目を背け、三郎も興味を失ったように顔を背けた。


「にゃんこくん、頼むからそろそろ降りてくれないか?今日は朝から晩まで裏山で実習なんだ」


三郎と雷蔵の隣で顔を洗いながら話しかけると、確実に私の言葉の意味を解ってか、嬉しそうな表情になって「なーう」と鳴いた。
ほんとなんなのこのにゃんこ…。
無理だよ。授業だよ?猫を肩に乗せて実習なんてできるわけないじゃない!


「構わんぞ」
「木下先生ぇ…」


と思ったら、許可が下りた。
出席簿を持った木下先生がいつもと変わらない表情で「許可する」と言って、他の生徒たちの出席をとる。
何でいいんだよ…!確かに引き離そうとしても引き離れないんですけど!
だけど授業だよ!?猫をつれて授業なんて……。


「……そうだよね。竹谷くんが狼と鷹を使うなら猫もありだよね…」
「そういうこった。まぁいいじゃねぇか。猫を使う忍者なんて珍しいぞ?」
「うん……」


猫は気まぐれ…というより、自分で生きていけることができるから人間に従わないもんね。
でも猫は便利だと思う。…言い方が悪いのはごめん。
すばしっこいし、身体柔らかいし、戦闘能力高いし、気配に敏感だし…。
忍者が見習うべきところをたくさん持っている猫は、忍者と相性はいいと思う。これで指示を聞いてくれたらなーって何度も思ったことがある。


「……ということは、私の言葉を理解しているこのにゃんこくんは、素晴らしい相棒になってくれるのでは!?」


にゃんこくんを見ると「当たり前だろ?」とでもいうかのように欠伸をして、「なう」と鳴いた。
おおっ…これは心強い!そして私も動物マスターになれる!


「竹谷ぁ!今日こそお前に勝ってやる!いっつもいっつもその動物に負けてるからな!」
「あとお前気配消すの下手すぎ。動物いなくてもすぐに解るわ」
「それはお前もだよ!」
「お前ら、駄弁ってないで早く行け。他の奴らはもう出たぞ」
「「すみません!」」


今回の実習内容も簡単。
細い手拭いを額に巻いて、それを奪うだけのもの。
勿論、何をしてもいい。あ、殺したり致命傷を負わすのは禁止。これはあくまで授業だからね。
三郎たちもその場から姿を消し、最後に私と竹谷も森に入って準備を整える。
実習は好きだ。身体を動かすのが好きだから好きだ。だから、頭はあまり賢くない。
七松先輩みたいに、戦闘に関して賢くなるってのに憧れる。
私もそうなりたいと思うから、毎回頑張っているのだが、どうにも上達しない…。


「にゃんこくん、鳴いたらダメだよ。あ、でも敵が見えたら教えてほしいかな」


「なう」と頷き、前足と後ろ足に力を込めて空へと飛びあがる。
爪がいてぇ!とか、踏み込む力つえぇ!って思ったけど、私の肩から離れたことに驚いて、尻尾を掴もうと手を伸ばした。
だけど掴んだのは空(くう)だけで、にゃんこくんは近くの枝へと降りて、私をジッと見たあと姿を消した。


「ま、待って!立花先輩に怒られる!」


実習中にも関わらず、そっちの心配をしてしまい、慌ててにゃんこくんを追いかける。
どうしよう、もしかしたら竹谷にも怒られるかもしれない…!
いや、元はあいつが「逃げなさそうだしいいんじゃね」とか言ったのが原因だ。だから私は悪くない!
言い訳を考えながら枝をかきわけて進んでいくと、もふりと顔に何かがあたった。


「っぷは!…にゃんこくん…?」


顔にあたったのはにゃんこくんのお腹の毛だった。あ、お腹の毛は柔らかいんだ。


「だ、ダメだよいきなり逃げたら!」


私の顔にへばりついたにゃんこくんを引き離したあと、めっ!と怒ると顔を背けて「なう」と何かを喋る。
そちらに顔を向けると、は組の生徒がいた。幸い、私たちの気配には気づいていない様子。


「……もしかして教えてくれたの?」


目を細めて鳴くにゃんこくん。この子……ほんと賢いな!
ありがとうとお礼を言うとにゃんこくんは自主的に私の右肩に戻り、私は苦無を構える。
勘右衛門や兵助、三郎や雷蔵、竹谷たち以外の生徒にならそれなりに勝てる自信があった。
でも慢心しないよう…気配を極限まで絶って、は組の生徒を後ろから襲い掛かる。
余裕も余裕!さっと奪って、さっと姿を消してやって何とか一本ゲットだぜ!
と逃げながら言うと、それに合わせて「なーう」とまるでニャースのように鳴いてくれた。


「ありがとう、にゃんこくん」


合いの手も。と喉を撫でてあげると気持ちよさそうに目を瞑る。
相変わらずあの五人には勝てなかったけど、取った手拭いは多かったのでいい成績をもらえることができた。
もしかして私たち、本当にいいコンビになれるかも?


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