夢/とある後輩の災難 | ナノ

にゃんこくん


!注意!
猫になってます。猫耳が生えてるとかじゃなく、猫になってます。





「すまんな、竹谷」
「いえ…」


夜遅く。とは言っても忍者にとってはまだ夜が浅い時間帯に、私たちの部屋にやってきたのは立花先輩。
七松先輩が来ることは珍しくないが、立花先輩が来るのはかなり珍しい。
だってあの立花先輩だよ?お世辞とも「綺麗」と言えない私たちの部屋に来ることはない。
驚いた私たち二人の前に取り出したのは一匹の黒猫。
首根っこを掴んだまま、「拾った」と言って竹谷に渡す。
何でも、つい先ほど学園内で拾ったらしい。
人懐っこい性格のようなので、もしかしたら飼い主がいるかもしれない。だけど、今から実習にでかけるので、預かってほしいと頼ってきたのだ。
それなら仕方ないと、面倒見のいい竹谷は黒猫を受け取り、先輩を見送る。


「黒い毛に金の目か…。珍しいな」
「うん。でも綺麗な目してるね」


竹谷はにゃんこをちゃんと抱いて布団の上に座り、私も近づいてにゃんこを見る。
真ん丸な大きな目は金色に光り、黒い毛は若干硬かったが、綺麗な色をしている。
身を乗り出してにゃんこちゃんを撫でようとしたら、「なう」と可愛い声を出して、思わず笑みがこぼれた。
可愛いなぁ!わんこも好きだけど、にゃんこも好きだ!勿論、鳥も好きだし熊もうまいから好きだ!
頭を撫でたあと、喉も撫でると目を瞑ってゴロゴロと喉を鳴らし、竹谷も「おほー…」とだしない顔を浮かべた。


「人懐っこいけど、どこの子だろうね?」
「さぁ…。ここらへんじゃ見ねぇ子だけど…」


喉を触りながら横になり、竹谷の膝の上に私自身の顎を置いて楽な体勢をとると、気持ちよさそうに目を瞑っていたにゃんこはカッ!と勢いよく目を開き、竹谷の手をガブリと噛んだ。


「ったぁ!」
「だ、大丈夫か竹谷!」


パッと手を放し、噛まれた場所を見ると血が滲んでいた。
も、もしかして変なところ触ってしまったんだろうか…。だとしたら竹谷には申し訳ないことをしてしまった。
にゃんこは軽快に竹谷から離れ、私の後ろに隠れる。


「ごめん竹谷、もしかしたら私が変なところ触ったからかも…」
「いや、いいんだ。猫は気まぐれだからな」


苦笑しながら噛まれた場所を抑える竹谷にもう一度謝って、投げていたトイペを拾って竹谷に渡す。
何でこんなところにトイペがあるかというと、言うまでもない。
噛まれた場所、利き手を噛まれたので治療してあげようと手をとると、後ろにいたにゃんこが「なう」とまた鳴いてすり寄ってきた。
可愛いね。でも待って。と、頭を撫でてあげると、今度は私の寝巻をハムッと噛んで引っ張る。


「可愛いけどちょっとだけ待って。竹谷、一応洗ってこようよ」
「大丈夫だって。それより構ってくれって言ってんぞ」
「…そうだけどさ」


チラリとにゃんこちゃんを見ると、寝巻を噛んだままジッと私を見上げている。
その目が…何だか七松先輩に見えて「七松先輩?」と呟くと、また「なう」と鳴く。


「何言ってんだよ吾妻」
「いや、だって……」
「あーはいはい、そんなに眠たいなら寝ようぜ。こいつの飼い主は明日探そう」
「あ…うん、そうだね。えーっと、にゃんこ用の寝床作ってやるか…」


とか言っている間に、にゃんこは勝手に私の布団へと向かい、堂々と真ん中に寝転んだ。
猫ってさ、普通丸まって寝るじゃん?


「こんな豪快な寝方をする猫は初めてだよ…」
「オスだな」


仰向きになって無防備に寝始めるにゃんこちゃん…。
竹谷は冷静に性別の判断をしつつ、隣に布団を敷く。
最近寒いからくっついて寝ているのだが、今日はもっと冷える。
だから布団と布団を重ね、仕切りを戸の前に持っていって、隙間風を遮るのだが、まぁあんまり意味はない。意味はないが気分的な問題だ。


「ダメだ!ほんっと寒い!八左ヱ門ちゃぁん、一緒に寝ようよぉ」
「いやっ!千梅くん私の体温が目的でしょ!?」
「うん」
「だよなー。まぁいいけどな。でも布団奪うなよ」
「昨晩布団奪ったのは誰だよ!」


布団だけでも寒い!そんなときは人間湯たんぽだ!
しかも竹谷の体温は私たち五年の中で一番高い。夏は暑苦しいが、冬は便利な奴だ。


「………ねぇ竹谷。この猫から殺気が出てるんだけど…」
「怖いな」
「解ったよー…。私の布団は譲るよー…」
「なわばり意識が強いのか?しょうがねぇ、吾妻、今晩だけだぜ?」
「やだ…、あなたのたくましい腕に抱かれて寝るなんて夢のようね…」
「ふっ、これから夢の世界に旅立つんだよ」
「というわけで寝ようか!」
「おうよ、おやすみ吾妻」
「おやすみ竹谷とにゃんこくん。……って、なんか凄いこっち見てるんですけど…」


仰向けになったまま目だけをこちらに向けてジーッと見てくるにゃんこさんは凄く怖いです。
なんなんだこの猫は。まるで私たちの会話の意味を知ってるようだ。知ったうえで「こいつらバカなんじゃね?」って感じで私たちを見ている。
とは思うんだけど、どうしようもできないし、会話できないので諦めて竹谷の布団に入ろうとすると、「なう」とまた鳴いて私たちの布団の中に入ってきた。


「あったかいけど…硬くて痛い」
「この子、何がしたいんだろうね…」


私と竹谷の間に入ってジッと私の顔をみたあと、顔を近づいて鼻をペロリと舐められた。
ザラリとした舌にくすぐったさを感じたけど、可愛かったので頭を撫でてあげる。
さ、今日も疲れたし、七松先輩の来襲はないし、ゆっくり休もうか。
いつも以上にぬくもりを感じ、その日は珍しく深い眠りにつくことができた。
何だかにゃんこくんと一緒に寝ると、安心というか…。警戒しなくてすむ感じがした。


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